†AiSAYでございます。
『真剣で私に恋しなさい〜月下流麗〜』の方の構想が届こうっておりまして、気分転換に『うたわれるもの 偽りの仮面』、『同 二人の白皇』をプレイしていたところ、このような拙作を書くこととなりました。
10年前にどハマりした『うたわれるもの』ですが、新作はどうなのかと思っていたところ、やはり面白く、気づくとこの体たらくでございます。
『真剣で私に恋しなさい』の方も頑張って、続けていきますので、何卒今作もよろしくお願い致します。
目覚めるとそこは見たことのない景色が広がっていた。
薄暗いようで、明るい。
矛盾が成立しているような空間の中で光り輝く蝶々が群れをなして飛んでいる。
「ここは…。」
目覚めた男は初めて見る景色だというのに冷静に自らの状況に想いを巡らす。
すると何処からともなく声が響く。
「珍しいな、ここに人間が来るとは…。」
「む…。」
遠く、あるいは近くから直接頭に語りかけるようにその言葉が語りかけて来る。
猛禽のような鋭い眼光がふと目線を上げる。
「そこにいるのは何者か?」
「ふっ、まさかこの様な状況においても冷静とはな。」
すると男の前の靄が晴れる。
そして、そこに現れたのは異形の存在であった。
大きく、白銀に輝くその姿は神々しく、それ故に畏敬の念を持たせた。
「その姿、神仏の類か?」
「ふっ、我の姿を見て驚きも恐れもしないとはな…。しかし、その問いにはどう答えたものか。確かに、解放者、大罪人、永き時間の中で神と呼ばれたこともあったな…。」
「ここは極楽か?しかし、屍山血河を歩んだこの身が極楽にあるわけもないか、しかしこの光景どうやら地獄でもないようだが?」
「ここは常世とでも言うべきか、現世と死後の世界の狭間に位置する場所だ。」
目の前の存在が答え、その言葉に男の眉が歪む。
そして、再び自らがいる世界に目を向ける。
「狭間の世界。して何故私は此処にいるのだろうか?」
「さて、それは我にも判りかねるが。其方が此処にいるのであれば、そこには意味があるのだろう。」
「意味か…。」
そう言って、男は目を閉じる。
《意味》その言葉が自分の中で巡る。
剣に生きた己が生涯、屍山血河を越え、主に仕えもした。
しかし、強く残っているのはあのひと時。
燃え盛る城の中、太刀を交えたあの時、息子と同じ隻眼の女剣士との立会いの最中、気づかされたのだ。
これまで剣術に愉しみを覚えたことなどなく、そのような者だからこそ、父は自分に古き新陰流を継がせなかった。それより生じたもの、《柳生新陰流》と。
それで良いと思った。どれほど高説を重ねようが、剣の道は殺人の道。そこに特別な意味などなく。人生の価値など求める事こそ不純だと。
だが違った。齢この歳、奴と立ち合って今さらに気付かされたのだ。
立ち合いの妙。刹那に生死が融け合う感覚。己が心と対手の心が同一する境地。
「成る程。剣者の道というものは、面白い。」
そう呟き、男は笑みをこぼす。
叶うならば、再びあの感覚を味わいたい。
そう願わずにはいられなかった。
「なるほど、ならばその願い叶えよう。」
「何?」
「我は根源にして深淵の奥に在りしもの。其方がそれを願うのならば、それを叶えることも可能だ。」
「根源にして、深淵…。」
「だが、その代償はもらう。我の名に従い、ある者たちを導くのだ。」
その言葉に再び男は目を瞑る。
それは言葉なき肯定であろうか、それとも流れに身を任せた諦めなだったのだろうか。
そして、光が身体を包む。
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「む、ここは?」
目を開けるとそこは夜の森の中であった。
先ほどまでの光景は夢幻であったのか、いやだが確かに明確に覚えている。
あの声と姿を。
思案していると、遠くから何者かが近づいて来る音がした。
そして、走る足音とともに焦っているのような息遣いも聞こえる。
すると、草むらから2人の男女が現れた。
そして、自分の姿を見ると男の方が女の子手を握りながらすがって来た。
「ど、どうかお助けください!!」
「如何した?」
「我々は帝都への帰りだったのですが、突然キギリの群れが現れたのです!!護衛の者が身を挺し守ってくれたものの、皆襲われ…。」
と、唇を噛みながら男が語る。
どうやら、事は尋常な様子ではなく、男の手を取り起こす。
すると、男女が現れた草むらから何かが現れた。
それは虫であった。
いや、正確には虫のようなものといった方がいいのであろう。
何故ならば、それは自分が知る虫よりも大きく、鋭い爪と牙を持ち獰猛であったからだ。
「これは…。」
「や、ヤツらです!!」
男が叫ぶ、そして女を自らの背へと隠し、震えた手で刀を握る。
すると、キギリと呼ばれた虫たちが一斉に男たちに向かって襲いかかる。
もうダメだと思い、男が目を瞑る。
すると
「グギャァ!!」
と、耳障りな叫びが響いた。
恐る恐る目を開けると、そこには緑色の体液を流したキギリの群れが死滅していた。
何が起こったのかと、辺りを見る。
すると、そこには助けを求めた老人が刀を抜いているのに気付いた。
「大丈夫か?」
「え、あ、はい…。」
老人が刀を鞘に収め、男女の方を向く。
目の前の光景に驚きながらも男は頷き、立ち上がる。
「さて、夜の森は危なかろう。早く安全な所まで行かれよ。」
そう言って、老人は立ち去ろうとする。
すると、男が老人に声をかける。
「あ、あの!」
「如何した?」
「助けて頂き、ありがとうございます。何かお礼を!」
「構わぬ。」
そう言って、駆け寄る男に老人は冷静に答える。
しかし、男はそれで下がらなかった。
「見たところ、旅の方の様子。どうか、私達の屋敷までいらして下さい。帝都まではもうすぐですので。それに…。」
「む…。」
確かに、ここが何処かも分からない。
あの常世と呼ばれたところで言われた言葉も未だ子細が分からずにいる。
少し悩んでいると、男と共にいた女が腹を抱え、うずくまっているのが見えた。
腕で抑える、その腹は膨れており、老人は女が身重である事がすぐに分かった。
夜の森、身重の女、おそらく目の前の男の妻なのであろう。そのような者を連れて、この中を進むのは、いくら近くに帰る場所があると言っても危険である事は容易に想像がついた。
また、先ほどの異形の虫が現れることもあるだろう。
「お前、大丈夫か!?」
「う、うぅ…。」
妻を気遣う男の姿を見ると老人は2人に近き、妻に肩を貸し言った。
「あ、あの…。」
「急がねば、このままでは奥方も中の子も危なかろう。」
「あ、ありがとうございます!!」
そうして、3人は無理の中を進む。
すると、男が老人に尋ねる。
「あ、あの貴方のお名前は?」
その問いに老人は目線を動かさずに答える。
「某は柳生。柳生但馬守宗矩だ。」
そう言って、森の中を歩み続けた。
時はかの者が生きた時代より遥か先の時代。
これは剣に生きながらも、その生涯を愉しむことのなかった男の物語。
不動にして自由な剣聖のうたわれる物語。
to be continued