タグのご都合主義とあるように、どうかご容赦下さい。
ヤマト 帝都
本日も眩しく太陽が輝き、往来には人々で賑わっている。
そんな中、大内裏前に老人が一人立っていた。
しかし、その齢にして鋭い眼光に撫で付けられた白髪、黒い着物に焦げ茶色の裃を着たその姿に周りの者は些か緊張しているようである。
すると、門が開き一人の女性が出て来た。
銀色の髪と白い肌、髪と同じ瞳。凛々しいその姿に目にした者は男女問わず惚れ惚れとしたような表情を見せる。
その女性が老人の目の前に立つと、彼は頭を下げた。
「ムネチカ様、お役目お疲れ様です。」
「あ、ああ。しかし、どうやら某はこれからあの方を探さねばならない。」
「左様で…。」
「まったく、あの方には困ったものだ…。」
ムネチカと呼ばれた女性は、ため息をつきながら、呆れた顔をする。
すると老人の口許が僅かにではあるが歪む。
それが、彼が笑っていると分かるのはおそらく彼女だけだろう。
「タジマさ、タジマはここまでで良い。後は某だけで充分だ。」
「承知。では、私はここで…。お気をつけて。」
そう言われ、ムネチカは大内裏を後にした。
それを見送るとタジマと呼ばれた老人もその場から去った。
2人が大内裏から離れると、その様子を緊張した面持ちで見ていた門番達が口を開く。
「おい、今の八柱将の一人《鎮守のムネチカ》様だよな?」
「あぁ、八柱将唯一の女性にして、若くしてその立場にある方だよ。」
「じゃあ、隣にいたあの老人は…。」
「失礼だぞ、あの方はムネチカ様の副官であらせられるタジマ様だ。」
その言葉に門番の一人の身体が強張る。
すると、もう一人の門番が頷き続ける。
「そう、あの方こそ帝に八柱将に推挙されたにも関わらず、自身は幼少よりムネチカ様に使える身と称して、その任を辞した稀な方よ。」
「な、帝の勅命を!大丈夫だったのか?」
「確かに他の八柱将の方々の反感は買ったらしいが、その忠義の厚さゆえに帝も感服しお許しなったとのことだ。」
その言葉に再び門番の一人は驚くほど。
そして、二人は彼が歩いていった方へと目を向ける。
「あれが八柱将や左右近衛大将にも劣らぬと言われる《鎮守の懐刀タジマ》様か…。」
「あぁ、もともとムネチカ様のお家に仕える身らしい。それ故に今もムネチカ様に仕えている、武士の鏡のような方よ。」
そう言って、二人はしばらくはその背中があるである方を見続けていた。
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大内裏を後にし、タジマは帝都内のある屋敷にいた。
奥の部屋に通され、タジマは目を閉じ、座している。
すると、襖が開き二人の男女が入ってくる。
二人が目の前に座るとタジマは頭下げ、口を開いた。
「ご無沙汰しております。タジマ、参上致しました。」
「タジマ殿、頭をお上げください。」
「は。」
頭を上げると困ったような笑顔を見せる二人の姿があった。
しかし、タジマは変わらず二人を見据える。
すると、女性の方が口を開く。
「タジマ様、タジマ様は私たちの恩人。どうか畏まらずに楽にして下さい。」
「いえ、このような身寄りなき老人に居場所を与えて頂いたご恩は変わりませぬ。我が身は常にこの家に仕える身なれば。」
「相変わらずですね。」
「ご厚意、感謝致します。」
と、タジマの受け答えに笑顔を見せる女性。
すると、横にいる男性の方が口を開く。
「あれから随分と時間が経ちましたかが、タジマ殿は不思議とお変わりない。いつも、ムネチカが世話をかけています。」
「いえ、先も申しましたように、私はこの家に仕える身。さすれば、その後継たるムネチカ様に仕えるのも必然。ましてや、今やムネチカ様は八柱将の一柱を担う方なれば、それに仕えるは誉れにございますれば、何を思うことがありましょうか。」
「いや、それもタジマ殿のご尽力があればこそ。あの娘もそれは重々承知でしょう。」
「ええ、あの娘にとって貴方も親のようなものですもの。」
「光栄の至り。」
そう、目の前にいるのはあの日、自身が助けた夫婦である。
そして、あの日その妻のお腹にいたやや子こそがムネチカであった。
何を隠そう、この場にいるタジマこそ柳生但馬守宗矩その人である。
あの日以来、この世界に現れた柳生宗矩は行くあてもなく、助けた夫婦の家に仕える身となった。夫婦は柳生宗矩に助けられた恩をこのような形で返し、娘の名を彼から取るほどに恩義を感じていた。
「それにしても、時に流れは不思議なものですね。あのムネチカが今や八柱将、これからもどうかあの娘のことをよろしくお願いいたします。」
「は。この身にかえましても。」
その後、タジマは両親にムネチカの直近の事を話し、その場を後にすることにした。
玄関まで二人が見送る。
「では、私はこれにて。」
「ええ、お気をつけて。」
「あの娘にもたまには帰ってくるようにお伝えください。」
そう言う二人に見送られて、タジマは屋敷を後にした。
往来に出ると、日はもう傾き、帝都は紅く染まっていた。
タジマいや柳生但馬守宗矩はふと空を見上げて、しばし想いを馳せる。
あれの日から大分時間が経った。
助けた夫婦の世話になり、娘であるムネチカには今も仕えている。
その中でこの世界のことを知った。人々の生活は自分が生きた時代とさほど変わりない。
だが、そこに生きる人と世界は大きく異なっていた。獣のような耳と尾を持つ者達、そして彼らが暮らす國もまたヤマトとあるが自分の知るものとは成り立ちも異なる。
帝という現人神を頂点とした大小合わせた國の集合國。その中で生きるため、柳生宗矩は名をタジマとし、生きてきた。
しかし、あの二人が言ったように自分はあの日から歳をとってはいない。
それはおそらくあの常世の者が言った願いに関係しているのだろう。
では、代償とは何なのであろうか。あれ以来、あの者に会うことはない。
『我の名に従い、ある者たちを導くのだ。』
その言葉を思い出しながら、タジマは紅に染まった道を歩いていった。
to be continued