インフィニット・ストラトス~終焉の銀河の果てに~ 作:とっぷパン
第7話~初授業での騒動
IS学園・入学初日 一年一組
入学式が終わり、今年入学した一年生はそれぞれ所属するクラスでホームルームを開いていた。そしてそれは織斑 一夏が在籍するこの一組も同じなのだが、他のクラスとは違い異様な雰囲気に包まれていた。
「…………何なんだ、なぜ皆俺のことを無言で見てくるんだ」
この教室でただ一人の男子である一夏は、周りの女子達からの視線に辟易としていた。ほぼ全員が無言でこちらを見てくるのである。まさに、針のむしろとも言うべき視線の嵐に、辺りを見回すことも出来ずに一人自分の席で固まっていた。
「みなさ~ん、全員いますか?いない人は先生に報告してくださいね~」
教室に入ってきた女性教師の言葉に、一夏はこれ幸いにともう一人の男子生徒の所在を尋ねてみることにした。
「先生!」
「はい、織斑君」
「も、もう一人の男子生徒は何処のクラスにいるんですか?」
この質問に女性教師は、ああっそうでした、と思い出したように説明しだした。
「皆さんが気になっている男性操縦者の方は、今IS関連の手続きで遅くなっています。所属はこの一組ですから、後で挨拶してもらいます」
この答えに、ほっと息を吐く一夏。この状況でもう一人が別のクラスであったら、一夏は精神的に死んでいただろうと思った。
「それでは、SHRを始めたいと思います。私は、この一年一組の副担任を勤めます山田 真耶と言います。皆さん、一年間よろしくおねがいしますね」
「「「「………………」」」」
いよいよ始まったSHR。だが、真耶の自己紹介に反応する者は誰もおらず、視線は相変わらず一夏に集中している。
「よ、よろしくおねが……」
「「「「………………」」」」
「……うぅ、完全に無視ですか~」
そんな空気に、真耶はもう泣きそうだ。
しかしその時、教室のドアがノックされ一人の男性と三人の女性が入ってきた。
「山田先生、遅れてすまなかったな。今、手続きが終わったところだ」
「せんぱ~い、遅いですよ~」
教室に入ってきた女性の内の一人が、教卓でおろおろしている真耶に謝罪と共に話しかけた。そして、その女性を見て一夏が思わず席から立ち上がる。
「ち、千冬姉ぇー!? 何でここに居るんだ!!」
「うるさいぞ、馬鹿者。それについては後で説明してやるから、さっさと席につかんか」
そう、何を隠そう自身の姉である織斑 千冬だったのだ。IS学園で働いていることを知らされていなかった一夏にとっては、寝耳に水の話だった。
そしてもう一人、本来ここにいないはずの女性がまじっていた。
「ハロハロ~! 箒ちゃん、元気かな~? 束さんですよ~!」
「っ!? ね、姉さん!!」
なんともう一人の女性は、長い間行方不明になっていた天才・篠ノ之 束だったのだ。そして、がたっ、とイスを鳴らして立ち上がったのは、束の妹である篠ノ之 箒だった。
「えっ!? 束さんに箒まで居るのか!?」
「「「「「えぇーーっ!?」」」」」
自身が知る懐かしい人達が一気に現れた状況に、若干混乱しながらも再会できたことに喜びを表す一夏。
しかし、当事者である一夏達よりもクラスの女子達が一番困惑していた。
それもそのはず。ブリュンヒルデである織斑 千冬が自分達のクラスに来た事だけでも十分感激に値する出来事なのに、さらには長らく行方不明であったISの開発者・篠ノ之 束の登場である。クラスの女子達は、もうなにがなんだか分からない状況である。
だが、後二人の男女が残っている。男性の方はおおよその見当がつくが女性の方は何も分からなかった。
「静かにせんか貴様ら! これから遅れてきた者を紹介するんだ、さっさとそのやかましい口を閉じろ!!」
「「「「「…………」」」」」
千冬の怒声が教室に響き、そのあまりの迫力に一斉に口を閉じて黙る一組生徒達。もちろん、その中には千冬の弟である一夏や、千冬を良く知っている箒なども含まれていた。
「では、カノウ君の方から始めてくれ」
千冬から自己紹介を促された男女は、男性の方が苦笑いしながら、女性の方は微笑みながら、クラス全体を見回し自己紹介を始めた。
「俺の名前は、カノウ・トウマ。ニュースを見た人なら分かると思うが、織斑君に続く第二の男性操縦者だ。みんなよろしくな」
「「「「「キャーーーー!!」」」」」
トウマの自己紹介が終わると、クラス全体から悲鳴ともとれるような歓声が上がる。一夏や箒は慌てて耳をふさぐが、時すでに遅しでまともにくらっていた。
「し・ず・か・にせんか!! 他のクラスの迷惑だろうが、この馬鹿共が!!」
割と本気で千冬が怒声を上げる。
鬼のような表情と濃密なプレッシャーで、15才の少女達は一気にすくみ上がった。千冬は目を鋭くさせながら生徒達を見回し、一人残らず黙り込んだのを確認すると今度はもう一人の女性の方へ自己紹介を促した。
「……では次にトオミネさん、お願いします」
「はい、私の名前はトオミネ・ミナキと言います。整備関係の授業を副担任として受け持ちます、皆さん解らないことがあったら私や山田先生に聞いてくださいね」
優しげな微笑みと柔らかい口調で話すミナキに、先ほどまで千冬に怒鳴られていた生徒達が表情を和らげる。そして、さりげなく真耶のフォローを入れてくれたおかげで生徒達に真耶の存在を認識させることにも成功した。
真耶は生徒達からの視線に満足げな表情で笑っている。
「いろいろ聞きたいこともあるだろうが、質問の類は個人で休み時間などにしろ。分かったか貴様ら」
「「「「「「はい!!」」」」」
「……まったく、返事だけは一人前だな」
変わり身の早い生徒達に呆れながらため息をつく千冬。隣にいるトウマ達もこれには苦笑いしかでない。
「じゃ、じゃあ、これから改めて自己紹介を始めたいと思います。左の席の方から順番にお願いしますね」
とりあえず空気を変えるために改めて生徒の自己紹介を促す真耶。ほんとに苦労人体質なんだなと、トウマは思いながらも目の前にいる一夏に小声で話しかけることにした。
『よう、織斑君。これから男同士よろしくな』
『はい!カノウさんよろしくお願いします。いや~、カノウさんがいてくれて助かりましたよ。正直俺一人だったら精神的に死んでました』
そんな大げさな、と言いながらもさっきの騒動からそれもそうかと思い直す。確かにこの空間に三年間一人だけは辛いだろう。女の子は集団になると総じて姦しくなるもので、それはあのαナンバーズでも変わらなかった。
「おい、織斑。次はお前の番だ、何時までもカノウ君と話しているんじゃない」
「うえぃ!? は、はい、分かりました。……えーと、織斑一夏です」
一夏の番になり自己紹介を始めるが、名前から先に進むことができない。なぜなら、またあの視線が復活したからだ。トウマとの会話で何とか緊張をほぐすことに成功した一夏だったが、女子生徒の視線が復活したことでまた緊張し始めのだった。
「……え、えーと、以上です!!」
この言葉にクラスの女子は、ほぼ全員ずっこけた。トウマの隣でミナキがなんだか旧世紀のコント番組みたいですね、と笑っている。
トウマはがんばったな織斑君、君の勇士は忘れない、と心の中で呟いた。
千冬は、弟の失態に顔に手をあてて頭痛を堪えている様な仕草でため息を吐いた。
「自己紹介もまともに出来んのかお前は…………。まぁいい、次だ」
それからは全員終わるまで何事も無く進み、最後に教壇にいる束が自己紹介をすることになった。
「ハロハロ~、皆元気かな~? 私が、あのISの製作者、天才・篠ノ之 束さんですよ~。イェイ! ブイ! ブイ!」
その場でクルッと一回転して頭に両手を持っていき、斜めに腰を曲げながらウサギのポーズをとる。およそ大人の女性がする挨拶ではないが、束がすると妙に似合うそのポーズで生徒に挨拶をする。
「篠ノ之博士はしばらくの間ここで教鞭をとることになりました。皆さん、せっかく篠ノ之博士が学園に滞在していらっしゃるのですから知らないこと知りたいことはどんどん質問しましょうね」
束が元気に自己紹介をしたのを見て、ミナキが補足を加えるとともに生徒達に積極性を促す。
「「「「「はい!」」」」」
ミナキの言葉に生徒達も元気に返事を返し、一時間目のSHRは特に問題も起きることなく終わったのだった。
「これにて、SHRは終わりだ。諸君らにはこれからISの基礎知識を半月で覚えてもらう。その後実習だが、基本的な動作は半月の間で私達教師が叩き込む。なに心配するな、たとえ物覚えが遅い生徒でも必ず動けるくらいにはしてやるからな。わかったか? 分かったら必ず返事をするように! 以上!!」
IS学園・一年一組 休み時間
「カノウさん!」
休み時間になりまわりの女子生徒に質問攻めされていたトウマのもとに、女子生徒の波を掻き分け一夏がやってきた。彼も当然のごとく質問攻めに遭っていたのだが、どうやら強引に切り上げてきたらしい。一夏を質問攻めにしていた女子生徒が若干恨めしそうにこちらを見ていた。
「よう、織斑君さっきぶりだな。さっきは色々と大変だったみたいだけど大丈夫なのかい」
「いえいえ、カノウさんが来てくれたおかげでだいぶマシになってますよ」
「そりゃあ、よかった。一人だとこの状況はつらいもんな」
学園にたった二人しかいない男同士の会話で、一夏は先ほどと比べて若干元気を取り戻していた。
「カノウさんて、千冬姉とか束さんとだいぶ打ち解けてたみたいですけどいつ知り合ったんですか?」
一夏は、トウマと自身の姉や箒の姉である束が妙に親しいのを疑問に思い問いかけてみることにした。
若干視線が鋭くなっているような気がするのはトウマの気のせいだろうか。
「ああ、そのことなら簡単さ。たまたま外で仕事をしていた時に偶然ISに触れる機会があってね、その時居合わせたのが織斑先生だったんだ。それから、この学園に来て山田先生や篠ノ之博士と出会ってね。かなりお世話になったよ」
詳しい事はほとんどぼかして伝えるしかないが、後半はだいたい合っているので一夏の聞きたいことには答えることができただろう。
「そうだったんですか。俺も似た様なものだったんですけど、こっちはいきなりテレビで報道されちゃったんで、家の周りに記者とかがいっぱい来てまいっちゃいましたよ」
「そうか、お互い大変だったな」
第一の男性操縦者の苦難に、苦笑と同情の念を禁じ得ない。自分の時でさえかなりの反響があったらしいのだから、それが世界初ともなれば大変な目に遭っただろう。
それからしばらく二人で話していたが、ふいに周りを囲む女子の輪から一人の女子生徒が話しかけてきた。
「一夏、久しぶりだな」
「箒か、久しぶりだな。小学校以来か」
一夏に話しかけてきた女子生徒は篠ノ之 箒だった。先ほどの騒動でお互いの存在を確認できていたものの、自身も姉である束の事で質問攻めに遭い話しかけるのが遅くなってしまった。
「君が、篠ノ之博士の妹さんか。博士からよく聞いていたよ、自慢の妹がいるってね」
トウマがそう話しかけると、箒は顔を赤らめて嬉しそうにはにかんだ。天才である姉から褒められた事が嬉しさとなって顔に出たのだった。
「そうでしたか、姉に自慢されていたとは若干こそばゆい物がありますね。私としては無事に再会できたことが嬉しいです。長らく会っていませんでしたから……」
「良かったな箒、束さんとまた会えて」
箒の家庭事情がまったく分からなかった一夏にとって今の話も初耳だったらしく、箒の話に驚きを覚えたものの姉妹が再会できたことに嬉しそうだった。そして、それからはかつての幼馴染である二人での会話が中心となり、トウマは聞き役に徹していた。
偶然から始まったこの出会いだが、目の前で嬉しそうにはにかむ箒の姿を見て心を和ますトウマであった。
IS学園・一年一組 二時間目・基礎講座
「――――であるからして、ISの基本的な運用は現時点では国家の認証が必要であり、枠内を逸脱したIS運用をした場合は、刑法によって罰せられ――――」
教壇に立つ真耶はいつものように教科書を読む。そして、授業を理解できているか確認のために生徒の方をみた時、そこには周囲の女子をキョロキョロと見回す不信な動きの一夏がいた。
「…………」
「ん? 織斑君、何か解らない事でもありましたか?」
「あ、えっと……」
真耶は、どこか解らない所でもあったのか思い挙動不審な一夏に聞いてみることにした。すると一夏は教科書を見たり前を向いたりと、さらに挙動不審になった。
「解らない所があったら訊いてくださいね。何せ私は先生ですから」
真耶の言葉に安心したようにホッと息を吐く一夏。その様子に頼りにされていると思った真耶はえっへんとでもいいたそうに大きな胸をはる。
「先生!」
「はい、織斑君!」
「ほとんど全部解りません!」
しかし、その自信はほかならぬ一夏の所為で無残にも砕け散ったのだった。
「……ぜ、全部ですか……?」
予想外の出来事に、眼鏡がずり落ち表情も引きつってしまった。
「え、えっと……織斑君以外で、正直今の段階で解らないって言う人はどれくらいいますか?」
挙手を促す真耶。
シーンとするクラス内。一夏はトウマの席の方を見て彼が手を上げていないことに驚愕していた。
「……織斑、入学前に渡された参考書は読んだか?」
教室の後方で授業を観ていた千冬が眉間にしわを寄せながら一夏に聞いてきた。だんだんとプレッシャーが増してくるのは気のせいではないだろう。何故ならば、クラス内がトウマとミナキを除いて千冬のプレッシャーに怯えているのだから。
「……すみません、古い電話帳と間違えて捨てました」
パァンッ! という音が一夏の頭から聞こえ、気がつくと千冬の手にある出席棒が振りぬかれていた。一夏は机の上で悶絶している。
よほど痛かったようだ。
「必読と書いてあったろうが、馬鹿者が」
千冬は己の弟の馬鹿さ加減にため息をついている。これには、隣の席で話の行方を見守っていたトウマも呆れる他無かった。
どうやったら電話帳などと間違えるのだろうか、トウマにはまったく解らなかった。
「後で再発行してやるから一週間以内に覚えろ。いいな」
「い、いや、一週間であの厚さはちょっと……」
「やれと、言っているんだ。カノウ君は一週間で覚えたぞ、お前の方が歳が若いんだからこのぐらいで十分だ」
「え!? 本当ですか? …………分かりました、やります」
千冬によって衝撃の事実が一夏にもたらされ一瞬固まった様だが、自身の自業自得だと思い素直に頷いたのだった。
「ISはその機動性、攻撃力、制圧力と過去の兵器を遥かに凌ぐ性能を持っている。この様な『兵器』をよく解らないまま扱えば必ず事故が起きるものだ。そうならない為の基礎知識と訓練だ、理解できなくとも覚えろ、そして守れ。規則とはそういうものだ」
千冬の正論にクラスの女子生徒も頷く。トウマ達は身をもって知っているため、千冬の言葉に感心していた。
「まぁ、織斑先生、織斑君の勉強については私やトウマも手伝いますので。山田先生、授業を続けましょう」
「あ、はい、そうですね。織斑君、勉強のことでしたら私も手伝いますのでどんどん質問してくださいね」
ミナキに促され、とりあえず授業を再会することにした真耶。再び大きな胸をはり、フンスッと鼻息を漏らすのだった。
こうして、様々な衝撃事実が発覚した基礎講座は幕を下ろしたのだった。
いかがだったでしょうか。
今回は思いのほか時間がかかってしまいました。
次回は皆さんお待ちかねのあの人の登場です。おたのしみに!