チートな人狼がDLされました   作:呼び水の主

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第12節 昨日とは違う世界へ

 今や洞窟内は混沌の様相を呈していた。

 土煙が周囲を取り巻いて、内部の視界はすこぶる悪い。

 その中で煌々と赤く輝くカルデアスだけが、太陽のようにその存在を主張している。

 その太陽の下に、蠢く影が二つ。

 レフ・ライノールは服についた埃すら払うのを忘れて、空から堕ちてきたソレを凝視していた。

 天に空いた穴から射した光芒が、スポットライトのように一点を照らす。

 降り注ぐ星と太陽の光に銀色の体毛を煌めかせ、ソレがゆっくりと起き上がった。

 ヒトと呼ぶにはあまりにも異形なシルエット。ピンと張った耳は天を衝くようにそそり立ち、開かれた口からは鋭い牙が覗く。左腕の肘から先は大きく膨れ上がり、まさに怪物と呼ぶに相応しいソレの名は──

 

「銀色のウェアウルフ……幻想種だと……!?」

 

 レフの声に応えるかのように、銀狼が吼える。

 土煙は爆発したかのように辺りに四散し、周囲の魔力が、まるでブラックホールに呑み込まれるかの如く銀狼に吸い込まれて行く。

 魔力を取り込んでいるのか。

 だが、それでどうなるというのだ。

 魔神柱たる私に、幻想種程度で抗えるとでも?くだらない。

 

『カルデアスの座標固定まであと40秒!それまでなんとかもたせてくれ!』

 

 ノイズ混じりに聞こえるこの男の声は、ロマニ・アーキマンのものだ。

 あの男、管制室に来るように伝えておいたというのに。爆発の難を逃れるとは、なんという悪運なのだ。

 レフはおもわず舌打ちした。

 未だ小賢しく這いずり回るカルデアの存在、おまけにアニムスフィアを嬲るための折角の余興も台無しにされた。

 どいつもこいつも、統率のとれてないクズばかりで吐き気が止まらない。

 

「人間というものは、どうしてこう運命からズレたがるんだい?」

 

 口の端がつり上がる。喜悦はなく、憎悪がそうさせる。

 手始めに殺し損ねたアニムスフィアを殺害する。48番目のマスターとデミ・サーヴァントはこのまま地面に縫い付けておけば良い。要たるセイバーが倒れた今、この特異点は崩壊する。とどめを刺すのも億劫だ。この世界と心中させてやるのも一興だろう。

 レフはゆっくりと腕を上げてオルガマリーに狙いを付けた。

 なんのことはない。これまで魔術師として生きた時に身につけた、我々から見れば児戯にも等しい魔弾を用いるだけのこと。

 なんともあっけないものだ。

 

「君との付き合いも長かったが、まったく、耳障りな小娘だったよ、君は」

 

 収束。

 指先に魔弾が形成されてゆく。そこには何の感慨もなく。無造作に。殺意すら伴わせず。

 路傍を這いずる虫ケラを踏み潰すような感覚で、レフ・ライノールはオルガマリー・アニムスフィアに死を叩きつけようと──

 

「──ゴハッ!?」

 

 腹部に凄まじい衝撃。

 世界が逆に回転する。否、私自身が吹き飛ばされている──!?

 空中に我が身が打ち上げられたのか。

 そう理解した回る視界の端で、あの銀狼が猛然と大地を蹴る姿が見えた。

 跳躍。あまりの圧に耐え切れず、地面が陥没する。

 レフの本能が叫ぶ。人の身では、次の一撃は耐えられない。

 

「聖晶石、セット……!ドリルを回せ!ドリンチちゃん!!出力最大だ!」

 

 《グングンチカラガワイテキタ〜!オッケ〜!ソノオーダーニ応エマショウ!》

 

 銀狼の肥大した左腕から機械的な女の声が聞こえる。いや、あれは魔術礼装か。

 カルデアに未登録の魔術礼装。だが、あのデザイン、あの奇抜さ。

 それにとても聞き覚えがある、この独特なイントネーション。

 間違いなく奴の仕業だ。

 

「ダ・ウィンチ!貴様何をしたーーーッ!!?」

 

 現状に理解が追いつかない。空中に打ち上げられた身体が、ゆっくりと下降していく。

 落下して行くレフに銀狼が追いすがる。

 左腕を覆う魔術礼装が、網膜を焼き切らんとばかりに虹色に輝く。

 銀狼が咆哮した。

 

「『夢の残骸(ユキチクラッシャー)』!」

 

「──────!?」

 

 レフの腹に虹の光が炸裂する。

 破壊的な形状のドリルが体内を暴れまわり、器官がズタズタに引き裂かれる。

(ば、馬鹿な!幻想種ごときにこの私が──)

 虹色の光が体内で暴走し、レフの生命機能を全て断ち切った。

 血塗れの身体が地面に叩きつけられる。

 

「──ガッ」

 

 断末魔すらろくに上げられずに、レフはその場で力尽きたように倒れた。

 

 

 ※

 

 

 高さ10メートルからの着地。この肉体では造作もないことではあるが、戦闘機動をしてしまえば流石に息が切れる。膝をついて、肩で息をする。

 左腕を覆うドリンチちゃんが妙に重く感じる。自分で思っている以上に、身体が疲弊している証拠だ。

 なにせこの世界に生まれてから戦いっぱなしだ。流石にこれ以上は戦えないぞ……。

 倒れたレフを恐る恐る見やる。

 先手必勝。最大の脅威であるレフ・ライノールに、今の手札の中で最高威力のある技を叩き込んだ。

 オルガマリーをこの冬木から連れ出すには、ヤツに聖杯を使わせるわけにはいかない。

 起き上がってくれるなよ……。

 

『やったか!?』

 

 カルデアの座標固定を指示しているDr.ロマンに代わってこちらの様子をモニターしていたダ・ウィンチちゃんが叫んだ。

 その直後である。

 レフの肉体を突き破って、赤黒く脈動する触手が鋭く私に突き出された。

 すんでのところで回避するが、間に合わない。

 回避し損ねた数本の触手が左腕のドリンチちゃん、胴体、首に絡みつく。

 

「ぐぅぅぅ……!?」

 

『……なんだ!?今、サーヴァントでも幻想種でもない魔力反応を検知したぞ!?しかも超強力だ!これはちょっとやばいかもだよ狼クン!』

 

 通信機越しに聞こえるダ・ウィンチちゃんの声が切迫している。

 背中から触手をユラユラと揺らめかせ、レフがゆっくりと立ち上がる。

 ぽっかりと穴が空いた腹部から、グロテスクな赤い目玉が複数、ぎょろぎょろと蠢いている。その目が一斉に私の姿を捉えた。あの、見ただけでSAN値が減りそうな姿は、

 

「魔神柱……!」

 

 立ち上がったレフが何本もの触手を伸ばし、洞窟内の壁、天井、地面を突き刺す。

 まるで獲物を捕らえる蜘蛛の巣のように、空間を触手の網が埋め尽くした。

 

「よくもこの私に傷をつけてくれたな、この幻想種ふぜいが!身の程を知れ!」

 

 全身を絡め取っている触手の力が強まる。

 頼みのドリンチちゃんも封じられた。

『魔力放出(音)』は首を絞められて発動できない。

 い、息が……。

 こ、このままじゃ、死ぬ……!

 

「『ウィッカーマン』!」

 

 この声は!?

 キャスターの詠唱とともに、大地が盛り上がる。ズドン!と勢いよく、燃え盛る巨大な拳が、レフを下から突き上げた。そのままレフを握り込み、纏わりつかせた炎でレフの身体を焼く。

 大地の割れ目から、キャスターが這い出てきた。

 キャスターニキ、なんで地面に埋まってるんですか!?

 

「今だ!お前ら逃げろ!!」

 

 キャスターの合図に呼応して、瓦礫の下で強力な魔力が胎動した。

 

「『約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)』!」

 

 闇の奔流が放たれた。

 射線上にある全ての物質が闇に呑まれて消えていく。

 この宝具はセイバーオルタ!?

 本編ではレフ登場前に消えていた二騎のサーヴァントが、まだ生きているのか!

 二騎のサーヴァントが、力を貸してくれている。

 

「あの傷で、まだ動けるか!?」

 

 驚愕するレフにセイバーオルタの宝具が直撃する。

 触手を盾に、レフはその攻撃を耐えた。

 あの姿でも、一級サーヴァントの宝具を防ぐのか。

 反撃に転じたレフの触手が、満身創痍のセイバーオルタとキャスターを貫く。

 

「今度こそ、ここまでのようだ……。後は……」

 

「狼の旦那、坊主たちを、キチンと連れ帰ってやれよ……」

 

 セイバーオルタとキャスターが光の粒子になって消えていく。

 

「キャ、キャスター!!」

 

 くっそぉぉぉぉぉ!!

 座標固定まであと10秒。

 二騎のサーヴァントの決死の妨害で触手が緩む。

 隙ができた。今だ!

 

「むぅぅぅぅぅぅぅ!!」

 

 全身の筋肉が膨張する。

 触手を引きちぎり、噛みちぎり、拘束を解いた。

 

「逃すと思うか!」

 

 レフの背中の触手の全てが私に殺到する。

 ヤツを邪魔するものはもう何も無い。

 視界一杯に触手が迫る。押し寄せる死。『魔力放出(音)』での狙撃では到底捌き切れない数。

 ここまでなのか……!

 私が死を覚悟したその時、背後で魔術が発動したのを感じた。

 

「スターズ。コスモス。ゴッズ。アニムス。アントルム。アンバース。アニマ、アニムスフィア———!」

 

 何者かの詠唱。

 そして、夜空の星が瞬いた。

 星から何十もの光の槍が降り注ぐ。

 流星は凄まじい精度を持って、正確に触手の全てを迎撃した。弾け、焼き切り、消しとばす。

 これは、オルガマリーの魔術なのか!?

 道が拓けた。

 そのままオルガマリーの元に駆け寄る。

 肩で息をする彼女と、思いっきり抱擁した。

 先ほどの大魔術の行使でアドレナリン全開の彼女が、私の目を覗き込んだ。目と目が合う。それだけで、お互いの心が理解できた気がした。

 

「信じてるから」

 

 彼女は、ただそれだけ言った。

 頷きをもって私もそれに答える。

 

『マシュと藤丸くんのレイシフト帰還準備完了!ロマニ、そっちは!?』

 

 ダ・ウィンチちゃんが叫ぶ。

 

『よぉし!カルデアスの座標固定完了!!行けーーー!トール君!』

 

 Dr.ロマンの合図と共に、私とオルガマリーは先程とは違い青い輝きを写し出しているカルデアスへと飛び込んだ。

 カルデアスは、地球の魂を写し出した地球のコピーにしてライブラリ。

『其は有限なる小奇跡』が発動する。

 冬木の地に渦巻く神代の魔力、溜め込んだ膨大なソレを『其は有限なる小奇跡』が全て吸い上げる。

 身体が空中に解けるように消えていく。

 カルデアスに、二人の魂を刻み込む。

 願うのはたった一つ。

 

「────彼女との、未来を!」

 

 

 

 世界が分岐する。

 それは終わりの始まり。

 行く先に待つのは果てのある世界。

 だがそれでも、銀色の狼と銀髪の女は、前に進み続ける。ただ未来を求めて。

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