インフィニット・ストラトス~終焉の銀河の果てに~   作:とっぷパン

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国家代表候補生のセシリアを見返すため、一夏の特訓が始まる。


第9話~特訓開始!

 IS学園・翌日 放課後・グラウンド

 

 

 

 

 「じゃあ、これから特訓に入る訳だが、その前に織斑君の身体能力が知りたい。そこで、軽く体力測定と組み手をしようと思う」

 

 「体力測定と組み手ですか。……なら、組み手の相手はカノウさんですか?」

 

 「いや、それは違う。今回は篠ノ之さんに組み手の相手をしてもらう。篠ノ之博士に聞いたところによると、実家の方で武術の道場をして居たそうじゃないか。それも剣道だけじゃなく、古流武術もやっていたとか」

 

 トウマが一夏の特訓引き受けた際に、箒の姉である束から姉妹の実家のことを聞いていた。束の話によれば、彼女達の家は代々神社の宮司を勤めている家系で、男なら宮司、女なら巫女になる一環の修行で健やかであり強靭な精神と肉体を作るために武術を体得するらしい。

 

 「束さんだって、一応巫女の修行は習得済みだよ~。だから、結構強いんです!ブイ!!」

 

 というのが、本人談である。

 

 「はい、確かに私の家系は代々武術を修める人が大半で、私も篠ノ之流の武術は習っています。それに、一夏も幼い頃の話ですが、家の道場の門下生でした。ちなみに、当時は私と一夏の実力は互角でした」

 

 箒の口から一夏も剣道をしていたことが語られ、懐かしそうに当時を思い出す一夏と箒。

 

 そして、一連の話から一夏がふと思い出したように呟いた。

 

 「そういえば稀にだけど、千冬姉と束さんが木刀と薙刀で打ち合っていたっけ」

 

 「うむ、あの姉さんも、千冬さんとの稽古の時は笑顔がまったく無かったからな。……むしろ、泣き顔だった」

 

 「はたから見ても、あのときの二人の打ち稽古は凄かったもんな。千冬姉が、楽しそうな顔で木刀を振るってる所なんてはじめて見たよ。……正直、メッチャ怖かった」

 

 当時の稽古風景を思い出し、背筋に冷たい物が走る感覚にぶるっと体を震わせる一夏と箒。二人の様子に、トウマは苦笑する事しか出来なかった。

 

 「まぁ、過去に何があったかはこの際措いておくとして。時間は限られているんだ。本題の特訓を始めようか、織斑君」

 

 「一夏!がんばって特訓して、セシリア・オルコットの鼻を明かしてやれ!!」

 

 「はい!よろしくお願いします、カノウさん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 IS学園・放課後 体力測定後

 

 

 

 

 

 

 

 「箒、俺はもうダメだ……」

 

 「しっかりしろ、一夏!これから組み手があるんだぞ!」

 

 体力測定が一通り終わり、グラウンドの木陰でぐったりと寝転がる一夏。その顔は疲労の色が濃く、身体は力を使い果たしたかのように動かない。

 

 箒が一夏を励ます中、トウマは一人今回の体力測定の結果を見ていた。

 

 ここで、一夏の名誉のために今回の体力測定の内容を説明しておこう。トウマが実施した体力テストは、一般の男子がするものとは訳が違った。

 

 まず一つ目は、握力・前屈・腹筋などの基本的な身体測定。

 

 これは、一般的な男子生徒よりは全ての分野で上回っていた。

 

 二つ目は、持久走・反復横とび・ハンドボール投げなどの体力・筋力の測定。

 

 この測定で、一夏は両手両足・腰周りに2キロと5キロの重りをつけて走ったり、投擲したりしたのだった。

 

 「…………織斑君。今回の体力測定の結果だが、正直な所一般的な学生となんら変わらない。こんなんじゃ代表候補生とは勝負にならないぞ」

 

 トウマからの辛辣でありながら現実的な言葉に、疲労が溜まった体をさらにぐったりとさせる一夏。

 

 「……もともと、体力的な問題は分かりきっていたことですよ。なんせ、剣道を辞めてから五年は経ちましたから」

 

 「だが、一夏。いくら私の実家が引っ越してしまって剣道を辞めてしまったからといっても、いささか体力が落ちすぎていないか。中学の頃は何をしていたんだ?」

 

 箒の疑問はもっともで、同じ門弟で実力が互角であった一夏が、高々一般男子並みに体力を落としている訳が分からなかった。

 そして、箒の疑問に罰が悪そうな顔をしながら一夏は答えた。

 

 「……いや、実は、中学じゃあ何も部活をしてなかったんだ。家系の足しにしようと始めたバイトが忙しくてな、運動部とか時間を長く拘束される部活には入らなかったんだ」

 

 「そうか、お前の家は千冬さんしか……。すまない、一夏。不躾な質問だったな、許してくれ」

 

 中々に複雑な家庭事情が絡んでいる事が分かり、自身の非を詫びる箒。その沈んだ顔に対して一夏は、気にするなと言い返し笑ってみせる。

 織斑家にはいろんな事情があるようだった。

 

 しかし、今は過去の話をしている場合ではない。一週間後にはクラス代表決定戦があるのだから、ゆっくりしている暇一夏にはない。

 休憩を挟んだ事でだいぶ体力が回復してきたようで、よし!と気合を入れて立ち上がる。

 

 「さてと、そろそろ箒との組み手をやろうか。場所は何処でやるんですか、カノウさん」

 

 「ああ、剣道場の方を山田先生が取ってくれている。二人とも動きやすい格好に着替えて、格闘組み手と竹刀を使った打ち合い稽古をするぞ」

 

 「「はい!」」

 

 

 

 

 

 

 IS学園・剣道場 

 

 

 

 

 

 

 「二人とも準備はいいか?これから、格闘組み手の三本勝負を行う。ルールは目潰し・金的は無しで、その他死に繋がる様な危険な技の使用も禁止だ」

 

 剣道場にて、たくさんのギャラリーに囲まれながら相対しあう一夏と箒。 二人の間にはピリピリとした勝負事特有の雰囲気が漂い、周りを囲む女子生徒も静かに見守っている。

 

 「……一夏、手加減はしないからな。かなり、戦闘感覚が鈍っているだろうから一刻も早く、感覚だけでも戻すようにするんだぞ」

 

 「勘弁してくれよって言いたいけど、自分でやり始めたことだからな。本気で来てくれ、箒」

 

 静かに緊張を高める二人。審判を勤めるトウマは、二人の様子を見ながら静かに手を上げた。

 

 「……では、始め!」

 

 「「御願いします!!」」

 

 トウマの合図に、互いに礼をして構えを取る一夏と箒。

 

 初手は一夏の方からだった。

 

 「せいっ!」

 

 ダンッ!っと音がするくらいに床を蹴り、鋭い右正拳突きを箒の胸元めがけて放つ一夏。気合とともに打ち出された拳は、踏み込みの勢いに乗って加速して迫る。

 

 「…………」

 

 しかし、箒はその場から動かずにジッと一夏の正拳突きを見極めている。そして、一夏の拳がその身に届く一寸前に、身を半身から真半身に変え滑らせるように突きをかわす箒。

 

 「ふん!」

 

 今度はかわした拳を両手で掴み、投げを打つ姿勢に持っていこうと一夏の腕を内側に捻る。捻ったと同時に足払いを仕掛けようとするが、一夏が箒の投げに逆らわずに身を投げ出しその場で一回移転しかわす。

 

 「何だ、意外とやるではないか一夏!まるで、映画のようなかわし方だな」

 

 「うっせぃ!こっちはこれが精一杯だっての!」

 

 ブランクがあるようには思えない動きに、場内のギャラリーから歓声が沸く。しかし、その中でトウマは一人静かに一夏の動きを見ていた。

 

 再び両者の組み打ちが始まる。箒が一歩分前に踏み込み、一夏に軽く拳を当てる。そして、ゼロ距離からの打ち込み、中国拳法の寸勁の様な打撃を放った。

 

 「やばっ!?」

 

 「遅い!!」

 

 箒の拳が一夏の腹に突き刺さり、体をくの字に曲げて吹き飛ぶ。

 

 「ぐはっ!?」

 

 2mほど床を転がり大の字になって床に倒れる一夏が起き上がれないことを確認したトウマは、戦闘不能とみなし手を上げて試合を止めた。

 

 「一本!篠ノ之箒!」

 

 場内に歓声が沸き起こる。

 

 見事な一撃を決めた箒は、一夏の方へ駆け寄り怪我ないかどうか確認している。

 

 「立てそうか一夏?」

 

 「ああ、久々に良いの貰ったよ箒。ずいぶんと腕を上げたんだなっと」

 

 怪我無いことを確認した箒が、一夏に手を差し伸べ立ち上がらせる。思ったよりもダメージが無いことにホッと息を吐く箒。

 

 「あれから何年経ったと思っているんだ。いつまでも昔のままの私だと思ったら一本も取れないぞ、一夏」

 

 「それもそうだな。五年前とは違って、お互い成長してるもんな」

 

 「……頭の良さはあまり成長していないようだがな。それと、鈍感な所――」

 

 「篠ノ之さん、そろそろいいかな?」

 

 箒が一夏のダメだしを始めようとした時、審判をしていたトウマから声がかかった。

 

 「織斑君、篠ノ之さん。さっきは三本勝負と言ったけれども、今の勝負で大体は実力がつかめたから今日は終わりにしようか」

 

 「そうですか。俺の方に異論は特に無いです」

 

 「それで、一夏はどの様に鍛えればいいでしょうか。体力的には大丈夫みたいですけど、勝負の勘はかなり錆び付いてますから」

 

 箒が組み打ちをしてみて感じたことは、まず反応が遅いことだった。だが、これは決して反射的な物ではない。勝負事を経験したことのある人なら分かると思うが、この動きをしたら相手はこうくるな、という感覚的なものの話である。これを突き詰めていけば、勝負事では優位にたつ事ができるようになるのだ。

 

 そして、その事は勿論トウマも見抜いており、それを踏まえて一夏の特訓内容を考えていた。

 

 「織斑君。君は、反射神経は中々良いものを持っているようだった。しかし、勝負事で大事な感の目はまだまだの様だ。そこでだ……」

 

 「「「「…………」」」」

 

 いつに間にやら集まってきたギャラリーや、一夏と箒が息をのんでトウマからの言葉を待つ姿に、思わず苦笑がこぼれてしまう。

 

 「今日から四日間両手足と腰周りに重りを着けて過ごした他に、毎朝のランニングとストレッチ、それに放課後は篠ノ之さんとの組み打ち組み手。最後の一日はしっかり休むといった特訓をするしかないと思う。なお、くれぐれも無茶だけはしないように。……約束だぞ」

 

 「分かりました、カノウさん。体に異常が出たら、すぐに知らせることにしますよ」

 

 「私も付き合うぞ、一夏!」

 

 トウマから言い渡された過酷な特訓に、気合を入れて取り組む姿勢を見せる一夏。箒も、一夏をサポートするために気合を入れて宣言する。周りのギャラリーは、二人の気合に便乗して一緒に盛り上がっている。

 

 その中で静かにトウマは笑っていた。生徒達を包む暖かい雰囲気にαナンバーズの仲間達を思い出し、トウマは一人物思いにふけるのであった。

 

 

 

 「…………そういえば、ISの訓練自体はしなくていいのか?」

 

 「「「「あ!!」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 IS学園・夕食後 トウマの私室

 

 

 

 

 

 

 「それで、一夏の方はどうなんだトウマ君」

 

 トウマが作った夕食を食べた千冬、真耶、束、ミナキ達は、現在トウマに割り当てられた私室で今日の報告をし合っていた。それぞれがイスやソファーに腰掛け、食後と言うこともあり部屋全体に穏やかな雰囲気が漂う中、トウマに自身の弟の実力を尋ねる。

 

 「今日は箒のやつと組み手をしたそうじゃないか、君から見て一夏はどの程度の実力だった?」

 

 「束さんも知りたいかな~。箒ちゃんはどのくらい成長してたのかな~?」

 

 千冬の質問に束も乗っかり、二人の姉達からの問いかけに変わる。

 

 「私も知りたいです、カノウさん」

 

 「私もぜひ知りたいですね、トウマ」

 

 さらに、真耶とミナキも加わり四人から迫られるトウマ。

 

 「ん~。今日見た感じだと、二人ともいいモノを持ってたな」

 

 「ほう、トウマ君から見てもそう思うか……なんだかこそばゆいな」

 

 「ほほう! トッチーからそう言って貰えるとは、箒ちゃんも中々やりますな~。束さんも嬉しいよ!」

 

 トウマからの意外な感想に、頬を緩めて思わず笑顔になる千冬と束。普段なんだかんだ言っていても、家族である弟や妹が褒められるのは嬉しいようだ。

 

 「一夏君は知識の面では他の生徒さん達に遅れていましたが、カノウさんからそう言ってもらえると私も副担任として安心できますね」

 

 真耶は、クラス内でも浮いた存在である一夏に光る物があったことで、今後の学園生活が良い方向に向かいそうな事に喜んでいる。

 

 「でもそれだけじゃないんでしょ? トウマ、貴方にしては表現が曖昧ですよ」

 

 しかし、ミナキは他の三人とは意見が違うようで、トウマの少し言葉を濁した物言いに気づいて問いかけてきた。

 

 千冬達はよく分かっていないようで、頭に?を浮かべてトウマを見つめた。

 

 「やっぱりミナキには隠せなかったか……」

 

 「どういうことなんだ、トウマ君」

 

 ミナキが感じた違和感に、苦笑いをしながらため息を吐きそう呟くトウマ。先の感想に偽りがあったのかと不安になった千冬は、眉尻を下げて若干不安そうな顔でトウマに問いただした。

 

 「いや、さっきの言葉は本当の事だよ織斑さん。……ただ、素質はあるんだけど、まだ対人戦闘の経験が足りなさ過ぎて素人の域から抜け出せてないんだ」

 

 「たしかに、な。一夏は剣道を辞めてからバイトに精を出していたからな、体や感覚が鈍るのも仕方がないか」

 

 「ふみゅ~、いっくんも大分実力が落ちてたのか~残念だよ」

 

 トウマの口から語られた理由に納得し、その原因も心当たりがあり肩を落とす千冬。束も残念そうにため息を吐いた。

 

 「とりあえずの荒療治で、体に負荷を掛けて日常を過ごさせておいて。そのうえで篠ノ之さんとの組み打ち組み手を毎日させることで、基礎体力の増強と勝負事の勘の目を少しでも養う事に専念させようと思ってるよ」

 

 「……そうか、今の一夏には辛い特訓だろうがそれしか方法がないようだな。君に任せたんだ、期待しておくとしよう」

 

 一般の男子生徒がする特訓にしては過酷な内容に、辛そうな顔をしながらもトウマに期待を寄せる千冬。

 

 「一夏君ならきっと大丈夫ですよ先輩」

 

 「そうですよ、千冬さん。弟君を信じて見守りましょう」

 

 ぎこちないながらも笑顔で話す千冬に、真耶やミナキから暖かな視線と言葉がかけられたのだった。

 

 

 

 

 

 クラス代表決定戦まで、あと六日。一夏と箒、そしてトウマ達大人の奮闘が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 「ところで、夜食にどうかなと思ってプリンを作ってあるんだが――――」

 

 「「「「はい、食べます!!」」」」

 

 先ほどまでの暖かな雰囲気は何処に逝ったのか、今日も食いしん坊な女性達なのであった。

 

 「……食べすぎには注意してくれよ、四人とも。太るからな」

 

 「「「「ぐっ!?それは言わない約束でお願いします!!」」」」

 

 

 




 いかがだったでしょうか。

 今回は特訓開始のお話でした。

 一夏に足りないのは経験と知識と言う事で、今回は経験を積ませようとするトウマなのでした。

 誤字脱字・感想などお待ちしております。
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