チートな人狼がDLされました   作:呼び水の主

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第6節 鮮血の伝承

 私の持つチート能力『其は有限なる小奇跡』によって幾重にも強化を重ねられた錆びた剣「触れれば粉砕」が、ヴラド三世の繰り出す杭と交錯し激しく火花を散らす。

 振るった剣が杭と打ち合う度、杭がガラスのように砕けちる。

 

「余の杭をこうもたやすく砕くとは、見事。その赤錆びた見てくれは、仮初めの姿という訳か」

 

 ヴラド三世はその気品漂う顔立ちを崩さず、私の持つ剣を称賛した。

 

(いや別にコレ、そこら辺で拾ったただの錆びた剣なんですけど……!真の姿とかないんですけど……!)

 

 内心そんな事を思ったが、とりあえずハッタリを効かせるためにニヤリと笑ってみせた。

 その間も休む事なく突き出る杭が、私を刺し貫かんと迫る。

『其は有限なる小奇跡』によって鋭敏に強化された感覚が地面が盛り上がる瞬間を捉え、瞬時に伝達された電気信号が極限まで最適化された動きで四肢を駆動させる。

 前、左、右、右、前。赤黒い穂先が顔を掠める。一筋の赤い線が顔に走る。次は左腕に。そして脇腹に。

 右足を引き、半身になる事で杭を避ける。その勢いを利用して右手に持つ「触れれば粉砕」を薙ぐようにして杭を砕く。

 防戦は不利だ。剣一本では全てを捌き切れない。薄皮一枚のところで辛うじて躱している、死と隣り合わせの状況。額に一筋、汗が流れる。

 

(分が悪すぎる……!サーヴァントと、真っ向勝負なんて──)

 

 冬木の地でアーチャーに殺された時、『其は有限なる小奇跡』は私を何度も蘇らせた。対価たる魔力が尽きてもだ。

 しかし私の直感──本能と言う方が正しいかもしれない──が、アレは危険だと告げている。

 死からの蘇生。莫大な魔力があればその真似事くらいは可能かもしれない。現にSNでは、ランサーのゲイボルグに突き刺され瀕死になった衛宮士郎は……。いや、ともかく、それは瀕死であって、死からの蘇生とは根本的に異なるものだ。

 魔力がどれだけあろうとも、死からの蘇生などという奇跡がそうやすやすと行えるはずがない。死は、生き物であるがゆえに決して逃れられない宿命である。それを無かったことにする対価など、トールには想像もつかない。死から蘇るたび、自分のナニカが削れていくような、紙ヤスリを肌に押し付けたような、ざらりとした嫌な感触。

 得体が知れない。考えれば考えるほど、恐ろしくなった私は、己に一つの制約を課した。

 それは、死なないこと。対価不明なチート能力に頼って、死を厭わないように。

 

「だからさぁ!」

 

 脇腹に差し込むように突き出された一本に足を掛け、前へと跳躍した。

 ──前へ、前へ。ただひたすらに跳ぶ。

 自分が死なない為に、目の前の敵を先に討つ。

 ここはフランス。ヴラド三世の領地であれば何処からでも突き出る杭であっても、ここでなら彼の踏みしめる地点を起点に伸びるだけに過ぎない。それはまさに杭の道。突き出された杭を足場に、ヴラド三世へ迫る。

 

「悪いが一撃で決めさせてもらう!」

 

「ぬぅ!?」

 

「──必殺!『トオル・ハンマー(めっちゃ早い攻撃)』!死に晒せよやぁーー!!」

 

 キエー!

 私は銀色の線となって杭の道を走った。電光石火の一撃。ヴラド三世の反応を置き去りにして、瞬時に距離を詰め、私は右腕を振り下ろした。錆びた刀身が閃き、ヴラド三世の頭に吸い込まれるようにして叩きつけられる。

 冬木の地から徐々に研磨されてきた戦闘経験。ここに至るまでの濃密な時間がもたした得難い経験が、私の戦闘能力をひとつ上の段階まで引き上げていた。

 並のサーヴァントを凌駕した人外の速度、宝具には及ばずとも霊核さえ捉えれば一撃で打倒しうる礼装。未熟な戦士なれど、その速度と一撃の破壊力が合わされば、瞬間的に英霊すらも凌駕する。

 だがしかし、ヴラド三世はそれを防いで見せた。その手にした槍で「触れれば粉砕」をガッチリと受け止めた。

 

「まだまだぁ!」

 

 前へ!

 顎を目一杯開き、ヴラド三世の首筋に噛み付いた。

 

「ウゥゥゥゥゥゥゥゥ!!ふひゃびゃれぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 喉元を噛みちぎる。鉄の味が口の中いっぱいに広がる。

 完全な致命傷だ。勝った、と確信した。

 

「──まるで雷電の如き踏み込み。素晴らしい動きだ、銀に輝く狼よ」

 

「あれで生きてるって、マジか……!」

 

 喉元を裂かれた筈のヴラド三世は、平然とそこに立ち続けていた。血を滴らせていた首が見る間に再生していく。

 動揺から、行き場を失い揺れるだけの剣先を素手で掴み、グイと私を引き寄せたヴラド三世が囁くように告げる。

 

「皮肉なものだ。忌み嫌うべきこの身体が、我が命を救うのだからな」

 

「やば──」

 

「この距離ならば、如何に素早かろうと避けられまい?血に濡れた我が人生をここに捧げようぞ。『血塗れ王鬼(カズィクル・ベイ)』!」

 

 ヴラド三世の体内から、骨と血と狂気とで編まれた無数の杭がトールの肉体を満遍なく貫いた。

 身体を巡る血管がブチブチと引き千切られて、猛り狂った心臓が壊れたカーステレオのように、行き場を失った血液を噴水のように撒き散らした。

 

「ガァァァァァァァァァァ!?!?」

 

 ──命の炎が消えていく。

 モウマヂムリ...。意識がだんだんと薄れていって、ある所で強制的に叩き起こされた。

 止まったはずの心臓がドクン、と強く脈打つ。

 

「こ、このぉ!トールから離れなさい!!」

 

 血と肉を撒き散らして破裂した私を間近で見たオルガマリーが、遠方から必死の形相でヴラド三世に魔術による攻撃を加えている。ヴラド三世はそれを意に介さず、ただひたすら私を見据えていた。

 

「ほぅ……。貴様も余と同じだな」

 

 目を細めて、口角を釣り上げて、ヴラド三世は静かに笑う。

 

「ギ・ギ・ギ……」

 

 飛び散った血肉がみるまに再生していく。

 飛び出した左の目玉が再びあるべき場所に帰還する。

 

 焦点が定まった。目の前には吸血鬼。

 恐怖心が心を支配する。痛いのも怖いのも、もうたくさんだ。

 けど、それに負けじと雄叫びを上げた。

 

「ウォォォォォォぉぉぉぉぉ!!」

 

 私は不死身の人狼だぁーーー!!

 残機もうヤベェけどなぁーーー!!

 

「化け物よ!怪物たる余を殺してみせろ!」

 

「望み通りにしてやるさ!カァッッッ!!」

 

 至近距離からの『魔力放出(音)』!

 この距離なら杭のバリアは張れないな!!

 放出された音の暴力が、ヴラド三世ごと背後の街並みを根こそぎ吹き飛ばした。

 やったか!?

 

「トオル!!」

 

「いけませんオルガマリー殿!」

 

 ジル・ド・レェ元帥の制止を振り切って、オルガマリーがこちら駆け寄ってくる。

 血だるまになった私の姿を見て、気が動転している。

 

「ダメだ!こっちにくるな!!」

 

「でも、でも!」

 

「戦いの最中に余所見とは感心せぬぞ、化け物!」

 

「チィ!?」

 

 ヴラド三世の振るった槍を横っ跳びに躱す。

 ──ッ!誘導された!

 気が付いた時にはもう遅かった。私の避けた先に何本もの杭が待ち受けている。

 杭が脇腹に深く突き刺さる。意識が飛びそうな激痛が走り、私はあまりの痛みに耐えられず、思わず手に持つ「触れれば粉砕」を取り落としてしまった。ガラン、という音を立てて剣が土埃の立つ地面に横たわる。

 

「ぐ……ガフッ……」

 

 杭によって身動きの取れない私に、ヴラド三世が歩み寄る。

 

「──あまりに貧弱だぞ。化け物」

 

 私は脇腹に突き刺さった杭を抜こうともがきながら、ヴラド三世を精一杯睨みつけた。

「触れれば粉砕」に、手が届かない。身動きもできない。

 

「くそっ……ドリンチちゃんさえあれば、まだ……」

 

 長大な槍を私の首元に突きつけ、ヴラド三世が告げる。

 

「……ドリンチちゃん?己の剣の未熟さから負けたと?違うな。武器など関係あるまいよ。貴様には、決定的に欠けているものがある」

 

 その言葉に、どきりとした。

 思わず、杭を掴んだ手の動きが止まる。

 

「……黙れ」

 

「貴様には、戦う理由が欠けている!己の命を対価にする理由だ!戦う理由なき力の、なんと空虚なことよ!」

 

 ずっと考えないようにしてきた。

 この世に、冬木に生まれ落ちてから、ずっと。

 答えは見つけた様な気がしていた。

 だが同時に、常に考えていたことがある。

 ──それは本当に、私の命を懸ける価値があるのかと。

 

「しゃべるなぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 理性が爆発した。

 オルガマリーの前で、その言葉を、言うな!!

 

「所詮は獣か」

 

 ヴラド三世が槍を振り上げた。

 私は死ぬ。身体の修復で魔力も尽きた。『其は有限なる小奇跡』は私を蘇らせるだろうか……?痛いのは嫌だ……。死にたくない。ちくしょお……!!

 

「あぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 ずぶり、とヴラド三世の胸に剣が突き立てられる。

 

「……その勇気に免じ、血を啜ろう。これは報酬である」

 

「ッ!やめろォーーー!!」

 

 ヴラド三世は億劫そうに、剣を突き立てたオルガマリーを引き剥がし、その首筋に犬歯を突き立てた。

 

「う、あ……。トォ、ル……」

 

 オルガマリーの目から、徐々に光が失われていく。ヴラド三世が唇から血を滴らせ、彼女の首筋から犬歯を引き抜いた。ドサリと、オルガマリーが力を失って地面に倒れこむ。

 

「若き女の血とは、こういうものか。カーミラの趣味を、悪くは言えぬな?」

 

「ッッッ!!!」

 

 杭を掴み、力任せにへし折った。

 全身の筋肉が唸りを上げて、目の前の怪物を殺すために動き出す。

 姿勢を低く、一息に肉薄する。ヴラド三世の胸に刺さったままの「触れれば粉砕」を引き抜き、何度も何度も胸に突き刺した。それからがむしゃらに剣を振り回し、ヴラド三世を切り刻む。

 

「ォォォォォッ!!」

 

 至近距離から、『魔力放出(音)』を絞って心臓をピンポイントで狙撃する。

 

「死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!」

 

 何度も何度も。頭蓋も、心臓も、何度も潰した。なのに。

 

「なんで、死なない……」

 

 ヴラド三世は依然としてそこに立っていた。

 まるでそよ風に吹かれたかのように、彼の身体には傷一つなかった。

 これが吸血鬼。ブラム・ストーカーによって編まれたフィクションが、人々の信仰を得てこの世に産み落とされた怪物の力。

 

「癇癪は終わったか?」

 

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「化け物らしく散るが良い!『血塗れ──ヌゥ!?」

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 白銀の鎧が颯爽と駆ける。

 巧みな剣術。圧倒的膂力を持つヴラド三世の槍をいなし、その剣を足に深く突き立てた。

 地面に縫い付けられたヴラド三世が一瞬だが動きを止めた。

 

「今です!逃げなさ──」

 

 こちらを振り返ったジル・ド・レェ元帥が、ヴラド三世の槍に貫かれた。あああ……。

 逃げないと……!だが、もう身体が動かなかった。もう、抗う力も、気力も、何もかも残っていない。

 目を閉じて横たわるオルガマリーに手を伸ばす。

 約束したんだ。必ず護ると……。なのに、こんなところで。

 絶望に呑まれかけたその時。天から力強い少女の声が響き、ヴラド三世めがけ飛び出していく影を見た。

 

「今です!突撃!!」

 

「先輩!ジャンヌさんに続きます!やあああ!」

 

「まあ!この子首に傷があるわ!それにこっちの方は血まみれよ!早く手当てしてあげないと」

 

「マリー、君は手当てなんかできないだろう?ちょっと待って何してるんだい?わあ、自分の服を破くなんて!しかもスカートの裾を!?」

 

「トールさん!無事ですか!?よかった!」

 

「藤丸くん……?それにマシュちゃんに、あれは」

 

 オルガマリーの首に包帯がわりの服を巻き付けている少女はマリー・アントワネット。

 その様子を観察しているヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト。

 そしてヴラド三世を膂力で圧倒し、果敢に旗を振るっているあの少女は──

 

「──ジャンヌ。ジャンヌ・ダルク!?」




狂化付与+聖杯による魔力供給+常時発動の『鮮血の伝承』=最強の吸血鬼
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