「ファヴニール、天高く咆哮なさい!このふざけた連中を一切合切焼き払え!」
ジャンヌ・オルタの怒号が飛び、ファヴニールのバックリと開かれた口の奥が煌々と輝いた。
「オォォォォォォォォォォォォ!!」
頭を後ろに引いた溜めの姿勢から、堰を切ったように灼熱のブレスが吐き出される。
火球と表現するには大規模すぎる炎の塊が視界いっぱいに迫る。
「れ、令呪をもって命ずる!マシュ!宝具でみんなを守って!!」
藤丸くんが咄嗟に指示を飛ばす。
この土壇場で、彼は最高の答えを導き出した。
彼の右手の甲にある三画の令呪のうち一つが真っ赤に輝く。その輝きに呼応して、マシュちゃんが裂帛の気合いとともに宝具を展開する。
「あの時の感覚を……!行きます!仮装宝具、擬似展開!」
藤丸くんとマシュちゃんが思いっきり息を吸い込んで、宝具の名を叫ぶ。
「「『
前面に構えられた巨大な盾が青く輝く。
淡い光を放つ力場が私たちを優しく包み込み、ファヴニールのブレスを真正面から受け止めた。
「「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」
直撃と同時に、雷鳴のような爆音が街を覆い尽くした。キィィィィィン……という爆撃直後の耳鳴りのような、不快な音が頭の中でしっちゃかめっちゃかに暴れ回って、脳を揺すぶる。
ロード・カルデアスは見事にファヴニールの一撃を受け止めた。ブレスとロード・カルデアスの力場の衝突によって巻き上げられた煙がゆっくりと晴れていく。
半円状に展開していた力場の外側は、熱波によってドロドロに焼け爛れていた。内包していた魔力の残滓が濃密に周囲に立ち込め、石畳の残骸が赤熱し、白い煙を吐き出している様から、あのブレスがどれほどの破壊力と熱量を持っていたかが伺えた。
「あんなの直撃したらひとたまりもないな!そろそろお暇したいところなんだけどね!まだかかるのかい!?
「ちょ、アイッタ!?……心配するな、今終わる!!かっ喰らえ!!『魔力逆流』!!」
ククク、計画通り。キタキタキタキター!!!この瞬間を待っていたんだー!!!アマデウスとの連携プレーが上手く行ったね!
ジャンヌ・オルタを煽りファヴニールのブレスを誘発。辺りに漂うブレスの残滓をバキューム!ペロッ!これがファヴニールの味……。
どれだけ濃縮された魔力が込められていたのだろう。あっという間に身体に魔力が満ちていく。ドクン、と心臓が強く跳ねた。強烈な立ち眩みに襲われる。や、やばい。ファヴニールの魔力による負荷が強すぎる。
「無様ね。ファヴニールはただ吼えただけなのに、宝具まで使ってしまうなんて」
ジャンヌ・オルタが口の端を歪に吊り上げて暗く笑った。
「ファヴニールに頼るまでもありませんでしたか。さあ行きなさい、私の卑しい猟犬たち。あの哀れな聖女は生かしたまま捕らえなさい。他の者達は──」
「──殺しなさい」
ジャンヌ・オルタの号令で一斉に敵サーヴァント達が動きだす。いや、ヴラド三世だけは、ジャンヌ・オルタの横で静観を決め込んだままだ。
向かってくるのはマルタ、デオン、カーミラの三騎。
こっちの準備はまだ終わってない。『其は有限なる小奇跡』がマリーさんの宝具に干渉できるかすらわからない大博打。
なんとか時間稼ぎをしてもらわないと。
「アマデウス!藤丸くん!あとは打ち合わせ通りに!」
「え"!?打ち合わせ通りにってなんですか!?」
初耳なんですけど!?とでも言いたげな焦った顔で、藤丸くんが私を見た。ヒュバッ!という擬音が聞こえてきそうな素早い動きだ。ごめんね、藤丸くん。
それでも自分がすべき事だけは即座に理解したのだろう。あっという間に気持ちを切り替えた彼は、さっそく指示を出し始めた。
「マシュとジャンヌさんは前衛お願い!トールさんの準備が終わるまで、とにかく時間を稼いで!」
「……了解です!自信はありませんが、なんとかしてみせます!」
「竜の魔女に使役されているサーヴァント達は、どうやら狂化を施されているようです。私とマシュさんだけではあの三騎を抑えられません。藤丸くん、何か策はありませんか?」
ジャンヌがマルタの杖による打撃を手に持つ旗で捌きながら、藤丸くんに援護を求める。
どうやら聖女マルタは、なんらかの理由で本来の攻撃方法を使えないようだ。彼女の本来の攻撃方法は「祈り」による魔術攻撃。祈りに精神的な要素が絡むというのなら、狂化された今の彼女の精神では扱えないのかもしれない。何にせよこちらにとっては好都合だが。
「えぇと!確かアマデウスの宝具って敵の妨害ができるんだったよね!?」
「そうだよ?自分で言うのもなんだけど、僕の宝具は結構強──」
「お願い!今すぐ!!」
間髪入れずに藤丸くんが即答する。
「──だよね!では聴くがいい、魔の響きを!
アマデウスの宝具発動と同時に、ぼんやりと乳白色に発光する、燕尾服を纏った首のない天使のような者達が、楽器を携え彼の周囲に現れて演奏を始めた。
そうして、彼はこの戦場の支配者となった。彼の操る音のみが、この世界を支配している。
敵サーヴァント達の動きが明らかに鈍っていくのがわかる。
圧倒的に不利な形勢だったジャンヌとマシュちゃんだったが、遂に互角の戦いを繰り広げ始めた。
「よし!みんなが繋げてくれたこの時間、決して無駄にはしない!マリーさん!私と力を合わせてください!」
「はぁい、よろしくてよ!」
マリーさんがニッコリと満面の笑顔で、元気いっぱいに返事をしてくれた。
はわわ、恋に落ちちゃいそう……。すっごい天使。ヤダ、わたしフランス市民になっちゃう。
「それで、具体的にはどうすればいいのかしら?」
「──え?」
「あら?」
マリーさんが可愛らしくコテン、と小首を傾げた。
マリーさんかわいいヤッター!
私の脳内で、百万人の私がマリー・アントワネット全国ライブツアーの会場で拍手喝采・万歳三唱を繰り返している。バンザーイ!バンザーイ!
「……どうしたらいいんでしょうね?」
私も可愛らしくコテン、と小首を傾げてみる。
その時、私の後頭部に重い衝撃が走る!
ン"ア"ァァァ!?
「何が、私にいい考えがある、だ!まるでノープランとは恐れ入ったよ!」
アマデウスがタクトを振りながら、次々と連続して私に魔術弾を放つ。器用な奴め。
「そうだわ!狼さん、手を出してくださる?」
「何か思いついたんですか?」
私は差し出されたマリーさんの手にポンと自分の手を重ねた。
「せっかくアマデウスの演奏があるのだもの!踊りましょう、歌いましょうよ!うふふ、私達の息を合わせるのにピッタリではなくて?」
「え、いや、それは、でも」
「どんなダンスがお得意かしら?そーれ♪」
ぎゃあ!マリーさんが私を上手く誘導して強制ダンスが始まった。
「……ク、アッハッハッハッハ!だ、ダメ……面白すぎ……。見て、ジル!アイツら急に踊り出したわよ!?ヒクッ、ウッ、ゴホッ!お、お腹痛い……。あ、ジルはここにいないんだった」
ジャンヌ・オルタが私達を指差して、腹を押さえながら蹲っている。そこまで笑う!?
くっそー!たしかにいきなりダンスが始まったのには驚いたけど、きっと深い意図があるに違いないんだ。
「うふふ!」
わぁいマリーさんかわいいー。
まったくダンスの経験のない私をマリーさんが巧みにエスコートする。
繋いだ手から伝わる、彼女の柔らかい手のひらの感触。僅かに熱を帯びた肩。私の顔を撫でる彼女の甘い吐息。
周囲の喧騒が遠ざかっていく。激しい剣戟の音も、アマデウスの奏でる演奏すらも置き去りにして。この世界にいるのは、私と彼女だけのように感じられる。
その瞬間、私の背筋をビビッと電流が駆け抜けた。『其は有限なる小奇跡』が独りでに起動する。
「狼さん、私の詠唱に合わせてね?さんざめく花のように、陽のように!」
私との間に「パス」が繋がった事をマリーさんも理解したのだろう。桃色の唇をキュッと引き締めて、宝具の解放を始めた。
ちょっと恥ずかしいけど、そんな事言ってる場合じゃないか!よぉーしキメるぜ!マリーさんとの合体宝具!!
もっとだ!もっと!キラキラキラキラ!もっと輝けぇぇぇぇぇぇぇ!!!
「「
フランス万歳!