ジル・ド・レェ元帥と共に、彼らの拠点、ヴォークルールへと向かう。
避難民を連れての過酷な旅だったが、ワイバーンとの戦闘から半日もしない内にヴォークルールに辿り着くことができた。
後ろから付いて来きていた避難民達から、歓喜の声が上がる。
ヴォークルールの街は強固な石造りの外壁に囲われ、頑丈そうな門が、許されざる者の出入りを阻んでいる。
元帥が開門を指示すると、両開きの門がゆっくりと左右に開かれた。
出迎える兵士たちから、歓声とどよめきが上がる。歓声は無事帰った元帥に対して。どよめきは巨大な狼である私と、それに跨るオルガマリーへと向けたものだろう。
「ようこそ、ヴォークルールへ。ここが我々フランス軍に残された最後の砦。反撃の地です」
オルガマリーを背中にのせて、馬をゆっくりと歩かせるジル元帥と併走する。
私たちを見た住民達が、口々に驚きの声を上げる。
「あれが噂の……。まるで物語の一節のようだ」
「見ろ、あの狼の巨大さを。あんな化け物を従えているんだ。余程の怪力に違いねぇ……」
注目の的になっているオルガマリーは、必死に平静を装っている。
街の中は比較的平穏な空気が流れているようだ。避難民と元々の住民の衝突も無く、秩序が保たれている。
私と同じ事をオルガマリーも察したのだろう。喋れない私に代わって、積極的に質問していく。
「避難民を集めていると聞いていましたから、もっと酷い状況かと思いましたが。治安は安定していますね」
オルガマリーの疑問に、ジル元帥が頷き答えた。
「糧食の蓄えが豊富だった事が幸いしました。イングランドとの次なる戦に備えている最中でしたので。我がフランス軍と、ここにいる住民達をあと2ヶ月は養えます」
「ここの防衛は?ワイバーン……あの竜達からここを守りきるのは、至難の技のように思えますが」
「無論、我々だけではとうに陥落していたでしょうな。しかしご安心召されよ。このヴォークルールには、守護騎士殿がおられるのです」
こちらへどうぞ。そう言ってジル元帥は馬から降りて、手綱をお供の兵に渡し、この街でで一番大きく立派な建物の扉を開いた。
「えぇっと……」
オルガマリーが私から降りて、困ったように元帥を見た。元帥は察したように、苦笑した。
「ははは。その巨躯では、流石に外では悪目立ちしますな。そちらの狼も、とうぞ中へおいれください」
「お気遣いありがとうございます。いくわよ、トオル」
「ワンっ!」
「「「狼なのに!?」」」
※
「彼がこのヴォークルール守護の要、ジョージ殿です」
元帥に通された部屋に立っていたのは、頑強そうな鎧に身を包んだ長髪の男性だった。
ああ、すごいぞ……!ゲーム内レアリティが性能と比例してないのが一目でわかるこの出で立ち。見る者を落ち着かせるような堂々とした立ち姿。
(トオル。こいつももしかしてサーヴァントなの?)
(もしかしなくてもその通りだ。ドラゴン殺しの逸話を持つ聖人。聖ゲオルギウスだ……!)
(な!?と、とんでもない大物じゃない!)
彼が真名を明かさずただのジョージと名乗っているのは、サーヴァントという存在を無闇に公にして混乱させないためだろう。そも、説明したとして受け入れられるものでもなし。身分を偽るのも致し方ないことである。
あまりのビッグネームの登場に内心怯みまくっているオルガマリーを見て、ゲオルギウスが口を開いた。
「元帥。そちらの方は?──いや、傍らに銀色の犬といえば、聞くまでもありませんでしたか。もっとも、犬ではなく狼のようですが……。はじめまして、白銀の女騎士殿。よければお名前を伺っても?」
(ああぁ、どうしよう。噂がここまで広まってるじゃない……)
(助けた避難民達が、ヴォークルールに逃げ込んだんだろうな。けどその噂のおかげで、サーヴァントにこうして巡り会えたんだ。この特異点を修復するなら、サーヴァントの助力は不可欠だ)
(確かに、彼の協力を取り付けるなら願っても無い状況ね……。流石にここで、という訳にはいかないけれど)
オルガマリーはチラと周囲を見回した。部屋の中にはゲオルギウスとジル元帥しかいない。
だが元帥は今を生きる人間だ。聖杯の防衛機構により召喚され、このフランスに起きている事態を概ね把握しているサーヴァントとは違う。そんな彼の前でカルデアや人理修復の話などできるわけがない。
ゲオルギウスに私たちの正体と目的を明かすなら、機をあらためる必要があるだろう。
意を決した様子のオルガマリーが、ゲオルギウスに一礼してから名乗りを上げた。
「私はオルガマリー・アニムスフィア。カルデア騎士団の団長を務めています。よろしくお願いします、ジョージ殿」
ええ〜!?カルデア騎士団ですか〜!?
いや、まあこの時代に溶け込むなら騎士団ってのはあながち悪くないのかな?でもどこの国から来たとか説明できないけど大丈夫?ジル・ド・レェも元帥の立場としては、その辺問いかけてきそうだが。
「こちらこそよろしくお願いします、オルガマリー殿。共に力を合わせ、竜の魔女からこの国を救いましょう」
ゲオルギウスがオルガマリーの手を取り握手する。なんだろうこの頼り甲斐のある人は……。ヴォークルールを一週間もワイバーンから守りきったのは伊達じゃない。流石は守護騎士と呼ばれた人だ。
「して、他の団員の方はどちらに?」
ジル・ド・レェ元帥がオルガマリーに尋ねる。当然の疑問だ。さて、どう説明する?
「私たちは竜の魔女出現の報せを受けて救援に来たのですが、竜の襲撃で隊員は散り散りに……」
「なるほど、それで各地を回っておられたのですか」
元帥が納得したように頷いた。目が少し泳いでいるが……。
あ、この元帥!カルデア騎士団(仮)がどこから来たか聞かないつもりだな!?今は猫の手も借りたい状況だから、その辺あえて突っ込まないつもりだ……。所属を聞いて仕舞えば戦後報酬を国家が正式に支払う必要とか出てくるから、ただの現地協力者として参戦させるつもりだろう。忘れがちだけど、その辺の計算は流石は貴族ってところだな……。まあ、いまはそれがありがたいけど。
「では、それを踏まえた上で今後の方針について話し合いましょう」
ジル・ド・レェ元帥がいい笑顔でテーブルにフランスの地図を広げた。目が飛び出そうになってますよ、元帥……!ジャンヌに目潰ししてもらわないと……!
※
先程のジル元帥とゲオルギウスを交えた会議では、次はどの辺に遠征するか、という話し合いで終わった。ちなみに私とオルガマリーもラ・シャリテへの遠征に参加する事となった。この街からもほどほどに近く、まだ戦火の回っていない街である。藤丸くん達がここに居てくれればいいのだが。
「さて、頃合いかな」
私は石畳の上に敷かれた薄いカーペットから起き上がった。
夜も更けた。ゲオルギウスの居室も把握済みだ。
あらためて、私たちの今後の方針を話し合いに行くとしますか。
「ええ。ゲオルギウスに会いにいくわよ」
オルガマリーが元帥から支給されたサーコートを肩にかけて、廊下へと続く扉を開けた。
小型犬モードに『変化』してオルガマリーと暗い廊下を歩く。
「ここだ」
オルガマリーが控え目に扉をノックする。
「──どうぞ、お入りください」
扉を開けたゲオルギウスが、私たちを部屋へと招きいれた。
「そちらへおかげください」
ゲオルギウスがあらかじめ用意していたのだろう。クッションのよく聞いた豪華な椅子に、オルガマリーが腰掛ける。装飾の豪華さからして、元々はここの領主の持ち物だろうか。
私は彼女の足元に控えるように座り込み、対面の椅子に腰掛けたゲオルギウスを見上げた。
「そろそろ来る頃合いかと思っていましたよ」
ゲオルギウスの言葉に、オルガマリーが緊張したように口を開く。
「どうして私たちがここに来ると……?」
「そちらの狼を見れば一目瞭然ですよ。ドラゴンに迫らんばかりの神秘、明らかに幻想種です。今は犬のようですが」
う、やっぱりサーヴァント相手には隠しきれてなかったか。生前ドラゴンという最強の幻想種を何度も相手にしたゲオルギウスだから見抜けた、という可能性もあるかもしれないが……。
『変化』を解いて人狼に戻る。
「はじめまして、ゲオルギウス殿。ウェアウルフのトールです」
「これは驚きました。ウェアウルフを使い魔にする魔術師とは珍しい。貴方達の来歴に、ますます興味が湧いてきました」
目を細めるゲオルギウスに、オルガマリーが居住まいを正して語り出す。
「話しましょう。カルデアの目的と、このフランス──いえ、人類史が晒されている未曾有の危機について」
※
ゲオルギウスは椅子から立ち上がり、窓から夜空を見上げた。
「何者かによる人理焼却、フランスという人類史のターニングポイントの特異点化、なるほど。おおよそ理解しました。あの空の光帯も、それに起因するものと見て間違いなさそうですね」
ゲオルギウスには、私のFGO一部クリアまでの知識は語っていない。
けどやはり、あの光帯についてはすぐに察しがついたようだ。まあ、アレについては今は手の打ちようがないから、議論する必要もないか。
「今後の方針ですが、貴方達はこのフランスへレイシフトしているであろうカルデアの仲間を見つけ、このヴォークルールへと集結してください」
「それまで、貴方はどうするの?」
オルガマリーが多少くだけた口調で話しかける。ここには人目はない。白銀を演じる必要もない。
「私はここの防衛に専念します。ここを襲撃するワイバーンの数も日に日に増している。おそらく避難民やフランス軍をここに集結させている事は、敵にも知られていると考えた方が良いでしょう」
ゲオルギウスが腕を組んで答えた。
「サーヴァントが攻めてきたら、いくら貴方でもこの規模の街を守るのは無理なのでは?」
私の問いにゲオルギウスが目を瞑り首肯した。
「一騎打ちならば負けることはありませんが、ニ騎以上となると厳しいですね。私がこのヴォークルールに流れ着くまでに交戦したサーヴァントは、ランサーとアサシン。真名は不明ですが、いずれも強力な者たちです」
「敵がすぐに攻めて来ないことを祈りましょう。とにかく、話は決まりね。私たちは早急に藤丸・マシュ、あるいは味方になり得る野良サーヴァントと合流し、このヴォークルールに戻ってくるわ」
オルガマリーがそう締めくくり、椅子から立ち上がる。窓の外はまだ真っ暗闇だが、そろそろ体を休めるべきだ。ラ・シャリテ出発は明朝。
運良く藤丸くん達と合流できたら、カルデアからドリンチちゃんのバッテリーを送ってもらわないと。