矢澤にこ自身がラブライブ   作:にこあん

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13.学校偶像の星

「ということで、これが私の圧倒的閃きよ!」

「……え、アッと驚くひらめき?」

 自信満々で昨夜に閃いた策略を披露したのだが、にこの反応は斜め上を行くボケで返された。意味合いは合っているけど、そうじゃない。一方のあんじゅはというと。

「にこさんにこさん。命を賭してでも張った伏線を回収するなんて素晴らしい話だったわね」

「私は少し泣きそうだったけど」

 観てきた映画の感想をにこに語っていた。ツバサ渾身の策略は余りにも無残な結果。これならまだ否定された方がマシだったというくらい。だが何もにこが悪いという訳ではない。感動する映画を観た直後の喫茶店で、いくら凄い案を出そうと余韻の方が影響力が高い。

 昨日のベターマンとは心に残る度合いが違っているのだ。この齟齬を生んでしまっている原因は、ツバサが映画の最中に寝ては起きるの繰り返しで内容を全く覚えていないから。寝不足の原因が策略で、その寝不足のせいで策略が不発。余りにも無残。圧倒的悲劇・・・っ!

「うふふ。にこさんが泣きたい時は私の胸で抱きしめてあげるから、いつでも言ってね」

 それ以外に大きな原因が一つ。あんじゅを怒らせた。前日のデートの邪魔からの名前呼び。そして、二日連続のデートの邪魔。地獄通信に名前を書き込んでも尚、その怒気は留まらず、燃え上がる姿は鬼神の如く。あんじゅは今日ツバサと一言も交わしていない。

 対策係が思わず見本にしたくなるくらい自然な無視。普段なら軽口でつっこむが今回ばかりは声に誠意を乗せての謝罪しか選択肢がない。何故なら、ツバサにとって策略は何よりも重い。

「あんじゅさん。ごめんなさい……本気で反省してるから許して」

「ハァ!? 本気で謝罪してるなら北海道の某所に行ってきなさい。人の恋路を邪魔する愚者は鰐に食べられ事故責任」

 言葉に炎が宿るとしたら、太陽の熱に焼かれて蝋の翼が溶けるように、綺羅ツバサの人生が終わりを告げていただろう。

「そうだ、綺羅星さん。最近変なマスクを被った通り魔が出没してるみたいだから、帰り道とか気をつけることね」

「その通り魔は携帯電話に殺人の日記でもつけているの!? 無闇に死亡フラグを押し付けないで」

 あんじゅの無視は終わったが敵意による重圧が凄い。それから綺羅星というあだ名はダサいから呼ばれたくないが、大花火に引火するのでその件には触れない。

「もう一度説明するからにこさんも聞いて。私が考えた圧倒的策を――」

 自らの歴史を語るかのように細かく策略のプランを説明する。にこも一度ぽんやりとしていたこともあり、しっかりと聞いてくれている。が、あんじゅがケーキを差し出してきたりするので、それはきちんと食べていた。

 あんじゅは聞いているのか聞いていないのか分からないが、二度もツバサの顔を見たので聞いているのは確かな筈。祈るように、願うように、一言を大事にしながら長い説明を終えた。

「昨日のは邪道。でも今日の策は絶対的正道だと思うんだけど……どうかしら?」

 自信はある。でも、恐怖は拭えない。特にあんじゅからは理不尽な猛反対がくるかもしれない。にこの考える正道とは違うかもしれない。緊張の余り心臓の音が聞こえる。

「統堂英玲奈さんの勧誘」

 学生でありながらプロの仕事をこなすUTX特待生のモデル。正直に言って勧誘すること自体が無謀だと思った。ある意味で失礼になるし、特待生の権利を剥奪されてまでスクールアイドルという未知な部活動に励む意味がない。

 金銭的な意味だけでも、仕事がなくなることでプラスがなくなり、特待生がなくなった分普通の学生と同じだけの金額が掛かることになる。大きなマイナスが生まれる。こちらから提示できる物に金銭的メリットは皆無。

 スクールアイドルになっても今のファンがついてくるかも分からない。モデルとして凛々しい姿を望んでいるかもしれない。歌や踊りをする姿には魅力を感じなくなるかもしれない。それは今まで築き上げた統堂英玲奈の全てを失う可能性がある。

 何よりもそこに到達して尚、学校側にスクールアイドルを廃止される恐れが高いという。昨日提示された抜け道のような案の方がまだ現実味のある提案。冬場の池に薄っすらと張った氷の上を歩いて渡るくらいに危険過ぎる。

 子供が描く夢物語よりは現実的で、でも現実に近いからこそ無理だと悟ってしまう。こんな無謀な案が叶う筈がない。理性が止めるべきだとハッキリと答えを示している。一年目の春。部を結成して一月も経たずに渡ろうとするような橋ではない。

 目の前にあるのは頑丈な石橋ではなく崩壊寸前の桟橋。凄腕ハンターさんでもなければ渡ることは不可能。そして、矢澤にこは一度同じような橋を見たことがあった。其れはアイドルになるという夢を諦めた時。

「ツバサさん」

 絞り出すようにか細い声でにこはツバサの名前を呼んだ。後に出てくる言葉は何か。無理。無謀。不可能。絵空事。ツバサの瞳が揺れる。

「……」

 それを見てにこは続く言葉を飲み込んだ。自分が諦めて尚足掻いたのに、一生懸命考えてきてくれたものを否定する権利が自分にあるのか。昨日の涙も、今日の案も、ツバサの真剣な想い。同じ夢を志す仲間と言ってくれているのに、一刀両断してしまっていいのか。

「マリーアントワネットの我侭でこんな言い伝えがあるの。兵士達にこう言ったそうよ『夜空に浮かんでいる星を手に入れて持ってきなさい』ってね。かぐや姫のような無理難題。勿論、その我侭が叶うことはなかった」

 にこの代わりを務めるように、あんじゅが言葉を紡いだ。暗に諦めろという事。ツバサは其れを悟り小さな溜息を漏らした。一晩練った策略だったけど、仲間に否定されては諦める他ない。今度はしっかりと受け入れた。

「マリーアントワネットの処刑前、牢獄で過ごす家族との団欒は夜空の星を手に入れるよりも大切な物だったんじゃないかしら? 少なくとも私はそう思うわ」

 受け入れたのだが、続いた言葉に首をもたげた。励ましてくれたのか、それとも次はもっと良い策を考えろという助言なのか。

「つまりツバサさんはギロチンで首を落とされろということよ。それを見ながらケーキを食べればいいじゃない。人の恋路を邪魔した者の末路ね」

「なんでそんなオチなのよ! 麦がなければケーキをって言葉はマリーは言ってないでしょ!」

 ただ回りくどく自分を貶めるだけだった。これにはマリーアントワネットも草葉で泣いている。だけど、このやり取りが本当に意味がなかったかというとそうではない。

「兵士の人は夜空の星を手にできなかったのかもしれないけど、私達は手に入れてみよう。モデル界の一番星を。一人では無理でも、三人ならやれる……かもしれないし」

 あの日諦めてしまった夢。でも、今は一人じゃない。三人なら無謀なことも可能なことに変えられる。終わりを恐れて可能性を廃棄するくらいなら、誰かを巻き込む資格なんてない。既に走り出しているのだから、無理だって明るく笑って通過するくらいであるべきだ。

「良いわね、モデル界の一番星。どうせだからこっちの星と交換してもらいましょう。あ、要らないって言われるのは確実ね。一等星を五等星と交換する人はいないわ」

「誰が五等星よ! せめて肉眼でも見れる可能性がある四等星にしてよ!」

「北海道の某所のデンジャラスゾーンで鰐の餌になったら、死んで四等星になったんだって思ってあげるわ」

「その某所って何なのよ。伏せなきゃいけないなら言わないでって、デンジャラスゾーン? 鰐に食べられ自己責任。ううん、事故責任ってあそこのことね!」

 北海道にある自己責任であることを署名することで入ることが出来る危険の孕んだ動物園。ツバサは以前旅番組で見たのを思い出した。デンジャラスゾーンの最後は木製の落ちる可能性が充分にある橋を渡るという。下には放し飼いの鰐の群れ。当然落ちて死んでも自己責任。

「その頃私とにこさんは百万ドルの夜景を見ながら……うふふ。ロマンチックだわ」

 むぎゅっとにこを抱き寄せながら愛を注入。ほんの少し前までのシリアスは消えていた。不安が消えた訳じゃないけど、其れを忘れる程の希望が沸いている。だからもう何も怖くない。

「スクールアイドルを広めて、このメンバーと奇跡の統堂の四人で卒業旅行に行きたいわね」

「あ、私はにこさんと二人で行くからごめんなさい。それ以前にその頃のツバサさんはトラックに跳ねられて入院してるでしょ? ヒトデを庇ったとかで」

「事故にあってないわよ。というか、犬とか猫とかならまだしもヒトデって何よ」

「綺羅星の前世こそがヒトデだからって事故の後に語ってくれたわね」

 あたかも同窓会であんなことあったね、って話すようにありもしない未来を語るあんじゅ。一瞬そんなことになるかもと思ったくらいの雰囲気を作り出す。

「卒業旅行かぁ」

 その頃の自分はもう少し背が伸びているだろうか? スクールアイドルを多くの年下の子達が奮闘しているだろうか? 待ち受けるのは栄光か破滅か。今回のツバサの案を受け入れたということはそういうこと。笑顔で卒業旅行に行くには全てを上手くいかせるしかない。

「未来の話もいいけど、今を疎かにしちゃ駄目よね。GW明けから一気に動いていけるように、策略成功に向けて精度を上げる話し合いをしましょう」

「生徒会長は簡単よ。ツバサさんが三日間動かずに生徒会で土下座し続ければ相手も折れるわ」

「せめて人としての尊厳を無視しない案を出して欲しいんだけど」

「UTXの会長さんとなると私はどうすればいいかな?」

「にこさんは私に愛を注いでくれてればいいの。それだけで私は幸せになれるから」

 頬ずりしながら感無量の笑顔であんじゅが述べる。今回は完全にUTXサイドとなるから、相棒は必然的にあんじゅとなる。そんな相棒がこれでは策略も不発で終わりそう。尤も、にこの居ない場では普通に会話が成立するので大丈夫だとは思うが……不安は圧倒的に残る。

「愛云々は置いておいても、にこさんには奇跡の統堂を勧誘する時の台詞を考えて欲しいの。適材適所。それに、一番重要なのはそこだったりするからね」

「勧誘の台詞。でも、なんて言えばモデルからスクールアイドルを選んでくれるんだろう?」

 にこは先ほども考えたことを思い出す。メリットが一つもないというのは期待度0%と同意。人にとってどうでもいいと思われても、本人にとっては譲れない物というのがある。其れを提示できれば承諾も得られるかもしれない。

 だけど、本人と話したこともないのに分かる訳もない。そもそも其れがあるとも限らない。責任重大なのに突破口が見えない。にこの小さな両肩にずっしりと重みが乗せられた。

「大丈夫よ、にこさん」

 体に力が入ったことで察したあんじゅが優しく囁く。

「にこさんはシンデレラでいうところの魔法使い『ぴぴるれにゃ~ん』って魔法を掛ければイチコロよ。あ、でも私以外に恋の魔法を掛けたら駄目よ?」

「くすっ」

 にこのうろ覚えの魔法使いの呪文とあんじゅの呪文がかすりもしなかった。重く背負い込みそうだったのを諭され、気が楽になった。思いつめて考えた台詞は硬くなり過ぎて、上辺だけの軽い物に聞こえてしまう。

 短くても、稚拙でも、心に響く本心を相手に伝えるべきだ。失敗するかしないかなんて相手次第なのだから、無駄に考えて思考の迷宮に入り込んでも仕方がない。

「だったら私達は舞踏会に出る為にもガラスの剣を鍛えて生徒会長を一刀両断といかないとね」

「ガラスの剣? 何を言ってるのかしら。綺羅星さんは童話も知らないくらいのお馬鹿さんみたいね」

「ぴぴるれにゃ~んって言ったらそっちでしょ! 名前呼びより綺羅星呼びの方が多いのは何故かしら!?」

 ツバサの元気なツッコミが場に響く。往く道は険しく、上手くいく可能性は極端に低い。でも、三人の顔に陰りは一切ない。笑顔で無駄に脱線しながら、モデル界の一等星奪取に向けて計画を練る。それは人にスクールアイドルを勧める為の練習にも繋がる。

 改めて自分達が広めようとしているスクールアイドルの良さ。そこにしかないかけがえのない物。どうすれば相手に伝わるのか。相手が望みそうなことは何なのか。学校側を黙らせるくらいの何かをどう表現するか。

 作詞同様に足踏みしながら、だけどGW明けまでという期限を設けて一気集中で進める。後に語られるスクールアイドルの奇跡。世間の注目を一同に集める始まりの刻。歴史が今ゆっくりと動き出す……。




私達は上り始めたわ
一人では挑むことも厳しい
この長く険しい圧倒的策略坂を! 未完


って、まだもうちょっとだけ続くってやつよ! にこあんラッシュ継続
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