チートな人狼がDLされました   作:呼び水の主

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第9節 女の話をしよう

 

 かつて少女は、ひたすらに己を研磨し続けた。しかし誰も彼女を褒めやしなかった。できて当然。誰もが口を揃えてそう言った。少女が一番認めて欲しかった父親さえも、彼女のことを見なかった。

 

 やがて少女は成長し、1人の女になった。そして訪れた、父の突然の死。それからの女の人生は酷いものだった。背負いきれない荷物を抱えて、溺れるのを待つだけの生き方だった。

 

 そんな女の元に、ある時一匹の銀色の狼が現れた。

 狼は女にこう言った。

 ──私が君を、ここから連れ出して差し上げましょう。

 

 こうして、女は一歩を踏み出した。

 もうそこに立っているのは、己自身の不甲斐なさ、周囲への劣等感に苦しむだけの女ではなかった。

 

 決して乗り越えたわけでもなく。

 決して忘却したわけでもない。

 

 それはただ、護りたい誰かのために。

 自分を護ると言ってくれた()のために、女は(明日)へと進むのだ。

 

 

 

 

 それは人のカタチをした破壊の嵐であった。

 岩が削れ、大地が割れる。

 洞窟内の淀んだ大気が掻き乱れ、吹き荒ぶ魔力が肌を殴る。

 彼女の一挙一動で、この世界が悲鳴をあげる。

 洞窟内という、この閉じた空間には逃げ場など無く。

 

 オルガマリー・アニムスフィアは、ただただマシュ・キリエライトの盾の後ろに隠れることしかできないでいた。もはやプライドなんてものはない。魔術師など歯牙にも掛けぬ、とでも言うようにセイバーは剣を振るう。

 ランサーとは、まるで比べ物にならない。あの女もとんでもない強さではあったが、このセイバーは文字通り格が違う。

 そんなセイバーを、キャスターと二人掛かりとは言え押し留めているデミ・サーヴァントのマシュは、その役割を十分以上に発揮していた。

 だが、危うい。

 この攻防、いや、一方的な防戦は、どこかでいつか、必ず破綻する。

 

 己の放つ魔弾を悉く弾いてみせるセイバーに、キャスターが舌打ちした。

 

「ったく。キャスターの身になって初めて、対魔力ってもんが如何に反則かってのが身に染みたぜ」

 

 セイバーはその高い対魔力をもってして、キャスターの魔術による攻撃を全て無効化しているのだった。

 

(このままじゃ、間違いなく負けるわ)

 

 オルガマリーは冷静に状況を分析した。

 守りに長けたシールダーと、魔術を得意とするキャスターでは、セイバー相手に攻め手がない。なにか決め手が無ければ。

 

(あのバカ狼……トオルなら)

 

 オルガマリーは頭を振ってその考えを追い出した。

 あのウェアウルフは、アーチャーと単騎で戦っている。

 使い魔契約を通して彼がまだ死んでいないことだけはわかるが、彼を対セイバーの戦力として期待するのは無理だ。

 

 ランサー戦は、本当に運が良かったのだ。

 たしかにあの狼は、強い。魔獣の身でありながら不思議な力を持ち、状況によってはサーヴァントすらも妥当し得る。

 けれどアレは。運が、良かったのだ。ランサーに勝てたのは、本当に奇跡としか言いようが無かった。

 微力ながらもオルガマリーの計略と、彼の異能の力がたまたま噛み合って、サーヴァントに届いたに過ぎない。状況が味方したのだ。

 だが彼は、アーチャーの固有結界に取り込まれた。あの中では世界すべてが彼の敵だ。きっと生きては、帰ってこない。

 

 だからこそ。

 オルガマリーは屹然と前を見据えた。

 キャスターは、黒化英雄はセイバーに操られていると言った。ならば、セイバーを倒すことで、アーチャーとの戦闘も終結するはずだ。

 だからこそ、私たちがいち早くセイバーを倒してあのバカを助けるんだ。

 オルガマリー・アニムスフィアはカルデア最後のマスターである藤丸立香と、デミ・サーヴァントのマシュ、頼みのキャスターに指示を伝えるべく動き出した。

 

 

 ※

 

 

 オルガマリーがセイバーの猛攻の中必死に立てた作戦は、こうだ。

 まずマスターは相手のサーヴァントでもステータスを閲覧可能、という特性を利用した。

 

「えぇと、自信はないけど、たぶんセイバーの対魔力はB、だと思います!」

 

 マスターである藤丸立香にセイバーのステータスを確認させたところ、彼女の持つ対魔力のランクはBであった。

 

「それなら俺の宝具で、ヤツの対魔力の上からでもブチ抜けるぜ」

 

 次いでキャスターの有する宝具ならセイバーを倒せることを確認。

 しかし宝具の展開には多少なりとも時間を要する。セイバーがそんな隙を許すわけがない。

 

「わ、私がキャスターさんの宝具展開までの時間を繋ぎます!」

 

 そこで守りに長けたマシュの出番だ。

 問題は、実戦経験の少ないマシュがキャスターの援護なしでどこまで粘れるか……。

 けれど、信じるしかない。少ないながらも、彼女だってここまで戦ってきたのだ。

 

「頼むわよ、みんな!」

 

 オルガマリーのその一声で、これまで延々と防戦に徹していた各々が次の行動を開始した。

 いや、一人。セイバーの攻撃を躱してスッとオルガマリーの近くに寄ってくる者がいた。

 

「よぉ、アンタ。いいツラ構えになったじゃねーか。美人で強情で、ついでにようやく肝が据わった。性格は俺の好みじゃないが、なかなかのいい女だ」

 

 キャスターが飄々とした顔で何事かを言い出した。

 

「は、ハァ!?」

 

 いきなり何を言いだすのだ!?この男は。

 オルガマリーはドギマギした。

 

「けどま、狼の旦那のためにも、ここはきっちり生き残ってもっと女を磨くこったな」

 

「ば、ばっばっ!馬鹿なこと言ってないでさっさと配置につきなさい!」

 

 オルガマリーは真っ赤になってキャスターを叱り飛ばした。

 キャスターは呵呵と大笑しながら、セイバーの猛攻の中に飛び込んでいったのだった。

 

「私が!?磨く!?何を!?誰のために!?」

 

 ハァーーー!?!?

 

 

 ※

 

 

「我が魔術は炎の檻、茨の如き緑の巨人。因果応報、人事の厄を清める社───」

 

 セイバーの剣をマシュが受け止めたその瞬間、キャスターが宝具を解放せんと詠唱を開始した。

 

「──!」

 

 それを察知したセイバーがキャスターに向け剣を振るう。

 彼我の距離は十分に離れており、剣など届くものではなかったが。

 なんとセイバーの振るった剣から魔力の塊が、まるで飛ぶ斬撃の如くキャスターへと一直線に走った。

 だが。

 

「させません!」

 

 人間のソレを遥かに凌雅した脚力で、マシュが斬撃とキャスターの間に割り込んだ。

 

「ぐっ、くぅっ!?」

 

 だが抑えきれない。

 魔力の圧に耐えきれず、マシュは盾ごと吹き飛ばされて、キャスターに激突した。

 

「うぉ!無事かお嬢ちゃん!?」

 

「マシュ!大丈夫!?」

 

 慌てて藤丸がマシュの元に駆け寄った。

 

「す、すみませんキャスターさん、マスター!」

 

 キャスターに支えられてマシュは態勢を立て直した。

 

「──ほぅ。アレを受け止めるとは」

 

「なぬ!?テメエ、喋れたのか!?」

 

 キャスターが驚きの声を上げた。

 

「何を語っても見られている。故に案山子に徹していた。だが、それもここまでだ」

 

 セイバーが腰を落とし、剣を下段に構えた。

 

「構えるがいい。名も知れぬ娘。その守りが真実かどうか、この剣で確かめてやろう」

 

 漆黒の剣から闇の奔流が迸る。

 セイバーが宝具を発動した。

 

「卑王鉄槌。極光は反転する。光を呑め! 『約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)』!」

 

(まずい!)

 

 今、4人は一箇所に固まってしまっている。

 

(マシュが受け止め切れなかったら、私たちは──!)

 

 思考は一瞬。

 4人の視界を、漆黒の聖剣から迸った闇が瞬時に覆い尽くした。

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