矢澤にこ自身がラブライブ   作:にこあん

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16.激闘 会長の炎で灰になれ!

◆UTX高校・廊下◆

「時が来たわ!」

 ハチマキが似合いそうな綺羅ツバサのおでこがキラリと輝く。やる気は万全。体調も万全。お肌の艶も万全。策はないけど気合いは充分! 今ならラスボスだって倒せそうな気がする。

「ぷふっ」

 いきなり後ろに居た仲間に笑われた。振り返ればそこには優木あんじゅが口元を隠しながら笑っていた。視線が合うと笑いから嘲笑に変わる。仲間というより、ラスボスとのバトル後に裏切る、裏ボス的存在の方が正しいかもしれない。

「これからが本番だっていうのに、ふざけるというのは頂けないわ」

「ふざけてはないわよ。気合い入れたの。魔界王の真似よ」

「魔界王? また何かの漫画かゲームかしら」

「プロレスラーよ。今尚ミスターチャンピオンは魔界王だって声は高い。といっても、本物の殴り合いとか苦手だからこれくらいの事しか知らないけどね」

 ただのにわか知識を披露されたあんじゅは、大丈夫かしらと肩を竦めた。にこが居てくれればなんだってやれる気がするけど、にこが居ないとなると不安でしかない。スクールアイドルの生みの親なしで果たして説得は可能なのか。

「強い人の真似をすれば決闘――いいえ、激闘だって乗り越えられる。スクールアイドルの全国制覇だって可能よ!」

「愉快な表現は頭の中だけにしてよね。生徒会長に変な先入観を持たれるのは避けなくちゃいけないんだから」

「うっ……確かにちょっとテンション上がってハイになってたわ。不謹慎だけど遠足の前夜みたいに楽しみで。ほらあるでしょ? ピンチは裏返せばチャンスになるって言葉が。今がそれなのよ」

 あんじゅはチャンスという言葉は好きではない。チャンスを与えられる側ではいつまで経っても限界を超えられない。自力で成功させて結果を出す。そして、チャンスを与える側にならなきゃ、この前人未到の果てを拝めはしない。

 だけどこれは個人の考えなので強制なんてしない。やる気があり過ぎると空回りする可能性があるが、これ以上嗜めると今度はガス欠を起こす。にこの代わりには100%ならないが、スクールアイドルの未来を語るのにはツバサの熱気は不可欠。

 其れに『咲く』と名付けられたこの流れ。あんじゅは口にこそしないがツバサの事を高く評価していた。にこによって自信満々の策を否定され、それなのに一夜にしてこの咲くを考えてきた。メンタルの強さと失敗をバネにする力強さは、これから先も頼りになることが多々あるだろう。

 ここに統堂英玲奈という逸材が加わった時、爆発的に広がることも夢語りではない。そうなることがもはや必然。故にここが正念場。失敗しても諦める気はないが、難易度が跳ね上がる。

「生徒会長や達人は一太刀で殺す。これが鉄則よね」

「……」

 高く評価したことを後悔したくなる中二病発言。これは駄目かもしれない。オトノキで朗報を待っているにこに向けて、SOSの愛のモールス信号を発する。勿論届くことはないが。

「オファーは取ってあるから話はできるけど、UTXの会長ともなると色々と忙しいみたいだし。変なこと言うと即終了の可能性だってあるのよ。殺すとか物騒なこと言わないで頂戴」

「普段は絶対に使えないけど、いつか使いたい台詞ってあるじゃない? 其れが使えるタイミングを迎えたから抑えきれなくて。ごめんごめん」

「能天気過ぎるわよ。ハンデ背負って敵う相手じゃないんだから」

 うんざりしながら自分の髪の毛を弄る。そもそもの話、あんじゅ一人でどうにかなると思える相手なら、こうして二人で来る必要がない。UTX高校の生徒会長というのは本当に有能な者しかなれない。だからこそ、大学推薦は国内であれば何処でも貰える。羨ましいと思うなら其れは間違い。

 学生業を完璧にこなしながら会長職を全うする。幅広く手を広げている生徒達のスケジュールを全て頭にインプットして、どこかに破綻しないように管理する。一般の先生よりもずっと大変なことをしている。だからこそ先生方や上の人達からの信頼は絶大。

 味方にできれば本人を説得した後が少し難易度が下がる。手を触れずに針の糸を通すレベルが、両目を瞑ったまま針の糸を通すレベルだから、理不尽な難易度のままではあるが。もしかしたら簡単にいくかもしれない。だけど、そんな楽観視して足元を掬われる訳にはいかない。

『私、これより修羅に入る!』とか言いたかったが、これ以上は危険だとツバサは判断して止めた。負け戦こそ面白い! なんて言う敗北フラグに成りかねない。深夜のハイテンションみたいに高ぶっている自分を数回深呼吸することで落ち着かせる。

「よし、もう大丈夫。行きましょう」

「待って。不安しかないわよ」

「もう落ち着いたから大丈夫よ」

 なんの根拠もなく言ってのけたツバサに重度のため息が零れた。もう何もかも捨ててにこに逢いたい……。現実逃避しそうになるがなんとか踏ん張る。

「生徒会長の心証を悪くするようなことは絶対に避けて頂戴ね。信用を勝ち取らないといけないんだから」

「そんなこと改めて言われなくても大丈夫よ」

「大丈夫な人間がスクールアイドルの全国制覇なんて言葉を出す訳ないでしょう。正気を疑うし、何なら黄色い救急車を呼びましょうか?」

「あー、うん。ごめんなさい」

 自分で言う分にはダメージなかったが、人から言われると相当ダメージがでかい。心配されて当然の状態だった。自分の咲くで満開の花びらが輝く道を描く。その為には感情に振り回されてちゃ駄目だ。感情を制御し、緊張を楽しみ、冷静さを忘れない。成功とはそういう物の積み重ね。

 頬を二回強めに叩く。其れは始まりのゴング。UTX生徒会長との対面の時、来る――

 

◇音ノ木坂学院・生徒会室◇

「少しは落ち着いたらどうですか? 気持ちは分かりますが、矢澤さんがそうしてても体力の無駄ですよ」

 最初は部室に一人で結果を待っていたにこだったのだが、五分でギブアップ。自分が介入できない状態で運命が決まるとなると落ち着けない。人が居る憩いの場は生徒会室しかなく、お邪魔させてもらった。

 いつものように手伝えるような状況でもない上に、揺ら揺らと体を動かしたり、立ったり座ったりと落ち着きがない。視界の端で動かれるというのは集中力を乱す行為。しかも、今している作業内容は、オトノキでUTX生徒を授業に参加させる土台作り。にこが持ち込んだ厄介な案件。

 だというのに本人がその作業を邪魔している。普通だったら追い出されているが、会長は小さな妹を見るような穏やかな笑みを浮かべているし、零華も普通に体力的なことを心配していた。名前だけとはいえ、二人はオトノキのスクールアイドル部の部員。優しさという面ではあんじゅやツバサに劣っていない。

「すいません。落ち着こうとは努力してるんですけど」

「しょうがないわよ。でも、大胆なことを考えるわね。超人気モデルを仲間に引き入れるだなんて」

「成功すれば宣伝効果は抜群ですね。それはいい意味だけではないですが」

「というと?」

 零華は会長の合いの手を受け、気づいてる癖にと思いながらも続けた。

「モデルとしての統堂さんを好きな人にとって、裏切りに他ならないですからね。モデルとアイドルは少しファン層が違う場合がありますから。アイドルがモデルの仕事をしているのを悪く思っている人も少なからずいますし」

「つまりは諸刃の剣に成り得るってことね。矢澤さんはその辺はどう考えているの?」

 会長に振られてにこは戸惑った。勧誘するまでの流れに乗り気でいて、冷静な判断が追いついていなかった。誰もがスクールアイドル転身を快く思う訳ではないのだ。言われてみれば極当たり前の話。だけど、にこはそんな戸惑いを見せずに言う。

「大丈夫です。批判的な子達もスクールアイドルとして、モデル時代では見せられなかった表情で魅了してみせます」

 元気良く笑って見せた。ぴょこんとツインテールが揺れる。

「今更ですがその髪型似合っていますね。高校生で似合っているというのも失礼になるかもしれませんが」

「そこは零ちゃん。可愛いは正義ってやつよ。以前の髪型よりも矢澤さんの幼さが強調されて、より魅力的になったと思うわ」

「ありがとうニコ!」

 あんじゅの改造計画の一つ。髪型の変更。首の後ろで二つに分けていたものから、昔やってたツインテールへ。子供みたいで恥ずかしかったが、あんじゅが其れすらも意識革命の一環だと。常に羞恥心を感じていれば、今まで感じていた恥ずかしさくらい、何も感じなくなるとのこと。これは見た目だけで感じる羞恥。

「……なんですか、その語尾」

 そして、これは言語の羞恥。一人称を二回に一回は『にこ』にして、たまに語尾ににこを付ける。アイドルに限らず、芸能人にとって個性作りは基本中の基本。だからと言ってここまで幼さアピールする必要はあるのかと訊いたら、即答で『これこそがにこさんの最大の武器だもの』と力説された。

 とにかく、見た目と言語の二つで羞恥心を煽っていく。そして、鏡の前で自分は最高に可愛いと毎日の日課にされた。羞恥心を着こなし、自分を魅力的だと感じ、絶対に揺るがない自信へと昇華させる。

そうなれた時、矢澤にこ改造計画は完成する。その時はツバサからにこへリーダーの座が移ろうことだろう。だけど其れはあんじゅとツバサの成功なしにはありえない。既に振られている債の目の結果は凶と出るか、望みどおりの吉と出るか……。

 

◆UTX高校・生徒会長室◆

 決闘をするつもりで尋ねた生徒会室。だが、二人の気持ちを逸らすように、案内されたのは生徒会長室。普通の学校にはないと思われるそんな部屋。会長と副会長とでは仕事の幅が違うし、機密も多いのかもしれない。

 通された部屋には大きめのテーブルがあったが、こちら側から資料が見えないようになっている。会長は作業の手を一度止め、入室したあんじゅとツバサを見て挨拶した。

「こんにちは。作業をしながらになるけど、約束通り話は聞くよ。そこの椅子に腰掛けていいからねぇ」

 冷徹そうな見た目とは裏腹で、かなりフレンドリーな口調。声も鼻に掛かったような舌足らずの可愛らしさ。出鼻を挫かれるとはこのことだろう。にこにギャップの話をしたにも関わらず、目の前の会長という人物を見た目だけで判断していた。写真からじゃ本人の在り方なんて伝わらない。プライベート写真だったなら話は変わるが。

「優木さんと綺羅さんは二人でスクールアイドル部を立ち上げたんだっけ。芸能コースの子なのに部活をするっていうのだけでも稀有なのに。立ち上げたのは初めてじゃないかな?」

 恐らくオファーを受けてから覚えたのではなく、立ち上げの許可を出した時に記憶していたのだろう。相手は規格外の有能である。いつまでもギャップに引き摺られている場合じゃない。

 とは思いつつ、入学式での挨拶を副会長に任せていたのは、こうやって所見の相手を戸惑わせ、自分のペースに事を運ぶ為なのかもしれない。相手が有能であるが故に深い闇に囚われるあんじゅ。一方のツバサは倒して仲間にすることしか考えていない。

「二人で来たということは部のことについてかな。何か不備でもあった?」

「部を認めてくれただけでなく、部室を与えてくれことに感謝しかありません。今日は一つお願いがあってきました」

 感謝はしつつも相手の質問には答えない。先制攻撃を取るというのは何事においても重要。カードゲームで勝手に先攻と言いながらカードを引く。其れくらいの気概でないと強敵には勝てない。策略系の軍師なら、戦が始まる前に勝負が決着している。そうできなる策なんて思いつかなかった以上、自分のペースに持ち込んでラッシュを決め続けるしかない。ずっとツバサのターン!

「部費のことなら既に決定済み。部活紹介は終わってる。部員募集の校内放送を使いたいなら放送室前にある規定項目を参考にして、担当の先生に話をしてね。大学のサークルじゃないから、他校の生徒を部員として登録はできないよ。でも、一般コースの子を部員に入れるのは問題ないから。顧問が欲しいっていうなら、生徒会ではなく直接先生方に話をしてね」

 顔をこちらに向けることなく、作業をしながらの流れるように発せられた言葉の数々。相手にうぬを言わせずに主導権を握るというのは、こういうことだ! と言わんばかりのお手本。先手を打とうと口を空けたまま静止するツバサ。其れを横目にあんじゅが思考の闇から帰還を果たす。ツバサからあんじゅへアタッカーの交代。

「今回は何れも当てはまらないお願いです。会長以外となると叶えるには少々時間が掛かる厄介ごとなので」

「芸能コースの生徒なのに、ねぇ。特待生のサインとかなら時々購買でサイン色紙が販売されるから、それまで我慢してね。一度でも融通利かせると生徒会なんて破綻しちゃうから」

「いえ、サインは要りません」

 サインではなく本人が欲しい。だから思わず『は』の部分に力が入ってしまった。とはいえ、其れは事情を知っていないと気にするべき点ではない。それなのに会長は作業の手を止めて、ゆっくりと顔を上げた。

「なるほどねぇ。スクールアイドル部の立ち上げの際に検索を掛けてみたんだけど、初めに考えたのは音ノ木坂学院の生徒だったよね。その時点では二校しかスクールアイドルをやっている学校は存在しなかった。多分、今も大して状況は変わってないだろうねぇ」

「その状況を打破する為にはUTXの生徒だからこそ使える好機がある。今現在一線で輝いている特待生。スクールアイドルに引き込むことに成功すれば知名度は一気に全国区。宣伝効果と共に有能な戦力を得る、と」

「仮にも生徒会長であるこの私が、唯の芸能コースの貴女達に特待生を引き合わせると思ったの? そうであるのなら大変に失礼だし、何も考えてなかったのなら一昨日来るといいよ。それとも引き合わせるに足りる何かを持ち合わせているのかな? あるのなら其れを提示してみせて」

 言葉一つも挟めぬまま、全てを見透かされて丸裸にされていた。何も持ち合わせてなんかいない。三人で話し合った末の結果が今この瞬間。何も持たずともやる気でどうにか説得してみせる。そんな甘さが通じるような相手ではなかった。

 部屋には三人も人が居るというのに、静寂の音が耳を鳴らす。提示できる策がないと言った時点で終わる。だから何もあんじゅは発せられない。年齢にすればたった二歳差。されど高校生という身ではその二年は余りにも大きい。目の前の存在を相手取るには、圧倒的なまでに経験が足りていない。

 今訪れている最大のピンチを引き寄せたのは自分だ。ツバサは押し潰されそうなプレッシャーの中で考える。この状況を少年漫画で例えるなら、心を読む強敵と相対しているようなもの。右ストレートでぶっ飛ばせるような弱さならともかく、身体能力すら相手が勝っている。漫画なら強制負けイベントで相手が何かしらあって撤退か見逃してくれるか後は……。

 当然ながらここは崖の上でもないので、川に落ちて助かるなんて手段は使えない。そして、現実の負けイベント後に逆転演出は存在しない。何があっても勝ち取らなければならない。咲くまで駄策にするなんて絶対に許せはしない。大輪の花を咲かせてみせる。

 中二病とは魂の在り方。普通の人とは一線を違える存在。良くも悪くも馬鹿でしかない。だが、そんな馬鹿だからこそ、勇者へと辿り着ける。綺羅ツバサは勇者となる――満開!

「私達が会いたいのは奇跡の統堂。モデル界百年に一度の逸材」

 今回もまたきちんとした回答をしていない。だが、会長は目を細めてツバサを見るだけで、部屋から出て行くようにとの指示は出さない。隣に座るあんじゅが『何を言い出すのこの馬鹿』という目でツバサを見る。ある意味で二面楚歌。

「私達が提示できるものはありません。三人で知恵を絞って会議して、だけど決定打となるような物は何一つ思いつきませんでした。だけど、一つだけ胸を張って言えることがあります」

 ツバサは一度音ノ木坂学院のある方角を見て勇気を貰うと、声を張って述べる。

「モデル界なんてどうでもいい! 誰かが築き上げたレールの上に誰かを乗せて、百年に一度とか適当に言ってるだけ。だって、奇跡の統堂以前にモデル界百年に一度と言われた存在が、今はアイドルやってるんですよ? 替わりが通用するような世界なんてどうでもいいわ!」

「スクールアイドルは唯一無二。国の垣根を越えても存在しない物。だけど、其れを未来では色んな国の女子高生がスクールアイドルをやっている。そんな偉大な物の始まりにUTX高校の名前も刻まれるでしょう。先程は提示できる物はないと言いましたが、提示するならその未来。会長、是非ともこの可能性を買って頂きたい」

 最後の言葉はツバサの鼻と顎が尖っていた。それは流石に嘘ではあるが、完全に悪人顔をしていたのは事実。呆れたのかツバサの言葉に飽きたのか、会長は新しい書類を出して作業を再開していた。無言のままで過ぎる苦痛の時間。

 正直あんじゅは今直ぐににこの元へ飛んで行きたかった。抱きついて匂いを嗅ぎながら謝罪したい。というか、非常識でもUTXの制服を着せたにこに一緒に参加してもらうべきだった。後悔しかない。あんじゅが深い後悔の中、作業の手を止めた会長が再び顔を上げた。そして、口を開くと言った。

「議論の余地はなしだねぇ。売買するつもりならもっと現実的な物を売りつけないと。人生はそんなに甘くないよ。それじゃあ、気をつけて帰ってね」

 あんじゅとツバサ完全敗北!?

 敗因:ツバサが中二病全開の勇者だったから?

 

◇音ノ木坂学院・生徒会室◇

 落ち着きのないにこの元へ、運命を報せる着信音が響く。机の上に置いていたスマフォを取ると直ぐに通話ボタンを押した。

「もしもし、あんじゅちゃん。どうだった?」

 言葉が途中途中ひっくり返っていたが、今のにこにはそんなことは気にならない。気になるのは一つだけ。生徒会長の説得に成功したのか否か。大きく膨らんだこの不安を、成功という言葉で鎮めて欲しい。

『……ツバサさんを連れて行ったのは間違いだったわ』

 深く沈んだあんじゅの言葉に、にこは現実を悟った。説得材料を用意できなかった時点で覚悟は決めていた。こうなった後でも諦めないと三人で誓ったから、だから涙は出ない。だって、会ったこともないし、行ったことすらない北海道にもスクールアイドルが居てくれるから。

 ゆっくりでもいい。遠回りすることになってもいい。もう一度案を考えて、広める努力をしていく。結果に結びつく日を信じて。チャレンジすることを恐れたりしない。

『何よ~! 私が居て正解だったでしょ!』

 だが、あんじゅの後ろ側からだろうか、ツバサのそんな声が聞こえてきた。

『ハァ? 綺羅星さんが変なこと言うから、私は胃に穴が開くところだったわよ。何よあの最後の悪人面。生まれてくる世界を間違えたんじゃないの? どこかで変な仮面でも掛けて綺羅星とか言っておけばいいのよ』

『スクールアイドル・UTXノ翼――綺羅ツバサー! 綺羅星ッ! って何やらせるのよ。どうでもいいけど先に報告でしょう』

 え、あれ? にこは混乱していた。思っていたのとは違う、いつもの二人のやり取り。

『うちの会長は味方にできるような存在じゃなかったけど、統堂さんとの接触は可能。及第点ってところかしら? 綺羅星さんの代わりににこさんが居てくれれば味方になってくれたかもしれないけど。ごめんなさいね』

 ゆっくりとあんじゅの言葉を噛み砕く。そして、理解して噛み締める。英玲奈との対面は成功。無理が九割以上を占めていた難題を突破。

「うそ」

『本当よ。あの会長は物凄く性格が悪いわ。帰れって言った後に、ついでにこれを統堂さんに渡しておいてって、明日の登校時間と会える場所を書いた紙を渡してきたの。それと私とツバサさんの授業の一時退出許可書』

『あの時、あの二人は私のことを完全な悪人だと思ったと思うんだよ。会長のこの私が完全な悪人なわけが――』

『――綺羅星さん煩い。とにかく今すぐににこさんに逢いたい。抱きしめたい。今から迎えに行くから喫茶店で会議しましょう』

「うん! 私も急いで行くね」

『じゃあ、直ぐに逢いに来てね!』

 通話が終わると同時に笑顔で会長と零華に成功の旨を告げた。そして、二人に迷惑掛けてごめんなさいと謝罪とお礼を告げて挨拶すると、ピョンピョンとツインテールを跳ねさせながら生徒会室を後にした。

「作業は全然進まなかったですが、良かったですね」

「そうね。これで矢澤さん達が無事に統堂さんを勧誘できれば……目を覚ましてくれるかもね」

「目を覚ます、ですか?」

 一体何の話だろうと、零華が首を傾げた。にんまりとした笑みで会長が言う。

「部活をしている運動部以外の子達よ。確か家庭科部の部長は零ちゃんの友達だったわよね?」

「ええ、そうですよ」

「しかも統堂さんの大ファンだとか」

「なるほど。授業に招く時に統堂さんも居れば目が覚めるでしょうね。両手を大きく上げて衣装を作りたいと言ってくるでしょう。実力は十二分にありますから。怠け者なのが玉に瑕ですが」

 普通に着る服ではなく、コスプレに近い衣装を作るのが上手なので、アイドル衣装を作るのに苦労はないだろう。衣装のデザインはその子の幼馴染がしているので、一緒にやる気を燃やしてくれることを祈る零華。

「其れを皮切りに、スクールアイドル部に触発されるように活性化していくといいんだけどね。校舎だって長く見つめてきた見返りとして、最後まで元気に活動する生徒達を見ていたいと思うだろうし」

「校舎は何も思ったりしませんよ」

「零ちゃんはクールだなぁ」

「ただ、全ての生徒が卒業式を迎えることを惜しむようになれば、私達生徒会が影で頑張ってきた苦労が報われますね」

「クールなんだか人情に厚いんだか。でもそこが零ちゃんの魅力だよね」

 その会話を締めとして、遅れた分の作業を取り戻すべく無言で再開する。にこへの援護射撃。音ノ木坂学院が活性化することを懸想しながら。決して戻らない青春の花が、数多く咲き乱れることを願って……。

 

◆おまけ・鏡よ鏡 カカカカカカモーン!◆

「早くにこさんに逢いに行くわよ」

 一人で行ってデートしたいが、本人との接触が明日と時間がない。何だかんだ言いながらも今回の会長の説得の功績はツバサにある。自分だけでは雰囲気に呑まれていて、最後は何も言えずに帰らされていただろう。だからツバサを省く訳にはいかない。

「ええ、そうね。会長の強敵具合を是非伝えたいわね」

「銀河『微』少年さんのお陰で難易度が跳ね上がってた気がするけど」

 だが勿論、ツバサ本人を評価するような発言は絶対にしない。寧ろその逆を言うのがあんじゅ。

「銀河美少年じゃないわよ! それを言うなら銀河美少女でしょ!」

「放課後の廊下で、自分は銀河美少女だと喚く男の子が出現する。これはUTX七不思議の一つになるわね」

 わざと両手で体を包み込みながら、体を震わせる。ツバサをからかうことに磨きが掛かりつつある。

「元々うちの学校に七不思議なんてないじゃないの! それから、どうして毎回のように私を男の子扱いするの!? 喉見れば一発で分かるでしょ。喉仏の見える女性はいても、喉仏の見えない男性はいないんだから」

「目の前にいるじゃない。流石神になる人は違うわね。男の子なのに喉仏を見えなくするなんて凄いわ。拍手してあげる。ぱちぱちぱち」

「うぐぅ!」

 せっかくぐうの音も出ない切り返しを考えてきたのに、致命的なネタを使われての強烈なカウンター。真っ白に燃え尽きるような痛恨の一撃だった。日本一売れた少年漫画の作者のキャラデザした主人公のアクションゲーム。そこから得た切り返しだったのに……。その後、綺羅ツバサの姿を見た者は誰もいない。

「いつか必ず切り返してみせるんだから!」

 そんないつかが来るとは思えないが、今日も今日とてお風呂上りに『髪よ早く伸びろ~伸びろ~』と呪文を掛けるような仕草をする、とっても愛らしいツバサの姿を鏡は目撃することになるのだった。 おしまい!

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