インフィニット・ストラトス~終焉の銀河の果てに~ 作:とっぷパン
IS学園・職員室
朝食を終えた二人は、千冬に連れられて職員室の応接間に来ていた。ここで今からトウマとミナキに対して尋問と質疑応答が行われるのだが、腹が膨れたことによる満足感からトウマ達に本来あるはずの緊張感は皆無だった。
そして、語られるトウマ達が歩んできた歴史。
だが、トウマやミナキの口から語られる世界の様子には、世界最強の戦乙女・ブリュンヒルデである織斑千冬ですら閉口しざるおえないほどの過酷かつ不思議に溢れたものだった。
人と変わらぬ人工知能を持ち、なおかつ進化する勇者と呼ばれるロボット軍団。
異次元宇宙から、地球に侵略しに来る異星人。
遠い宇宙の彼方から星を追われ旅をした末に地球にたどり着き、地球人と異星人の間で銀河を股に掛けて繰り広げられた愛の物語。
異星人が侵略しに来る中、内輪もめを止められない地球人達の醜さと愚かさ。
地球を離れ銀河の彼方へと旅立ち、移住可能な星を求めて旅をする移民船団。
コーディネイターと呼ばれる人類と、ナチュラルと呼ばれる人類同士による決着の見えない戦争。
銀河の中心からやってくるSTMCと名付けられた、小さいものでも100mもある宇宙怪獣との生命の生き残りを賭けた大決戦。
無限力と呼ばれるエネルギーを宿す数々の巨大ロボット達。
そして、トウマとミナキがこの世界に飛ばされる切っ掛けとなった悪霊の王との二度にもわたる戦いなど、聞けば聞くほど夢物語ではないのかと疑ってしまいたくなる様な話がいくつもでてきた。
尋問に同席した幾人かの学園教師はあまりにも過酷な話や想像もつかないような出来事に、半分くらい聞いたところで処理落ちしてしまっている。それなりに戦いの場数を踏んでいる千冬はかろうじて全部聞いているが、新米教師の真耶などは完全に気絶している。
こうして思い返してみると自分達がいた世界はとんでもないところだと、トウマは話を聞いている千冬達の反応を見て思った。
「まぁ、こっちの世界に関してはこんなもんだったよ。これ以上詳しく説明はできないが、まだまだいろんなことがあったな」
「ええ、今思い返してみても凄い世界でしたね、トウマ」
そんなヘビーな話を懐かしそうに話す二人に、学園教師達は千冬や真耶など一部の教師を除いて完全に意気消沈してしまっていた。
もうこれ以上二人の話を聞く体力は教師側には無い様なので、今度は自分達が暮らす世界の情勢についての話に千冬は素早く切り替えた。
「では、今度はこちらの世界について話したいのだが…………ほら山田先生、いいがげん起きないか。先生の出番だぞ!」
「ふぇ?……ああっ!はい、もう大丈夫です。……では、ここからは私が説明させていただきます」
千冬によって無事に再起動を果たした真耶。若干頬を赤らめながらも自分の役割をこなしていく。
「まずは、私達の世界の現状についてお話させていただきます」
真耶から語られる話は、トウマ達の世界ほどではないが今から約十年前に一人の天才少女によって「IS」というパワードスーツが生み出され、それによって世界の産業に飛躍的な進歩をもたらし、またそのスーツの特性である女性しか機動させることができないというものから世界では女性有利の社会が形成されているという内容だった。
真耶による世界情勢の説明が大体終わると、今度は千冬がISについて語りだす。
「ISに関しては私の方から説明させてもらおう。まず、ISとは正式名称「インフィニット・ストラトス」の頭文字を訳したもので山田先生の説明のもあった通りパワードスーツの事を指すものだ」
千冬は立体投影型のディスプレイを取り出し映像を交えて説明しだした。ミナキは自身も研究者の身であるために興味深そうに聞いている。対してトウマは話半分で聞いている。いくらパイロットとして経験が多いトウマでも、はじめて見るもので、しかも男である自分には起動できないものであるためにあまり関心はないようだ。
「ふ~む。人通り話は聞き終わったけど、結局ISって何のために作ったんだろうなこの天才さんは……」
トウマは話を聞き終わっての感想としてそんなことを感じたのだった。敵がいるわけでもないのにこの様な戦闘機と戦車の様な物しか存在しなかった世界で、これほど高性能なパワードスーツを開発した者の心がトウマには理解できなかった。
「宇宙にコロニーでも作りたかったんだろうか?」
そのトウマの呟きにミナキは苦笑しながら、一人の研究者として開発者の気持ちが少しだけ分かると答えた。
「トウマ、私はこの人の心が少しだけ分かるような気がします。……きっとこの人は自分の知らないことをもっと知りたいから、この様なスーツを開発したんじゃないでしょうか。この果てしない宇宙にはさまざまな不思議が満ち溢れています、科学者や研究者ならそれを知りたい、謎を解き明かしたいと思うのは当然ですから……」
そんなミナキの意見に千冬は、この言葉をあいつが聞けばさぞかし喜んだ事だろう、と思った。あいつの他にもこんな意見を言う人がいるのかと、それと同時にあの時ミナキのような友人がいればあいつも今頃もっとまともな生活をしていたのではないかとも勝手な事ながら思ってしまった。
「……その通りだ、人間の好奇心は尽きることがないからな。あいつがこの場にいればきっとトオミネさんと同じことを言っただろう」
ミナキと千冬の言葉にトウマは納得したが、千冬のどこか嬉しそうな語り口に開発者が彼女の知り合いのような気がするのだった。
「……あいつって言ってたけど、織斑さんの知り合いなのか?」
「ああ、篠ノ之 束という女で、私の古い友人さ……」
サラッと出た意外な事実に驚きを隠せないトウマとミナキ。
そしてなぜか、真耶までが千冬の隣で驚いていた。
「先輩、篠ノ之博士とお知り合いだったんですか!?」
「「「ええっ!?」」」
その真耶の発言に周りの教師達が驚きを示す。どうやらこの事は世界的にも有名な事実のようだった。
「なんだ、山田先生は知らなかったのか? てっきり知っている物だと思っていたんだがな」
「ええっ!? そこまで有名な話だったんですか~。……はっ、恥ずかしいです……」
千冬の言葉に、真耶は顔を真っ赤にしながらその身を縮ませるしかなかった。
そして最後はいまいち締まらなかったが、おおむね和やかな雰囲気で終えることができたのだった。
IS学園・IS格納庫
「せっかくだ、直接ISに触れてみないか。動かすことはできないだろうが、直に見ればどういうものかカノウ君にも分かってもらえるだろうしな」
学園のIS格納庫に千冬と真耶、そしてトウマとミナキは来ていた。
「おいおい、織斑さん。いいのか、一応機密も入っているんだろう。一般人の俺達がそんなのを見たり触ったりして大丈夫なのか?」
トウマは千冬の言葉に確認を取りながらも、実際に触れる機会ができる事に喜びを隠せないでいた。なんせ、この世界の技術の頂点に立つ存在である物に触れられるのである。楽しみで仕方がないといった様子だった。
一方ミナキも、トウマ程ではないが研究者として未知のISに触れる機会ができたことに喜んでいた。
二人の興味津々な様子に苦笑しながら、千冬と真耶はIS格納庫のゲートを解除した。
そして現れたのは、日本産IS・第2世代期「打鉄」 鎧武者を連想させるその出で立ちに、トウマは懐かしさを感じていた。
トウマの師的存在であるゼンガー・ゾンボルト、その男が乗りこなす機体「ダイゼンガー」に雰囲気がとても良く似ていたからだ。
「触っても?」
そう千冬に尋ねながらも、トウマの手は無意識に打鉄へと伸びていた。
伸びたその手が打鉄に触れたその瞬間、
「なっ!?こ、これはいったい!?」
IS・打鉄は、
「トウマッ!?」
「カノウ君っ!?」
世界で二人目の男にその身を委ねたのだった。
「おい、これはどういうことなんだ?……何かが、あ、頭に流れ込んでくる……」
金属音を響かせながら、ゆっくりとその身にトウマを受け入れる打鉄。
トウマは頭に流れ込んでくる情報に顔をしかめながらも、打鉄の動きに逆らわずに身を委ねた。
「……トウマ、大丈夫ですか?」
心配そうな顔をしながら尋ねるミナキに大丈夫だと声をかけ、トウマは千冬達の方を振り返る。
しかし、千冬や真耶は石の様に固まって動かない。
「おい、二人とも。固まってないで、コレなんとかしてくれ。正直、一気に視界が広がって気持ち悪いんだ……」
トウマのその言葉にやっと動き出す千冬。
真耶はいまだに固まっている。
「カノウ君、君に伝えなければならないことがある。……先ほど説明した通り、ISは女性にしか動かせない物だ。そのISを起動させてしまったからには、この世界から追われる身になってしまうだろう。だから……」
「この学園に学生として入学してもらうことになる、か。……まいったな。ミナキ、どうやら静かには暮らせそうにはないらしい」
千冬の言葉を引き継ぎながら自身の行く末を考え、また騒がしい事に巻き込まれそうな予感を覚えるトウマ。
「仕方がないわね。私は、あなたと一緒に居られるならどんな世界でも生きていく覚悟でいたんだもの。……それに、今回は宇宙の運命なんて厄介な物も背負わなくても済みそうですし、きっと大丈夫よ」
厄介事はたしかに多いだろうが、意外と気楽なミナキ。トウマとの別れさえ無いのであればあとはなるようになればいいと、そう考えていたのである。
「……すまない、二人とも。これから色々と背負わせてしまうようだ…………」
異世界で戦い抜いてやっと平和な時を手に入れられたかもしれない二人に、千冬は俯きながら謝罪の言葉を口にすることしかできなかった。それを見たトウマは、苦笑しながらも千冬に話しかけた。
「気にするな、とは言わないが……。織斑さん、もう起こってしまった事は仕方ないさ。それより、これから俺達がこの世界で生きていく術を教えてくれよな!」
トウマの前向きな言葉に、おもわず顔を上げて目の前の男を見つめる千冬。その顔には、トウマによって凛々しい表情が戻っていた。
「……ああ、任せてくれ。君やミナキさんには、この世界で生きていけるように全力で私がサポートするさ」
決意を秘めた顔で語る千冬。その顔を見てトウマは大きく頷くと、千冬に満面の笑みを返すのだった。
とりあえず気絶している真耶を千冬が叩き起こし、トウマはISを解除することにした。
その時、ふとしたひょうしでトウマの胸元から一つのネックレスが姿を見せた。
そして、そのネックレスを見て顔色が変わる千冬と真耶。
それに疑問を覚えながらも、理解が追いつかないトウマ。理由を聞こうと声を出そうとした時、先に口を開いたのは千冬の方だった。
「……カノウ君、そのISはどこで手に入れたんだ?」
そう問われたトウマであったが、いまいち理解できていない。ISとは目の前に鎮座している打鉄の様な機体を指す物と思っており、そのネックレスがISの待機状態だとトウマは分かっていない。
「ISって言われても、目の前においてあるこいつの事じゃないのか?」
その言葉でトウマが理解していないことが分かった千冬は、重いため息をついて改めてそのネックレスがISの待機状態であることを告げた。
「これが、あのISですか。随分と小さくなるんですね」
ミナキは、トウマが首からぶら下げているネックレスを興味心身な目で見ながら真耶に尋ねた。
「はい、恐らくですが、その可能性が高いと思われます。…………なんで今日はこんなにトラブルの芽が沸いて出てくるんでしょうか。きっと厄日です……」
盛大にため息をつきながら、真耶はこの後自分を襲ってくるであろう仕事の山に意気消沈するのであった。
「まぁ、山田先生、私も手伝うからそんなに落ち込むな。……それとカノウ君、言ってなかったが実は君の他に男性操縦者が一人存在している。実のところ私の弟なんだが、できれば弟のことを気に掛けてやってほしい」
落ち込む真耶を励ましながらまた重大なことをサラッと言う千冬は、もう一人の男性操縦者である自身の弟のことをトウマに話す。
そのことに驚きながらも了解の意思を告げるトウマ。実は若干不安だったので、千冬の話にトウマは喜びを見せたのだった。
「……なんにしても入学まで時間がない。ISについて色々知るためにも今日から特訓だな。ミナキ、悪いが手伝ってくれ。俺一人じゃどうすりゃいいか分からないからな」
トウマの弱気な物言いに、ミナキは笑顔で答える。
「フフッ、二人でがんばりましょうか。この世界に来たときからあなたと私は一心同体。この先どんなに辛い事があっても二人一緒に乗り越えて行きましょう」
ミナキの言葉に、トウマは満面の笑顔で返すのだった。
「なんだかいい雰囲気ですね、先輩」
「……そうだな、こっちまであてられそうだ」
そしてそれを微笑ましそうに眺める真耶と、若干眉間にシワを寄せて見つめる千冬がいた。
世界の何処か・とある天才科学者
「おりょりょ? なんだいこの反応は、打鉄のコアからいっくんと似たような反応が検出された?……もしかして、ちーちゃんのところで観測された異常なエネルギー反応と関係しているのかも……」
暗く乱雑に物が置かれた部屋の中で、一人の女性がファンシーな格好でイスに座りディスプレイの画面を見ている。やがて考えがまとまったのか、勢い良くその場に立ち上がった。頭につけたウサ耳がピョンと跳ねる。そしてその顔には笑顔が輝いていた。
「よ~し、さっぱり分かんないからちーちゃんの所にいって直接確かめよ~っと!ひっさしぶりにちーちゃんに会えるし、色々聞きたいこともあるし、束さんはとっても楽しみなんだな~」
無邪気に笑いながらIS学園に向かう準備をする女性。束と名乗ったこの女性こそが、稀代の天才・篠ノ之 束であった。
「今行くからね~、ちーちゃん!!ロケット発射準備完了だぜぃ!点~火~と、ポチッとな」
人参を模したロケットに乗り込み、篠ノ之 束は世界中の包囲網を潜り抜けIS学園へと向かうのであった。
「ふふふ~ん。なんか楽しいことが始まりそうだね! これ以上は退屈しないで済みそうだよ!!」
そう叫ぶ束の顔には、やはり笑顔が輝いていた。
いかがだったでしょうか。今回はちょっとヌケた所のある山田先生と千冬さんのコンビと、トウマとミナキの愛の絆のコンビの回でした。
コメディと愛の話は書くのが難しいですね。
誤字脱字・感想などお待ちしております。