矢澤にこ自身がラブライブ   作:にこあん

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私には甘えん坊の妹が――いる。


8.亜里沙 ~いもうと~前編

私には甘えん坊の妹が――いる。

 

◆過去編「始まりの記憶」◆

私、絢瀬絵里の一番最古の記憶は雪の降るロシアの街並み。

母に手を繋がれながら「もうすぐお姉ちゃんになるのよ」と、言われたのを覚えている。

お姉ちゃんになるという言葉に対して、どういう感想を抱いたのかまでは定かではないけれど。

二歳児であるから、特に何かを考えていた訳ではないと思う。

それでも覚えているのが不思議だった。

 

次に記憶に残っているのは妹の亜里沙のオムツを、母に操られながら替えているところ。

この話をすると亜里沙が顔を赤らめながら恥ずかしがるので、時々からかってしまう。

 

両親が赤ん坊の亜里沙に掛かりきりになり、お婆様と一緒に居る時間がグッと増えた。

この頃からは記憶が段々とハッキリとしていく。

「エリーチカの生まれた国の話よ」と、若い頃に住んでいた日本の話をよくしてくれていた。

ロシアの記憶しかない幼い自分にとって、日本で生まれたと言われても実感がまるでなく。

けれどお婆様がしてくれる話は、私にとって宝石箱を開けるようなワクワク感があった。

 

特に好きだったのが音ノ木坂学院の話。

今の落ち着きあるお婆様からは想像できない、腕白なエピソードの数々。

学校という概念を理解できなくとも、胸のドキドキは止まらずに高鳴った。

私が亜里沙に対して嫉妬せず、仲良くなれたのはお婆様のお陰。

この時は良く分からずも、自分も音ノ木坂学院に通うことになると思っていた。

 

そして、運命の出会いが待ち受ける。

お婆様が愛してやまないバレエを二人で見に行くことになった。

どうという日ではなかったのに、帰りには忘れられない特別な日に変わっていた。

覚えたての日本語を忘れるくらいに、ロシア語で捲くし立てるように感想を言う。

初めて興奮するという経験をしたのもこの日。

家に帰ると見様見真似でバレエを踊ったわ。

足が絡まってこけても、全然痛みなんて感じないで直ぐに踊りだして。

楽しくて楽しくて仕方なかった。

 

数日後にバレエ教室に通うことになったのは、お婆様が孫に甘い証拠。

尤も、バレエ教室とは名ばかりのバレエ体験みたいなものだったけれど。

生徒の年齢を考えれば当然だけど、それでも私は真剣に学んだわ。

子供の遊びにも似た中で、一人その才能を発芽させた。

 

小学生の子供達と混じってレッスンするようになり、経験と年の差がありながらも、短期間にその差を埋めていった。

天才やバレエの申し子等と褒め称えられた。

何より嬉しかったのはお婆様が自分のことのように喜んでくれたこと。

だからプロのバレリーナになることを夢とするのは必然だった。

其れは一人の夢ではなく、お婆様と二人の夢。

丁度この頃「ねーね」と亜里沙が私を呼んでくれるようになった。

 

満たされることがあるというのは自信に繋がって、亜里沙の面倒を見ようとお姉ちゃんの自覚が芽生え始めたわ。

 

「おばあちゃま」「ばれぇ」「ありーちか」「れんしゅう」

 

この時期の私がよく口にした代表的な言葉。

 

 

◇白い季節◇

「もしもし、英玲奈? 突然モデル辞めたりして心配になるでしょ。かといって事情が事情だけに気軽に連絡していいか迷うし」

 電話の相手は昨日突然モデルを引退することを発表した統堂英玲奈。所属事務所は別ではあるけど、同い年ということもあって仲の良い間であると思っていた。

 だけど、今回の件は何の説明もなし。当事者であれば説明する暇等なかったと知ることが出来るが、部外者であった絵里には無理からぬこと。

「好きな人がいたことも初耳だし、スクールアイドルっていうのも初耳だし。モデルを辞めてまでしたいことなの? それにしても唐突過ぎるでしょ。ここまでのことをしなければ事務所を移すことで解決できたかもしれないのに」

 心配を織り交ぜた愚痴を言ってしまうのも止む無し。其れが絵里の優しさ。だからこそ英玲奈は素直に『ごめん』と謝罪を口にする。

 

「もう。素直に謝られると言葉を続けられないじゃない」

 

 困ったような声を出しつつ、絵里の中の心配が安堵に解けて消えていく。責任感の強い英玲奈が思い切ったというか、思い切り過ぎた行動をしたことに心底心配しかなかった。心を二倍使うくらいには本当に不安だった。

「大丈夫なの?」

 

『自分で選んだことだから』

 

「そう」

 芯の強さを感じる言葉に、既に何かを言える状況は終わっているのだと実感した。自分で考えて選択したのなら、他がとやかく言うことじゃない。例え其れが仕事を辞めることであっても。例え其れが夢を諦めることだったとしても。

 きっと、ううん。絶対に後悔なんてしないんだって伝わってきた。覚悟を決めてから選択することが出来る強さが眩しかった。

 自然と過去の自分と照らし合わせてしまう。夢を諦めなければ素敵な出逢いの数々がありえなかった。だからこそ、後悔なんてしていないと今なら胸を張って言える。だけど、絢瀬絵里には未だ失った夢という部分は[  ]のまま。そこに何かが記入されることはない。

 モデルをしている今でも、仕事であって夢にはなりえない。あんなにも夢中になれるものとは二度と巡り合えないかもしれないと思うと、少しだけ寂しさを覚える。後悔に似て異なる感情。

 だけど決して消えることなく、影のようについて回る。目を背けても消えたりはしない。再び夢を灯せるまで消えることはないのだろう。だからずっと、消えることはないのかもしれない……。

 

 

◆過去編「終わりと始まり」◆

「ねーね!」

甘えん坊な妹は姉である私にとても懐いた。

何処に行くにしろ後ろをついてくるのが当然だというように、常に私と一緒にいたがる。

これだけ懐かれるとそれはもう、お姉ちゃんとしての自覚がグングン成長する。

元気一杯で落ち着きのないのが幼い子特有のもので、だけどそれが本当に可愛い。

そんな元気っ子な亜里沙も、私がバレエで踊る時は不思議と静かになった。

バレエの練習に励みながら、亜里沙にとってのいいお姉ちゃんになる。

充実した毎日が加速して、時間がとても短く感じていた。

 

昨日できなかったことが今日はできるようになる。

今日できないことは明日できるかもしれない。

頭で覚えること、体で覚えること、心で覚えること。

色んな体験が小さい私の中を巡って力になる。

まだまだ先の未来だけど、着実に夢へと続く道を歩んでいた。

だけど、その道は二手に分かれることとなった。

 

「……え?」

 

最初何を言われたのか理解するのに時間を掛けた。

ゆっくりと伝えられた言葉を噛み締める。

小さくても理解するのは簡単な話。

ロシアか日本のどちらを取るか。

お婆様と夢を叶える為に今を継続するか、両親と亜里沙と一緒の時間を選ぶのか。

 

「ねーね! ねーねっ!」

 

離れ離れになるかもしれないと本能的に知ったのか、亜里沙が大泣きした。

今この場で決めるというような話では当然なかった。

けど、ここで決めないと絶対に夢を取ることは出来ない。

泣きじゃくる亜里沙を見てそう確信する。

 

「……わたしは」

 

いいお姉ちゃんであることは大切だ。それを分かっているけどまだまだ幼い。

自分の初めての好きを、初めての夢を諦めたくないと思ってしまうのは仕方のないこと。

だって、この夢は大好きなおばあちゃまと灯している物なのだから。

正直、ロシアに残る気持ちの方が大きかった。

このままバレエを続けていきたいと願っていた。

だけど、そんな想いは一つの魔法に包み込まれる。

 

「ぉねーちゃ!」

 

初めて亜里沙が私をお姉ちゃんと呼んでくれた日。

私が人生で初めて決断を下した日。

夢を諦めて日本へ行くことを、泣きながらお婆様に抱きついた思い出の夜。

プロのバレリーナよりも、私は亜里沙のお姉ちゃんであることを望んだ。

亜里沙の笑顔を優先したことに後悔はない。

日本で待っていたのは、夢よりも大切で掛け替えのない絆なのだから。

 

 

◇素晴らしき夢をもう一度◇

『それで謝罪ついでにお願いがあるんだ』

 そんな英玲奈の声で思考が過去から今に戻る。

「お願い? 英玲奈がそういうことを言うなんて初めてね」

 誰かに頼りにされるということが、絵里にとっての生き甲斐となっている。

『専門校とモデルの仕事で忙しいとは分かっている。それでも、絵里さんの力を貸して欲しい』

「私の力?」

 相手が同じモデルでなかったら、事務所を紹介して欲しいとか、モデル仲間の誰々に会いたいとか想像できる。だけど、昨日まで同じモデルである英玲奈から言われると謎めく。

 だからわざとからかうように先手を打ってみた。

「もしかして私の事務所を紹介して欲しいとか? そうね、うちは小さめだから彼氏持ちでも了解してくれると思うわよ」

『ううん。モデルはもう懲り懲り』

 断られると分かった上での発言だったけど、少し残念な気持ちが生まれてしまう。同じ所属になれば今まで以上に関わることになって、かなり楽しい未来が待っていただろう。だからこそ気になる。

「モデルの仕事嫌いだった?」

『そんなことはない』

 即答で否定してくれた。実は嫌々だったとかだったら、けっこうなショックを受けたことだろう。知らずに安堵の息を吐いていた。

『応援してくれたファンと事務所の人達には悪いと思ってる。でも、私にモデルは背伸びな行為だったんだ。間違ってたとは言わない。だけど適正ではなかった』

 百年に一度の奇跡と言われて適正じゃないって、他の人なら否定して欲しくて言ってる言葉だろう。英玲奈の性格を知っているからこそ、そうじゃないと分かる。他がどう思おうと、当人は心の底からそう思っているみたいだ。

「モデル業界としては随分と勿体無い話だけどね」

『ありがとう』

「もういいわ。で、私の力が必要って何の話なの?」

 心の整理がつくのは少し先になるけど、頭を切り替えることにする。いつまでも未練のように話を続けても仕方がない。モデルである統堂英玲奈はもういないのだから。

『最初に一つ聞きたいことがあるんだけど、絵里さんは踊ることが好き?』

「当然好きよ」

 先ほどの即答のお返しという訳ではないけど、絵里は間髪入れずに答えた。好きでなければ今もまだダンスを習ったりはしてない。バレリーナになる夢は無くしても、踊ることが好きなのは変わらない。きっとこの先も変わることはないと信じてる。

『これはお願いというか、私の我侭なんだけど』

 英玲奈はにことあんじゅを真似るようにその単語を使う。背伸びしすぎたからこそ、出会えたんだ。今よりずっと身も心も強くなれる機会を得たのだ。自分を追い込んで尚、その先を目指そうとする気高さ。高校生活の最後までスクールアイドルとして共に歩み続けたい。今度は背伸びなんかじゃなく、等身大の自分のままで。

『私達にダンスを教えて欲しいんだ。今から最高のスクールアイドルに成れる様に。限りなく零に近い可能性を百にする為に』

 スクールアイドル。昨日その言葉を知って、どういう物か調べた人は多いと思う。絵里もその中の一人だ。部活でやるアイドルの真似事。そんな感想を少し抱いてしまったけど、其れが失礼なことだったのだと今の声を聞いて悟る。英玲奈が志す夢を口にしているのが伝わってきたから。

「ダンスの経験はあるの?」

『UTXの授業で創作ダンスはまだ先だから本当にゼロと言える』

 にこはアイドル好きなので、振り付けとか真似て踊ったりしていたらしいが、本格的な指導は当然受けていない。ならば変にあると言わない方が得策。

 

『完全な素人を最高にする為に力を貸して欲しい』

 

 心配していた相手からの無理難題の要求。モデルからかぐや姫になったのね、なんて軽口を叩ければどれだけ楽なことか。呆れるべきか、それとも笑うのが正解なのか。何故だろう。忘れていた鼓動を感じた。二度と手に入らない夢への道がぼんやりと見えた、そんな気がした。

いや、そんなことはありえない。

 

 あり得る筈がない。少なくとも専門校の絵里がスクールアイドルになれることはない。なるつもりがある前提としても、だ。だから夢になる筈がない。色々と衝撃的で思考がブレたのかもしれない。未来の自分が辿った道を過去の自分へと見せた奇跡。或いは軌跡。なんて少しだけメルヘンチックな思考をしてから、

 

「ダンスは好きだけど、教えた経験なんてないわ」

 

 半ば断りにも似た返事をする。一流の選手が一流のコーチになれるとは限らない。これはスポーツ界で有名な言葉。今は趣味の域である絵里には荷が重い。

 

『絵里さんの力が必要なんだ。だからお願い』

 

 責任重大過ぎて容易く引き受けるなんて出来ない。だから断るのが正解だ。そもそも、英玲奈が辞めた穴埋めが他のモデルに飛び火するのは確定した未来。絵里も今以上に忙しくなるだろうし。

 

 だから断る。断るのが当然だ。

 

 ……其れなのに、否定する言葉を出せない。

 

 寧ろ思ってしまう。夢を諦めたことで出逢えた絆があったように、夢を志した経験が今度は新しい絆を与えてくれるんじゃないかと。

 

 期待してしまう。その先に二度と灯ることのない 夢 が待ち受けているのではないかと。

 

 今度は自分自身だけで灯す夢が。

 

 だが、絵里の予感は外れる。

 

「詳しい話を聞くわ」

 

 一人の夢ではなく、みんなの大きな夢となるのだから。

 

 もしあの時、断っていたら私は一生夢と巡りあえなかったって確信してるわ

 

 これは綺麗な笑顔で何度となく口にする未来の絵里の言葉。絵里にとっての第二の夢。其れはスクールアイドル達との邂逅で始まっていく……。  亜里沙 ~いもうと~後編につづく




次世界予告
※これは今は亡きセガサターンの隠れてた名作【慟哭 そして・・・】の理不尽過ぎる(ry

【慟哭 どうして・・・編】季節は真冬
――?部屋
「あれ? あんじゅ、ちゃん。ここ……どこ?」
「よかった。にこさんが目を覚まさなかったらと思うと私、怖かった」
にこが目覚めたのは見知らぬ部屋の見知らぬベッド。
あんじゅと二人でバスでの帰り道。そのバスと対向車が正面衝突し、咄嗟にあんじゅを庇ったことを思い出した。人生で初めて気絶していたらしい。
「それでね、にこさん。私は犯人は綺羅星って男性だと思うの」
「え!?」
意識を取り戻したばかりだからだろうか? あんじゅの言葉が理解できなかった。
「綺羅星っていうのはバスに激突してきた車の運転手よ」
「う、うん?」
「バスに正面から突っ込んで無傷でいるとか怪しすぎるわ。犯人修正で傷を負わないのよ」
誰だろう的な反応ではなく、突然犯人扱いに驚いたのだけど、残念ながら曲解されてしまったようだ。
「今バスの運転手の人が緊急電話を探しに行ってるわ」
「え、携帯電話は?」
(ポケベルがメインの時代だからまだ持ってないわ)「圏外みたい」
気絶した時に頭を強かに打ちすぎたのかもしれない。今変な言葉が聞こえた気がする。
「でも、もう既に亡き者にされていると思う」
「え!?」
「どこかの部屋の床下にでも隠されているかもしれないわ」
気絶する前後では、世界その物が変わってしまったかのような物騒な発言。場を和ませようとするジョークなのかもしれない。

――脱衣所
「あ、ウミンディーネさん」
「よかった。お連れの方は目を覚ましたようですね」
綺羅星にウミンディーネ。変な世界に迷い込んだかのような不安。あんじゅがいなければ怖くて歩き回れなかっただろう。
「こんな所でどうかしたのかしら?」
「学校のシャワー室が故障で、部活動で掻いた汗を流せなかったもので。シャワーを浴びられたらって思ったのですが、お湯が出ないようなのです」
「大きいボイラーがあったから、あそこをどうにか出来ればお湯が出るかもしれないわ」
山奥にある謎の施設。それでも電気も水道も止まってないことが怪しすぎる。もしかしたら本当に殺人を行う為の狩り場なのかもしれない。あんじゅの発言が現実味を帯びる。

――客室
そして、青い髪のメイド服を着た《少女》に出会った瞬間、あんじゅが硬直した。
(にこさん。もしかしたら小説版の可能性もあるかもしれない)「犯人は別にいるかもしれないわ」
また謎の言葉が聞こえたが、何も事件が起きてないのに容疑者が増えた。
「その直感――鬼がかってますね」

人為的なものか事故なのか、封鎖されてしまった施設から脱出を望むにことあんじゅ。
一癖も二癖もある登場人物達。
あんじゅの言う通りに死体が発見され、事件発生となるのか?

ウミンディーネ「あっ! あんな所に弓がありますね。あれはいいものです。是非手に取って――ひゃぁぁぁぁ!」

一人、闇の底へと消えて逝った・・・。

ウミンディーネ「繰り返す。私は何度でも繰り返す。……あっ! 今度は足が嵌ってしまいました。身動きが取れません。足が抜けない。誰か助けてください!」

ウミンディーネは何度でも死亡フラグを繰り返す おしまい★
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