矢澤にこ自身がラブライブ   作:にこあん

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14.スクールアイドル(仮)~百合学園メモリアル~

 ついにあんじゅが心待ちにしていた日がやってきた。朝から肌も艶々で髪の毛も櫛で梳かす前からサラサラ。絶好調というに相応しい万全の体調。前日はにこと出逢ってから初めて一日も逢えないというこの世の終わりのような絶望が在った。

 でも、夜ににこが電話を掛けてきてくれたので少しだけ寂しさが紛れた。電話が終わってからはにこの声を何度もリフレインしながら妄想し、寂しさを慰めてからの就眠。そんな寂しさは起きてからは吹き飛んでいる。

 何故なら今日はにこが泊まりに来るから。お泊り記念日。其れ即ちにこ改造計画の実行日でもある。今のままでも充分可愛い可愛いにこだけど、もっと可愛くなるように、自分好みになるように意識革命する重要イベント。

 にこが自分に強く自信を持てるようにする為の大切な一歩。あんじゅが思うに、にこは踏み出してさえしまえば一気に化ける。踏み出した後は過度な羞恥心を捨てるだけ。やがてステージの上で衣装を着てライブをするなら其れは邪魔になる。

 だけど照れてるにこのあの可愛さと言ったら他に例えようがないくらいに可愛い。宇宙創世のビッグバンすら例えにするには劣る。愛するという気持ちが『愛してる』の一言だけじゃ全然足りないように、にこの可愛さもまた同様。

 にこのことを考えるだけで鏡の前の少女の頬がだらしなく緩んでいる。勿論其れは自分であり、指で頬をグイグイとマッサージしてみるけど、一向に直らない。午前中はUTXで作戦会議の大詰めをしなければならないけど、頭が回るか自信がない。

 そもそも、会議は踊ってるだけ状態で発案された日から時間だけが過ぎただけで、これという解決策は出ていない。生徒会長を説得する文も、にこの情熱が滾り過ぎて纏まっていない。一寸先は闇というか五里霧中というべきか。

 こんな状態ではあっても、GW明けに決行することに変更はない。これから先も色んなトラブルが生まれるだろう。短期で解決しないといけない厄介な状況というのがあるかもしれない。そんな時にこの時を思い出して乗り切れる自信にしたい。

 そう三人で話し合った結果だ。乗り切れなければ終わりだとしても、終わらないと信じているから、無謀も勇気に変えて未来に進める。現実は厳しくても夢を壊せる程の難易度はない。好きな人との共有する夢なら尚のこと。

 寧ろあんじゅにとってこの大ピンチが心地よい。高波に挑むサーファーの気分。乗りこなせれば最高に気持ちいい。そんな気持ち良さをにこと共感する。其れを想像するだけで頬の緩みが増した。寝起きだというのに心がエクスタシーを感じそうになる。

「……はぁん。にこさん」 

 色っぽい喘ぎに似た溜息が口から漏れる。気持ちよさを二人で共有する。まだ精神的な面での共有のみだけど、まるで予行練習みたい。にこと出逢ってからリップを欠かすことのない瑞々しい唇を小指でなぞる。求めるその感触をまだ知らない。妄想の中ではどれ程重ね合い、貪り合ったか……。

「にこさん」

 にこと出逢って新しい自分が生まれたり、知らなかった自分を発見したり、一生知ることはないと思っていた想いの数々を知った。これから先、色々なことを体験して過去を共有していきたい。一人よりずっと楽しくて愛しくて気持ちがいいこと。

 夢と共に愛を育んで成長していく。大人になっても忘れることのない掛け替えのない時間。今を後悔しないように己が持てる全力で今日も謳歌する。一番綺麗な自分になれるようにまずは洗顔から。

「んっ!」

 火照っていた頬が冷たい水を浴びて意識が完全に覚醒していく。優木あんじゅの幸福な一日が始まる――。

 

 

 UTXの部室で机を挟んで座っているツバサが口を開いた。

「結局当たって強引に突破しろってことよね。運命はそう告げているんじゃないかしら?」

 ツバサのいい加減な性格が顔を出したという訳ではない。ただ、これだけ話し合っても他にゴールが見つからないのなら、見つかってるゴールを狙うしかない。例えそこにはボクシング経験がある名キーパーが待ち受けているとしても。

「私としては失敗したら其れを理由にオトノキに転校するからいいわ。今度こそにこさんと二人きりのスクールアイドルライフを堪能するから」

「何そのブルジョワジーしかできない発想。それこそ正に邪道じゃない」

「確実な成功のビジョンが思い浮かばない以上、もしもの時の救済処置を用意するのは当然のことじゃない」

 もはや当たり前のようににこをぎゅっと後ろから抱きしめるあんじゅ。今日は昨日の分も回収するかのように挨拶から片時も離れない。最初は腕を組んでいたのだが、五分もしない内に今度はにこの頭を胸に抱き、今はにこを膝に乗せて後ろから抱きしめている。膝に乗せられた時は恥ずかしそうに身を捩っていたが、今はされるがままに大人しくしている。

「成功するのが何より一番だけど。統堂さんがスクールアイドルになってくれれば夢が現実に染まっていくと思うし」

「ええ、私の圧倒的策略を駄策にするなんて絶対にありえないわ。少なくとも生徒会長は押して押して押しまくって長押しよ!」

「大まかな流れだけで決め手がない物を策とは呼べないわよ。三国志の桃園の誓いを出してきた割にはその辺ザルよね。諸葛亮が草葉で泣いてるわ」

「うぐっ!」

 言葉という名の刀がツバサの心に致命傷を与えた。これが漫画であれば策略を思いついたシーンを描き、仲間達に話している駒だけを絵で見せて決戦当日。そこで策略の成果を見せていくことになる。けど、ツバサは違う。あんじゅの言うとおりに策と呼べるものではない。

 しかも其れを頭に圧倒的とつけてしまっているのが更に哀れみを呼ぶ。まるで家出したのに家出と気付かれることもなく、当日の夜遅くに帰宅することになった思春期の少年少女のよう。

「ツバサさんの提案があってこそ道ができたんだから。策かどうかは別に気にすることはないと思うよ」

 優しきにこのフォロー。だが、時として優しさは追撃となる。それに提案という単語を敢えて使っている時点で、にこ自身が策と認めなかった証拠。ツバサのアイデンティティが打ち砕かれる。覚醒して思いついたと思った策は、策ですらなかった。にこは落ち込むツバサを見て慌てて頭を回転させる。励ます言葉、元気になる言葉。

「えっと、んっと。ツバサさんは策というよりも、正道を照らす輝く花を咲かせたんだよ。策略の策じゃなくて花が咲く方の咲く」

「照らす前に散った気がするけど」

「あんじゅちゃん!」

 顎を上に向けて下からあんじゅの顔を覗き込むにこ。そんなこと言わないのって表現するかのように頬を少し膨らませる。ドックンと心音が口から飛び出すような幻聴。其れくらいにこが可愛過ぎた。

「あぁぁぁああ~もうっ! にこさん可愛い可愛過ぎ! 嘘よ、嘘。明るく照らしてくれる花が咲いてるわ。ツバサさんもお星様となって私達の純愛街道を照らしてくれてるから安心ね」

 柔らかなにこのほっぺたを両手で包み込み、むにむにと指を動かしてその感触を堪能する。赤ちゃんの肌は柔らかいと言うけど、にこの肌はきっとそれ以上に柔らかい。何よりも他には感じることのない興奮と幸せが湧き水のように全身に広がっていく。

「それだと私死んじゃってるじゃないの」

「いいえ、スクールアイドル界の神になったのよ。良かったわね」

「うぐぅ」

 もはやうぐぅの音しか出ない。が、逆にこう思うこともできる。ツバサにとってあんじゅは辛辣ではあるが、何だかんだと自分の言葉をきちんと聞いていて、覚えてくれている証拠なのだと。少々棘が満載なのがたまに強烈に痛むけれど。

「あんじゅふぁん。ふぁんまりいじめふぁだめふぁよ」

 頬をあんじゅにふにふにと弄られながらも嗜める。目標に向かって頑張るには三人の信頼が必要不可欠。

「大丈夫よ、にこさん。綺羅星さんは打たれても打たれても立ち上がる体質だから」

「何その主人公体質!? 歪んでいるけどこれがあんじゅさんのコミュニケーションだって分かってるから。心配しなくても平気よ」

 さんざ弄られて尚こうして笑顔で言えるツバサは大物である。これが他の人だったら早々に居なくなっていただろう。

「そう言えば体質で思い出したんだけど、あんじゅさんみたいな人を一部界隈の人はヤンデレって言うらしいわよ」

「ふぁんでれ?」

「にこさんかわいいかわいい!」

 自分のことが話題だというのにあんじゅはにこのほっぺの虜。時折くすぐったそうにもにょもにょと動く唇がまた愛情を増加させる。

「ヤンデレっていうのは好きな人を好きになり過ぎて病んでる状態ね。好きな人にはデレデレで、ソレ以外の人にはどこまでも冷たくなれる」

 本当は狂気的な行動で好きな人を追い詰める場合や、周りの人達を滅するような猟奇的な物が分類されるが空気を読んで口を閉口させた。直感ではあるがあんじゅがそんなことをしないことは分かる。

 ヤンデレといっても遅い初恋に制御ができてないだけで、何らかの結末か発展があれば落ち着くことだろう。恋を知らないツバサが人の恋心を分析した結果である。

「失礼ね。私は誰でも彼でも冷たくなんてしてないわ。私が冷たくするとしたら嫌いな人だけ」

「何その周りくどいのか直球なのか分からない嫌い発言」

「でも逆に考えればこれ以上ないくらいに嫌われてるってことは、これから先は嫌われようがないってことよ。よかったじゃない」

「そこで上がる可能性を挙げない時点で最底辺の嫌いで完結してるわね」

「ふぁんじゅふぁん」

 揉んでいたほっぺがぷくっと膨らんであんじゅの指を少し押し返す。その仕草もまたあんじゅの琴線を刺激する。一瞬息が詰まって言葉を返せなかったが、一度深呼吸してにこを見つめる。

「にこさん大好き!」

 そうじゃないでしょって目をしながらも、膨らんだほっぺは元の柔らかさに戻った。そんな二人のやり取りを見つめながら缶の紅茶を飲むと、これ以上ない甘い平和の味を感じた。GWは明日で終わる。つまり決戦は目前。自分の『咲く』でスクールアイドルの運命が大きく動く。

 緊張していない今が嘘のよう。不安に震えない今が夢のよう。今までの常識が非常識に染められていくかのような錯覚。あんじゅの恋は絶対に叶わない。この短期間でそうではないかもしれないとすら思ってきた。この二人は出逢う為にスクールアイドルが生まれたのかもとすら思う。

 であるならば、絶対に上手くいく。否、自分がなんとかしてみせよう。無論、策すら未熟で咲くになった自分では頼りないことは重々承知。だからこそ全力を出して想いを声にするしかない。明日の自分が今日の限界の外側にずっと居続ける為に。

「好きと好き。嫌いと嫌い。お互いが同じ感情だと喧嘩は起こり易いけど、そうでない場合は喧嘩になり難い。これは私の持論だけどね」

「人を好きにも以下略なツバサさんの持論。ぷふっ」

「別に世の中は恋愛の好きだけじゃないでしょ。最初に覚えるのは親愛の好きじゃない」

 あんじゅが嘲笑して指の力が緩み、にこが普通に言葉を発した。

「でも、少し分かるかも。年離れた双子の妹達は好き同士なのにしょっちゅう喧嘩するし」

 にこの妹のこころとここあ。普段は仲良しなのだが、ちょっとしたことで喧嘩する。直ぐに仲直りするのだが、頻度は多い。まるでお互いの好きを確認し合う行為みたいに。双子特有のものなのか、そうでないのかは分からない。だからこそツバサの持論に理解を示した。

「好き同士だからこそ些細な事でも分かって欲しいという思い。言葉に出さなくても分かってくれるという甘え。好きだからこそ小さなことでも大きく傷つく。だから喧嘩になる。違うかしら?」

「少年漫画好きの癖に語るじゃない」

「誰かさんが男の子扱いするから最近は恋愛漫画も読むようにしてるのよ。あとネット小説とかね。あれはあれで高度な心の読み合いみたいだと思えば楽しめるわ。ただイチャイチャする話は即閉じだけど」

 恋愛物と言われると現代の話がメインかと思えば、けっこうファンタジー物も多い。悪役令嬢、つまりはかませ犬が主人公になって可憐に訪れる筈の結末を捲くるという物まである。恋愛要素が薄い方がツバサには読み易いのでそういうのを読むのが多くなっている。

「いくら主人公に自分を重ねてもそれは物語の中の主人公であって、綺羅星さんがモテてる訳じゃないから勘違いして痛い行動取らないでね。同じスクールアイドルなんだから」

「そんな痛い思考してないわよ!」

 若干中二病を患っているが本人は自覚なし。あんじゅもその事には触れようとしないし、にこはそもそも中二病を知らない。変り種でも突き通せば個性になる。其れが現代のアイドル。ならばスクールアイドルにも通用する筈。あんじゅが指摘しないのはその為である。

「主人公かぁ。物語の主人公だったらあっと言う間にスクールアイドルを広めたりできるのかな?」

「私としてはそんな作り物の主人公なんて完全にナンセンス。苦労もなしに広まったという結果だけがついてきても何の感情も生まれないわ」

 あんじゅの言葉にツバサが深く頷いて口を開く。

「こうして苦労して、でも結果に結びつかないことに苦しんで。何が正しくて何が間違っているのかを模索する。傍から見れば滑稽でも、そのこと自体に意味を作る。それが人の歩みってものよ。例えば正解を教えてくれる主人公が居るとするわね」

「教えられた道を辿って、すべきことだけをする。ただそれだけのことで明るい未来が待ってる。そう分かってても、私はこうして悩んで進んで間違った道を行くかもしれない今を愛しいと感じる。他の人の正しさなんて、私には関係ない。私達に主人公なんて必要ないのよ。私達は主人公を生み出す側だからね」

 この辺が完全に中二病。あんじゅは人の言葉に勝手に乗って、決め顔を浮かべるツバサにイラッとした。

「出逢った時にも言ったけど、にこさんは私の主人公。私はにこさんのヒロイン。大切にしてね」

 にこのことを主人公と言ったのはツバサが盗み聞きしている時。勝手に主人公不在とか抜かすツバサを目で殺す。

「私が主人公じゃ打ち切りになっちゃうよ」

「いいえ、そんなことないわ。いつか劇団が『夢を諦めてスクールアイドル』の公演を開き、後に映画化。にこさんと私が書く小説版が発売。素敵な未来が待ってるわ」

「それは広がりすぎだよ!」

 未来の展望がデカ過ぎて思わず大きな声を出してしまう。でもあんじゅは微笑みながらにこの頭を撫でるだけ。その未来を微塵も疑っていない。あんじゅもまたある意味で大物である。

「じゃあ私はスクールアイドルの大会を作るわ。本格的なプロのライブにも負けない盛大な大会。スクールアイドル一舞踏会とかどうかしら?」

「舞踏会はプロのアイドルでやってるよ。シンデレラをモチーフにしたやつ」

「あ、あるのね。アイドルのことは勉強したつもりだけど、一気に詰め込み過ぎたみたいね。じゃあ……ラブライブっていうのはどうかしら? プロと違ってギャランティーは発生しない。真剣な努力と純真な愛が武器。なら其れを大会のタイトルとして掲げるの」

「ラブライブ」

 心にしっくりとくるタイトル。外れていたピースが埋まるような不思議な感覚。これこそが運命なのだと教えるように。主人公なんていなくても、きちんと正しき道を歩いていると知らせるように。

「ふぅん。ラブライブ、ね。ツバサさんにしてはいいんじゃないかしら」

 例えツバサが自分にとって是とした意見であっても、決して同意の声を上げることのなかったあんじゅが初めて認める発言をした。これは思いの他ツバサにとって嬉しい出来事。例えるなら主人公が初めて負けた相手と再戦して勝った瞬間。絶対的なピンチにかつて仲違いした友が助けにきてくれた瞬間。其れらに匹敵する胸熱な展開。

「私もすっごく良いと思う。スクールアイドルの晴れ舞台。スクールアイドルを志す子達が目指す最高の地。ラブライブ」

 あんじゅに抱き締められながらラブライブを想像する。各地の学校から集まったスクールアイドルが多くの観客の前で全てを出し尽くす光景。スポットライトの中で可愛い衣装、綺麗な衣装、最先端をいく衣装。汗を散らし、夢を振りまき、想いを伝え、愛を届ける。

 まだ見ぬ後輩がこのラブライブを見て、自分達のライブを見てこの学校に入学したいって思ってくれることを祈って。そんな想いがよりスクールアイドルを輝かせる。プロとは違うから完成度は劣るかもしれない。だけど、プロではないから表現できることだってある。

 事務所の柵なんてないから自由に仲良くなれる。一緒にライブすることだってできる。偽りなく友情を描ける。お互いの衣装を変えて、歌も交換してライブをすることも可能だ。ラブライブから生まれるそんな友情に懸想する。勝ち負け以上の宝物が詰まった大会になりますように。

「ただの夢物語にはできないわね。私の今回の咲くで失敗したら終わりだと思ってた。でも、策ではなく咲くだから。咲いて散るのが花だけど、散ってまた花を咲かせるのも花よね。だったら失敗しても終わりになんてさせない」

 頼りになる力強い芯のある笑い。漫画の主人公のように上手く策略が組めなくても、普段あんじゅに毒を吐かれまくっても、中二病であっても、綺羅ツバサは縁の下の力持ち。にこが絶対的リーダーとして育つまで皆を元気付けて支え続ける。

「なんてやる前から失敗することを考えるのは愚者の在り方。私はもう失敗した後のことは考えない。だって、結果は変わらないから。成功するまで続ければ失敗なんてあってないもの、でしょ?」

 一連の流れでツバサは成長を遂げた。そして、これから大きく飛翔する。ラブライブと名づけたその大会を実現する為に。

「そうだね。もう二度と諦めたりしない。その為に私はここまで来たんだから」

 憧れだったUTX高校。今はそこもまた自分の居場所。あんじゅの温もりもまた居場所となりつつある。運命っていうのは息吹のように伝わっていく。芽吹くのは小さな葉。

 ちょっと照れくさくなったツバサがスマフォを取り出してスクールアイドル部のHPを見て、次にオトノキのスクールアイドル部のBBSを見た。思わずスルーしてから、再びそこに視線を戻した。

「あれ? 音ノ木坂の方のBBSに書き込みがあるみたいね」

「え、珍しいというか書き込みは初めて」

 にこもスマフォを取り出したかったが、あんじゅがにこの両手ごと抱き込んでいるので取り出せなかった。だから何て書き込まれているのかツバサの言葉を待つしかない。そんな中、あんじゅはにこの格好良い台詞を頭でリフレインしながら悦に入っていた。

「えっと……っ! UTX高校のHPを見てスクールアイドルを知ったんですが、こちらの学校が始まりみたいなのでこちちに書きこみます。スクールアイドルというものに興味が出ました。まだメンバーもいないし、私一人だけどスクールアイドルを始めてみようと思います。カラオケ好きだし、小さい頃から裁縫が得意で服を作るのも好きなので。いざとなったら一人でもやってみせます! 北見塚原学院一年・黒須愛」

「私達以外の初めてのスクールアイドル」

 まだライブどころか下地すらきちんとできてない。それでも、興味を持って目指してみようと思ってくれる子が居た。今すぐにでも会いに行きたい。そんなにこの気持ちを知ってか、ツバサは素早く学院の名前で検索をしていた。

「にこさん。残念ながら北海道の学院みたい」

「あ、そうなんだ」

「落ち込むことはないわ。私のにこさんの想いが日本の最北端にまで届いた。其れを誇るべきよ」

 にこが残念に感じた思いをあんじゅが直ぐに掬い上げ、嬉しさに染め上げる。あんじゅの鼓動を頭で感じながら上を向く。

「ありがとう、あんじゅちゃん」

 はにかんだ笑みは小さな子供みたいにあどけない。幼い容姿こそがにこの究極的武装。磨き上げるべき最強の武器。でも、この無垢な感謝は自分にだけ向けて欲しい。好きだからこその独占欲。

「どういたしましっ!」

 うっとりとにこに見惚れながら返事を返した所為で、涎が垂れそうになり言葉を切り上げて生唾を飲み込んだ。にこがキョトンとした表情で追撃を掛けてくる。あんじゅの胸の高鳴りが止まらない。にこへの好きは今日も昨日の限界を上回っていた。改造計画の夜は少しずつ近づいている……。

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