チートな人狼がDLされました   作:呼び水の主

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第5節 血濡れの吸血鬼

 その日、ヴォークルールからフランス軍兵士30名が出発した。全員が速度を重視した騎兵で構成されている部隊だ。先頭をジル・ド・レェ元帥が、殿を私に騎乗したオルガマリーが務める。

 ヴォークルールからラ・シャリテまでの距離はおおよそ160キロメートル。その間に山間部はなく、馬を普通に走らせれば3日、急がせれば2日で到着する距離だ。

 

 1日目はワイバーンに遭遇することもなく、順調に90キロメートルの距離を消化した。

 日が暮れる前に、遠征軍は適当に開けた場所を見つけ出し、野営の準備を開始した。

 私の背中に括り付けていた装備から、オルガマリーがいつもの寝具を取り出す。毛布代わりのボロボロの布、ヴォークルールで調達してきた地面に敷く麻で作られた敷物。たったこれだけ。

 敷き終わった麻の敷物に座って防具を外しているオルガマリーの下に、二人組の兵士がなにやら担いでやってきた。何事かと顔を上げたオルガマリーに、その兵士二人は肩に担いでいた荷物を下ろして、にこやかに笑いかける。

 赤毛の、まだ成人して間もないような幼い顔立ちの青年が、照れくさそうにほおを掻きながら、荷物を指差してオルガマリーに話しかけた。

 

「簡易ですが野営用のテントをお持ちしました。これで雨風も防げます。急な遠征でしたから、あいにくこれくらいしか持ち出せなくて」

 

「えっ、そんな。私だけそのような待遇を受けるのは、その、申し訳ないというか……」

 

「いえいえ、お気になさらず。これは私たちの為でもあるのですから」

 

 テントを遠慮するオルガマリーに、赤毛の青年の後ろに控えていた、精悍な顔にちょび髭を生やしたいかつい中年の男が冗談めかして言った。

 

「あなたたちの為?」

 

 言葉の意味を理解しかねたオルガマリーが小首を傾げる。そんな彼女の様子を見て、赤毛の青年が顔を赤らめて空を仰いだ。それを見たちょび髭がバンと彼の肩を叩いて笑った。

 

「いやなに、貴方の美貌は我々の目の毒という事ですよ。何しろ野郎所帯ですから。貴方に無粋な視線が集まらないように、という元帥殿の計らいです」

 

 お分かりいただけましたかな?

 そう言ってちょび髭は茶目っ気たっぷりにウィンクした後、ガハハと豪快に笑った。

 ようやく意図を理解したらしいオルガマリーが、ワタワタと意味もなく手をばたつかせた後、顔を赤らめながらテント設営を了承した。

 

「さ、さっそく設営に取り掛かります!」

 

 赤毛の青年が同じく無駄にワタワタと手をばたつかせて、テントを張る準備にとりかかかった。

 

「そんでもってお前さんにはとれたてのうさぎをやろう」

 

 テント設営に精を出す赤毛を横目で見ながら、ちょび髭が腰に下げていた大きな皮袋から、まだ息のあるうさぎを取り出し私の足元にしゃがみ込んだ。

 ちょび髭〜〜!!

 やったぁ肉だぁ!!図体のでかい狼形態は腹が減るから、この手土産はありがたい。でもなぁ、うさぎかー。

 オルガマリーの料理コマンドには「焼く」しかないから、また悲しい味のうさぎ肉を食べる羽目になっちまう。

 こんな事ならヴォークルールでなにか調味料を調達しておくんだったな。けど物資が貴重なあんな状況では、それも難しかったかなぁ。

 

「……なんでこんな哀しそうな目をするんだ?」

 

 ちょび髭が私の微妙そうな反応を見て、困った様に頭をかいた。

 

「ごめんなさい。トオル……いえその狼、調理した肉が食べたいみたいで……」

 

「それならお任せください!料理なら私の得意分野ですので!」

 

 テントを組みげながら、赤毛が元気に返答する。

 

「そうそう!こいつ料理の腕だけはいいんですよ。となれば、もう数羽狩ってきますよ」

 

 ちょび髭が立ち上がって、近くの森に駆け出した。もうしばらくすれば空も暗くなる。一人で森に入るのは危険だ。もちろん、彼もそれを承知の上で、狩りをする自信があるのだろうが。

 

(心配だから私も付いていく)

 

(ええ、お願い)

 

 オルガマリーと念話でやりとりしてから、私はちょび髭の背中を追って駆け出した。

 

 

 ※

 

 

「見ろ、鹿の死骸だ。この見慣れない爪痕、竜に襲われたんだな」

 

 ちょび髭の見つけた鹿の死骸を遠くから覗いてみる。確かに、首元を切り裂かれた跡がある。腹が食い荒らされて、そこだけゴッソリと肉が削がれていた。

 

「腐敗が進んでるから、近くに竜はいないと思うが……。お前さんの鼻でわからないか?」

 

 私は鼻をスンスン鳴らして臭いを探ってみるが、近くにワイバーンの気配はなかった。

 ちなみに、鹿の死骸にはワイバーンの臭いが染み付いてるから、他の獣達は寄り付かない。だから食い荒らされた鹿はこのまま腐るのを待つばかりだ。

 鹿の死骸をなるべく避けて先に進む。ワイバーンの臭いが移ればそれだけ他の獣に気づかれやすくなって狩りが難しくなる。

 暗くなりつつある森の中を、ちょび髭と並んで歩いていると、ちょび髭がポツリと呟いた。

 

「白銀、いや。オルガマリーさんには感謝してるんだ。もちろんお前にもな」

 

 そう言ってちょび髭は私の頭を撫でた。

 

「昨日の避難民。あの中には俺の妻と息子がいたんだ。オルレアンが襲われたと聞いた時、俺はヴォークルールにいた。残してきた家族の事を思うと気が気じゃなかった」

 

 ちょび髭がしゃがみ込んで、地面を注意深く観察する。鹿の足跡だ。私は鼻を押し当てて臭いの元を探る。

 

「けど、昨日ようやく再会できた。正直、生きて会えるとは思ってなかったよ。銀色の狼に跨った、キレイな銀髪のおねーちゃんに助けられたんだ!って息子が大はしゃぎでよ。……ほんと、ありがとうな」

 

 いいってことよ。

 今の私は喋れないから、彼に返事はできない。だから心の中でそう答えた。

 臭いが強くなる。あの茂みの先に、鹿がいる。私の動きから近くに鹿がいる事を察したちょび髭が、ゆっくりと弓を構えた。

 今夜は美味い飯が食えそうだ。

 

 

 ※

 

 

 2日目、陽が落ちるまでもう幾ばくかという頃合い。ラ・シャリテまでもう5キロの地点で、遠征軍は異変に気が付いた。

 陽が沈みかけて暗くなりつつある南の空が赤く輝いている。立ち上がる黒煙。夕暮れの光ではない。

 急ぎ馬を走らせる。遠征軍の間近に迫ったラ・シャリテは、その全体を轟々と燃え盛る火の海に沈めていた。

 様子を見るか、突入するか。ジル・ド・レェ元帥が決断を下した。

 

「半数はここで待機。残りは私とともにラ・シャリテに突入し現状把握、生き残った市民の救助を行う。馬はこの場に置いていけ。オルガマリー殿は──」

 

「私も行きます」

 

「──わかりました。では、行動開始!」

 

 

 ※

 

 

 隊列を組み街の中を進む。

 街の中は酷いもんだ。家は軒並み焼け、黒々とした煙があちらこちらから上がっている。この様子なら、襲撃されてまだ1時間も経っていないな。

 だが妙だな。そこらで焼ける死体の数は数えきれない。だが血痕がほとんどない。流れた血が少なすぎる、ような。街の中心に行くにつれ周囲の瘴気が増して行く。神経を張り詰めていく。そろそろ街の中心部だ。

 瞬間、体を射抜くような殺気を感じ取った。

 その場から咄嗟に飛び退く。目の前の地面から杭が突き上げられる。

 

「うわぁぁぁぁぁぁ!!?」

「俺の、俺の足がぁぁぁぁ!!!」

 

 半数以上の兵士が突如地面から飛び出した杭に刺し貫かれ、あるいは身体の一部をもぎ取られて足掻き苦しんでいる。内臓が腹が飛び出ている者もいる。だが、生きている。一瞬で絶命していないのが更に酷い。

 オルガマリーがヒュッと喉を震わせた。

 無事だった兵士達は串刺しになった仲間の姿を見て錯乱し、街の入り口に向けて我先にと逃げ出した。

 

「こ、これは一体!?」

 

 運良く難を逃れたジル元帥が剣を引き抜き周囲を見回す。その頭上に、闇に蠢く一つの影。

 もうなりふり構っている場合じゃないか。

 

「させるか!!!ロケットパンチ!!!」

 

 狼から人狼に『変化』し、ロケットパンチを放つ。冬木でランサーのハルペーによって切り落とされた右拳が、影に向かって殺人的な速度で射出される。

 影がジル元帥を手にかける直前に、私の右拳が影を打ち払った。

 だがソレは霧のように霧散する事で私の攻撃をいなした。月明かりに照らされた燃える家屋の上に霧が集まり、徐々に人の形を成して行く。

 

「──余の宴を妨げるとは」

 

 霧が実体化する。

 闇に溶け込む漆黒の貴族服。月明かりを受けて白く輝く頭髪。血に濡れた唇から覗く鋭い犬歯。

 オルガマリーが尻餅をついて、血溜まりの中を後退る。

 

「吸血鬼……!?」

 

「ヴラド三世……!」

 

 闇の中でヴラド三世が吼えた。

 

「余を、その名で呼ぶなッ!」

 

 ヴラド三世から先程とは比べ物にならない程の強烈な殺気が放たれた。

 急いでジル元帥とオルガマリーを抱えて飛び退る。ヴラド三世の足元を伝って杭が地面を疾る。

 跳躍。屋根を伝いただひたすらに逃げるが、杭はどこまでも追ってきた。二人を抱えて、これ以上は逃げられない。

 

「オルガマリー、腰の剣を!」

 

 オルガマリーの腰から「触れれば粉砕」を抜き放ち、二人を地面に下ろした。

 

「これは、これはどういう事なのです!?」

 

 ジル元帥が私を指差して叫ぶ。

 私は元帥に顔を近づけ言った。

 

「オルガマリーを頼みます」

 

 背後を振り返って、「触れれば粉砕」を正眼に構える。じとり、と嫌な汗が背中を流れた。

 ヴラド三世が建物の陰から幽鬼のように現れる。

 

「さあ、串刺しの時間だよ」

 

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