FGO本編についてのネタバレがあります。
第1部が終わってから読むことをオススメします。
うぉぉぉん手がくっつかねー!
ランサーの宝具ハルペーによって切断された私の右拳がウネウネとそこらをのたうち回っている。ステイッステイッ。
どうやら治療を阻害する呪いのようなものがハルペーにはあったらしく、『其は有限なる小奇跡』の能力を持ってしても傷が治せないでいるのだった。
とりあえず止血して、右拳は腐らないように『其は有限なる小奇跡』さんを使って本体である私の心臓から血も行き渡るようにパスを繋いだりしたんだが……。
「貴方どうするのよコレ……」
オルガマリー所長が地べたを元気に這いずり回っている私の右拳をゲンナリとした顔で見下ろしながら言った。
どうしたもんですかねぇ……。
私は切り離された右拳を遠隔操作でワキワキさせた。『其は有限なる小奇跡』の能力で右拳をファンネル化してみたんだけどどうかな!
「やめなさい近づけないで!本当に気持ち悪いから」
そこまで言わなくても……。
悲しいのでオルガマリー所長に右拳を飛ばして遊ぶ。ロケットパーンチ!あと指もめっちゃワキワキさせよ。
「やめなさいって言ったでしょうっ!?」
アッーーーーー!!?
バシィン!という軽快な音を立てて右拳が魔力弾によって撃ち落とされた。痛覚はちゃんとあるからしっかり痛いんですよ!もっと大事にしてあげて!ランサー戦のMVPなんだよ!?
私が右拳ちゃんをナデナデしてあげていると、何度か咳払いしたオルガマリー所長が神妙な顔つきで私に向き合った。それからややあって、ゴクリと喉を鳴らした彼女は意を決したように口を開いた。
「それで単刀直入に聞くけれど、貴方は一体何者なの?」
私はハッと息を飲んだ。
私が何者であるか。それは私がこの世界で誰かと関わって生きていく上で、いつか必ず直面する問題だった。
天国によってこの世界へ埋め込まれたイレギュラー、それが私だ。
彼女に本当のことを話してもいいのか?話したとして、信じてもらえるのか?信じてもらえたとして、受け入れてもらえるのか?
様々な疑問と不安が私の脳内をしっちゃかめっちゃかに走り回る。
私は沈黙した。
その間ずっと、彼女の瞳が私に問いかけていた。
汝は何者なりや?
彼女の心に宿るのは未知の存在への恐怖か、あるいは藁にでも縋りたいという生への執着か。
自問する。私は何故、彼女を助けたのだろうか。困っている人を見捨てられない、と感じたのは嘘ではなかった。
しかし結局のところ、それは自分の生き死にがかかってないからこそ出てくる結論のはずだ。
彼女を襲っているのがスケルトン程度なら、なんの問題もなかった。けれど相手は英霊で、圧倒的な実力差があった。もしもたった1つのボタンのかけ違いでもあれば、私は彼女共々あの場で死んでいたに違いない。
私は誰かのために、自分の命すら投げ打って助けられるような人間だったか……?
私の心の何処かが叫ぶ。
自分でも開けられない心の扉の向こうでナニかが叫ぶ。
────何もできずに死ぬなんて、許せない
それは、とても恐ろしくて、悔しいことだから。
だから見過ごせなかった。誰かが絶望しながら死んでいくのは。
それは、きっととても辛いことなのだ。苦しいことなのだ。
私には死んだ時の記憶がないけれど、心の奥底でナニかがそうだと叫ぶのだ。
──ああ、そうか
あの時、彼女の声を聞いてしまったから。彼女の助けを求める声を、死にたくないという心の叫びを聞いてしまったから。私は彼女に、封印されて覚えてもいない、死に際の私の姿を重ねたのだろう。だからこそ、私は自分の死すらも厭わず彼女に手を伸ばしたのだ。
……ならば、ならば。彼女には、本当のことを話そう。
何も知らずに死んでしまうのは、とても悲しいことだから。
※
オルガマリー所長に、この世界がFGOという作り物で、私はそのゲームを遊んでいた元人間であること、そして天国の手によりウェアウルフとしてこの世界に転生したことをつまびらかに話した。
私の話の一部始終を黙って聞いていた彼女は、しばらくしてからようやく口を開いた。
「ふざけたことを言わないで!」
まあそうですよね。
突然自分の世界が実はゲームの世界なんだと言われても、信じられないだろう。
「そういう事じゃないの。私たちの世界が誰かの想像の産物かどうかなんて、正直どうでもいいのよ」
だって、それは確かめようのない事なのだから。オルガマリー所長は肩を竦めて言った。
「貴方が獣人に転生した元人間というのは、そういうことにしておきましよう。貴方がそう思い込んでいるだけ、という可能性も含めてね」
えー、本当にごさるかー?
意外とサラッと流された。色々凄いことぶっちゃけた気がするけどなァ。というか、世界が作り物云々には、あまり興味がないようだった。
「そんな事よりも!この異常を引き起こした原因がソロモン72柱で!レフがその魔人柱の一柱で!?ロマニがソロモン!?挙げ句の果てには私は既に死んでるですって!?」
──信じ、られる訳ないじゃない……
オルガマリー所長はそう呟いて俯いた。
そうか、そうだよな。
自分の世界が作り物とか、私が元人間とか、天国がどうとか、そんなことよりも自分の仲間や支えてくれた人に関する真実の方がよっぽど堪えるよなぁ……。
特に彼女は、ゲーム内ではレフ・ライノールという人物にかなり依存していた。父が死に、いきなり家督を継がされて、所長の役割には慣れなくて、周りからは馬鹿にされる……。そんな彼女を助けたのがレフ・ライノールという男だ。彼女が依存してしまうのも、無理からぬ事だと思えた。
「けど、それが真実だ。この世界は、人類の歴史は既に焼却されている。それをなんとかするために、カルデアが戦うしか方法は残されていないんだ」
「でも、そこに私の居場所はないんでしょ?」
ぞっとするような声でオルガマリーが言った。
彼女の中で私の言葉が嘘であるという可能性はもはや廃されているようだった。
私はこの世界のことを、カルデアの内情をゲームで知った範囲とはいえ知り過ぎていたし、私の持つ『其は有限なる小奇跡』というデタラメな力、そして何よりこの冬木で起こっている惨状が、彼女が私の言葉を信じるのを後押ししたようだった。
「カルデアが人理を修復する?あの48番目のマスターとマシュと、カルデア全職員が総力を結集して?じゃあ、私は?私はどこにいるの?私は何のためにここまで頑張ってきたの?私は一緒に戦えないの?……私は何のために、今まで生きてきたの?」
彼女は絶望していた。
私はそれを見て、自分にとても腹が立った。
私は、大バカものだ。
真実を知らずに死ぬのは辛い事?
彼女の事を救えもしない、死んでしまうのは避けられないシナリオなのだと、心のどこかで諦めているこの私がそれを言うのか!
どうしようなく無責任で、どうしようなく偽善者だ、私は。
天国が何故死因を秘匿し、真実を知りたいと望む者のみに教えていたのかがわかった気がした。
覚悟だ。
私には死因を知る覚悟がなかった。けれど天国は、また生きるチャンスをくれたのだ。私がいつか笑って死因を知る事ができるような未来を掴むために。そのために、天使さんは自分の使命に背いてまで私をウェアウルフに転生させてくれた。
だというのに私はどうだ。
手前勝手な理由で、覚悟もないままオルガマリー所長に真実を話してしまった。
悔しい、怖い、死にたくない、そんな感情が彼女から伝わってくる。私は、なんて残酷な事をしたんだ……。
ああ、くそぅ!彼女をこんな目に遭わせたのは誰だ!
私だ!
だから!
「私が!私がなんとかする!」
気が付いた時には叫んでいた。
オルガマリー所長が暗い顔を上げた。目元は赤く腫れて、その瞳は酷く虚ろだった。
私はそれを見て、覚悟を決めた。
彼女を死なせたくない。
この世界で初めてあった人間だからとか、ゲームでの彼女の最期が悲しかったからだとか、いろんな感情がぐちゃぐちゃになって、私の中で爆発した。
戦ってやる!
彼女の最期の言葉を、あんな悲惨なものにしたこの世界と戦ってやる!
「私が必ず、君を護ってみせる」
後から振り返ってみれば、私は既に、彼女に情が移っていたのだと思う。
思えばこの時が、転生者というどこか第三者的な立場をかなぐり捨てて、本当の意味で私がこの世界の住人になった瞬間だったのだ。
磯野ー!
マスターハンドごっこしようぜー!