「藤丸くん。そこの瓦礫尖ってるから気をつけてね」
「あ、ホントだ凄い尖ってますねこれ」
「凄いよねこの鋭角具合。蘭姉ちゃんの宝具くらい尖ってるよね」
「あ、あの!トールさん!ランネー・チャン、という方はどういった英雄の方なのでしょうか!?」
「トールさん、俺も気になります!」
「ちょっと騒がしいわよ貴方達!もっと周囲を警戒しなさい!」
「ったく、バカなのか大物なのか。狼の旦那はいいとして、坊主もお嬢ちゃんもなかなか肝が据わってるよな」
「フォーウ……」
やあどうも、私だ。
ウェアウルフに転生した中島とおる改め、トールだよォ!
名前どうしよっかな〜なんて思ってたけど普通にとおるを名乗ったわけですよ。そしたらなんかカタカナ表記として受け取られちゃった。まあこのナリだ。おかしかないわな。
「トールさん危ない!そこの瓦礫もランネーチャンですよ!」
「うわっ!かなり蘭姉ちゃんだよコレ!」
現在はゲームでの主人公藤丸くん、主人公の相棒マシュちゃん、私のご主人(という事になっている)オルガマリー所長、マスコット的存在のフォウくん、そしてキャスターのアニキことケルトの大英雄クー・フーリンと共に、この異変の元凶と目される冬木の大聖杯を目指していた。
藤丸くん達とは、私がオルガマリー所長を救う発言をしたそのすぐ後に合流した。既にキャスター兄貴と邂逅していた藤丸くんとマシュちゃんが、ランサーと何者かの戦闘を察知して駆けつけてきてくれたのだ。
しかもこれまでの道中に黒化したアサシンとライダーを撃破しているというのだから驚きだ。流石は主人公。いや、ここは流石はケルトの大英雄というべきか。彼が藤丸くん達を助太刀していなければ2人はここに居なかっただろう。
……で、私が救う発言をした後のオルガマリー所長とは、まだほとんど会話をしていない。後になってなんかすごく恥ずかしくなったっていうかさ?ね?
所長もなんか、「か、勝手にしなさいよ……」と俯いてからはダンマリだったし。うーん、気まずい。
そんな時に3人と1匹がきてくれたもんだから正直助かった。それでキャスター兄貴に話を聞いてみればやはり冬木の大聖杯が元凶ではないかという事と、それを守護するセイバーを打倒しなければならない事が明らかになった訳だ。
冬木の大聖杯というのは、いわば根源到達に至るための大規模魔術炉心とされている。
そしてそれを守っている、オルタ化したセイバー、アーサー(アルトリア)・ペンドラゴン。
結局ゲーム内でも、チュートリアルとして駆け抜けた冬木の謎は明らかにならなかった。
わかっているのは、セイバーオルタを倒せばこの特異点が崩壊することだけだ。たとえ謎が明らかにならなくとも、私たちはこの冬木で立ち止まるわけにはいかない。進まなければ。
目指すは円蔵山の大空洞。円蔵山にある柳洞寺は霊脈としても優秀だから、カルデアとの通信確保のためにもそこに行かねばならない。
オルガマリー所長曰く、今の冬木の大気には神代並の魔力が満ちているらしい。ただの人間なら拒絶反応を起こして即死するレベルらしく、その影響もあってカルデアからの通信が阻害されているようだ。よってこの冬木で最も魔力の流れが安定している柳洞寺を目指しているというわけだ。
ちなみに一般人である藤丸くんはカルデアから支給された魔術礼装である制服を着ているから、マシュちゃんはデミ・サーヴァント、オルガマリー所長は凄腕の魔術師だからこの冬木でも無事だったらしい。
じゃあ私はというと、たぶん元々魔獣だから適応したとかよくわからん原理だろう。
そんなこんなで私たち一行は順調に歩を進めていた。
「しかし人狼が使い魔たぁ珍しい魔術師も居るもんだ。こんな時代に魔獣の生き残りがいたってのも驚きだ。なぁ?」
「はい、私もカルデアでは一度もトールさんをお見かけしませんでしたし、驚きの一言です」
「俺、人狼なんて初めて見たけど、すごいカッコいいと思う!銀色だし!喋るし!モフモフしてるし!」
藤丸くんが私の尻尾をモフモフしてきた。アフゥン。
君全然警戒心ないな!流石コミュ力高いと言われてるだけはある。なんというか、この子はすごく人の懐に入るのが上手い。
「あ、先輩ずるいです!トールさん!私もモフモフさせていただいてもよろしいでしょうか!?」
マシュちゃんが目を輝かせて私を見た。
なんというか、動物園に初めて来た子どもみたいな。
とにかく眩しい……。
「構わないよ」
「「ハゥァ……」」
2人が私の尻尾に抱きついて気の抜けた声を上げた。
ああ、なんか、救われたような気分だ。
この延々と広がる燃える光景の中でも、この2人のこういったなんでもない行動が一行の雰囲気を和らげていた。
「フォウ、フォーウ!」
私の尻尾をモフモフしている2人を見て、フォウくんが抗議?の声を上げているような気がした。
大丈夫、マスコットの座は取らないよ。
つーかフォウくんすっごいモフモフしてる。
かわいい。モフるかモフらないかと言えばモフりたい。MO☆FU☆RU!
フォウくんに手を伸ばしたが躱された。素早いッ!だがモフる。
「フォーーウ!?」
大人気ない速度でフォウくんを捕まえるが、手の中でフォウくんが激しく暴れる。
フォウくんがあまりにも嫌がるので、モフるのはやめにした。ごめんねフォウくん。
私がフォウくんを放してやっているとキャスター兄貴が話しかけてきた。
「なあ、狼の旦那。アンタだろ?ランサーを倒したのは」
「そうですが、何か問題でも?」
「うんにゃ、問題なんかあるわけねぇ。ランサーはいずれ倒さなきゃならねぇ障害だった。けどよ」
キャスターが私の顔を覗き込んで言った。
「人狼とはいえただの魔術師の使い魔程度が、サーヴァントを倒せるかって気になってな。どんな手を使った?」
その疑問は最もだ。けどそれに素直に答えるのは憚られた。
『其は有限なる小奇跡』はあまりおおっぴらに公開したくない。この冬木でキャスターが敵に回ることはないと知っているが、万が一ということもあるし、どこから敵に情報が漏れるかわからない。
能力も含めて、私の本当の素性もこの世界についての諸々の事情も、私とオルガマリー所長との間だけの秘密ということにしてある。だから他の3人には私はオルガマリー所長の切り札である使い魔という事にしてあるのだ。
「あいにく、企業秘密でして……」
「ほぉーん。ま、企業秘密なら仕方ねぇか!今の俺は本調子じゃねえからよ。頼りにしてるぜ狼の旦那!」
キャスター兄貴はそう言って私の肩を叩いた。
おお、すごい。なんか、すごい。
私、伝説の英雄クー・フーリンとすごいコミュニーケーション取ってる……。
そんなやり取りをしながら一行はやがて目的地である柳洞寺の境内に辿り着いた。
「適切な霊脈地を確保しました!大気中の魔力反応、安定しています!カルデアとの通信が復旧します!」
マシュちゃんが地面に盾を設置して告げた。
おそらく、盾をマーカーにすることでカルデアに現在地を発信しているのだろう。んでそのポイントに向けてカルデアが物資やらを送り込む。よくできてる。
今回通信のためだけにマーカーを出すのは、本来例外なのだろう。
「……待ちな、お嬢ちゃん。見られてる」
突然キャスターが警告を発した。
全員が周囲を警戒する中、キャスターはある一点を見つめて声を張り上げた。
「コソコソ隠れてないで出てこいよアーチャー」
その言葉を受けて、正面の本堂の屋根にサーヴァントが実体化した。
弓兵のサーヴァント・アーチャーだ。
私は当然、アーチャーの真名も知っている。原作Fateに登場するアーチャーのサーヴァント、エミヤシロウだ。
こいつはとにかくクー・フーリンと縁があるようでFGO序章でもこうして敵対してくるというわけだ。年末アニメでの2人のバトルはクー・フーリンことキャスターの勝利に終わったが……。今回はどうなるか。
「逃げ回るのはもうやめにしたのかね?後ろに大勢引き連れているようだが。ピクニックにでも行くつもりか?」
「おうよ。永遠に終わらないゲームなんざ退屈だろ?良きにつけ悪しきにつけ駒は進めないとな。ピクニック気分でいろいろぶち壊しにきてやったぜ」
ゲーム内でも言ってたな、そのセリフ。
永遠に終わらないゲームって、どういう意味だ?キャスター兄貴は色々知っている風ではあるが。今は考えるのはやめだ。
アーチャーとセイバーを倒すことに集中しなければ。
私の目的は、その後。セイバーが倒れた後に登場するレフの魔の手からオルガマリー所長を救うことなのだから。具体的な方法は思いつかない。
オルガマリー所長はレフの手によって死ぬ。ならばレフが現れる大空洞に行かなければいいと思うかもしれないが、それはダメだ。オルガマリー所長が大空洞に行かなくても、どのみちこの特異点は崩壊し、崩壊とともに彼女も消えてしまうだろう。
ならばこの特異点を修正しなければいいという考えもあるが……。ああ、それが永遠に終わらないゲームってことなのかな?もしかしたらこの特異点を維持しているセイバーも、何かを守るために敢えて終わらないゲームに甘んじているのかもしれない。
まあとにかく、進まないという選択肢はノーだ。この先藤丸くん達が進むためにも、そしてこの冬木より先の未来にオルガマリー所長を連れて行くためにも。
「駒を進める、か。いいだろう」
では進みたまえ。アーチャーがあっさり先に行く事を許可した。
「オイオイ、こりゃどういう了見だ。セイバーを守るのがテメエの役目じゃなかったのかよ」
「そのセイバーからのお達しでね。私はそれに従うのみ」
「へっ、信用できるものかよ!アンサズッ!」
先手必勝とばかりにキャスターがルーン魔術を使用した。火炎がアーチャーに射出される。ここでアーチャーを素通りするのは危険すぎる。もし大空洞に入った後にアーチャーが攻撃してくることになれば挟み討ちになる。
故にキャスターは問答無用でアーチャーに攻撃をしかけた。
「ただし」
キャスターの火炎が屋根に着弾したが、アーチャーは既に居なかった。
私の背後からアーチャーの声がする。
しまった、後ろを取られた!?
「この人狼は置いて行け」
突如、私の視界は一変した。
柳洞寺が、みんなが、オルガマリー所長が消えていく。
世界が塗り替えられる。
空には巨大な歯車が浮かび、赤い荒野には一面に剣が突き刺さっている。
──
アーチャーの持つ心象風景にして固有結界。
現実世界さえも塗りつぶす魔術の最奥。
「わりぃ!ぬかった!死ぬなよ狼の旦那!」
「貴方!嘘でしょ!?」
塗り替えれていく景色の向こうで叫ぶキャスターと、酷く驚いたオルガマリー所長の顔が消えていき、やがては完全に見えなくなった。
私はアーチャーの固有結界に、完全に取り込まれたのだった。
うぉぉぉぉ!うぉぉぉぉ!
ピーンチ!私!ピーンチッッッ!!