インフィニット・ストラトス~終焉の銀河の果てに~ 作:とっぷパン
IS学園・一週間後
篠ノ之 束がIS学園に来てから一週間が過ぎた。
束が来たことによってトウマのISの解析がはかどり、思ったよりも色々なことが解ってしまった。その一つが、サポートシステム、マン・マシン・インターフェイス「Lead Innovation Organic Harmony」通称「システムLIOH」《ライオー》を搭載していることだ。
この事にトウマとミナキは一気に顔色を変えた。
システムLIOHはトウマが初めて乗ったスーパーロボット「雷鳳」の製作者である「カオル・トオミネ」博士によって組み上げられたサポート用システムで、素人でも雷鳳の戦闘力をフルに引き出すことが出来る画期的な戦闘用OSだった。
しかし、そのシステムのその本質は、パイロットの安全性を考慮しておらず。使い捨ての部品のような扱いをしてまで敵を倒す、という非道な物であった。残りわずかな生命の炎を燃やし尽くす特攻モードが発動した際には、パイロットはシステムの干渉に体が堪えられず死の道しか残されていない。
かつてトウマもこのシステムによって命を削り、特攻モードを起動させて暴走し仲間に襲いかったことがあった。その時は、ゼンガー・ゾンボルトの駆るダイゼンガーによって暴走は鎮圧されトウマ自身も何とか一命を取り留めることに成功した。このことでミナキは信じてきた父の裏切りにより心に傷を負い、しばらくトウマとはまともに話せなくなったことがあった。
その後、トウマの搭乗機体が大雷鳳にカスタムされた後もシステムは存在し続け、封印処理をした上でDML《ダイレクト・モーション・リンク》システムに切り替える事と、常に攻撃を真芯に打ち込み相手にその威力をフルに伝道させるという神業を習得する事により克服することに成功するのであった。
「そうか、このISにシステムLIOHが組み込まれていたのか。……やっかいだな、ミナキ」
「はい、その通りですトウマ。検査の結果、システムはISコア近くに存在しており無理に切り離すとコアそのものを傷つけてしまう可能性から、封印処理を施した上での運用しか出来ないようです」
ミナキから語られた説明の内容に絶句する千冬達。改めて目の前の青年が辿って来た道の険しさに束ですら言葉が出なかった。
「…………本当に君たちは凄まじい人生を送ってきたのだな。白騎士事件などまだ可愛い方だ」
「にゃははは、こんな重い話が付きまとうシステムだとは、束さんも思わなかったな~。むしろ、よく生きてたねトッチ~」
「本当ですよ、私なんかお話を聞いただけなのに震えが止まりません」
話の内容の過酷さに、各々感想を漏らす千冬達。しかしこの話ですらトウマ達が辿ってきた物語の本の一部である事を千冬達はまだ知らない。
まだまだ話していないことはたくさんあるのだから。
「それでもこのISは使わざるをえないんだ、なんとか入学式までには乗りこなして見せるさ。……それに、ISの戦闘では素手で戦うことはほとんど無いって言うし課題は沢山あるな」
「大丈夫ですよ、トウマならなんとかできます。それに、一人で出来ないことがあっても私達がついていますから、残り五日間しっかりと特訓しましょう」
苦笑するトウマとそれを励ますミナキ達。入学式が目前となった今、できることはやれるだけやるしかない。これからこの世界の住人として生きていくためにも、様々な問題をトウマ達は文字どうり蹴散らしていくしかないのだ。
「……まぁ、いろんな事が分かった訳だが、とりあえず飯にしないか。今日は俺が作ろうと思うんだが――――」
「「「「本当ですか!?」」」」
トウマが何気なく言った一言に、ミナキを始め千冬達が一斉に目を輝かせた。まさに、獲物に襲い掛かる肉食獣の様であった。
……実はコレには訳があり。たまたま訓練の時間が長引いて食堂の閉店時間まで間に合わず、晩御飯を逃す羽目になったときに、トウマが自身のバイト経験を生かしてご飯をご馳走したことがあった。その時食べたご飯が今まで食べたことがないくらい美味で、以来この一週間トウマは彼女達の晩御飯を担当してきたのだった。
一緒に暮らしていたミナキは、あまり料理ができず失敗することが多かったので、それならばと、トウマが代わりにご飯を作ることになっていた。そのためか、もともと料理スキルが高かったトウマの腕が三年の月日で益々成長し、達人の域まで達していたのだった。あの美食家で自身も料理の達人である「レーツェル・ファインシュメッカー」も認めたほどの腕である。
そんなご飯を食べていた彼女達は、初めこそ女としての教示からか悔しがっていたが今では完全にトウマに胃袋を掴まれていたのだった。
「――――最後まで言わせてくれよ。……じゃあ、食堂に行こうか皆」
彼女達の様子にため息を一つ吐いてトウマは女性陣に呼びかけ、彼女達にせかされるように食堂に向かうのであった。
IS学園・入学式前日
「もう、明日が入学式か。まさかこの年になって学校に入る羽目になるとは思わなかったな」
いよいよ入学式が翌日となったトウマは一人ロッカールームでこの二週間の出来事を振り返っていた。
トウマとミナキがこの世界に来て二週間、色々な出会いがあった。
まず、最初の出会いである学園教師・織斑 千冬によるトウマ達の保護。
この世界に飛ばされてきたトウマ達二人にとって、もしかしたら戦地の真っ只中に飛ばされる可能性もある中、比較的安全なこの場所で善良な人間である千冬に保護されたのは不幸中の幸いであった。
次に、学園の教師達との出会い。
新米教師の山田 真耶を始め、この学園の教師陣は他世界の住人であるトウマとミナキに対してとても親切に接してくれた。事情聴取の際には話の内容に涙を流してくれる者もいた。
そして、ISの開発者、天才・篠ノ之 束との出会い。
この世界の主力兵器とも呼ばれるくらい高性能なISを開発した篠ノ之 束との出会いは二人にとって衝撃的なものだった。
宇宙の謎や神秘を追い求めて開発されたIS。しかし、本来の用途に使用される前に起きてしまった全世界のミサイルハッキング事件、通称・白騎士事件によって武力的な面だけが目立ってしまい、その能力を本来の目的に使用されなくなってしまった。その事に生きる気力を失った彼女は、ISコアを466個製造し行方をくらました。
そこに迷い込んできたトウマとミナキによりもたらされた話に再び生きる気力を取り戻した彼女は、親友である千冬から見ても別人の様に元気になった。
最後はトウマの専用ISとの出会い。
この世界に来るときにトウマは自身の搭乗機体である大雷鳳に乗って飛ばされたために、おそらくは大雷鳳が変質した物と思われる。システムLIOHを搭載し、雷鳳を思わせるカラーリングと形状からそう考察された。
なお、システムLIOHについては要注意である。
「さて、やれることはやったんだ。あとは運に任せるとして、もう一人の男性IS操縦者の一夏君とこれから男二人か。色々大変だな、こりゃ」
この世界で生きていくためには仕方ないこととはいえ、学園で若い男は二人だけの事実に苦笑いが出るトウマ。
銀河を救った英勇も、この事態には辟易するほか無かった。
「……よし!愚痴を零すのはやめだ。明日に備えて、飯にするか!」
とりあえず思考を切り替えて明日に備えるトウマ。しかし、このあと食堂で驚きのニュースがテレビに流れてまた疲れる羽目になるとは思いもしなかった。
IS学園・食堂
『次のニュースです』
日々の疲れに愚痴を零す者や忙しさの合間に楽しく会話する職員の和気藹々とした空間の中、今日の出来事のニュースが流れている。
トウマやミナキ、千冬、束、真耶といった最近見慣れるようになった面々も明日の事を話し合いながら楽しく過ごしていた。
「――――そういえば、カノウ君。君に一つ言ってなかった事があるんだが、今更ながらに報告させてもらう」
「ん?なんだい織斑さん」
会話の途中で突然千冬から切り出された言葉に、たいして思うことなく返事を返すトウマ。
「実は――――」
千冬が話し始めようとしたその時、食堂内にあるニュースが流れた。
『速報です!なんと、今年初めに発見された男性IS操縦者に続きもう一人の操縦者が発見されました。名前はカノウ・トウマ、年齢は――――』
「ブゥーーー!?」
食後のお茶を飲んでいたトウマは、聞こえてきたニュースに盛大にお茶を噴き出した。
「バリアーー!!」
噴き出したお茶の被害から間逃れるため、束は携帯型シールド発生装置という無駄に高性能な物を使いお茶の攻撃を防いだ。
「きゃあ!?」
「汚いですよ、トウマ」
「この技術の無駄遣いこそ束さんクオリティー!!」
「……まぁ、そうなるのも無理はないか」
いきなりのお茶攻撃に驚く真耶、冷静に突っ込むミナキ、自身の技術に目を輝かせながら叫ぶ束、仕方ない事だと割り切っている千冬。それぞれ違う様子で、咳き込むトウマを見ていた。
「ゲホッ、……どういうことなんだ織斑さん!?」
「うむ、今流れたニュースこそ私が言いかけたことなんだ」
「ドユコト?」
千冬が言うには、世界に公表した理由として自身の弟が絡んでいることが主な理由だと言う。男性として初のIS操縦者である彼は世界から注目されていて、今まで誘拐目的の不振な人物・集団が彼の周りに多数忍び寄っていた。今までは千冬のブリュンヒルデとしての名前と篠ノ之 束の妨害工作により事なきを得ていたが、このまま彼一人だけの存在では後先考えない連中からこの先ずっと狙われることになるだろう。よって、そのリスクを分散するために、今回の事の運びとなったのだった。
「勝手な事とは十分承知している……。が、あいつはまだ何も知らない十五の若造だ。あいつ自身が自分の身を守れるようになるまで、どうか力を貸してほしい……頼む!」
そういって深く頭を下げる千冬。
彼女にとって唯一の家族である弟のことを想い行動した結果、トウマには事後承諾の形となってしまったのだった。
「束さんからもお願いするよ、トッチー。いっくんはまだまだ弱い子供なんだ。だから、その子供が独り立ちできるように一緒に協力してほしいな」
親友である束も一緒に頭を下げる。同じく可愛い妹を持つ彼女も今回の騒動に関わっていたのだった。
「……トウマ、私からもお願いします。彼女達の願いを聞き届けてやってください。これからの次代を担う子供達のために、私達大人が彼らを導いてあげましょう。それが大人の仕事なんですから」
頭を下げる二人に優しく微笑みながらトウマにそう諭すミナキ。
対してトウマはじっと目を瞑ったまま喋らなかった。長い沈黙が場の空気を緊張させ、そろそろ真耶が緊張に耐え切れずに泣き出しそうになった時。トウマは静かに口を開いた。
「…………そっか、それじゃあ仕方ないな。俺は別にかまわないぞ。ミナキが言った通り、時代を築いていくのは若い子供たちだ、その成長を邪魔するやつらはこの俺が蹴り砕いてやるさ。……だから、顔を上げてくれ二人とも、その依頼トウマ・カノウが引き受けた!」
トウマは力強い笑顔と共にそう宣言した。
その場に再び明るい雰囲気が戻り、頭を下げていた千冬と束も思わず反射的に顔を上げる。トウマの返事を聞いた二人の顔には、ホッとした笑みと共に小さな涙が輝いていた。
「……ありがとう、トウマ君」
「ありがとうね、トッチー。束さん感激だよ! だよ!」
「よかったです~、なんだかハラハラしましたよ~グスッ」
気がつくと周りにも話を聞いていた教員がワラワラと集まり、感動で涙を流したり口々に祝福の言葉を口にしていた。
「良かったわねー、織斑先生」
「カノウさんも男前!」
「大人の仕事か~。是非とも本国の上層部のやつらに聞かせてやりたい言葉だわ……」
「イェス! ソノとおりで~ス。軍上層部なんて皆ミナキサンに説教してもらえばイイので~ス!」
様々な不満が口々に出ている様子に、トウマは苦笑しながら熱の冷めたお茶を口にする。
「さてと、明日からはりきっていこうか、みんな!!」
「「「「「はい!!」」」」」
トウマの言葉に、食堂は大きな歓声に包まれるのだった。
世界各国の反応・織斑 一夏
『――――IS操縦者が発見されました。名前はカノウ・トウマ。年齢は――――』
「ブゥーーーーッ!?」
自宅で夕御飯を食べていた俺は、突然ニュースで流れた速報に食べていた納豆御飯を盛大に噴き出した。
「ゲホッ、ゲホッ!? ……えっ!? 今、新たに男性操縦者が見つかったって言ったよな!?」
そのニュースからもたらされた情報に、俺は若干混乱しながらも時間がたつにつれて歓喜が湧き上がってきた。
そう、あの女しかいない学園に一人で三年も過ごさなくて済むのだ! こんなに嬉しいことない!
「よかった、マジでよかった……。これで孤立せずに済みそうだ。……こんなに嬉しいことはない!」
重要なので二回言いました。あまりの嬉しさに涙がこみ上げてきたよ……うぅ!
迫る入学式に陰鬱な気持ちになりながらも、決まってしまった事態に流されるがままに準備をしていた俺にとっては、まさに救いの出来事だった。
カノウ・トウマ、かぁ~。いったいどんな人なんだろう、仲良くできるといいんだけど……。
などと、これからの学園生活に若干の希望を見出しながら俺は夕御飯を再開するのであった。
「しまった……。食べかけの納豆を噴出した所為で、部屋中が臭い立っている!?」
しかし、先程の惨劇の所為ですぐに掃除をやるはめになったのだった……。
世界各国の反応・イギリス とあるお嬢様国家代表候補生とメイド
「お嬢様、先ほど入った情報によりますと新たな男性操縦者が発見されたそうです」
「分かってますわ、チェルシー。忌々しいことですが、どうやらそのようですわね」
イギリスの代表候補生である彼女は明日に控えたIS学園の入学式に備えて、飛行機に乗り日本へ向かっていた。
「最初に発見された男性は見た目からして若い男性のようでしたが、今度の男性は少なくとも二十歳前半の方のようです」
「そのようですわね。まぁ、私にとってはどうでもいいことですわ。男なんて皆同じで、汚らわしい存在なのですから」
彼女は自身の経験から男を見下す発言が多かった。このような考えになったのは理由があるため、強く口に出せないメイドは、IS学園に行くことによって主の心に変化が訪れることを期待していた。
「……そうですか。お嬢様の人生の糧になる体験がある事を、このチェルシー、イギリスの空から祈っております」
「もうすぐ日本ですわね、これからの三年間が有意義な物になるように私もがんばりますわ」
やがて飛行機は着陸体制に入り、イギリスの代表候補生を乗せた飛行機はどんどん機体を降下させていくのであった。
「……お母様、セシリアはオルコット家の党首としてがんばって生きていきます。だから、遠い空から私を見守っていてくださいまし」
小さな呟きは飛行機の音にかき消され、彼女、セシリア・オルコットの呟きは誰にも聞かれることは無く大空に溶けて雲の隙間に消えていった。
世界各国の反応・中国 とあるやんちゃな国家代表候補生
「ええっ!? もう一人の男性操縦者が見つかった!?」
中国のとあるIS訓練施設に、ある一人の元気な少女の驚きの声が響き渡った。
「あの一夏がIS動かした時だってかなりの反響があったのに……。クゥ~~! あの時さっさと入学試験に申し込んどけばよかったわ!」
「だから言ったではないか、凰 鈴音。あの時、素直に入学試験の申し込みをしておけとな……」
午後の訓練が終わり帰宅の途につこうとしていた中国代表候補生・凰 鈴音は、軍の広報特別対策室の受付で広報官に愚痴を言っていた。
「だって~、あの時は一夏がIS動かすなんて思わなかったんだもん……」
「まさに、後悔先に立たず、だな!」
悔しがる鈴音を尻目に、広報官の女性は豪快に笑い飛ばす。どうやら、日常的にこの光景が見られる様で、ほかの広報官や事務員も笑いながら自身に割り当てられた仕事をこなしている。
「ねぇ~、劉さん~。あたしも今からIS学園に編入できないかな~」
「あん? 今からかい。そうだね……まぁ、何とか出来ない事も無いけれど。その代わり、何処のクラスに配属されるかは運任せだよ。それでも良いかい?」
広報官の女性、劉 小燕《リュウ シャオイェン》はニタリと笑いながら鈴音に返答を求めた。返事は予想できているのか、完全に笑いながら聞いている。
「哎!?、
「じゃあ、少しの間だけ待ってるんだね。私が上に掛け合ってやるからな~、上手くいけば二週間位で編入できるだろう。準備しておきな、恋する乙女!」
織斑 一夏に対する恋心を代表候補生になる前に目の前の小柄な少女から聞かされていた小燕は、自国の上層部の思惑とは別に純粋に応援する気持ちで鈴音のために面倒な作業をかってでたのだった。
「いくら代表候補生だつったって、所詮はまだまだ子供なんだ。面倒なことはあたし達大人に任せて、お前さんは目いっぱい青春して来い。たとえそれが自分の思い描いた夢に届かなかったとしても、何もしないで後悔するよりゃよっぽど良いからな」
「はいっ!! ありがとね、劉さん!」
小燕の言葉に元気良く返事を返した鈴音は、早速IS学園の入学準備をするために喜び勇んで帰宅の途につくのであった。
「……はぁ~あ、行ったか。いくら可愛い鈴のためとはいえ、こりゃ今日から一週間は徹夜の大行進だな」
「お疲れ様です劉さん。作業、私達も手伝いますよ」
「すまないね~、あの子たってのお願いだ。すまないが皆、よろしく頼むよ!」
そろそろ、お肌の管理も難しくなってきた歳になたとはいえ、次代を担う子供のために広報室の職員が一致団結して仕事に励むのだった。
世界各国の反応・フランス デュノア社
「ふぅむ、もう一人の男性操縦者か。……よし、シャルロットを呼べ」
第二世代型量産IS製造世界第三位のデュノア社のビル一室で、イスに腰掛けながらテレビを見ていた壮年の男が室内にいる女性秘書にシャルロットと呼ばれる人物を連れて来るように指示した。
「はい、かしこまりました社長」
どうやら彼はこの会社の社長、アルフォンス・デュノアその人の様だ。
薄暗い室内で彼は顔を伏せながら秘書官が来るのを待っている。しかし、大企業のトップとしての顔とは裏腹に、良く見るとその顔には苦渋の表情が現れていた。
「失礼します、シャルロット様をお連れしました」
だが、そんな顔も女性秘書が戻ってくると元の威厳に満ちたポーカーフェイスに戻る。
「……来たか、入りなさい」
社長の声に促され室内に入ってきたのは、きれいな金髪が特徴ではあるがおよそ年頃の少女が浮かべるであろう感情が見られない一人の少女だった。
「シャルロット、お前はこれからIS学園に編入させることが決定した。なお、女としてではなく第三の男性操縦者として送り込むことが決まった。そして、首尾よく他の男性操縦者に近寄り専用機のデータを盗んで来るよう命ずる」
「っ!?…………はい、分かりました社長。必ず命令を遂行します」
社長の口から出た言葉に仮面の様な無表情が崩れ一瞬驚きと悲しみの表情を見せるが、シャルロットはすぐに元の鉄面皮の様な無表情に戻る。
「決定は伝えた後はコレを持って退室しなさい。変装用の装備品は後で渡す。……以上だ」
「……失礼しました」
女性秘書に連れられ部屋を後にするシャルロット。そして、彼女達が出て行った後一人室内に残ったアルフォンス社長は小さな声でポツリと呟いた。
「すまない、シャルロット。無力な父を許してくれ。……だが、全てをあいつらの思い通りにはさせん。必ず一矢報いてやる……!」
その呟きは誰にも聞かれること無く、ただっ広いオフィスの天井に上り消えていった。
世界各国の反応・ドイツ 特殊部隊・シュヴァルツェ・ハーゼ
「演習止め!!」
ドイツ郊外にある軍事施設のIS訓練場に、火薬の炸裂する音に紛れて少女の声が響いた。左目に眼帯をした若い少女達が一斉に訓練を止める。
「ボーデヴィッヒ体長、演習終了しました。ISを解除した後、訓練の後始末を行います。よろしいでしょうか」
「うむ、後始末が終わり次第各自休憩に入ってよし。では、始め!」
妙齢の女性が指示を確認し、部隊の少女達がボーデヴィッヒと呼ばれた幼さが大分残る少女の命令で動き出す。
「隊長、只今軍上層部からボーデヴィッヒ隊長に新たな命令が下されました」
「任務の内容はなんだ、クラリッサ大尉」
歳不相応な物言いで、部下であるクラリッサ大尉に任務の内容を確認するボーデヴィッヒ隊長。
「では、お伝えします。……IS学園に編入し男性操縦者のデータを取得せよ。手段は任せるが、あまり逸脱した行為は控えるように。以下の命令をシュヴァルツェ・ハーゼ隊長、ラウラ・ボーデヴィッヒ少佐に与える、だそうです」
「…………そうか、IS学園に。確か学園には織斑教官が赴任してらしたな。それに……あの男も入学すると聞いた。ちょうど良い機会だ、教官に挨拶するついでに私情も果たせる」
「…………? 隊長?」
後半は小さな声で喋ったのでクラリッサには聞こえていない様だった。ボソボソと喋るラウラに疑問を抱きながらも、とりあえず命令に対する返答を求めるクラリッサ。後に、ラウラが呟いていた事で大変な騒動が起こるのだが、この時のクラリッサは思いもしなかった。
「了解した、これから準備に取り掛かろうと思う。私がIS学園に向かった後は、クラリッサ大尉が部隊の指揮を執るように」
「ハッ! 了解しました」
世界各国の反応・日本 篠ノ之 箒
稀代の天才・篠ノ之 束の妹である篠ノ之 箒は、現在日本各地を転々としながらも明日に迫ったIS学園の入学式の準備をしていた。彼女はISの開発者である束の家族であることから、強制的にIS学園の入学が決まっていた。そしてこれは、彼女の安全のためでもあった。
「いよいよ明日……やっと一夏に会えるのか」
彼女は幼い日を一夏と共に過ごし、束によるIS騒動によって彼との日々を引き裂かれてしまったのであった。
「姉さんは今何処にいるのだろうか。連絡の一つも寄越さないで、こっちがどれほど心配しているのかも知らずに行方不明。……本当に困った姉だ」
だが、それにもかかわらず箒には姉に対する恨みは無い。……いや、むしろ心配していた。
なぜなら、束がISを作り出した理由を知っているから。
束が、自信の生まれた環境でずっと孤独感を味わっていたことを知っているから。
自身が知らない事を知りたいと、子供のような目で語ってくれた姉の姿を覚えているから。
だから、箒は好きな男の子と離れ離れになっても、幼い頃から今までけっして姉を恨まなかった。
「ふぅ、大体こんなものか」
入学の準備を終え一息つく箒。これから始まる新しい生活に思いをはせながら、箒は明日に備え早めに床につくことにした。
「……姉さん……はやく会えるといいな」
しかし、その願いは思わぬ形で叶えられることになるのを、箒は今はまだ知らない。
いかがだったでしょうか。
今回は様々な事情の大人達と少年少女達のお話でした。
この6話で序章は終了です。次からは、いよいよIS学園の本編が始まります。様々な思惑が飛び交う中で成長する子供達が描ければいいと思っています。
もちろんトウマ達もですが。
誤字脱字・感想などお待ちしております。