ただ、人の心を読んだりするのが苦手なだけです。(俗に言うKY)
執務室に案内された俺は椅子に座って、膨大な数の書類を一人でやっている。叢雲には出撃に行ってもらっている。ただ、提督として指揮するために本部から送られたイヤホンをつけて指揮をするため、いつ報告が来るかで少しドキドキする。それにしても、さっきくらったアッパーカットがまだ痛い。まぁ、陸軍での訓練の成果か三分で起きれる事ができた。…にしても、叢雲のやつ。覚えてろ……
「それにしても、すごいなこれ」
叢雲がいなくなって、すぐに暇になって、適当にそのへんにあるタンスとかを開けたりしたら、全てのタンスに書類がぎっしり入っていた。それを今一生懸命やっている。
そんなおり、執務室のドアからコンコンと誰かがノックする音がした。誰だろうと思いつつ、
「どうぞ」
と返事をする。
「「「失礼します」」」
ガチャと扉が開き、三人の男性達が入る。
一番最初に入ってきた人は浅黒い肌をしていて、白髪と黒髪が入り混じった中年の男性で、次に入ってきた人は割と小柄で、顔がすごく良く整っており、また白い肌がその人の綺麗な黒髪と合って、まさしく美男と言える人で、見ためからして…中学生だろうか。最後に入ってきた人は俺と同じぐらいの身長で、顔はさっきの子と比べたら負けるが、普通の人と比べるとそこそこいい茶髪の……ん?こいつ、どっかで…あっ!
「お前、安田か!」
それを聞いた安田はニヤッと笑みを浮かべ、
「おう、安田様のご登場だぜ!」
そう言って胸を張る安田。そんな安田にチョップをする中年の人は俺に対し、一礼し、
「大津源です。このバカ安田と同じ憲兵です。自分のことは源さんとでも言ってください」
そう言って、中学生のこに一瞥する。それを察してか、中学生のこは自己紹介をし始める。
「僕の名前は森治です。よろしくお願いします」
礼儀正しい子だ。おかげで安田が宙に浮いている。
「自分の名前は魚住隼人です。これからよろしくお願いします」
「そんなに畏まらなくていいですよ。普通に友たちと喋るくらいのくどけた口調で喋ってもらったほうが、こちらとしてもやりやすいですから。それに、あなたは提督なんですから」
そうだった、俺はここの提督になったのだ。ついつい、陸軍の時からの教訓である『年上は敬え』を実行してしまった。これでは、どっちが上司か分かったものではない。そういえば、憲兵ってさっき行ったよな。
「あの、一つ訊きたいことが、あるんですが」
「はい。なんでしょうか?」
「憲兵って提督が悪いことをしたら、その実力を行使する、とありますが、具体的にどんな事をしたらそんな事になるんだ?」
「はい。艦娘に対する、痴漢や暴力などといったブラック鎮守府のようなことをすればします」
「ブラック鎮守府とは?」
「艦娘に暴力をふるったり、無理矢理性行為をしたりする提督がいる鎮守府のことです」
…ひどい。そんな事をするクソ野郎もいるのか。そう思っていると、自然と拳を握りしめる力が強くなる。
それを見てか、源さんはゴホンと咳ばらいをしてから、口を開いた。こういう気遣いができる人とできない人っているよね。さっきから隠れて源さんの頭に指を立てている安田とはえらい違いだ。あっ、腹パンされてる。バレたんだな。
「…もし、仮に俺がそういうところみたいなことをしたら、どうなるのですか?」
「くさやがふんだんに使われている牢に入れられます」
えっ、くさやの牢?
「あの、それってジョークですか?でしたら「嘘じゃないです」マジですかー」
嘘だろ、憲兵って割と海軍に恐がられている、という事を陸軍内で聞くぐらいだから、どんな罰だろうと思ったら、くさやの牢獄に入れられる!?なんか、軽いのか、重いのかよく分からないな。
「処刑とかないのですか?」
「そんな事は余程の事がない限りやりませんよ。あはははは」
その笑い、怖いです……かろうじて、良かった事は源さんの後ろで、安田と森君が茶番を繰り広げていることだ。まぁ、一方的に安田がおちょくって、森君がおろおろしているという感じだ。微笑ましいな。
…その時だ。
「こちら叢雲、聞こえてる?」
イヤホンからの急に叢雲の声が聞こえてきた。あまりにも突然なことに心がびっくりして、呆然としてしまう。その間に叢雲は俺に今の戦況を説明している。
「ちょっと、あんた聞いてる?」
「あぁ、うん」
「うんじゃないわよ!駆逐艦イ級と遭遇したって言っているのよ!あんた人の話聞いてないわね!」
「すみません」
「謝罪はいいの。で、結局やるの?」
「…やってください」
「分かったわ」
それを境に、叢雲の声が聞こえなくなった。聞こえて来るのは、ツー、ツーという音だけだった。
「以上が出撃の結果よ」
叢雲は早く、しかも分かりやすく報告してくれた。源さん達はとっくのとうにこの執務室を出ていっている。彼らは出る間際に何かひそひそ声で喋っていたんだが、何を喋っていたのだろうか。
まぁ取り敢えず、ここは上官らしく振る舞うか。
「うむ、大義であったな。叢雲よ」
「何急に偉ぶってんの。あんた」
「えっ」
「それに偉ぶるにしても、偉ぶり方が江戸時代かなんかの殿様じゃない。そんなんじゃ、他の娘達から失笑されるわよ」
「…はい」
なんか知らないけど怒られた。ただ偉ぶろうとしただけなのに。そう思っていると、コンコンという本日二度目ノックが聞こえてきた。
「入って良いよ」
「失礼します!」
入ってきたのは、セーラー服がよく似合う黒髪の少女がだった。
「えーと。君は誰?」
「はい、私は吹雪型一番艦の吹雪です!よろしくお願いします!」
そう言って、俺に対し敬礼をしてくれた。礼儀がいい娘だ。叢雲なんか、自己紹介の時にアッパーカットをもきめてきたからな。みならって欲しいものだ。
そう思っていると、俺の前にいる叢雲はにっこりと笑って、こっちを見ている。しかし、俺は知っている。あの笑顔はヤバイやつだ。しかも、うわ、鬼の仮面をしている女性らしき人が見えるよ。お願い、吹雪助けて。
「吹雪、もう帰っていいって司令官が言っていたわ」
「えっ、そうなの。では、司令官」
そう言って、吹雪は行ってしまった。
残ったのは、俺とすごいオーラをまとっている叢雲だった。
「提督」
叢雲からちゃんと、上司として敬われた喜びが一瞬だけ起きたが、それでもまだ、嫌な予感がするので、恐怖はいっこうに晴れなかった。
「悪かったわね、吹雪みたいな感じじゃなくて」
怖い、怖いよ叢雲さん。って言うか、ん?なんで、叢雲服破けてんの?
「あのー。叢雲さん」
「何?」
「どうして、服破けてんのかなと」
叢雲はそれを聞くと、こいつ何言っているんだと言わんばかりの顔をした。仕方ないじゃん。だって俺、昨日までは陸軍に所属してたんだよ。むしろ、分かったほうがすごいじゃん。
「それは、私が敵にやられたからよ。報告で言ったでしょう」
え、深海凄艦にやられたの?そんなふうに艦娘ってダメージを受けるの?
そう思っていると、叢雲は「もしかして」と言ってこちらをギロっと睨みつける。俺は動けなくなる。蛇に睨まれた蛙とはこういう事か、と密かに納得する。
「あたしの体をさっきから、ジロジロ見ていたのは…」
叢雲がその言葉を境に手をポキポキと鳴らし始めた。…あっ、これ殴られるやつじゃ…
「叢雲、もしかして俺を殴ろうとしてる?」
「そうだけど、何か?」
「俺なにかした?」
「あたしの体をジロジロと見ていたことについてよ」
「……ち、違う!断じて、お前が思っているような、感じじゃなくて…」
「問答無用!」
そう言って、叢雲が俺に腹パンを極めてきた。そのパンチに俺はヒットポイントが一にまで減った。
まあ、三分で立てるようになったけど。
[憲兵所内]
「いや〜、あれは鬼嫁の類でしたね」
「ほんと、あの隼人があそこまで言われるなんてな!ワハハハ!!」
「わしの嫁もああいう感じだから、なんか共感できるわ」
ここでは、憲兵と提督が仲良くできます。