矢澤にこ自身がラブライブ   作:にこあん

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6.スクールアイドル乙女

 あんじゅとツバサと出逢ってから一週間。GWが迫るそんな中、にこは足早にUTXを目指していた。スクールアイドルが自分一人じゃない。そんな事実が足取りを軽くさせる。UTXでも拒絶が待っているんじゃないかと恐れながらゆっくりと歩いたのは今では笑える過去の出来事。

 でも、ゆっくり歩いたからこそ二人と出逢えた。臆病さだって時に運命を手繰り寄せる武器になるんだと知ることのできた貴重な経験。自然と口角が上がり、無意識に鼻歌を奏でそうになるのを必死に抑える。

 二人の大切な理解者を得たからといって、スクールアイドルが活性化したかと言えば否。変化が起きたことの方が片手で数えられるくらい。その中で一番の変化がUTXの部活紹介の欄にスクールアイドル部が増えたこと。

 それだけで注目される……なんてことは当然なく、ほとんどが今まで通り。にこ自身の変化といえば、放課後になるとUTXに向かうようになり、三人で作戦会議や練習やカフェで食事したりするのが早くも日常化し始めた。

 活動しなければ注目されない。だけど焦って活動してスクールアイドルがその程度の物であると軽視されたら終わり。急いては事を仕損じるという言葉があるように、急がば回れという言葉があるように、今は大切な準備期間。日の目を浴びるのはもう少し先。その時の自分はもっと自分を誇れるような、あんじゅやツバサのように自信に溢れた人物になれているのだろうか?

 想像しようとして断念した。そんな風になれている自分が全く想像できない。でも、それじゃあ駄目だ。不敵なくらい堂々とすることができないと、人前でライブを行うなんて到底無理。想像すらできない今の自分は不合格。目標を実現する為には明確なビジョンが必要になる。其れがやる気に繋がり、未来を現実にするのだから。

 目下の目標としては緊張に慣れること。一つずつステップアップすることで、頭の中ですら描けない理想の自分に成っていけると信じよう。不器用とは言わないが器用とも言えない。だからこそ一つひとつを力に変えてしっかりと上っていく。

 とはいえ、自分のことだけに集中する訳にもいかない。作詞・作曲・振り付け・衣装デザイン・衣装製作・舞台の使用許可・音響と照明と撮影の協力・映像の編集。現時点で決定してるのが作曲だけ。あんじゅが小さい頃からピアノを習っていて、作曲はにこへの愛でやってみせると胸を張って決まった。

 将来的にスクールアイドルは各学校の名前を背負うことになるので、作詞も自分達ですべきだと話し合いで決めた。……決めたのだけど、作詞の方法を検索してみたらこれがとても難しい。自分達で作詞するという案は一時保留となった。

 やらなきゃいけないことはこれだけじゃない。これら全て解決しても次の問題が生まれてくる。スクールアイドル活動の未来を決めると言っても過言ではない重要な問題。それは1st動画。如何にしてより多くの注目を集められる動画にできるか。こういう先々の問題点はもう少し軌道に乗ってから話し合うことにした。

 問題の先送りに思われるかもしれないけど、これ以上問題を詰め込み過ぎると焦りが生まれるし、焦りは不仲を生む。スクールアイドルは二人以上で行うスポーツと同じで仲間同士の絆が不可欠。真剣に努力して楽しんで皆で喜びを共有するモノであって欲しい。自分達が最初で最後のスクールアイドルだとしても、最後までそう在りたい。にこが強く思った時、ゴール地点であんじゅが魅力溢れる笑顔で出迎えてくれた。

「にこさんっ!」

 正確には駆け寄ってきたあんじゅに正面からちょっと強めに抱き締められた。

「今日は早くレッスン終わったの?」

 にこがUTXに出向くようになった理由はカフェがあるからではなく、芸能コースの二人の方が授業とレッスンが取り込まれている為、終了時間がオトノキより遅い。カフェで二十分程待っているとあんじゅが息を切らせて走り寄ってくるのだが、今日は外までこうして出迎えていた。

「にこさんに一秒でも早く逢いたい想いが不可能を可能にしたの」

「優木さん。自習だからって学外に出たら駄目でしょう」

 不可能を可能にした理由を告げたのは、後を追ってきたツバサだった。自らも外に出てきてる時点で同罪であるのを自覚しながら苦言を申す辺りが彼女の付き合いのよさを物語っている。

「今日もにこさんは可愛いわ。ううん、違うわね。今のにこさんは昨日別れた時よりも可愛いわ!」

「私は何も変わってないから」

「いいえ、私には分かるわ。にこさんは宇宙のようにその可愛さを日々広めているの」

「優木さんは一々大げさ過ぎるのよ。褒めるにしてももう少し言い方があるでしょう。私は読まないけど恋愛漫画とか読んで参考にしたら?」

「人の作った物を参考にした言葉なんてイミテーションに過ぎないわ。そんな物に価値があると思っている時点で人を好きになったことがない証拠。恋は人を詩人に変えるのよ」

 詩人ではなく変人の間違え……とは、気の毒でツバサには言えなかった。可愛さの広がりを宇宙で表現するなんて、普通に考えれば変人でしかないと言う前に気づくものだけど。恋は盲目という言葉の発祥はこういう所なのだろう。

「なんでもいいけど、いつまで抱いてるつもり?」

「このまま時の流れが止まっても後悔はないわ。……スンスン。にこさんのいい匂い」

「ひぅっ! 先週も言ったけど五時間目に体育があって、だから汗臭いから嗅がないで」

「好きな人の汗の匂いは性欲を刺激することはあっても、臭いなんてことはないわ」

「性欲を刺激されてる人間に抱きしめられてるとか怖すぎるわよ」

 ツバサの言葉は右から左。暫くにこの匂いを堪能してから身体を離し、すぐさまにこの小さな手を握る。

「今日はGWの過ごし方を決めましょうか。にこさんと毎日デートとか楽園ね」

「あ、五月五日は家族で出掛けるからその日はちょっとごめんね」

「……残念だけど家族は大切にしないとね。私もその日に家族と食事にでも行くことにするわ」

「じゃあ、五日は休養日としましょう。頭も体も根を詰め過ぎるのはよくないしね」

 ツバサはスマフォを取り出して予定を打ち込む。にこは受けになり易く、あんじゅは暴走し過ぎ。自然とリーダー的ポジションなのがツバサだった。あんじゅは絶対に認めないだろうが。

「このGW中に幾つかの問題点を解決できるといいんだけどね。まぁ、欲張らずに一つは解決する心積もりでいましょうか」

「あの、桃園さん。独り言は誰も居ない時に自分の部屋でするべきだと思うわ」

「なんで独り言扱いなのよ! ていうか、いつまでも桃園の誓いネタを引き摺らないで!」

 三人初めて集まった時に桃園の誓いを~と一人盛り上がったのだが、にこもあんじゅも三国志に疎くて全く響かなかった。以降ことある毎にあんじゅに桃園さんと呼ばれる。

「綺羅さんの言うとおり、一つでも解決できたらいいよね」

「それも確かに大事だけど、アイドルの歴史を紐解いてすべき事が見えたの」

「矢澤さんとのデートとか言い出すんじゃないでしょうね」

 茶化したツバサを可哀想な子を見るような何とも言えない一瞥をくれると、無言のまま顔をにこに向ける。動き一つで人の感情を揺さぶるのは、ある意味で魅せられる側の人間の証明か。ツバサにしてみれば迷惑でしかないが。

「にこさん改造計画よ」

「「はい?」」

 よく分からないあんじゅの言葉ににことツバサの声が重なった。尤もツバサの方は若干の呆れが混じっていた。にこが関わると変なことでも真面目に謎理論を屈して、あたかも真理であるかのように話術で丸め込もうとするのが早くも日常の一コマとなっている。

「にこさん改造計画よ!」

「何で二度、しかも二度目は声量を上げ直して言う必要があるのよ。遊ぶのなら決めるべきことを決めてからにしなさい」

「はぁ~。これだからキャラメルのおまけさんは困るわ。言ったでしょ? 私はアイドルの歴史を勉強した結果導き出した答えを出したと」

 今度は小学生低学年の腕白な生徒を諭す先生のように言った。無意味に芸が細かいのもアイドルの歴史を紐解いた成果。

「今のにこさんは銀河を超越する可愛いさだけど、より人から注目される為にはあざといと思われても押し通せる個性が必要なの」

 今や歌舞伎顔で33人の女性が歌うアイドルグループもあれば、着ぐるみを着たアイドルも存在するしで個性の大事さを知ったのだ。個性だけでなく意外性というのも重要で、モデルからアイドルに転向して大成を収めているアイドルも居る。

「確かに。個性はアイドルに絶対に必要なものだと思う」

「いい女っていうのは好きな人をより魅力的に変えられる人のことだって文章を読んで閃いたの。にこさんをより可愛くさせないといけないって!」

「さっき自分の言葉以外はイミテーションとかみたいに切り捨ててなかった!? しかもアイドルの歴史云々どこに投げ捨てたのよ!」

「にこさんをより可愛くすることの前には全てがどうでもいいことだわ。それに私達が作るのがスクールアイドルの歴史だもの。プロのことは畑違い。アイドルの歴史を学びはしたけど、一番大切な物は如何にプロとの差別化を図るか。スクールアイドルは身近でありながら憧れられなければ成立しないわ。つまり、にこさんが今以上に可愛くなれば全て解決よ」

 スタイナーブラザーズもビックリの投げっぱなしジャーマン。投げられたにこは責任の重さにフリーズした。

「矢澤さんを担ぐのは構わないけど、スクールアイドルの全てと考えるのは駄目でしょ。それだとスクールアイドルは三年以降続かないってことになるわ」

「にこさんの可愛さは伝説となるから平気。スクールアイドル達は少しでもにこさんの可愛さに近づけるように邁進していくことになるわ。そして、にこさんの可愛さは世界に広がり、つまりはスクールアイドルも国際化していくことになるの」

「その未来の展望は壮大過ぎるわよ。矢澤さんが緊張で固まってるじゃない」

「こんな風になるにこさんも可愛いわ。このまま家に連れて帰りたい」

 本気で犯罪臭がする言葉に何と声を掛けるのが正解なのかツバサは迷う。そして、正解ではないが間違ってもない言葉を口にする。

「取り敢えず一度クラスに戻らないと。帰りのSHRが始まっちゃうわ」

 にこのフリーズが解けてから一旦別れ、練習の前にカフェでGWの計画とこれからの展望について練ることになった……。

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