ついに対面する奇跡の統堂
圧倒的なモデル力に場を支配され、足が竦んでしまう
だけど、勇者はどんな時でも、どんな強敵を前にしても立ち向かう
退かない媚びない省みない
どんな白い目で見られても我が道を行く
だって、勇者だから!
今回予告【勇者綺羅星 対 奇跡の統堂 ~綺羅星死す~】
白けたデュエルスタンバイ!
◇UTX/第四トレーニングルーム◇
寝不足であっても決戦前。テンションは無事に上がっていた。これこそが仲間との絆。今まで片思いだった熱き想い。喫茶店では大分重かった上目蓋はきっちりと開いていた。
「こんな時に言う言葉はこれね。この目を抉りなさい、両手を砕きなさい」
「いいのかしら? じゃあスプーンと角材を用意しないと」
「ちょっと待って! いつもは私のこういう発言はスルーするじゃない。嬉々としてカットインしてこないで頂戴。しかも、選ぶ武器の選択がエグイわよ! 木材はともかく、スプーンって普通に恐ろしいわ」
角材は自分の貸した少年漫画がルーツだとしても、目を抉る手段でスプーンが出るのは恐ろしい。相手がヤンデレという特殊な人物であれば尚のこと。どこでも手に入るからより恐怖は増す。
「自分で言ったんじゃない。無責任な発言をするとか、ツバサさんは最低ね」
中二病に対してこの正論。問答無用で死人にしてから、執拗に鞭を打つ行為。自業自得にしてもこれはいと哀れ。
「ツバサさんは本当に最低ね!」
「何で二度も繰り返すの!? しかも語尾を強調してまで」
「あんじゅちゃん。あんまりツバサさんを苛めちゃダメだよ」
「今後人前に出るようになるんだから、変なこと言われないように躾けてるの。苛めてるわけじゃないから安心してね」
あんじゅはにこの頭を撫ぜながら、優しく諭す。が、その優しさはツバサへは配給されない。
「あ、綺羅星さんは統堂さんと入れ替えだったわね。卒業する人が要れば、入学する人がいる。其れが自然の摂理よ」
「しないわよ。一曲目すら歌わずに卒業って、スクールアイドルの七不思議になっちゃうでしょ」
「え、綺羅星さんがナナフシになる?」
「なれないわよ。ならないわよ。なるわけないでしょ!」
三段ツッコミで反撃するも、柳に風。スター状態での敵。ツバサの言葉なんてどこ吹く風で聞き流す。
「あぁ~でも何度見てもにこさんはUTXの制服が似合ってるわ!」
「ありがとうにこっ」
にこのサイズの制服を用意していたあんじゅ。今日は平日の昼間ということもあり、喫茶店で朝食を食べた後、目立たない内に登校し、部室で待っている間ににこがUTXの制服に着替えた。そして、授業を抜けてきた二人と合流し、第四トレーニングルームで英玲奈が来るのを待つ今に至る。
憧れのUTXの制服を着ていてにこは感動していた。真新しい白を強調した素敵なデザインの制服。生徒ではないのでコスプレと同じだけど、あんじゅとツバサと同じというのはより感動を誘う。あんじゅが一緒に授業を受けたいと提案したのも、今なら充分に理解できる。
「うふふ。にこさんに着て貰えたことでうちの制服も価値が上がるわ」
「価値なんて上がらないよ」
「そんなことないわ。後でいっぱい写メ撮りましょうね」
「うん!」
「あー……緊張が解れてるのはいいんだけど、仲間外れにするのはやめてもらえるかしら」
お泊まり会を経てから二人の距離はより加速した。喜ぶべきことなのだけど、ツバサとしては蚊帳の外にされるのは寂しい。
「神と人間は最初から仲間という括りじゃないと思うの。だから外れる以前の問題だわ」
「うぐぅ! 人のネタを後々まで引き摺るのはヤメて欲しいんだけど」
「自分の発言に責任を持てないからそうなるのよ。頭で考えてから口を閉じてなさい」
「そこは口を開きなさいでしょ!」
約束の時間はもう間もなく。だけど前日の不安は微塵もない。緊張はあるが今は三人が三人共その緊張を楽しんでいた。まだ一曲もできていないけど、ファーストライブの前の疑似体験のように感じる。そして、そのファーストライブを経験する仲間を手にする。今日は特別だけど通過点に過ぎない。
ふと、沈黙の帳が降りる。顔を見合わせて笑顔を浮かべて覚悟を決める。今になって自然と理解した。仲間を手にする為に策なんて要らない。ただ真心の篭もった言葉を使って説得する。可能性があるのなら心に響いて、差し出した手を握り返してくれる。正道とはそういうもの。
――そして、扉がノックされた。ツバサが返事をして、奇跡の統堂が姿を現し、短く挨拶をした
瞬時に人を惹きつけるカリスマ性。玲瓏と表現するに相応しき声。深き黎明を写す長い髪。芯の強さが窺える澄んだ眼差し。初対面の相手でも堂々とした立ち振る舞い
にこは生まれて初めてモデルを間近で見た。綺麗だと思う。魅力的だとは思う。だけど、初めてあんじゅを見たあの瞬間の衝動とは異なった。英玲奈のことは言葉で表せる。あんじゅの時は言葉を忘れた。
ふと、視線をあんじゅに向ける。最初から自分を見ていたようで、あんじゅと視線が通い合った。心を読まれていたようで恥ずかしさが込み上げてくる。心の内を誤魔化すように、はにかんだ笑顔を浮かべた。
「にこさん可愛い!」
絶対に勧誘を成功しなければいけない初対面の相手。その人物の目の前であっても、決してブレることのないあんじゅの恋心。にこの顔を胸に抱きしめながら、可愛いを連呼する。ツバサは大げさでも何でもなく、顔を手に当てて天を仰いだ。そして、強く思う……これは駄目かもしれないと。
◆UTXスクールアイドル部・部室◆
【綺羅ツバサ】HP4000 【統堂英玲奈】HP8000
本当は第四トレーニングルームで話し合いを始めるつもりだったのだが、あんじゅの暴走があったため、心機一転する意味で自分たちのフィールドに場を移した。さぁ、ゲームを始めましょう。あんじゅの失態を忘却の彼方に送り、疾風の綺羅星を召喚。
『疾風の綺羅星』攻撃力1400 守備力1600
フィールド効果によって攻撃力600アップ。そして、このカードの特殊効果を発動!
△先手必勝(効果:召喚ターンであってもこのカードは攻撃ができる)
ツバサはもう失敗を前提にして楽しむことに切り替えた。言わば「貴女、弱いわね」と呼ばれるサブキャラ扱いで構わない。楽しめればそれでいい。自分が楽しめないで相手が楽しめる訳がない。こんな時に使うのは唯の暴論である。生徒会長の時は失敗したけど……今度こそ、ずっとツバサのターン!
「まず初めに私達はスクールアイドルという者よ。部活動でするアイドル活動と思って頂戴。ただし、遊び半分じゃない。三年間という限られた時間の中で、花開かせることを目的とした真面目な物。決してプロのアイドルの真似事じゃない」
「作詞も作曲も衣装も振り付けも……全部自分達、もしくは自分達に手を貸してくれる学生によって補う。スクールアイドルに背景はない。故に私達が歴史を作る。まだここに居る三人と、北海道に一人しか存在しないけどね」
「だけど、これだけはハッキリと言えるわ。誰かで代用できるモデルとは違う。スクールアイドルに明確な利は存在しない。だって部活だから。お給料はない。大会もない。そもそも広まってすらない。ないない尽くし」
「貴女に特待生という極僅かな限られた人間にしか成れない立場を捨てて、モデル界百年に一人の奇跡という名誉を捨てて、私達とスクールアイドルを立ち上げて欲しい。つまりこれは奇跡の統堂のスクールアイドルへの勧誘」
ツバサは一度言葉を切って、英玲奈の様子を窺う。だけど、目に見える変化がない。完全に響いていない!? 焦りを感じながら装備カードを取り出し、疾風の綺羅星に貼り付ける。
△ミルキィーウェイ(効果:夜空属性のみ装備可。攻撃後に装備することができる。手札を二枚捨てることによって、自身の攻撃フェイズ中に再度攻撃ができる。この効果は一ターンに一度のみ適用される)
「百年に一度と言われても、何年かすればまた違う百年に一度が現れる。奇跡の名を汚すような渾名になってしまう。スクールアイドルはそうじゃない。貴女を入れて始まりのスクールアイドルは五人。二つのグループ。これは後の世に名を残す」
「不死の栄誉。どれだけ時が経とうと、貴女の名前は語り草になる。モデルという立場を、特待生という名誉を捨てた英断。これは普通からの脱却を夢見る子にとって、英雄譚と言えるわ。自分だったらそんな決断できないってね」
「何れ私はスクールアイドルの大会を作ってみせる。ラブライブと名付けた大会を。多くのグループが参加し、その頂を目指す。限られた中で咲かせた最高の花。最上のステージで輝く満開の笑顔。遠き大陸の少女達すら真似るように、スクールアイドルという存在が万物共通の物となるように」
頭で考えた言葉じゃない。実際に生徒会長の時は考えた言葉は雰囲気に呑まれ、最初は口を開くことはできなかった。でも、今は違う。矢澤にこという始まりのピースが居るから。だから強くなれる。スクールアイドルを誰にだって誇れる。これが絆ってやつよ!
「そう成る為には貴女という最高の存在が必要不可欠なの。統堂英玲奈さん。一緒にスクールアイドルを始めましょう?」
【綺羅ツバサ】HP4000 【統堂英玲奈】HP4000
一気に削り取ったHPを確認(※ツバサ脳内のみ視ることが可能)して思わずドヤ顔を決めるツバサ。HPが半分から始まった不利な勝負とはいえ、1ターン目にうぬを言わさずに削ってしまえば関係ない。
――エンディングは見えた!
カードゲームで最もやってはいけないこと。其れは勝負の最中に勝利を確信してしまうこと。自分で言い出してなんだが、ツバサはサブキャラである。弱いのである。
「私にアイドルは向いてない。プロでも部活でも変わりはない。だから、お断りする」
『奇跡の統堂』攻撃力2400 守備力800 フィールド効果により数値より攻守200減
奇跡の統堂の攻撃により切り札である疾風の綺羅星を失い呆然自失。ずっとツバサのターンは実質1ターンで終了。新しい手札をドローするも、キャラクターカードはなし。もう不要として先ほど墓地に捨ててしまった。装備カードだけでは対応できない。
「自分でそうやって殻を作ってしまうのは駄目な人間の在り方よ。可能性っていうのはね、チャレンジしてみないと見えない物なの。掴めない物なの。目薬を差して始めて見える巻物だってある!」
其れはゲームの話であって、現実には適応されない。意味が通じない言葉は当然効果を発動しない。現実は非情なのだから。
「やる前から分かるよ。自分のことは自分が一番理解しているのだから」
英玲奈は分身の魔法カードを使い、奇跡の統堂のダブル攻撃!
!!オーバーキル!!
【綺羅ツバサ】HP0
(わ、私が……敗北、した? そんな、無敵の綺羅星デッキが……こんなこと、現実じゃないわ)
圧倒的敗北! まさかの4ターンで終了。正しく『貴女、弱いわね』と言われる台詞が似合うサブキャラレベル。見えないカードを床に散りばめ、両膝を着く。カードゲームで初めての敗北。両手をついて敗者のポーズ決め!
「さっきのドヤ顔なんだったのよ」
ヤンデレの申し子あんじゅの攻撃。もうやめて! とっくにツバサのHPは0よ!
「……返事がない。ただの敗者のようね」
「返事してるじゃない。やれやれ、統堂さん。うちのお馬鹿さんがごめんなさいね。これは頭がちょっと弱いのよ」
「誰がお馬鹿で頭が弱いよ! っていうか、これ扱いは酷いでしょ!」
死者蘇――ツバサは立ち上がると中二ゲームから現実に戻った。初めてのカードゲームは辛い記憶として過去の産物に変えた。打たれ強さだけは主人公級である。ツバサのターンに呑まれていたにこも思わず笑顔に変わる。
断りの言葉を言われても、まだ勝負は始まったばかり。こちらの想いは伝えきれていない。掛け替えのない熱い気持ちは燻ったまま。
「にこさんが居ながら勝手に出しゃばって爆死するとか、迷惑以外の何でもないわ」
あんじゅが出入り口を指差すと、強い語尾で命令する。
「綺羅星さん、ハウス!」
「犬じゃないわよ。って、何で桃太郎ネタ引き摺ってるの。私は雉でも猿でも犬でもないわよ」
「ツバサルさんはどちらかというと……まぁ、いいわ。先に授業に戻ったらどうかしら? やりたい事はもうやったでしょ?」
「ツバサルって言うんじゃないわよ! 仲間なんだから行く末をここで見守るに決まってるじゃない。仲間なんだから」
大事な事なので二度リピートしたというより、あんじゅには仲間と思われてない可能性があるので強調しておいた。思いっきり鼻で笑われたけど、ツバサは気にしない。だってあんじゅの言うとおりに、やりたい事をやりきった後だったから。
これからが本番。にこの熱き想いとあんじゅのにこを想う愛。どんな化学反応でどんな結果が待ち受けるのか。ツバサは仲間という名の解説役のように、心の中で一歩引いた冷静な状態でこの後のやり取りに期待する。
読めなかった。流石の中二病のツバサであっても、あんなことをするなんて、ツバサの魂を持ってしても読めなかった。フィールドが更に変化するなんてどう予想できるというのか。今日は完全な平日。されど、次のフィールドは……。
落ち担当「何よあの前書き! ネタバレじゃないし、私は何でいつもオチ要員なのよ!!」
ライフ0「いつか見返してやるんだからね~!」