「こんな感じでどうですか? 要望があればそれに合わせますが」
スクールアイドル部の部室を与えられて早三日。そこに付属されているPCの前に座っている零華がにこに尋ねる。
見た目的にも後輩に対しても口調を崩さない性格から、物凄く硬いスクールアイドル案内が出来上がるのではないかと失礼ながらも思っていた。
でも仕上がった物はにこが想像していたものよりずっと華やかで、出そうとした単純な褒め言葉は息と一緒に飲み込んでしまい、ゆっくりと首を横に振る。
「それなら良かったです。後は本格的に活動してから写真や歌等をアップすべきですね」
最高の評価を得たということで零華は満足気に微笑む。
「ただ部員が集まるかどうかという大きな問題がありますが」
たった一言で夢心地から一気に現実に戻された。
「そう、ですね。生徒数も少ないですもんね」
「以前も言ったように部活に対しての熱がほとんどない状態ですから」
この三日間スクールアイドルという活動内容を説明し、三つしかない一年生の教室を行き来して勧誘してみた。
だけど反応は冷ややかな物か、愛想笑い交じりの軽い応援が主で、少しでも部員になってみようかなと考えてくれた生徒は皆無。会長と目の前の零華が好意的だっただけに、期待が高まった分だけ現実の厳しさが胸にきた。
だからといって諦めるなんて選択肢はない。そもそもまだ一歩も踏み出せていない。ここで終えたら自己満足以前の話だ。
「それでも諦めるつもりはないのですよね?」
あたかも心を読んだかのような言葉に驚きつつも力強く頷く。
「私はコンピュータ部に新入生がくるとは思えず諦めました。生徒会に専念するという免罪符を掲げて……。そして、入れ替わるように矢澤さんが一人でも活動する意思を持ってここを使っている」
部室に案内された時、零華が語ったことを思い出す。三年生以外一年生の零華しか部員がいなくて、だから二年に進学する前に廃部を選んだと。諦めた原因は今述べたとおり。
「普段運命なんて信じてはいないのですが、今回ばかりは運命を感じます。だから決して諦めないでください。今年の秋から会長になって忙しくはなると思いますが力を貸しますので」
「ありがとうございます」
スクールアイドルを広めるという夢を諦められない理由が増えた。未来は闇の中に居るくらい暗澹としているのにその先には光が広がってると思える。
ううん、例え進んだ先に闇しかなくても自身で明かりを生み出すくらいじゃないといけないんだ。気合を入れ直す。
「スクールアイドル部の活動に手伝ってくれそうな部があれば声を掛けてみます」
「ありがとうございます!」
「お礼は不要です。一応私もここの部員ですし、何よりこれが切っ掛けでやる気を失っていた他の部が活発になれば生徒会としても嬉しいですから」
スクールアイドル自体はまだ一人だけど、一人ぼっちじゃない。だったら臆してないで二年生、三年生の教室にも勧誘にいこう。
待っているのは冷ややかな反応かもしれない。受験でそれどころじゃないと怒られるかもしれない。それでも活動しなければスクールアイドルは広まらない。
一年生達の反応を免疫として、心を図太く、言葉を巧みに、想いを強く、信念を持って行動を起こす!
――そう思って行動したにこだったが、結果は全滅。
「新しい何かを始めるっていうのは一筋縄ではいかないものよね」
「何か他の案を考えなければいけませんね」
作業をしながら話を聞いてくれる会長と零華。にこもただ話してるだけでなく、簡単な雑用を手伝っていた。普段生徒会で活動してるのは二人だけと聞いて、手伝わないという選択肢はない。
「最初だからこそ何か注目を集めることをしないと話題にもならないってことかしら?」
「人間の第一印象と同じく、物事も最初に強い印象を与えなければ難しいでしょうね」
「三人集まれば文殊の知恵っていうし、何か案を練ってみましょう。ということで矢澤さん、元気を出して」
「は、はい。すいません」
どれだけ心構えを強めようとまだ十五歳の少女。誰一人として関心を持ってくれなかったことが再び大きなダメージとなっている。今やってる雑用も恩返しの面もあるけど、こうして話しながら作業をすることで心のケアになっているからだ。
「ハーフとかクォーターの生徒がいて、勧誘に成功すれば少なくとも学内で注目されそうだけど」
「そういうのはUTX高校の分野ですよ。音ノ木坂学院にそんな都合が良い目立つ生徒はいません」
「歌と踊りが得意で責任感も強いそんなハーフかクォーターの子が」
「ですからそんな生徒存在しません。物語の中じゃないんですから」
突っ込みを入れられ、会長の動きが止まる。いつもは簡単にスルーするところなのにと零華が怪訝そうに見ると、
「そうよ、学内にいないのなら外で捕まえればいいのよ。まずは広めることが先決だもの」
これ以上ない名案とドヤ顔する会長。
「えっ? どういう意味ですか?」
零華より先に疑問を口にしたのはにこだった。藁にも縋るように返答を求める。
「UTXの一般生徒にスクールアイドル部を設立してもらう。注目度は比べるまでもなく向こうが上なんだし、スクールアイドルの立ち上げとしての特別グループみたいにすれば良いんじゃないかしら?」
「なるほど。本来のルールに拘るのではなく、あくまでデモンストレーションとして学校の枠を越えてグループ化すると。新しい物好きっぽいUTX学院の生徒の方が食いつきは良さそうですね」
「乗り気じゃない生徒達に縋って時間と気力を無駄にするより、乗り気にさせる環境を作った方が効率的でしょ?」
自分じゃ思いつかなかった発想に流石会長と心の中で拍手する。可能性がありそうな生徒がいなかった時点で、無理に勧誘を続けてもスクールアイドルに悪い印象を付ける恐れがある。
でも、UTXから広まった後なら自分もやってみようと思ってくれる生徒が現れるかもしれない。そうなったらにこ自身も音ノ木をメインに置けばいい。
ただ最大の問題はUTXには本物のアイドルを目指す芸能コースの生徒達が身近にいるということ。紛い物という印象を抱かれるかもしれないし、芸能コースに入れなかった生徒のお遊びと見下される可能性もあるかもしれない。
他校の生徒からの勧誘ということも足を引っ張るだろう。人数こそ音ノ木と比べて多いが勧誘できる可能性はより低くなる可能性が高い。だけど、成功した時のメリットの高さもまた比べ物にならないくらいに高くなる。
「明日にでもUTXに行って勧誘してみようと思います。駄目で元々でも行動しなくちゃ可能性はゼロですから」
この決断が自身の人生を大きく変えるターニングポイント。普通という道から外れることになるとは露ほどにも思っていなかった。