チートな人狼がDLされました   作:呼び水の主

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◆これまでのあらすじ◆

時は1431年。百年戦争最中のフランス。道中ワイバーンに襲われる人々を救ってまわり、聖女の再来と噂される程の活躍をみせたオルガマリー。

その後偶然にもジル・ド・レェ元帥と遭遇し、ヴォークルールに案内される。

ヴォークルールを拠点とし、生存者を集めている元帥と共に、ラ・シャリテに訪れたオルガマリーとトール。しかし、そこで待ち受けていたのは最強の吸血鬼と化したバーサーク・ランサー、ヴラド三世だった。

ラ・シャリテでヴラド三世から吸血を受け、眷属とされてしまうオルガマリー。

途中合流した藤丸達の力を借りて、なんとかヴォークルールに逃げ帰った一行だったが……?

……おや?オルガマリーのようすが……?


第11節 覚悟完了

「うう、また眠気が……」

 

 藤丸くんが重い瞼をこすりながら、力なく椅子にへたり込んだ。

 聞いたところによると、ラ・シャリテで私たちと合流するまでの彼らの足跡も、私とオルガマリーと似たようなものだった。

 第2特異点であるオルレアンへのレイシフト、そこからマリーとアマデウス、ジャンヌと運良く出会い、ワイバーンから人々を救って回っていたようだ。

 

「これは……。先輩の疲労が最大値です。早めの休息を提案します」

 

 私としてもその提案に賛成である。

 藤丸くんの足首から下が真っ赤で痛々しい。

 途方も無い距離を徒歩で移動したんだろうな。すげぇよリツカは……。

 

 ところでマシュちゃんの村娘風衣装、イイね……。目立たないようにヴォークルールに溶け込むための変装なんだろうけど、色々目立ちまくって全然溶け込めてないところとかすっごく好きです。ね?藤丸くん。

 私と藤丸くんはアイコンタクトでお互いの意思を確認し合った。彼の瞳には、「はい!」そんな力強い返事が込められている気がする。うむ、やはり君はスジがいいネ……。

 

『そうだね、いくらカルデア礼装の補助があるといっても元は一般人なんだし……なっ!?』

 

 突然、Dr.ロマンが驚きの声を上げた。

 画面の向こうであたふたとコンソールらしきものを叩いている。なにやらただ事じゃない様子。

 それとほぼ同時に、ズンッ!と腹の底に響くような重圧が私を貫いた。尻尾の毛がブワァと逆立つ。

 先の戦いの経験を踏まえ、現在常時発動させている『魔力逆流』がなんらかの異変を察知したようだ。

 元々『魔力逆流』には、大気中のマナを体内に取り込み蓄える機能があったが、常時発動させる事でマナの微細な変動を捕捉するレーダーのような事も出来るようになったのだ。

 

 しかし、なんだ、このザラザラとした感覚は。私はこの気配を知っている……?

 

『た、大変だ!城壁内に敵性魔力反応探知!どうして今まで気が付かなかったんだ!?霊器パターン照合……ッ!?こ、これは……!竜の魔女、ジャンヌ・ダルク・オルタだ!ほぼ同ポイントにジャンヌ・ダルクと所長の反応がある!彼女たちが危ないぞ!!』

 

 うぉらぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!

 Dr.ロマンの言葉を聞き終わらないうちに、私は部屋の窓をぶち破り、夜の空気を裂くように跳躍した。

 ジャンヌ・オルタがヴォークルールに侵入だと?カルデアのレーダーとゲオルギウス先生の警戒網を掻い潜って内部に潜入するなど不可能だ。

 

 私の背中を嫌な汗が流れた。

 ジャンヌ・ダルク、私が行くまでオルガマリーを守ってくれよ……!

 

 

 ●

 

 

 街を囲っている城壁前にたどり着いた。

 跳躍。城壁の上にでる。視界が開けた。

 さっきの気配は、そこか!

 城壁の上に2つの人影。3つじゃないのか……?

 滞空が終わり、城壁に着地した。

 

「オルガマリー、無事か!」

 

 人影はオルガマリーとジャンヌ・ダルクだ。

 負傷しているのか?ジャンヌがオルガマリーの肩に担がれている。どうやら気絶しているらしい。FGO初期ユーザーの希望の星だった、あの鉄壁聖女が気絶だと……?

 しかしオルガさんよ。その抱え方、ちょっと男らし過ぎない……?

 

「……あれだけ私の気配を漏らせば流石に気付きますか。ちょっと派手にやり過ぎたわね」

 

 うん?私はオルガマリーに駆け寄る足を止め彼女をマジマジと観察した。

 いつもと違う言葉遣いに、人を蔑むように歪んだ口元、そして暗闇の中で赤く光る瞳。

 ああ……そしてなにより決定的なのは、オルガマリーから竜の魔女の気配が漏れ出ている事だ。

 脳裏によぎるのは、ヴラド三世の吸血行為。

 この特異点に来てから、私はオルガマリーとは四六時中一緒にいた。となればこういう事が起きるトリガーはあれしかない。

 

「貴様……!オルガマリーに何をした!!」

 

「誰かと思えば、あの時の道化(ピエロ)犬じゃない。ハッ、聞かれて答える馬鹿がどこにいるのよ!精々そこで吠えてなさい!悪いけどアンタのくだらない芸に付き合ってる暇は無いの、よ!」

 

「あっ!」

 

 オルガマリーがジャンヌを抱えたまま城壁の外へ飛び降りた。

 どこかに待機していたのか、ワイバーンが彼女らを下から掬うようにして背中に乗せて飛び立った。あの方角、オルレアンか。

『魔力放出(音)』での狙撃を。ワイバーンだけを狙い撃てるか……?

 いや、ダメだ。オルガマリーに当たる。

 みるみるワイバーンが遠ざかっていく。人間二人分の重さ乗せてあの速度が出せるのかよ!

 こうなったら……!

 

「走るしかない!」

 

「お待ちください!」

 

 私がまさに走り出そうとしたところに、待ったの声がかかった。ぐはぁ……!つんのめって前に転倒するも、咄嗟の前回り受け身で衝撃を逃す。いた、いた……痛くない!義務教育として柔道が課せられてるのは無駄じゃなかったんだ……!サンキュー義務教育!

 

「ゲオルギウス先生!来てくれたんですね!」

 

 振り返った先には、全身に橙色の鎧を纏った堂々たる聖人の姿があった。

 

「ジル・ド・レェ元帥から、ヴォークルールの守りを請け負っておきながらこのような失態を犯すとは……。何としても彼女らを取り戻します!」

 

 自分が意識を失っている間に、再びフランスを救うため立ち上がったジャンヌが拐われたと知れば元帥は自分自身を殺しかねない。それほどの存在なのだ、彼にとってのジャンヌ・ダルクは。

過去救えなかった事を、きっと死ぬ程後悔しているに違いないのだから。

 ゲオルギウス先生も、それを承知でこの剣幕なのだろう。責任感の強い人だ。

 ……ああ、ジル・ド・レェにとってのジャンヌ・ダルクが、自らの全てを投げ打ってでも救いたい対象であるように、俺にも護りたいものがある。彼程の覚悟はまだないが、オルガマリーとの約束を破るほど私は臆病ではない。

 

 よォし!先生が来てくれるなら百人力だ!!

 うぉぉぉぉぉ!!ガシィンガシィンガシィンブッピガァン!

 私は気合と共に『高速巡航モード・ヨツンヴァイン(狼形態)』へと変形した。

 

「先生ェ!私の背中に!」

 

「いざッ!!」

 

 巨大な銀狼がその背に竜殺しの聖人を乗せて、ヴォークルールから弾丸のように飛び出した。

 それは野の草を刈り取る疾風の如く。

 力強く大地を踏みしめ、狼が往く。

 

 

 ●

 

 

 眼下に広がる大地を駆け、こちらを猛追してくるライダーが一騎。

 

「あの人狼、予想以上に速い……。聖ジョージがヴォークルールの外に出てきたのも予想外ね」

 

 聖杯のバックアップを十全に受けたジャンヌ・オルタから見ても、聖人ゲオルギウスは強い。加えてそのドラゴン退治の逸話から、戦力の大半をワイバーンが占めるこちらとは徹底的に相性がよろしくないのも面白くない。

 ヴォークルールにこれまで本格的な侵攻をかけなかった理由がそれだった。

 

「目の上のたんこぶ、ってやつかしら。でも、迂闊よねぇ。自分から街の外に出てきてくれるんだもの!地の利を失えば、付け入る隙もある!さあ、蹂躙なさい!バーサーク・ライダー!バーサーク・セイバー!」

 

 ジャンヌ・オルタの命令で、ヴォークルールからの逃走経路上に待機していた二騎のサーヴァントが、霊体化を解き、その姿を現した。

 

 

 ●

 

 

「聖女マルタと、シュヴァリエ・デオンか……!」

 

 オルガマリーの乗るワイバーンを守るように現れた二騎の英霊。

 相手をしている暇はないというのに、こうも立ち塞がられては……!

 

「トール殿、いけません!彼女らをまともに相手にしては……!」

 

「す、すいません!でも……!」

 

 ダメだ、視線が、意識が誘導される。

 オルガマリーを追うという目的が曖昧になり、周囲への注意力が散漫になる。私の意識は、あの美しき騎士に完全に囚われていた。

 

 シュヴァリエ・デオン、彼女の持つスキル「麗しの風貌」の効果。ゲーム内では自身へターゲット集中効果を付与する能力だったが、なるほど、現実だとこう再現されるのか……!

 

「精神干渉系……!」

 

 私の異常にすぐさま反応したゲオルギウス先生が、私の耳を思いっきりつねった。

 

「イッ!?」

 

 意識が目の前に引き戻される。

 

「トール殿!意識を強く持って!惑わされてはいけません!」

 

 ゲオルギウスの言葉にハッと我に帰る。

 目の前にはうっすらと微笑を浮かべた騎士が、流麗な動きで獲物を振り抜くのが見えた。腕から腰にかけてのしなやかな動き。軽やかな足運び。弧を描きながら煌めく白刃。

 私の命を絶たんとするその一連の動作すらもが、私の心を奪う。

 

「はぁ!」

 

 デオンの攻撃をゲオルギウスがアスカロンで迎撃し、私の頭上で火花が散った。

 その音で再び正気に戻った私は、デオンとすれ違うようにして背後に回り込む。

 

 頭を振って心を鎮める。ダメだ、完全にこちらの動きをコントロールされている。

 空を仰げば、ワイバーンはすでに遠く。私の手の届かない距離へと飛び去っていた。

 

「しまった……!」

 

「……残念ですが、今回は敵の方が一枚上手でした。しかし大丈夫です。行き先は分かっています。さぁ、気持ちを切り替えましょう!今は目の前の障害を乗り越えるのみ!」

 

 流石の状況判断だ。身の安全をある程度保証してくれる城壁の外へ、我々はまんまとおびき出されてしまったわけだ。今は他人の心配より自分の命の心配を。

 しかし、しかしだ。先生はそう言うが、そう簡単に気持ちを切り替えられれば苦労はしない。

 

 敵の目的は?なぜジャンヌを攫う?操られたオルガマリーは無事で済むのか?オルレアンで酷い目に合わないか?この特異点に来て、凄惨な現実の中でもめげずに人を救うことが出来て、ようやく笑顔を見せるようになったのに……。仲良くなった兵士の人は目の前で惨殺されて、挙句目が覚めたらヴラド三世の眷属にされて不安でいっぱいって顔してたんだぞ……!!

 

 頭の中をグルグルグルグル、これまでに見てきたオルガマリーの顔が浮かんでは消えていく。

 冬木で初めて出会ってからここまで、短い付き合いだったけれど。それでもボロボロだった心を必死に取り繕って、人類史のために、ここで生きる人の為にと頑張っていた彼女の姿はしっかりこの目に焼き付いている。

 

 あんなに頑張ってる彼女を、面白半分に利用するたぁいい度胸だなぁ……!

 

 聖女マルタにシュヴァリエ・デオン……!ジャンヌ・オルタに縛られて自由意志がないのは知ってるよ。同情もする。敵視する事に遠慮もあった。

 けど、それはそっちの都合だよな。

 だから私も、私の都合でアンタ達を倒す!邪魔をするなら容赦はしない!

 これが私の戦う覚悟!躊躇いは捨てたぞ、もう惑わされるものか……!

 

「先生のお力、私に貸してください!」

 

「無論です。共に力を合わせがんばりましょう!」

 

 がんばりましょうって、先生……!

 この気負いの無さが、なんとも頼もしいぜ。

 

 よっしゃぁぁぁ、それなら私も、いっちょ野生を解き放つとしますかねぇ!!

 

「ンヴォォォォォォォォォォォォォォロロロロロロロロロロロァァぁぁぁ!!!」

 

 んほぉぉぉぉぉ!!すっごい声出た!!!!

 恥ずかしさを誤魔化すように、そらぁ!突撃ィ!!!!死に晒せよやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!

 

 私の背中に跨る先生が、アスカロンを正眼に構え静かに吠えた。

 

「では参りましょう。すみやかに殲滅します」

 

 ……正直、負ける気がしないかなって。

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