矢澤にこ自身がラブライブ   作:にこあん

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5.わたモテが面白すぎて凍結していたのはニコが悪い。(敬称略)

◇にこの部屋◇

 昔、といっても幼稚園の年少組の頃の話。ツバサは女の子であったが、夕方のヒーローに強い憧れを抱いた。一度は窮地に立たされるも、仲間の支援によって勇気を与えられ、基本的には拳一つで大逆転。

 時には勇士と力を合わせた攻撃を繰り出したりもする。幼いながらもヒーローという生き様を心に焼き付けた。強さだけじゃない。時にはライバルの窮地を救う心の広さも持ち合わせている。初めて見た時は言葉に出来ない驚きがあった。

 だって、いつも皆に迷惑掛けているライバルを助けるのが理解不能だったから。今ならその熱さが十二分に理解出来るけど、あの頃の自分に理解しろというのが無理な話。だけど、強く胸を熱くさせたのを今も覚えている。そして、其れ以上の衝撃と興奮が待ち受けていた。

 言わずもがなだけど、大いなる敵に対してヒーローとライバルが共闘する姿。いつもはお互いに戦う仲でありながら力を貸し合うことが出来る。これが綺羅ツバサを少年誌好きにするルーツ。

 父親の少年漫画やレトロゲームを嗜むようになり、バスケ漫画を一番に影響を受けてバスケットをしていたが、背が伸びなかったこともあり、今は立派な中二病の勇者である。ちなみに小学生に上がる頃にはヒーローからライバルの方に鞍替えしていたことだけど、其れはまた別のお話。

 ツバサは静かに考える。自分とにこの心の在り方。その器の違い。どれ程考え方を真似ようとも、偽者は本物に成ることは出来ない。模写した絵が本物を超えることが不可能のように、忍術で相手の火竜を真似ようと、新しい火竜を出されては太刀打ち出来なかったように……。

 そもそも同じになる必要なんてない。同じ力を持った者が集まっても面白みがないし、効果を重複するとも思えない。個性こそが力。一番大切なのは志。目標とする地が同じであるのならば、そこへたどり着く道が異なっていても構わない。

 邪道ではなく一緒の正義を貫くと過去に口にしたけど、間違いなのかもしれない。矢澤にこは夏を彩る熱き太陽。誰もが憧れ、一度は手を伸ばすような存在。だけど、正義にとって悪は必要不可欠。太陽があるのならば月もまた必要となる。

 

 自分が目指すべきは夜。静かなる闇《夜》を淡く照らす《月》の《神》になるべきなのだ。キラなだけに!

 

 決めるべきは覚悟。邪道と呼ばれ泥水を掛けられてでも、自分を貫く勇気が必要。先程のにこの覚悟を見て、泥を被る勇気を持てないなんてありえない。邪道という泥水の中で、もがき続けながらも皆と同じ場所に辿り着いてみせる。

 UTXの短い歴史の中で一番優しい生徒会長。ならばその隙を突く。許容されうるであろう限界まで邪道を行って、正道では出来ないことをしてスクールアイドルを広めてみせる。勿論、広まった後ならばその行いも正道と呼ばれるような物でなければならない。

 制限の掛かった邪道は普通の物より厳しい。特に自分は他の三人に比べて知恵や発想力に乏しい。今回の一軒で行動力も劣っていることも分かった。勝ってる部分なんてほとんどない。でも、逆に言えば今は膝を曲げた状態とも言える。高く高くこの空を舞うには大きな助走が必要。そして、その助走の最後は力いっぱい膝を曲げて大地を蹴り出す必要がある。

 だから今はその飛び出す前の待機期間。力を溜めている状態。空を越えて宇宙にまで届いてしまうくらいの力を蓄えられる瞬間。今なら何だって言える。どんなことだって起こりえるかもしれない可能性の中にいるのだから。

 人と違うからと臆する暇があるのならば、人に疎まれてでも行動する。矢澤にこの秘めたるカリスマ性が世を圧すると信じて。優木あんじゅの何を引き出してくるか分からないパンドラの箱のような魅力を信じて。統堂英玲奈のモデル時代に培った全てを覆す更なる成長性を信じて。

 どんな未来が待ち受けてでもめげない。零ではない可能性を信じるというのはとても困難で、だからこそどんな現実でも受け入れる。強大であればあるほど経験値を得ると信じて。そう……信じていた。あんなことが起きるまで。

 

【終わりのない夏休み・綺羅ツバサ編 突入 ※R-25】

 

 「はぁ~ん! にこさんの匂い。スンスン」

 

 勿論検索してはいけないような物語に突入する前に、ツバサの現実逃避は終わりを告げた。のだけど、あんじゅの変態は終わっていなかった。許可は取ったとはいえ、本人目の前でベッドにうつ伏せになりながら匂いを嗅ぐのは流石に……。

 にこはまだあんじゅへの耐久があるし、今までが今までだから大丈夫だろうけど、問題は新メンバーである英玲奈だ。昼食まで喫茶店で自分達の過去話をして信頼を深めたとはいえ、こんな変態図を見せたら脱却の危機である。

 モデルを辞めてでもスクールアイドルになってくれると、メンバーに入ると、そう言ってくれたのに。数時間後にメンバーが変態的過ぎて辞めるなんてなった日には、悲劇にも喜劇にもなれない物語になってしまう。

 恐る恐る英玲奈の顔を盗み見る。そこにあったのは軽蔑や呆れ顔ではなく、慈愛に満ち溢れた穏やかな微笑み。マリアさまと書いておかあさんとルビを振ってしまいたくなるような光景。統堂英玲奈で検索した時にヒットした画像には一枚もなかったそんな慈母に溢れる表情。

 恋をすると人は変わると言うけど、恋が実ったらやはり人は変わるのかもしれない。

 いい変化なのだろうけど、こんなことで其れを知るのもなんか無性に悲しい気分になった。現実逃避に今度は喫茶店での出来事を思い出す。

 

 

◆喫茶店◆

「そういえば、にこさんのお母さんに謝るのなら私も一緒に行きたいんだけど」

 空気を読まないツバサの発言があんじゅの逆鱗に触れた。GWの映画の時と同じ過ち。ツバサとて疎外感から言ったのではなく、責任を感じての発言だったのだが、そんなことは関係ない。オーラが見える人間がいたら恐怖に慄いただろう地獄の業火を纏いしヤンデレ姫。

「あら? 今綺羅星さんはおかしなことを言ったわね。生きたいと言いながら地獄に落ちたいと願うなんて」

 人の恋路を~というお約束の返しがなかった時点であんじゅの怒りを踏み抜いている。そう察したツバサではあるが、ここを引くわけにはいかない。にこ自らが英玲奈勧誘の場に参加を希望したとはいえ、そうさせてしまったのは策を思いつけなかった自分が原因だ。誰にも期待されてなかったかもしれないが、自分がそう出来れば全て丸く収まっていた。

 そう思ってしまったからには引けない。引く足を地雷という名の怒りのグレイモアに吹き飛ばされて引けない訳じゃない。若干与えられるあんじゅさんの本物の殺気(?)に足が震えているのは内緒なんだから!

「ここが法廷なら裁判官は綺羅星さんにこう仰られるでしょうね」

 

『汝、今ここで極刑に処す』

 

「裁判官自らが処刑人になってるじゃないの!」

「其れが嫌なら大人しく家に帰り、膝でも抱えてケチャでも口ずさんでいるのがお似合いだわ」

 

 まるで冗談を言っているように傍から聞こえるように偽装しながらも、その声に乗る確かな色が狂気であり、確実な攻撃性のある凶器でもある。あんじゅが一言を喋る度に、ツバサの心のHPがガリガリと削られていく。ステータスは大恐慌。相手の攻撃を避けられず、必ずクリティカルダメージを受ける状態。

 だけど勇者はどんな強敵にも逃げたりしない。膝を着いても心は絶対に屈しない。武器を失っても諦めない。だから今も立ち向かう。例え相手が仲間であっても。否、対等の仲間だからこそ引くわけにはいかない。

「謝罪すると共に少しでも作詞を進めましょう。にこさんが言ったとおり、この罰こそを未曾有の好機とするべきでしょい」

 恐怖の余りに最後に噛む辺りが勇者レベルの低さが伺える。

「英玲奈さんの彼を同じ場に招かず作詞するのに対し、自分だけは同じ場で作詞をしたいと。随分と自分勝手な言い分ね。しかも、スクールアイドルの活動を人質に使うとか最低ね。そんな人だと思っていたけど……貴方は最低よ!」

 あたかも其れが世界の事実だと告げるように力強く。頬を叩かれたかのような衝撃がツバサを襲う。この時、どこかで努力家の中学生剣道少女がくしゃみをしていた。

「さ、最低ってことはここからどこまでも飛べるということよね。高く高くこの空の向こうまで。其処にはある。果てしないスクールアイドルロードが。私には見えるわ」

 ピンチの時にライバルに言われた言葉を、後に主人公がライバルのピンチの時にアレンジして返すのって素敵よね。なんて現実逃避しているツバサ。

 

「勝手に勘違いしているようだけど、最低ってことはその先には絶望の生と、その末に待ち受けている死しかないってことよ。

 

――いっぺん 死んでみる?」

 

『人間一度しか死ねないわよ!』

 なんて安易な返しすら出来なかった。

 背筋に氷水を垂らされたようなゾクっとする感覚。耳鳴りすらするかのような感覚。真の無重力の闇に突然投げ捨てられたかのような感覚。これが正真正銘の間違いない殺意の感覚。恐怖の余り感覚を連呼しながら、流石に直球で投げられた死という言葉ににこの擁護を待つ。

 だけど、にこはあんじゅの家で遊んだ時に元ネタの映画を観たのでスルー。いつもの言葉のじゃれ合いだと思ってしまった。事情を知らないツバサにとっては孤立無援。実は嫌われているんじゃないかと心配してしまう。そんな無駄な心配の中、救いの手が差し伸ばされる。

 

「今回の件は全て私の所為だから。私も是非謝罪させて欲しい」

 

 確かなる決意と詫びる心を秘めた英玲奈の言葉。その覚悟を静かに飲み込むと、あんじゅは一度頷いた。

 

「にこさん。英玲奈さんも一緒でいいかしら? これからスクールアイドルを始めるのに、心のしこりを残しておくのはよくないわ。あ、ちなみに私の父は忙しいし、母は理解力があるから大丈夫よ」

「うん、それはいいんだけど。別に謝る必要なんてないから」

「いや、これはモデルだった私の最後のケジメ。新しく始める為には絶対に必要なことだから」

 英玲奈の譲れない想いを感じ取り、にこは素直に受け入れることにした。相手の気持ちをないがしろにする遠慮はしちゃいけないから。そんな中、蛇に睨まれた蛙状態だったツバサの思考も復帰する。自分とは明らかに違うあんじゅの反応。友達と言われて間もないのに明らかな差異。

「あんじゅさん。どうして私をナチュラルに外すのかしら?」

「えっと……自首するのならお早めにした方がいいわよ?」

「何の罪よ!?」

 先ほどの殺気が嘘のように普通に戻るあんじゅ。ヤンデレの恐怖を身を持って感じながら、話を戻した。

「私も絶対ににこさんの家に行くからね!」

「ストーカーは立派な犯罪よ」

「ヤンデレのあんじゅさんに言われたくないわよ!!」

 

 

◇にこの部屋◇

 何だかんだありながらもこうしてにこの家に来てたんだけど、肝心の母が買い物に出掛けていて不在。そんな訳でにこの部屋にて待つことになったのだけど、問題は直ぐに起きた。あんじゅが目を爛々と輝かせて、

「にこさんにこさん。ベッドに横になってもいいかしら?」

 これ以上ないくらい期待の眼差しでにこを見つめた。

「制服皺になっちゃうよ?」

 にこは部屋に案内した後、部屋着に着替えたがあんじゅ達は制服のまま。

「大丈夫。クリーニングに出すから!」

「だったらベッド使ってもいいよ。ツバサさんと英玲奈さんはクッションに座ってね」

 そして、あんじゅの変態が始まった。

「にこさんの始まりと終わりを司るベッド。……はぁ~。にこさんの匂いがするわ」

 詩人のようでただの変態発言に、幸せのため息。そして、変態発言。あんじゅに対してもう引くことはないと思っていたツバサだけど、これにはドン引きだった。そして始まる現実逃避。冒頭の流れを経て、物語は現在へと戻る。

「うふふふ。あぁ……にこさんの枕」

「枕は駄目。洗ってるとはいえ、涎とか染み込んでるかもしれないから」

 その発言はあんじゅにとって目から鱗。ミッシングリンクに辿り着いた探偵のような高揚感。今以上に頬を赤らめながら愛を求める。

「にこさんの枕が欲しい」

「だ~め!」

 残念というか当然ながら拒絶。あんじゅの欲望は遮断された。

「にこの膝で我慢するにこ」

だけど、代替案と言わんばかりにベッドの上に正座すると、膝枕を提案する。

「っ!?」

 今日は本当にどうしてこんなに甘く優しいのか。理由は全く分からないけど、最上の日であるのは確かだ。うつ伏せから仰向けになると、遠慮なく頭を乗せる。そんなあんじゅの髪を撫ぜながら笑みを見せるにこ。完全に二人の世界。

 ツバサは戦慄にも似た衝撃を受ける。大きいとは思っていたけど、にこの器の大きさが自分の想像を超えている。現実の重さがまるで違う。自分のベッドの匂いを嗅いでた相手に、こんな風に優しく出来るとか。

 勢いで邪道を歩むとか思っていたが、もっと断固足る決意が必要なのかもしれない。例え自分が退場することになったとしても、ラブライブ開催が行われる夢を現実にする為に。

 

「……」

 

 夢とは成長と共に形を変え、大人に近づくに消えていく。経験を積めば積むほど、現実が大きな脅威を知ることになるから。だけど、矢澤にこは中学三年間を賭して夢を形にし、今その夢を叶えるべく現実に立ち向かっている。

 だからこそ、安易な退場などありない。其れはにこの夢に泥を塗る行為でしかない。そして、今の覚悟では重さがまだまだ足りない。どれくらい自分の中の想いを強く出来るのか。どれ程多くの経験を積めるのか。……本当に自分は未熟だ。

 変態ヤンデレあんじゅを見て決意するような内容では到底ないのだけど、ツバサは深く想いを改めた。そんなツバサを嘲笑うかのように、今度はあんじゅが驚きの発言を繰り出す。

 

 にこが紡いだ運命の糸で、あんじゅが大きな輪を作り出す

 

 乙女たちは、導かれるように出会い、つながっていく――




加藤さん×もこっち…………かゆ……うま
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