矢澤にこ自身がラブライブ   作:にこあん

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9.綺羅先生の次回 策 にご期待下さい

◆MISSION(2027)◆ ――にこの部屋

 人は幸せであればあるほど、些細な不幸ですら大きな傷に感じることも間々ある。一般人よりも感受性の高いヤンデレであれば、その傷はより深刻な物となってしまう。

 

「うっく……ひっぐ」

 

 にこの胸に包まれながら、その涙は未だに止まることを知らない。

「あんじゅちゃんは泣きすぎにこ」

 右手であんじゅの頭を撫ぜながら、左手は背中に添える。その温もりが、優しさが、安心感となってより涙を生み出す。後々にトラウマになるよりも、今全て吐き出してくれた方がいい。だから泣き止むまでずっとこうしているつもり。

「な、泣きすぎにも程があるわよ」

 こんな時に変に遠慮しないのも友情の内。既に十五分以上泣くあんじゅに、若干引くツバサの言葉に、

「あんじゅちゃんだから」

 変な返答だけど説得力しか生まない言葉。

「けーちゃんとは幼馴染だからこんなことはなかったけど、もし同じ立場なら私も泣いてたと思う」

 英玲奈はツバサとは対照的で、同じ立場になっていたらという目線に立ってくれる。恋は人を盲目にするけど、愛に成長させれば人の視野を広げてくれる。直線でしか見えてなかった物を、多角的に物を考えさせてくれるようになる。神を目指すツバサには人の恋は難題だった。

「ぅっぐ、きらわっれ」

「大丈夫だよ。あんじゅちゃんが嫌われるなんてありえないから」

 事の発端は今日矢澤家にお邪魔した理由。つまりはにこのお母さんへの挨拶。でも、その本人の前に先に二人の妹達が帰ってきた。

 

『私はあんじゅちゃん。お名前教えてくれるかしら?』

 

 膝を折って目線を合わせながら、不要な部分を切り取り、伝えたい部分だけを告げることはとても大事なこと。親しみが出るように自分をちゃん付けで呼ぶのも小さい子と接する為のテクニック。

 ヤンデレと言われるだけあって、小学生になったばかりの双子の妹がいると知ってから、研鑽を重ねて脳内シミュレーションを欠かさなかった成果。ただ、名前を教えてくれた二人にさん付けで呼んだら、不思議そうに小首を傾げられたのは想定外。

 育ちの良すぎるあんじゅにとって、相手をさん付けで呼ぶのが当然。其れは小さい頃から呼びもし、呼ばれもしてきた証拠。だが一般的には普通はちゃん付け。最もこの問題は直ぐにちゃん付けで呼ぶことで解消。

 鞄から用意していたクッキーを二人分渡すという配慮も忘れなかった。二人を見ながらにこのアルバムがすごく見たくなったあんじゅである。

 精神年齢の近いツバサが満点の対応だったのは語るまでもない。英玲奈は小さい子に接する機会が少なく、普段以上に言葉を選び過ぎてクールというより無口っぽくなってしまったが、逆に二人にリードされていた。

 

 友達と遊ぶ約束があると出掛けていったこころとここあ。問題はその後に帰ってきたにこのお母さん。自己紹介と謝罪。必要とすべきはたった二つ。相手が大人とはいえ、これはツバサと英玲奈にとって簡単なこと。

 

 

※ あんじゅにとっては好きな人のお母さん。自分が巻き込んだ所為で自宅謹慎。初対面がマイナススタートという災悪な状況下。にことの交友関係への拒絶が頭をチラつき、シュミレーションができなかったのだ。

 

 絶望するしかないじゃない! ※

 

 色々と間違いが発生するくらいに、絶望が満ち溢れる。完全に穢れのフルハウス。緊張により手汗がぐっしりで、背中にひんやりとした汗が伝った。視界が白く狭まり、喉の奥までカラカラに乾く。必要とすべき所に水分がいかず、なくていい部分に集まる。

 視界だけでなく、思考も真っ白に染まりながら思うことは一つ。まずは自己紹介。これをきちんと出来なくては、にこの友達としては失格の烙印を押されてしまう。だから誰よりも先に名乗らないといけない。

 

「――――」

 

 だけど、口を開いて出たのは言葉ではなく嗚咽。白く染まる世界は歪み、言葉を発するよりも先に涙が零れ落ちていた。極度の緊張は人間の感情を上手く処理出来ず、その証しとして涙を作り出す。

 

ピアノの発表会

 

表彰式

 

受験

 

面接

 

にことの出逢い

 

 今までも緊張すべき時はあった。それでもきちんとこなしてきた。失態も失敗もなく、上手く乗り越えてきた。だが、一番失敗してはいけないこの場面で、突然泣き出すという大失態を犯してしまった。其れを頭が理解した時、より涙が流れ出る。

 そんなあんじゅの顔を胸に抱き寄せ、代わりにあんじゅの紹介をした。元々UTX高校で出逢った日から、まだ一月も経っていないのにあんじゅの話題は何度も口にしてきた。どれだけにこのことを好きなのかも伝わってくるくらいに。

 故にそんな泣いてしまう程に緊張するあんじゅに優しく微笑みながら自己紹介をして、頭を撫でた。ツバサと英玲奈の自己紹介を受け取り、謝罪はやんわり拒絶。

 

『お姉ちゃんが自分で選んで、自分で行動したことなんだから。あなた達が謝るべきではないでしょ?』

 

 誰かの所為にして罪を軽くするのではなく、きちんと罪と向き合った上で罰を受け入れること。その部分をあやふやにするのは友情をいつか壊すからと、穏やかに諭して『お姉ちゃんをこれからもよろしくね』と最後に残して部屋を後にした。

 自分が居てはあんじゅがいつまでも泣き止まないだろうという判断。まさか出て行っても泣き続けるとは思いもよらなかっただろう。そして、冒頭に戻る。

 

「あんじゅ。にこのお母さんなんだなって伝わってくる人だったよね。だったらあんじゅを嫌いになるなんて思うのはにこにも失礼だ」

 相手の心に語り掛ける時に必要なのは、相手が大事にしてる物を例えに出すこと。自分の意図を簡単に、より明確に伝えることが大事。いざ実行しようとすると、これが簡単そうで難しい。モデルという仕事を経験した英玲奈だからこそ出来ること。

 事実、ツバサは英玲奈の言葉に感銘を受けていた。どう説得しようか考えても、ゴチャゴチャとしてしまい口に出すことができない。整理して言葉にする。掃除が苦手な自分には少しレベルが高い。でも、これからは傍に英玲奈というお手本がいる。沢山のことを学んでいこう。

 

綺羅ツバサのレベルアップはこれからだ!(えんど)

 

「英玲奈さんの言うとおりだよ。あんじゅちゃんは心配性過ぎ。普段の自信はどこにいっちゃったの?」

「だっで」

「うふふ。泣いちゃうくらいにこさんが好きだって、お母様に伝わっちゃったわね」

 全く似てないにこによるあんじゅの物真似。だけど、其れはあんじゅを泣き止ませる効果があった。

「うふふふ。にこさんったら全然似てないにこ!」

 涙声というかかなり枯れてた声になっていたけど、絶望の闇の中から無事生還した。そして、一度絶望を味わった人間の強さを知ることになる。あんじゅが顔を洗うので一旦CM……。

 

 

■さよなら5号機...■

ワルプルギスの夜により人類は絶滅――。

否、ただ一人の少女だけが生き残った。

そんな少女の前に現れたのは奇跡を起こす戦闘機。

 

残機ちゃん「繰り返す。私は(残機ある限り)何度でも繰り返す」

 

綺羅星「平気で中指立てちゃう子ね」

ほむら「私は戦う!」

綺羅星「入れ替わりコラボにしても知名度の落差が悲しいわ」

残機ちゃん「私に名前がないのはもう必要がないから」

綺羅星「……色んな意味で泣ける。明るいコラボにしましょう」

 

ほむら「お隣(鹿目家)を守り続けて400年!」

 

綺羅星「でもやっぱり知名度の落差に泣けちゃうわね。以上CMでした。って、だからCMって何よ!? 閑話休題って便利な物が――」

 

 

◇やがて木になる◇ ――にこの部屋

「それでね、考えたの。今の曲も大事だけど、次の曲をどんな風にするのか決めておきましょう」

 目は充血してるものの、頭は冴え渡っていた。覚醒していると言っても過言ではない。最大の失敗をして吹っ切れたとも言える。今は自分の失態を嘆くよりも、スクールアイドルを通じて自分の愛を認めて貰えれば、この失態も覆せると判断。ヤンデレの思考回路は伊達じゃない。

「次って、今ですらかなり無理難題の状況なのよ?」

 これでも言葉を緩くしている。無理難題を極限までに不可能に近くしたのはあんじゅである。自分への負担を強いてまで、英玲奈のデートを望んだのだ。それなのに次をもう見据えるのは正気じゃない。自棄になっているのかと心配してしまう。

「失敗なんて取り返せば」

「煩いわね。黙ってなさい」

「は、はい」

 植え付けられた恐怖心から、反射的に従った。今のあんじゅはヤバイ。何の漫画か物語か忘れたけど、牛の生首みたいな敵の目を見たら即死っていう展開を思い出した。嫌われ役のキャラが死んだので胸がスカッとしたことだけは覚えてる。いつもの現実逃避。

 

「これはあくまで英玲奈さんの彼が承諾したことを前提の話なのだけど、今回は作詞のアドバイザーとしてのみの起用。だけど遊ばせておくのは勿体無いでしょ? 今の段階で次の曲を想定しておけば、練習ないしは作詞を終わらせることも出来るかもしれない」

 

「最高を目指すのであれば遠慮してる場合じゃないわ。スクールアイドルの活動に巻き込んで、死力を尽くしてもらう。勿論、その成果に私達も結果で呼応する。最高に対して最高を返す以外は道がない。そんな道を最後まで辿り着けて漸く、ゴールすることが許される」

 

「諦めるつもりならここで歩みを止めなさい。無理強いはしないわ。さぁ、ハウス!」

 

 シリアスからのツバサ弄り。泣きじゃくった姿を見られた腹いせ。完全な八つ当たり。

 

「もう諦めたりなんてしないわよ。常にベストを尽くして頂を目指す。そうね、少し臆病になっていたわ。私達はライバルじゃない。最高にして最強の仲間」

 バスケット部では友達であっても、ライバルだった。スタメンにベンチという席を取り合うしかないのだから、其れは当然のこと。その結果、ツバサは敗れたに過ぎない。色んな要因を理由にして、だから諦めた。

 でも、ここには仲間しかいない。格好悪い姿を見せてばかりじゃ呆れられちゃう。何度もそう思ってもブレてしまう。恐れてしまう。自信が揺らぐ。自分を強く持てる要素がやはり必要なんだ。ツバサは自分の中の確かな課題を見つけた。

 

「その方がけーちゃんも助かる」

「ええ、それで次の曲の案というか方向性を決めようと思うの。にこさんはどういうのにするか展望はあるのかしら?」

 隣に腰掛けるにこに抱きつきながら訊く。

「ううん。今回はにこが無理言ったし、勝手に決めちゃった感じだから、順番にどんな曲にしたいか決めていくのはどうかな?」

 スクールアイドルの発案者だから自分が決めていく。そんな意思は最初からない。メンバーはあくまで対等でありたい。

「とても良い案だと思うわ。それぞれの意見をまとめたりするより、個々の色を尊重できるし。何よりも幅が広がるものね」

 ツバサはどんなに恐れようと向上心は天井知らず。躓いてもより強い意思で立ち上がる。傷ついても勇気で笑ってみせる。これに加えて《ブレない個性》を手にしたらある種の完成型勇者となるだろう。

「私もそれでいいと思う。どんな曲が提案されるのかという楽しみがある」

 一つに特化していく道もある。でも、逆に言えば飽きられる可能性が高い。プロが作詞するでも作曲するでもない。素人である。だから、この案は純粋に楽しみでもあり、正しい道に思えた。

 冷静な英玲奈の判断であるが、後に自分達が有名なプロによる作詞作曲した曲を歌う機会があるとは微塵も思っていない。覚醒し過ぎた完成型勇者が原因である。

「じゃあにこさん。メンバー加入順ということでいいかしら?」

「そうだね。その方が分かり易いかも」

 

つまり『にこ→あんじゅ→ツバサ→英玲奈』のループ。

 

「ということで私が決めさせてもらうわ」

 

 自信満々。強気に本気。無敵に素敵。元気に優木あんじゅは言ってみせる。

 

「劇をやりましょう!」

 

 これに反応できた者はいなかった。スクールアイドルの二曲目の話を提案した本人が、劇をやると言い出したのだから当然だ。もしツバサがこんなことを言い出したら、あんじゅにバッサリと容赦なく一刀両断にされただろう。少しの沈黙のち『やがて気になる』でも演劇やってたなーっと他のことを一度考え、思考を切り替えたにこが訊いた。

「えっと劇って演劇のこと、だよね?」

「ええ、そうよ。一曲目で自己紹介したのなら、次は私のにこさんへの愛を知らせる。一番分かり易い方法は劇しかないわ!」

 ヤンデレは自分の愛を広める事を躊躇しない。その為の手段を問わない。特に性別という壁を壊す為には、普通のやり方では足りないのだから。

「あんじゅちゃんって一人っ子だよね? 亡くなったお姉さんとかいないよね?」

 思わず漫画のネタと重ねてるのかなと質問してみたが、不思議そうに肯定された。何かのネタという訳でもないようだ。

「……PV用の劇ということだろうか?」

「いいえ、違うわ。PVって曲のおまけでしょ? 曲はおまけよ。愛を伝えることが一番。スクールアイドルは自由に表現していいんだって伝えたいのよ」

 

『絶対にそれこそ後付け設定でしょ!』

 

 恐怖が抜けてないので心の中でだけ突っ込むチキンなツバサ。ツバサなだけに! なんて、言うわけないでしょ!!

 

「プロのアイドルとの差別化。一曲目を見て見限らなかった人達だ。普通の上達よりも、個性的な物で心を掴む方がいいのかもしれない」

「勿論歌も一曲目より格段に上手くなっている事が前提だけど。することを横にスライドさせるのでなく、他のことをしながら絶対的な成長を魅せる。私達のどれを見てスクールアイドルを目指すことになるか分からないのだから」

 にこが未来を目指すように、方向性は別だけどあんじゅが目指すべき物も同じ。そこが面白いなと英玲奈は笑う。ツバサはあんじゅの滅茶苦茶加減に呆れながら、羨ましさを感じていた。自分の弱さを克服する方法を見つけないといけない。あんじゅの次の曲は自分。

 その時までに課題の答えを見つけ、ブレない強さを手に入れる必要がある。タイムリミットはそう遠くない。其れができないのなら自分はスクールアイドルになれる器ではなかったことになる。否、諦めないと言った舌の根も乾かぬ内にそんな弱気になることがもう駄目。

 何があっても強くなる。我武者羅に、滅茶苦茶であっても、これは絶対だ。

「当然曲はラブソングね。劇はすごく甘くて優しいラブストーリーがいいわ」

「ダンスの練習だけでも難しいけど、そこに作曲しながら劇も練習する。あんじゅちゃんが一番負担になるけど大丈夫?」

「私はにこさんが傍にいてくれれば完璧であり続ける自信があるわ」

 答えになっているようで実は答えになってない。でも、にこは敢えてそのことに触れることなく、あんじゅをギュッと抱き締めた。

 

 このあんじゅの発言は大きな波紋となって広がる

 

 演劇部を作りたかったけど作ることの出来なかった美樹のいる音ノ木坂学院

 

 シナリオを書ける人がいない為に、創作劇のできないUTX高校

 

 衣装を作れる人だけがいない上々川高校(けーちゃんの学校)

 

 宿木を求める鳥達のように

 

 一つが足りなくて悔しい思いをしていた者達が集まり絆を紡いでいく

 

 スクールアイドルは自由な大空

 

 この絆こそが夢という想いを目覚めさせる始まり

 

 同時に、綺羅ツバサが覚醒する為のピースが揃う前兆でもあった




合宿で魔法少女ごっこをして町に戻ると、人類が絶滅していた

さやか「私はあいつらとは違う。友情に見返りを求めたりなんてしない」

杏子「あんたなんで生きてんの?」

マミミミ先輩「……」

眼鏡ほむら「あっあの、その……生きてる人、いますか?」

最終回【ほむらちゃん寝る~ほむらちゃんに眼鏡を取らせた元の世界線のまどか 地下行き1050年~】
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