荷造りを終えた俺こと、魚住隼人は長い間、といっても三年間ぐらいしかいなかった、ここを旅立つ。
元帥殿に呼びだされたこと、そして少将になって提督として、鎮守府で働く事を知り合いとかに喋ったら、普通に親しくしている人だったら「おぉー、さすが隼人」と言われ、すごい親しくしている人だと「えっ、お前が!?やめとけ、お前のような奴が行ったら、とんでもないことになるから。ただでさえ、お前の性格とかはひどいのに」という感じだ。ねぇ、何でこんなに反応が違うの? 心配してよ!応援してよ!俺の事を本当に心配してくれたのは陸軍の同僚であり、いっつもついてきたり、俺をチラチラ見ていた女性たちだけだったよ。
何故か知らないが、俺は昔から女子の注目の的になっていた。たぶん、からかったりしたら、面白そうだからだろう。その割に顔が赤くなったりしているのが多かったような気がするが。
それだけなら、まだどうにかなる。しかし、そこでは終わらず、今度はそれを見た同級生や先輩たちに異変が起こる。理由は分からないが、ある人は血の涙を流したり、悔しそうな顔をしてくるのだ。何かありましたか、と訊くと舌打ちしたり、唾を吐かれる。もっと酷い時は殴りかかってくる。なんでだ。何か、俺悪いことした?もちろん、それを避けたり、手で受け止めたりして防ぎ、他の人の事も考慮して、その殴ってきた張本人に「危ないでありますよ。こんなところでやったら」と言う。そしたら、ばつの悪そうな顔をして帰ってくれたり、挑戦状を俺にわたしてきたりする。さすがは我が国の軍人。ちゃんと理解してくれる。その後、挑戦状という紙に書いてあった通りに来たら、いきなり殴りかかってきたりする。その時も注意を何度もするが、聞き入れてもらえないので、気絶させ、先生に住所を聞いて、その人の家までおんぶして家へ届けた。今となっては懐かしい思い出だ。
そんな事を思い出しているうちに、呉鎮守府行きのバスが来る。いつもと違って白い軍服のせいか、ここに来るまでの人に物珍しい目で見られた。まぁ、この辺が陸軍の寮の近くだから、海軍の軍服を着ている人が少ないからだろう。
バスに乗り込み座席に座る。ちょうど窓から今まで、と言っても三年ぐらいしかいなかった寮が見える。あれを見る事はもうほとんど無い、そう思うとちょっとだけ寂しくなった。故郷を旅立つ若者もこんな感じを味わうのだろうか。そして、自然とあの寮で過ごした日々が走馬灯のように駆け巡り、目から涙は…………
出てこなかった。
バスを降り、鎮守府へと歩を進める。海の近くのため、潮の香りが辺りにする。肝心の海の方を見ると、きれいな水色をしていてすごく綺麗だった。こんな風景を陸軍にいた時にはあまり見なかったから、新鮮だ。
そんな事を思いながら歩いていくと、呉鎮守府へと着いた。大きな門とその向こうにある鎮守府に圧倒された。寮の何倍あるんだろうか?そう思っていると、門の近くに人がいるのが見えた。そこに居たのは、綺麗で長い銀髪の少女だった。少女は誰かを待っているのか、門前で腕組みをして待っている。あれはもしかして……待ち合わせか?偶々、俺が今日から勤めるこの鎮守府が近かったから、あそこで待っているとか。まぁ、この鎮守府の前にバス停があるし、大きいサイズの門をオブジェの代わりに待つというのも納得する。東京でいうハチ公像だってそうだよな。
そんな事を思っていると、少女はこちらに気づいたのか、こっちを見た。そして、何かを確信してきたのか、こっちに来た。おそらく待ち人が来たのだろう。しかし、何故か少女は俺の前に立った。なんで?ひょっとして、後ろに居るの?そう思い、後ろを振り向いて見ると、やはりそこには誰もいない。
「もしかして……あんたがこの鎮守府の提督なの?」
不意に少女の方から声がする。振り向いて見ると、どこかこちらを睨んでいるとも思える目をしている。ん?今提督って……
「ねぇ、どうなの」
「あの、自分が……」
「はきはき喋る!」
「は、はい!自分本日から、ここで提督として勤めさせてもらいます、魚住隼人であります‼」
「そう」
少女は俺を手招きして、門を開ける。片手で門を開けるさまは爽快さを与える一方、その力の強さがちょっと怖かった。俺が今までで見た奴らもここまでのことはできない。どこから、その小さな体と筋肉で出したんだよ………
少女はどうやら軍関係の人らしく、その説明ぶりは慣れを感じさせる。それにしても、このこは俺と一緒にいていいのだろうか。友達とか彼氏さんが待っているんじゃないのだろうか。
そんな俺の様子を察してか、少女はこっちを向いて、
「どうしたの、あんた。さっきから、私をジロジロと見て」
「えっ…いや、君は俺と一緒にいていいのかい?友達とか彼氏さんとか待っているんじゃないの?」
「はぁ!?」
何か、こいつ何言ってるんだと言わんばかりの反応をとる少女。俺、何か変な事言った?
少女はため息をついている。どうやら、呆れているらしい。しばらくして、何かを決心したらしく、口を開いた。
「私が待っていたのは、あんたよ」
「え、俺?」
「そう、あんた」
「何で?俺、君と会ったのは初めてだけど」
「あんたね…はぁ、こいつが提督で大丈夫なのかしら」
あれ、俺何か失言した?
「私はここの艦娘として、あんたの初期艦として来たのよ」
えっ、って事はこの小さい娘が艦娘……
「ねぇ、あんた何か失礼な事思っていたわよね」
まずい、まさか読まれたのか!?どうしよう……仕方ない、ここは素直に話そう。
「いや、ただ俺は君があまりにも小さすぎてイメージと合わないうえ、鎮守府の門を片手で開ける力を出すのはゴリラにも勝てるんじゃないかと思っただけであります」
正直に今思っている事を全て話した。これで、そう思って少女の方を振り向くと、少女は「ふーん」と言ったあと、顔に笑みを浮かべた。しかし、その笑みからは恐いオーラが出ている。恐いよ、君。
「そういえば私、あんたに自己紹介していなかったわね」
そう言って、間合いを詰めて行く。俺は思わず後ずさりをする。何か本能が危ないと警告を発している。しかし、そんな距離もすぐ無効化された。ふと、少女の右手を見ると、グーの形になっている。
「私は特型駆逐艦の五番艦、叢雲よ。そして…」
その瞬間、右手から渾身のアッパーカットを決めてきた。
「あんたをぶっ飛ばす役割があるわ。」
骨が折れたりはしていないだろうが、かなり痛いところにやってきたので、ちょっと立てない。
「よろしくね、提督」
ぴくぴくとしている状態の俺に対し、叢雲はそう言った。
隼人は最強のKY。なのに文武両道完璧君です。