0.にこあん劇場開幕
音ノ木坂学院のホームページ
カウンターの数が今日も多くのアクセスを刻んでいる
特設掲示板では多くの交流と多少のいざこざがあるものの、そこはまるで学び舎のような存在
今日もまた新しい新入生がその産声を上げた
『宮音坂学院:LOVe PeACe』
本文はメンバー紹介とスクールアイドルとして初めての挨拶
母校のHPのアドレスが張られていた
スクールアイドルを始める時に音ノ木坂学院BBSに書き込む
いつの間にか恒例行事となったお約束
ラブライブに出れますようにという願掛け
先生に紹介された後、手を上げて質問をする生徒達のように質問を投げかけられている
興味を持たれて嬉しいような、でも少し恥ずかしいような不思議な感覚を覚えることだろう
いずれは緊張感すら楽しめるスクールアイドルになれることを祈り、更なる質問を書き込む
スクールアイドルとスクールアイドルファンの微笑ましいやり取り
ここは少子化により生徒数の減少で廃校になった学院のホームページ
それでもホームページが今も残っているのはスクールアイドルファンの願いを叶えた結果
中高生を中心に大人気のスクールアイドルの発案者
スクールアイドルの祭典・ラブライブの創設者
これから語られるのはそんな偉大な人物達の学生時代のほんの一幕――――
「スクールアイドル?」
生徒会長が矢澤にこの提出した部活申請の申し込み用紙を見ながら尋ねる。
人生で初めて訪れた生徒会室。返事を返そうとしたが、緊張から喉がカラカラで声が出なかった。にこが返事をしない代わりに生徒会長の隣に座る眼鏡を掛けた少女が答える。
「スクールアイドルという単語はヒットしません」
眼鏡の少女・副会長の鈴を転がしたような綺麗な声。若干自分の声にコンプレックスのあるにこは羨ましいなと場違いの感想を抱く。
が、レンズ越しに説明を求める眼を見て冷静さを取り戻した。小さく呼吸を繰り返して緊張を緩める。落ち着いたのを確認してから会長が質問する。
「ということらしいけど、スクールアイドルとはどういったものなのかしら?」
この質問の答えをパパとママに協力してもらって何度も練習してきた。
「スクールアイドルとはですね……」
音ノ木坂学院で面接した時はすらすらと出た言葉が、今は頭が働かずにまるで出てこない。向かい合っている生徒会長の机には幾つかのプリントが置かれていて、作業を中断している事が伺える。
早く説明しないと迷惑が掛かるという事実が、より思考を鈍らせて言葉を途切れさせた。そんな新入生の姿を見て会長が表情を緩め、優しい声色を意識して話す。
「オトノキって今年を含めて後四年で長い歴史に幕を下ろすでしょ? だからね、今年はもう誰も部活の申請にこないと予想してたのよ」
キョトンとした表情で会長を見つめる。
「運動部以外でやる気があるのはロボット部くらいなのよ。学院自体がなくなるから仕方ないことなのだけど」
「やる気はあってもロボット部は今年も書類審査で落ちましたが」
「私は結果より過程を評価するわ。特にこんな状況下でも腐らずにいられるなんて最高じゃない」
「学院側としては結果を残して欲しいものですけどね。すいません、話がそれてしまいましたね。うちの会長は自由人な面があるので」
明らかににこの緊張を察してのことと知りながら毒を吐く副会長。いつものことなのか気にせず会長は笑顔のまま。そんなやり取りを見て今度こそ落ち着いたのでスクールアイドルの概要を説明した。
「――なるほど。部活で行う擬似アイドル活動ということね」
「世間はアイドルブームですので逆に部活でするというのは難しいのではないでしょうか?」
「私は面白い発想だと思うけど」
「音ノ木坂学院の近くにUTX高校がなければまだ可能性があったかもしれませんが」
小学六年生の時にできたのがUTX高校。秋葉のど真ん中に建設され、見た目がビルを模したお洒落な学校。芸能コースの映像を流す為に作られたUTXビジョン。これが今や秋葉の代名詞の一つとなっている。
入るつもりはなくても記念にパンフレットを貰って何度も見返した。制服のデザインが凄く素敵で一度でいいから袖を通してみたいと強く思った。否、今でもそう思っていたりする。
「でもあちらはプロを目指してる子達でしょ? 関係ないと思うけど」
「優れている人間はどこかに歪みがあるものですから」
この言葉を体現する存在と邂逅することになるのだけど、其れはまだ少しだけ未来。
「人の努力を嘲笑うくらい平気でするでしょう。アイドルを目指すくらいですし」
「零ちゃんは前世でアイドルに一族を皆殺しにでもされたの?」
零ちゃんこと副会長の零華(れいか)。眼鏡の位置を正しながら首を横に振った。
「UTX高校の生徒に制服を嘲笑された夢をみたことがあります」
「何その私怨。しかも夢での出来事って……風評被害ってこういうのから始まるのかもしれないわね」
「音ノ木坂学院が廃校になるのもUTX高校が大きな原因でもありますから」
「気持ちは分からないでもないけど。時間の問題でしかなかったでしょ? 二、三年前後したところでどうにかなったとは思えないわ」
零華は反論出来ずに口を閉ざした。
「それで矢澤さんスクールアイドル同好会の立ち上げの件なのだけど」
「は、はい」
「私と零ちゃんが名前を貸すから部として受理してもいいわよ。廃校が決まる前までは部になるには五人が必要だったけど今は三人で大丈夫だから」
意外過ぎる言葉はにこをフリーズさせる。
「勝手に人の名前まで貸さないで欲しいのですが」
「去年廃部になったコンピューター部だった部室を使えばネットに繋いだPCをそのまま使えるし」
「誰も使わないで終わるよりはいいかもしれませんね。それなら私も名前を貸すのに文句はありません」
コンピューター部最後の部員であった零華も同意する。後はにこが同好会のままを望むのか部として活動する意思があるのかの問題。
『チャレンジした人間にのみチャンスは訪れる』
そんな言葉を思い出しながら両手を強く握り締めながら、
「部活としてスクールアイドルを広めていきたいです!」
日本発祥のスクールアイドルが元気な産声を上げた。
「じゃあ書類の方は私達が書いて先生に受理してもらうわね。部室として使えるのは三日くらい後になると思うからそのつもりで。部室の場所は零ちゃんが後で案内してくれるから」
「会長は承諾なしで勝手に決める癖を改めてください」
「私の悪い癖ね。そのついでにオトノキのHPにスクールアイドルの欄を追加してあげてね。独立したサイトを立ち上げるよりはカウンター回るだろうし」
ぺろりと舌を出してわざと子供っぽい仕草をする会長に零華は眉を顰める。
「……どんなついでですか。一応部員ということで力を貸しますが、その分生徒会の仕事は会長にお願いしますからね」
「本来忙しくなる時期なのにこうして閑散としてるんだもの。一人でも充分よ」
「どうしてそんなに優しくしてくれるんですか?」
あまりにも好意的過ぎて思わず口から零れていた。
「先輩が後輩に手を貸すなんて当然のことよ。私達は生徒会長と副会長だしね」
「個人的な意見ですがこのスクールアイドルがアイドルより広まったりしたら面白そうですから」
口元を少し緩めて本日初めて年相応の表情を浮かべる零華。
「やっぱり前世で一族をアイドルに――」
「――滑ったネタを二度も使わないでください。ウザいです」
「あははっ」
完全に緊張も解けてにこは笑った。零華と違って小学生にも見える幼い笑顔。
親切な先輩達に支えられ、矢澤にこのスクールアイドル活動は始まっていく……。