インフィニット・ストラトス~終焉の銀河の果てに~ 作:とっぷパン
IS学園・第二アリーナ
抜けるような青空に白い雲、巨大な建築物の外に広がる森林には早くも蝉の鳴き声がちらほらと聞こえ始めた今日この頃。特殊シールドで覆われたここIS学園第二アリーナでは本日も厳しい訓練が行われようとして――――
「カノウ君、随分と遅かったのだな? いや、いつも真面目な君にしては遅いからな、心配していたんだよ」
「あ、いや、織斑さん。これには浅い訳が…………」
「フフ、弁解は後でたっぷりと聞いてやろう。――それとボーデヴィッヒ。初日から色々とやらかした上でまだ失態を重ねるとは、お前にしては至極珍しいな。まるで私に初めて会った時を思い出すよ、んん?」
「あ、あのですね、教官――痛い!?」
――始まる前に拳骨が落ちましたとさ。いや~、彼女の拳骨は中々に痛いね。
学生や社会人の基本原則、五分前行動を破った俺とボーデヴィッヒちゃんに待っていたのは怖い笑みが眩しい織斑さんからの素敵な
「織斑
殴って逆に手が痛くなった織斑さんが皆には聞こえない様に顔を近づけて囁く。じんじんと疼く様な痛みを我慢してちょっと涙目になっている所が可愛らしいが、こちらも痛いものは痛いので苦笑いを返すしか俺には出来ない。
そんな俺のリアクションに満足したかどうかは分からないが、表情を元の凛とした女性教師に戻した織斑さんが生徒の列に加わる様に促す。本日は拳骨を合計三発も頂いたボーデヴィッヒちゃんは頭を抑えながら列の後ろに加わり、それに倣い俺も列の後ろに回った。
初っ端から二~三分の時間を潰してしまった訳だが、気を取り直して授業に励むと――
「さて、残るは二人の男子生徒か……。初日から遅刻とはいい度胸だが、大凡の原因が学園内の小娘共である事が分かり切っている所がな……しょうもない」
――する事が出来ないか。ため息を吐く織斑さんの口ぶりでは一夏君とデュノア君が遅刻しているらしく、しかもその原因を作り出している女子生徒達の言動には彼女も覚えがあるらしい。
かく言う俺も新入生として入学した当時に嫌と言うほど味わったから、彼女が溜息を吐くのも頷けるね。あれは一種の集団心理の暴走みたいなもんだ……。
「――はあ、はあ。やっと着いたな……」
「ハハ、まさかこんな事態が待ち受けてるとは僕も思わなかったよ」
おっと、如何やら件の一夏君達が到着したようだな。普段あれだけのトレーニングを貸している筈の彼が息を切らせるだけの疲労を負わせるとは、いやはや年頃の少女達の好奇心は正に無限力みたいなもんだな。
「だろ? まあ、何はともあれ授業には間に合って――」
「おらんわ、馬鹿者ども!」
「「おぶぅ!?」」
まだ拳が痛いのか、出席簿を使って制裁を下す織斑さん。少女達の熱い視線から逃れてほっとした所でこの仕打ち、一夏君は自業自得的な所が無い訳でもないがデュノア君は入学初日から可哀想にな。
打たれた頭をさすりながら俺達と同じく列の後ろに加わる二人。途中、一夏君とボーデヴィッヒちゃんがお互いの顔を見てにらみ合ったが、二人ともに頭をさすっているので互いに遅刻して織斑さんから制裁を受けたのに気付いたのだろう。あからさまに視線を外して気まずげにな様子だ。
「ん、んん! さて、諸君。のっけから少々の失態を晒してくれたが、今日から新たに加わった生徒二人は其々国家代表候補生である。デュノアはフランス、ボーデヴィッヒはドイツの代表候補生であり、お前達の先達としてISに携わって来た人間だ。一歩でも前に進みたいのであれば必死に学べ、技術を読み解き理解しろ。それがIS乗りとして世間で通用する者達の必須のスキルだ」
咳払いをして仕切り直す織斑さん。確かに今の所代表候補生としての資質は見せてもらっていない現状だが、そう言った肩書を以って転入して来たのだから一般生徒としてはそうだろう。技術がしっかりしていなければ国を背負うなど夢のまた夢、彼女達がどんな道に進むにせよ実際に体験する事が一番大事だしな。
「それでは早速本日の授業に入る! 四時間を通してやる授業だ、トイレなど管理は各自先生方に話して無理はしないように。そして、授業内容は主に格闘及び射撃の訓練を前半として、後半は代表候補生達の模擬戦と先生方対候補生の模擬戦闘を行う」
織斑さんが話している間に二組担任教師キッカさんと、地政学担当兼二組副担任教師のミーア・フロットさんがラファールに乗ってコンテナ機材を抱えてやって来た。中身は勿論、射撃武器や近接格闘用の武装セット一式だろう。
ラファールはその名の如く高速運動能力を有し、強襲などの作戦において射撃と格闘共に満遍なく扱う事が出来る汎用性を持っている。対して打鉄は高い防御性と汎用性を武器に、射撃や剣戟などを主とした拠点防衛に向いた戦闘が得意な機体である。
まあ、どの機体を選ぶかは自由だし、代表候補生の様に個人専用ISを支給されてもISに選ばれるかはIS次第だ。だから一概に得意な分野だけでISを決める事は出来ないんだよな。ゲッターみたいだ……。
「織斑先生、指定の装備一式の運搬は完了しました。射撃戦闘、近接格闘用のターゲットの配置も既にトオミネ先生が行っております」
生徒達の前に巨大なコンテナ機材を下ろした彼女達は、ISから直接降りて授業を統括している織斑さんへと報告。既に大方の準備が整っている事を把握した織斑さんは、フロットさんに礼を言うと生徒達に向き直る。
「さて、一組の諸君。お前達は今まで教室の授業でしかしならかっただろうが、フロット先生の事を改めて紹介しておこう。彼女は――」
確かに、俺みたいな特異な状況でも無ければ普通の生徒は他クラスの先生を知る機会にはあまり恵まれないだろうし、一応と言ってなんだがフロットさんは国家代表候補の一人だった猛者である。知っておくことに損は無い。
彼女はギリシャ北部の生まれで、第二回モンド・グロッソの代表選手候補としてその名を連ねた人である。地形を利用した戦闘技術が高く評価され、エリア戦闘においては当時のギリシャ国家代表を上回るほどの実力だったらしい。
しかし、彼女は自身の体調不良が原因で代表選考から辞退して、かねてより研究職肌だった事もあり大学卒業後にIS学園教師への試験を受けて見事合格。職歴から見れば同年代の織斑さんやキッカさんよりも先輩に当たる教師であるが、昇進よりも地政学戦術の研究を望んだ為に副担任をしているのだそうだ。
金に近い綺麗な亜麻色のロングヘア―を揺らしながら織斑さんの説明に相槌を打つ彼女は、切れ長の瞳で真っ直ぐに生徒達を見据えて静かに立っている。そこはかとなく寂しげな雰囲気とは別に、彼女の瞳には力強い光が煌めいているのが印象的だね。
「織斑先生よりご紹介に預かりました、ミーア・フロットです。一組の皆さんとは授業でお会いしておりましたが、こうしてIS訓練授業では初めてでしたね。研究職の身ではありますが、訓練は毎日欠かしておりませんので優しい指導を期待してはいけませんよ?」
はは、澄ました笑みで厳しい事を仰る。後ろから見ているとよく分かるが、若干名方が下がっている生徒が見受けられるぞ。如何やら彼女の言葉はその若干名の希望を打ち砕くには十分だった様だな。
「Oh、ミーアも生徒達を脅かすのはそこまでにしテ、早く授業を始めまショう?」
「あら、元気が有り余っているキッカには退屈だったかしら? そうね、じゃあ授業を始めましょうか」
「イェイ! じゃあ皆五人一組でグループを作ってくださいねィ。代表候生と織斑君は~、グループを三~四組づつ束ねた小隊編成で指導してもらいま~ス!」
元気が溢れて即行動的なキッカさんと、物静かなれどきちんとした信念を以って行動するフロットさんは相性がいいのだろう。どちらともなくブレーキ役となって進行する様は、ある程度の意思疎通がきちんとしてないと中々出来ないものだからな。
キッカさんの言葉に従って次々とグループを作る中、案の定あぶれる結果となった俺。今の所専用機である雷鳥・改は修理中であって、目下新しいパーツの癒着とエネルギー回路の生成に昨日の全てを使っている状態だ。
よって、現状では他の生徒達に指導する事が状況的に厳しい。故にあぶれるのは分かるのだが……はてさて、その代替として何をさせられるのかね?
「カノウ君、君は私達と一緒に代表候補生の監督を頼む。山田先生は模擬戦闘の準備で外していてな、その代わりと言っては何だが補佐をして欲しい」
「そうか、確かに今の俺にはうってつけの役所だな……。よし、その役目喜んでやらせてもらおう」
ありがとうと礼を述べる織斑さんによれば、監督役としては先生達が一小隊づつ見て回る手筈になるとの事だ。だが、現状としては先生の数と小隊の数が比例していない為に、今から管制室で指示をしているミナキも下に呼んで指導を行うとの事。
だけど、ミナキはああ見えて動きの指導や機体の扱いには厳しいからな。彼女の指導を受ける小隊には今の内に祈りを捧げておこう。
さて、下手したら心をへし折られるかもしれない生徒達に祈りをささげ後は、早速受け持ちの小隊の所へと行きましょうかね。
織斑さんは中華娘の鈴ちゃんの所へ行き、キッカさんは編入したてのデュノア君の元へ。フロットさんはセシリアちゃんの所に付き、早々と降りて来たミナキは一夏君の所を担当する事に。そして俺は――
「やぁ、俺がこの小隊を担当させてもらう事になった。小隊長はボーデヴィッヒちゃんだ、皆彼女の教える事をよく聞いてしっかりと学んでくれよな」
――共に拳骨を頂いた仲であるボーデヴィッヒちゃんの元へ来た訳だ。
「カノウ殿、貴方が私の監督役なのですね」
ちょっとだけほっとした様な雰囲気を漂わせて微笑を浮かべるボーデヴィッヒちゃん。差し詰め、織斑さんに当たらなくて良かったとでも思っているんだろうな~。この娘は織斑姉弟とそれなりの仲を持っているみたいだし、編入初日からの失態を見せてきた彼女にしてみれば、マイナス評価をプラスに上塗りしたい反面今は若干気まずいと言った所だろう。
「おう、先月に起きた事件で専用機共々負傷、現在に至るまで修理中って訳さ。君も候補生だから知ってると思うが、どうだい?」
「ええ、我がドイツでも彼の事件は周知されています。それに貴方の実力も政府機関内、取分け軍内部には知れ渡っています」
ふむ。実力が知れ渡っているか……うん、概ねこちらの思惑通りだな。
何で俺の実力が知れ渡っている事が思惑通りなのかは今は置いておくとして、ドイツ国家代表候補生ボーデヴィッヒちゃんのお手並みを拝見といきますか。
「私がこの隊を指揮するラウラ・ボーデヴィッヒである。先だっては少々情けない所を見せてしまったが、その汚名はこれからの指導で晴らさせてもらおう。私達が預かった機体はラファール・リヴァイブと打鉄――」
まずは彼女の自己紹介から始まった。俺達が扱うISはラファールが三機と打鉄が二機づつで、始めは射撃訓練から行う事に。遠・中・近と、それぞれ特色のある武装を特殊ゴム弾式の物でターゲットを狙い打つと言う内容だ。本来なら実弾で行うべきなのだろうが、銃弾は何も唯で支給されている訳ではない。一発打つ度にこの世界から火薬が消える羽目になる為、特殊なれど高効率低コストな篠ノ之博士特性弾薬を装填し訓練を行うのである。
勿論、この発想と訓練プログラム自体彼女が学園に住み着いてから開発されたものなので、それまでは実弾を使用していた。そのお陰で弾代だけで学園の財政をかなり圧迫していたらしく、実装された日には学園関係者、とりわけ財政担当の先生から涙を流して喜ばれたそうな……。
「では、出席番号の早い班からISに搭乗して射撃訓練を始める。まずは近距離専用のIS専用拳銃を装備し、あそこにある二十メートル先に用意した的を打ち抜いておもらうと言う一通りの動作をしてもらおう。お前達の腕を見るための物だ、気兼ねなくやるがいい。……では、始め!」
ボーデヴィッヒちゃんの掛け声に合わせて弾かれる用にISに搭乗する五人。まずは俺達一組の生徒が構成する班がISに搭乗して小隊長が示した訓練を実施する。きびきびとした無駄の少ない動作で膝立ち姿勢のISへと駆け上がった彼女達は、すぐさま簡易フィッティングを済ませると立ち上がった。
「ほう……」
ほぼ同時に立ち上がった彼女達は一番右側にいる相川さんがリーダーとなって確認をし合い、彼女が頷くと同時に
ハイパーセンサーを駆使して銃の反動によるブレを修正、回を重ねる度に的を射る正確さが増してきている。弾装に装填されている弾丸の数は全部で十二発。初発こそ大きく外れる子もいたが、それ以降は上手く対応できているみたいで何よりだ。
「よし、そこまで! 第一班はそのまま後退しISを解除、第二班に交代せよ!」
「「「はい!」」」
それぞれが大体弾装を二つ使い果たした所でボーデヴィッヒちゃんから交代の声が上がる。打ち方を止めた彼女達はすぐさま元の位置まで交代すると、ISを解除して次の班に交代した。班員は二組の娘達、小隊長の合図に合わせて一斉にISへと乗り込んだが少々もたついている。一息で駆け上がれない者やフィッティングに手間取る者と、一組の娘達と比べれば反応や所作に遅れが出ているな。
ま、遅れているといっても数秒位だが、実戦じゃあこの数秒が命取りだからな~。大戦中はよく鉄也に怒鳴られたもんだぜ。
「――よし、次の班に交代!」
「「「はい!」」」
ふむ、しばらくはこの繰り返しかな? ボーデヴィッヒちゃんも中々良い指導をしているし、ちょろっと他の小隊の方でも覗き見してみますか……。
「こちらトウマ、他の小隊の様子を見たいんだが繋いでくれる人は要るかな?」
通称コア・ネットワーク、IS独自の繋がりと言い表すのが適当だろうか。通常の通信で行われるオープンネットワークや秘匿回線であるプライベートチャンネルも、厳密にはコア・ネットワークを介して行われる通信に分類されるんだけども。なんと、この通信は他のISが捕らえている映像をコア・ネットワークを中継して見れるという優れ物だ。
『こちら織斑、リクエストなら私が受け付けよう』
「おう、確か織斑さんの所は鈴ちゃんだったっけ? 中国式の指導を解くと見させて貰いますか」
『ああ、代わりと言っては何だが、私はボーデヴィヒの指導を見させてもらおう。私が監督役として直接見るにはあいつも気まずいだろうしな、丁度良かったぞ』
どうやらボーデヴィッヒちゃんの心情はきっちりと織斑さんに伝わっていたようだ。彼女も自身と関わりがある少女を贔屓目に見る事は出来ないだろうし、ボーデヴィッヒちゃん自身もそう見られるのは嫌そうだ。今回は体のいいクッション材となったが、これからは彼女達自身の手で関係を新たにしていって貰いたいものだね。
「ボーデヴィッヒ小隊長、俺は一通り君の指導を見させてもらうが他の隊長の指導もISを通して見ている。俺の事は気にせずに指導は進めてくれ」
「了解しました、カノウ殿! ――よし、撃ち方止め! 次は中距離銃器の訓練に入る。先ほどと同じ順番、手順を持ってターゲットを破壊せよ!」
「「「了解!」」」
いつの間にやら軍隊式の敬礼と答礼を返す彼女達のノリの良さに噴出しそうになるが、それだけ彼女が持つ雰囲気が周りを感化させているのだろうとも思う訳で。IS学園に入学、もしくは編入してくる生徒はそれだけで一般人とは違う資質を兼ね備えている人間が多い。そして、その資質を上手く引き出しているのがボーデヴィッヒちゃんと言う事なのだろう。引き出す者、引き出される者が噛み合った時は双方に良い影響があるからな。
「さて、それじゃあ鈴ちゃんの指導を拝見――」
彼女達の一体感に微笑ましさを覚え、在りし日の自身の姿を重ねつつも俺はISから流れる映像に目を通すのであった。
◆
「う、うん、良い感じだぞ皆! それじゃあ次は、スナイパーライフルによる遠距離の射撃訓練に入ってみようかな?」
「「「了解!」」」
背後でトオミネ先生による監査の目が光る中、俺は内心おっかなびっくりで指導をしていた。薄く微笑みを浮かべている表情とは裏腹に鋭く光る眼光と、その間常に動き続けている指先が着実に俺の指導方法に対する感想をタッチパネルで書き連ねている。それはもう束さんのブラインドタッチもかくやという速度で……あわわわわ!?
「箒、ライフルの照準はある程度IS任せにしてもいいらしいぞ?」
「む? こうか?」
「ああ、もう少し肩の力を抜いて脇を閉める感じだな。うん、上手いぞ」
剣術と比べて射撃はあまり得意じゃない箒を、昨日の訓練で射撃が専門のセシリアに教わった手順で指導する。俺は俺で得意じゃないんだが、こうしてある程度の指導はできる様で……。人に教える事によって自らも新たな発見をするという漫画の様な体験を今している。
正直、ラウラの奴が編入してきた事実だけでも俺には一杯一杯なんだが……それにも増して背後の視線が怖い。どれくらい怖いかと言うと、未だに現役で稼動している昭和のジェットコースターくらい怖い。見た目は完全にボロボロなのに急上昇急降下を繰り返す浅草の遊園地くらい怖い。
ああもう、自分でも何を言ってるのか分からなくなって来たぜ。
「どうしました? 織斑君。指導の手が止まってますよ」
「は、はい! 了解です、トオミネ先生!」
ちょっと考え事をすれば直ぐに教育的指導が入る。ハイパーセンサーを通した目でも表情に特に変化は見られないが、俺が知っている限りでの自然体の先生なんだけどもどこか怖いんだよな……精神的にさ。
「よ~し、撃ち方止め! 皆結構上手いな~、鷹月さんなんて俺よりも射撃の腕が上なんじゃないか?」
「ホント? 織斑君にそう言って貰えると自信になるわね」
銃をおろしてISを解除した鷹月さんがにっこりと笑みを浮かべて一息つく。実際、俺よりも彼女達のほうが射撃に関しては実力が上。同じ近接格闘方の箒は俺とどんぐりの背比べみたいなもんだが、あいつは弓だと全然違うから総合的に見れば俺が最下位という事に……。
白式はワンオフアビリティーで割を食っているから今更銃器の類は積めないし、雪片弐型以外は全然受け付けてくれない。ナイフ数本でも積めればもっと戦術の幅が広がると思うんだけど、こればっかりはIS次第だからしょうがないか。
一通りの訓練が終わってトオミネ先生に報告、他の小隊も訓練が終わった所を見計らって五分間のトイレ休憩を挟む。その間、隊長である俺達専用機持ちは近接格闘用のモジュールをそれぞれのISにインストールしておく作業だ。装備としてファールはブレッド・スライサーと言う近接ブレードが一振り、打鉄は日本刀型近接ブレード葵が一振りだな。
後は、拳撃戦闘用の腕部特殊装甲兵装ボクサーが一対と打鉄専用打撃装備漆篭手が一対。それに加えて、ナイフ術戦闘用に軍用大型ナイフとIS専用匕首っと。正直、いくら打鉄が日本のISとは言え、匕首はないだろう匕首は。時代劇か……。
「織斑君、装備のインストールは終わりましたか?」
「はい、トオミネ先生。一通りのインストールは終わりましたが、この装備は一体……?」
「ああ、これですか」
実は武装の他にも高速戦闘用のモジュールが各ISにインストールされている。
例えばこれ、脚部装甲に増設する形で取り付けるスラスター推進モジュール。データで照合し、全体の見取り図として見てみると、カノウさんのIS雷鳥・改の脚部に装着されているあのスラスターに似ている。中央に紅玉が配置されて、所謂アンロックユニットに値する事からスラスターの噴射口は無限軌道の様に動く仕様だったはず……。
「これは、雷鳥・改を基に開発した量産機用の戦闘モジュール計画の一つ、プラズマコンバータ式高推進スラスターの完成品なんですよ。実は篠ノ之博士と共同開発しているプロジェクトの一環で、現行ISの拡張性を追求してみようという話になりまして。どうせならとことん量産期の底上げを図ってみようと、そう言う話になりましてね。私が設計を担当して篠ノ之博士が組み上げるという――――」
ああ、駄目だ。束さんが関わっているってだけで絶対とんでもない計画に違いない。と言うか、さっきまでの監査官としての雰囲気は消し飛んで、すっごい饒舌になっていらっしゃるーー! こ、これは思わぬスイッチを入れてしまったのか!?
「――で、データ検証も含めまして授業で活用する案が職員会議で採用された訳なんです」
「そ、そうでしたか! 成程、実証データを取るためなんですね……!」
駄目だ、これ以上先生に喋らせたら休憩時間が終わってしまう……!? 何とか話題を逸らして逃げなきゃ、まだ束さんが家に遊びに来ていた時のトラウマが再び掘り起こされ――――嫌だー、もう宇宙の拡張理論の原理方程式なんて聞きたく無いぃぃぃ!?
図らずもトオミネ先生のミニ講義に幼き日のトラウマが掘り起こされそうになった時、俺を救う希望のアラームが白式から鳴り響いたのである。
「――あら、時間ですね。織斑君、小隊の皆さんを集めて授業に戻ってください」
「は、はい! 織斑一夏、授業に戻ります!」
危なかった。後数秒鳴るのが遅れていたら俺は今日眠れなかっただろう。
高名な僧侶が念仏の如く、それが十二・三の少女から淡々としかして朗々と語られる意味不明な数式と壮大な理論。当時の俺は宇宙とか星とかに年相応の好奇心を以って、千冬姉の友達で凄い物知りな束さんについ聞いちゃったんだ。ニタリとした獲物を見つけた様な笑みを浮かべる束さんにひっつかれて聞かされる話。勿論、それが間違いだったと気づくのにそれほど時間はかから無かった訳だが……。好奇心は己を滅ぼすとはよく言ったものだと、その日の夜中に布団の中にまで進入して持論を語る束さんを見て実感したよ。あれは正に悪魔の笑みだった……。
「じゃあ皆、次は近接格闘の訓練に入ろうと思う。これは俺が見本の形を見せるから、皆はあのターゲットに向かって斬りつけたり殴ったりしてくれ」
まあ、過去のトラウマはさて置き、今は訓練に集中するとしますか。俺の精神安定上のためにも、な。
◆
鈴ちゃんや一夏君と言った専用機持ちの指導風景を一通り見させてもらったが、案の定一夏君はαナンバーズでも辛口評価に定評があるミナキによって見事に心をへし折られるのであった。
「……いいんだ、俺なんて所詮手足が生えてるミジンコさ。しってるか、心が折れる時ってさ音が聞こえるんだぜ? ポキッって、小気味の良い奴が――」
「い、一夏……。大丈夫だ、私はお前の指導は分かりやすかったぞ!」
「そうですわ、一夏さん! 私も傍から見ておりましたが、先生が仰る程指導に間違いはありませんでしたわ。ですからお元気を出して下さいまし……!」
「しっかりしなさいよ! いくらホントの事を言われたからってあんたはへこみ過ぎよ――って、違う。あたしが逆にへこませてどうすんのよ!?」
雷鳳に乗りたての頃は俺も心を言葉の鉄骨で殴られてへし折られる寸前まで行ったからな~。ましてや比較的平和な世界で育った彼には、戦時中で色々余裕の無かった所で育ち鍛えられた人間の評価はきついよな……。まあ、俺も大体はミナキの意見に賛成する場面が多かったけど。
和気藹々と慰められる一夏君に同情と厳しい評価を付けつつ、視線を他の専用機持ちの二人へと移す。
「うむ、中々に有意義な時間だった……!」
「僕もだよ。皆優秀な人達が集っているからね、僕も良い経験をさせてもらった」
ふんす! 満足気に息を漏らすボーデヴィッヒちゃん。そんな彼女に笑顔で答えるデュノア君も晴れやかな笑みを浮かべて楽しそうだ。一見対照的な雰囲気を醸し出している二人だが、見た限りでは学園でも馴染んでいけそうな気がする。
途中デュノア君に興奮した二組の生徒が一部暴走した以外は、特に支障も無く指導を完了させた二人。キッカさんの評価も上々だし、俺もボーデヴィッヒちゃんの指導には高評価を付けておいた。どうやら優秀な候補生が来てくれた様で、益々一夏君の特訓に磨きをかけられるな!
彼にとっては良い事であろうが精神的に苦難の日々が待ち受けている事に合掌を奉げ、授業は後半へと移って行くのであった。
いかがでしたでしょうか? 今回も新キャラの先生が登場、この方は勿論スパロボに出てきたあのキャラです。
ミーア・フロット
年齢:24
体格:一般的なヨーロッパ系美人のスタイル
金髪のゆる不和な髪をロングにしている。
ギリシャ国家代表候補に選ばれるも、本人の体調が優れずに辞退。大学卒業を経てIS学園の教師として採用され、千冬やキッカよりも一年先に教師となる。自身の得意分野である地政学を生かした戦術を研究し、昇進とひきかえに研究の場を与えられている。
以上が彼女の大まかな経歴です。
では、誤字脱字・感想などお待ちしております。