チートな人狼がDLされました   作:呼び水の主

14 / 26
邪竜百年戦争オルレアン
第1節 流浪の女騎士の噂


「なあユーゴ。聞いたか、あの噂」

 

「ん、何のだよ?」

 

「そりゃ、おめぇ。アレだよアレ!」

 

 シトシトと雨が降る森の中、ようやく拾い集めた薪が濡れないように、乾いた地面に腰を落ち着けて無精髭をのばした中年の男は興奮気味に言った。よっこらと薪を足元に置いて、男は村の顔馴染みであるまだ年若い青年を見上げた。

 

 二人とも顔が煤け、服はあちこちが擦り切れている。まともな食事もとれず、頰はこけ、筋張った腕が袖の先から覗いていた。

 ここはジュラの大森林。その森の端にある名も無い小さな村から、彼らは薪と僅かな食料を集めにやってきていた。

 

 行商人が村を訪れなくなって、もう一週間近く経つ。竜の魔女が現れてからというもの、この辺りの生活は厳しくなった。まずオルレアンが焼かれ、それから他の大きな都市も次々と陥落しているらしい。空を飛ぶ怪物が近くの村を襲ったなんて噂も聞こえてくる。

 

 様子を見にいくと言って飛び出した、レミーの息子、腕っ節自慢のアンジェはもう5日も帰ってこない。

 彼らの村が襲われるのも、もはや時間の問題だと思われた。かと言って村を捨てて逃げるわけにもいかない。先祖代々、時間をかけて切り拓いた村だ。他の土地では生きていけない。

 

 そんなどうしようもない状況。けれど男は妙に楽しげな様子で、朗々と詩を吟じるように話し始めた。

 

「そこに邪悪な竜あらば、駆けつけたるは女騎士。銀の長髪靡かせて、お供の番犬引き連れて。誰が呼んだか聖女の再来、恐怖の魔女をやっつけろ〜」

 

「なんだ、その下手くそな詩」

 

 ユーゴは呆れた様子で、近くの木の幹に体を預けた。この無精髭の中年、ロベールはいつもこんな感じだ。村を訪れる行商人から外の話を聴いては、いつも詩を作っている。

 

 正直、デキはイマイチだ。ユーゴがほんの小さな少年だった頃、一度訪れた本物の吟遊詩人に比べれば、あまりに拙い。けれどユーゴを含め、村のみんながロベールの作った詩を聴くのを楽しみにしている。娯楽が少ないというのもあるが、ロベールの作った詩は妙に心を弾ませる何かがあった。

 

「いやな、一昨日村を通った一団があったろ」

 

「ああ、このあいだの。確かオルレアンの生き残りだとか」

 

「そうよ。連中、命からがら街を出たはいいがよ。その後おっかねぇ竜に追いつかれたんだと。そんでもうおしまいだぁー!って時さ。出たんだよ」

 

 ロベールが声を潜めて言った。思わず、ユーゴは前のめりになって続きを急かした。

 

「出たって、何が」

 

 そんなユーゴの様子を見て、ロベールはニヤリと笑ってから続けた。

 

「さっき謳った通りさ。俺たちを救ってくれる、銀色の女騎士様よ」

 

 

 ※

 

 

「腹が減ったなぁ……」

 

 テシテシと可愛らしい音を鳴らしながら、見渡す限り何もない、長閑な平原を人里目指してひたすら歩く。飯を訪ねて三千里。いや、まだ大して歩いてないのかもしれないが。最後にまともなご飯を食べたのは、ワイバーンに襲われていた逃亡民を助けた時だ。せめてものお礼にと受け取ったのは、乾涸びたパンのかけらと僅かな水。それでも彼らからすれば貴重な食料だったろうから、文句はないのだけど。それからはずっと、食用にできる雑草とかをやり繰りして飢えをしのいでいる。ああ、前世の食事が恋しい。かつてひもじさの象徴だった安い缶ビールとレトルトのカレーすら、今は全て遠き理想郷……。

 

「文句を言わないでちょうだい。余計に辛くなるから」

 

 私の後ろで、オルガマリーがドスの効いた声を出した。彼女が動くたび、ガッシャガッシャと鎧同士がぶつかる音がする。

 

 胴には鎖帷子。鎧で腕と脚だけを覆った軽装でも、重いものは重い。おまけに腰にはなまくらの剣を引っさげているものだから、魔術による身体強化なしでは、とても動けたものじゃない。

 

 けど、彼女が鎧を付けているのにはちゃんと理由がある。言ってしまえばコスプレだ。このご時世、丸腰の女一人が出歩くのは色々と問題がある。おまけに本来彼女が着ていた服は文明レベルが違いすぎて、とてもこの時代にとけ込めない。

 そこでフランス軍兵士に扮してしまえ、というのが私の案だ。幸い、女性であるジャンヌ・ダルクが戦場を駆けたフランスだけあって、奇異な視線が集まることはあっても、あまり怪しまれることはない。前例があるってのは、偉大な事だ。

 

 驚いたのは、オルガマリーの格好がただのコスプレに止まらなかった事だ。魔術師は身体強化なんてお手の物とは聞いていたが、まさか鎧を着た上で骸骨や野盗を物理で倒せるとは思わなかった。

『其は有限なる小奇跡』で「叩き潰す」という概念を強化した、なまくらの剣(もはや鉄の棍棒)が強いというのも勿論あるが。

 

 おかげで私が前線に出なくても何とかなるから、こうして人畜無害な犬に『変化』してオトモに徹する事ができるわけだからありがたい。

 

「申し訳ありません!『白銀の女騎士』殿!」

 

 私は短い四足をせかせかと動かしながら、首だけ後ろを向けて笑った。オルガマリーはうんざりした顔で天を仰いだ。

 

「黙りなさい。次言ったら餌抜きよ」

 

 私の身体を抱え上げたオルガマリーが、ものすごい形相で私を睨みつけた。うさみちゃん目こわっ!

 

「くぅ〜ん……」

 

 私はとりあえず幼気な子犬のフリをしてこの場を誤魔化すことに徹したのだった。

 

 1431年、フランス。

 百年戦争の真っ只中。国王不在、竜が跋扈するこの混沌の地で、人類史をかけた壮大な戦いが始まろうとしていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。