鉄と鉄のぶつかり合う音が、燃え盛る街の中で響き渡る。旗と大盾が槍とが激しく打ち合って火花を散らし、闇を照らす。
彼らの激闘を尻目に、私は意識を失って倒れているオルガマリーに縋り付きいて『其は有限なる小奇跡』を起動させる。
『其は有限なる小奇跡』の能力は、対象が持つ概念を「強化」するというものだ。冬木では私の五感、筋力、コンクリートの「頑丈」、このオルレアンでは剣の「叩きつける」という概念を強化した。強化ができるなら、その逆も可能なはずだ。他者に使うのは初めてだが、こればっかりは祈るしかない。
オルガマリーの中に芽生えつつある「吸血鬼の眷属」という概念に干渉し、抑え込む。
保有魔力はヴラド三世との戦闘でとうに尽きていたが、『魔力逆流』によってごく僅かに回復を続けているもの全て注ぎ込む。回復してはその分をすぐさま能力に回し、またそれを繰り返す。
「頼む……。『其は有限なる小奇跡』……!オルガマリーを、助けてくれ……!」
オルガマリーの肉体が淡く発光する。
成功したか?くそ、見た目からじゃ判別できない。
「わお。すごい魔術だね。いや、魔術ではないのかな?それにカルデアのスクロールはすごいねぇ。あっちの瀕死だった血だるま男も見事に回復させちゃうんだから」
こんな時でもアマデウスは飄々としている。よくもまあこんな状況で……。けれど彼のおかげで、私も気持ちが落ち着いてきた。今は取り出している場合じゃない。オルガマリーのためにも、私がしっかりしていないと。いつもの調子を取り戻せ。ロジカルに考えるんだ。
ヴラド三世とジャンヌ、マシュちゃんの戦闘はまだ続いている。見たところ、あの二人が防戦一方の様だ。サーヴァント二人掛かりなのにそれを圧倒するって吸血鬼ヤバすぎるでしょ……!
オルガマリーは吸血され、ジル元帥はスクロールの回復術式で死を免れたとは言え、大きな傷を負った。これ以上ここに留まるのは危険だ。
一度ヴォークルールに撤退して態勢を立て直さないと。
「アマデウス!上から!」
突然マリー・アントワネットが空を指差して叫び、アマデウスが咄嗟に背後に飛んで上からの奇襲を躱した。
空からの敵だって!?くそ!闇に紛れてまったく気が付かなかった……!
「おおっと!?危ない危ない。
アマデウスの放った魔力弾が空からの敵に直撃する。ソレは断末魔の声を上げて、勢いよく地面に叩きつけられる。
「ワイバーンかい?いつの間に近づいて……。どうしたんだい、マリア?」
「皆さん、あちらの空をご覧になって」
マリー・アントワネットの示す先、空を見上げた。北の空、闇の中でいくつもの影が蠢いている。無数の小さな影の中に、一際大きな影。力強く風を叩く巨大な翼。牙の隙間からチロチロと覗いている赤い炎。闇に溶け込むような漆黒の巨躯。
おいおいアレって……。
「ファヴニール……。竜の魔女だ……!」
思わず口走る。いやだって間違いないもの。一目見たらわかるこのヤバさ。
ていうか実物デカすぎない?リオレウスの倍はある。やったねジークフリートちゃん!最大金冠確定だよ!……いや、ふざけている場合じゃない。これはマジでやばたにえん……。正真正銘の絶体絶命ってやつだ。
「逃げましょう」
藤丸くんが即断する。
いい判断だ。流石は将来人理を救っちゃう系マスター。陸軍としてもその意見に賛成である。
私は
「よしきたそれがいい僕も大賛成だ。けどどうやって?走って逃げるとかやめるてくれよ?僕は走るの得意じゃないんだ」
「私はガラスの馬があるけれど、みんなは乗せられないわ……」
マリーさんのシュンとした顔かわいい!
ん?いや待てよ。マリーさんの宝具はガラスの馬を出せる。それで私は対象を強化できるチートを持っている。だったら私のチートでマリーさんの宝具強化してガラスの馬沢山出せばいいんじゃないかな!?かな!?
ヤダ!トールったらあったまいいー☆
「みんな聞いてくれ」
「まあ、まあまあまあ!アマデウス、狼さんが喋ったわ!さっきのは聞き間違いじゃなかったのね!なんてかわいいのかしら!」
「え、正気かいマリア。これ、ただの血塗れ埃まみれのボロ雑巾だよ。喋るボロ雑巾のどこがかわぃへぶぁ!?」
私はアマデウスの口を左手で押さえながら、右手の人差し指をピンと立てて言った。
「私にいい考えがある」
……なんだ藤丸くんその胡散臭そうなモノを見る目は!
※
「
「ハァン!」
「
「ホァン……」
「
「アハァン!」
アマデウスの魔力弾がビシバシと私の身体を打つ。『魔力逆流』の全力展開と、手加減された魔力弾相手だからこそできる強引な魔力充填だ。
『魔力逆流』が私の身体に直撃する寸前に魔力弾をただの魔力に分解し吸収するが、空気の振動による衝撃までは防げない。それがわりかし痛いもんだから、つい声が出ててしまう。
「ハァン!」
「悪夢だ……僕は悪夢を見ているんだ……」
「うふふ。新しいピアノが出来て良かったわねアマデウス」
「こんな汚いピアノがあってたまるか!
「アハァン!!」
「あああ……ワイバーンに囲まれていく……。ジャンヌさんとマシュもまだ戦っているのに、俺はトールさんの喘ぎ声を聞くことしかできないなんて……!」
「ホァン……」
ワイバーンの大群が私たちを包囲するように空を旋回する。まるで翼竜のドームだ。見回す限りワイバーン。ワイバーンどもが、けたたましく鳴き声を上げる。もう完全に逃げ場がない。身の竦むような思いだ。私の予想通りに計画が進まなければ、ここで全員死ぬのだから。頼むぞ……!
そしてワイバーンの旋回する空間のある一点が開き、ついにファヴニールが地に舞い降りた。ズン、という音を立てて、その巨躯が降り立った部分が沈み込む。
「うっ、くぅ……!?」
「くぁ……!?」
ファヴニールが降り立つと同時に、ジャンヌとマシュちゃんがこちらに吹き飛ばされてきた。
「マシュ、大丈夫!?」
「ジャンヌ!大変、ボロボロだわ!」
藤丸くんとマリーさんが二人に駆け寄る。
そして二人を吹き飛ばした張本人、ヴラド三世がファヴニールの隣に歩み寄ってくる。
相変わらず傷ひとつない。マジモンの化け物だよ、ヴラド三世……。
そして空を舞っていたワイバーンから次々とサーヴァントが降り立ってくる。
バーサク・ライダー、鉄の聖女マルタ。
その服で聖女は無理でしょ。はっきり言って痴女服だ。
バーサク・アサシン、血の伯爵夫人カーミラ。
触ったら痛そうなデザインNo. 1。はっきり言って痴女服だ。
バーサク・セイバー、シュバリエ・デオン。
フランスの可憐なる英雄。羽帽子を被った可憐な男装の剣士。立ち振舞は凛として洗練され、それだけて見る者を魅了する。サラリと風に靡く金髪と、桃色の唇から目が離せない。任務に対しては苛烈なまでに真摯であり、時に冷酷な行動を選択せねばならない場面であっても躊躇わない仕事人気質なところが魅力的だ。しかし平時では穏やかな性格であり、午後のお茶の時間を楽しみにしながら家事に勤しむ顔など見た日には私は尊みで死ぬ。中性的な容貌をしており、プロフィールでも性別は不明だがむしろそれがいい。最終再臨絵の尊さで性癖が歪む。
3人がヴラド三世と同じくファヴニールの横に並び立つ。
そうして最後に、ファヴニールの背から黒衣の女が地に降り立った。ジャンヌ・ダルクと瓜二つの容姿。だと言うのにその顔は憎悪と嘲りで歪み、本物のジャンヌとは似ても似つかぬ雰囲気を纏っている。その女の通り名は竜の魔女。そして名をジャンヌ・ダルク・オルタと言う。
ジャンヌ・ダルク・オルタが身構える私たちをゆっくりと睥睨した後、唇と目元を震わせて、憎悪剥き出しの顰めっ面をした。
「
「アハァン!」
「……ねえ。お願い、だれか私の頭に水をかけてちょうだい。まずいの。やばいの。本気でおかしくなりそうなの」
ジャンヌ・ダルク・オルタが吐き捨てるように叫ぶ。
ヤツが長々と喋っているうちに、早く魔力を充填しなければ……!
もっとだ……もっとよこせアマデウス!!
「ハァン!!」
「なんっなのッ!コレッッッ!!」