「うぉ〜。すげぇ広い」
「あんた、前にもここ来たことあるでしょうに」
叢雲は俺の言葉を聞いて、呆れている。
だって、いつ見ても広いと思ってしまうからしょうがないだろう。
俺と叢雲は今、工廠にいる。建造をして、仲間を増やすためだ。叢雲が言うには、資源を消費して、艦娘やその他諸々が作れるらしい。そして今日は新しい艦娘を迎え入れての戦力アップをするために来たのだ。
「ところで、どうして俺が建造に必要な資材持っていくんだ?」
「そりゃ、あんたが男だからよ。ほら、ちゃんと運びなさい」
あ、もしかして叢雲ってめんどくさい作業は男に任せるタイプ?駄目だよ、そんなんじゃいつまで経ってもお嫁にいけませんよ。
「何か、文句言いたげね。何?」
…なんで、この娘は自分の悪口を陰で思っていたりすると分かるのかな?エスパーか何か?
「いや、特に何にもないよ」
「そう、ならいいわ」
何処か腑に落ちないが、落ちないと駄目な気がする。とりあえず、俺は話題を建造の話にすることにした。
「それで、今日はこれを使って新しい艦娘を出すって言っているが、本当に出てくるのか?」
「そうね。出るかどうかは運次第なところがあるけど出てくるわ」
「そっかー」
「まぁ、とにかく出るかどうかはあんたの運次第ね」
ん?ちょっと待て。
「なんで、俺が引くことになってんの?」
「は?何言ってんの、あんた?あんたが引くに決まってるんでしょ」
マジっすかー、俺が引くのか。俺自身、運が良いのか悪いのか、よく分からない。
「まぁ、いい結果は期待しないでくれ」
「当然よ」
そこはせめて期待してくれよ。
「ここで良いわ」
「ん?ここで良いのか?」
叢雲に案内された場所は大きいサイズノ三つのタンクの所だった。こうして見ると、どこかの漫画のマッドサイエンティストが使いそうだ。
その時だった。後ろからバンという小さい音がした。俺はその時、腰にかけていた剣に手をかけ、後ろを向いた。もし暗殺者か何かがいたらそこへ向けて、刃を向けようとした。が、そこに居たのは小さいおもちゃを手に持った小さい人型の何かだった。
取り敢えず、よく分からないが敵ではなさそうだ。ふぅっと息をつくと後ろから手でバシンと頭をたたかれた。誰かと思ったら叢雲だった。様子からして激おこプンプン丸だ。
「あんた、私の話している事聞いてなかったでしょ!」
「いや、なんかこいつにおもちゃの銃で撃たれたから…」
「はぁ?何言ってんのあんた?……ってなんだ妖精じゃない」
「妖精?」
妖精って、あのおとぎ話にでてくるあの?そんなのがこの世にいるというのか!?
「…いるわよ」
余程驚いている俺が驚いているのが可笑しいのか叢雲はどこか冷たい目をして、こっちを見てくる。視線が痛いです。
「…いや妖精って普通いないから驚いたんだよ」
「は?何言ってんの、あんた?妖精なんて普通いるでしょ」
え?この娘何言ってんの?妖精は普通にいる?何言ってんの叢雲くん。
「いやいや、居ないって」
「いや、いるでしょ」
駄目だ、この子本当に居るって思っている。……って、おいそこの妖精、なに叢雲の頭の上で俺にあっかんべーしてんだよ。お前、怒られるぞ。
「あんた、なにじっと私の頭の上を見ているの?何かいる?」
「いや、お前の頭に乗っている妖精が俺にあっかんべーしてくるから」
「妖精はね、とてもイタズラ好きなの。だから、気がつかないうちにイタズラされるのも妖精のせいだから苦労するわ」
「ふーん。あ、でもだったらこいつ等は何をするんだ?まさか戦いはしないだろ?」
「当たり前じゃない。妖精は戦闘担当じゃなくて、どちらかと言えば艦娘のサポートよ。まぁ、ここにいるのは建造担当の妖精たちだけだけど」
うーん、あれ?おかしいな確か『提督説明書』(定価 四百円)だと、工廠には工作艦という役割を持った艦娘がいるって聞いたんだけど。
「あ、もちろん工作艦って言う艦娘は居るわよ。ただ、ある程度の功績がないと、着任できないだけよ」
もう、エスパーの事についてはもう突っ込まないぞ。…でも、まぁそうだよな〜。いきなり、そんな都合の良いような感じはないですよねぇ。
「まぁ、取り敢えずそういう事よ。あ、妖精さん建造二回やるからお願い」
声をかけられた妖精は小さいメモで『最低で?』と書いたやつを叢雲に突きつける。どうやら話せないらしい。叢雲は妖精の問に「えぇ、勿論」と言った。妖精は叢雲の、あくまで叢雲の支持通りに正面にあるタンクに資材を詰め込んだりして、準備を進める。こうして見ると、妖精の凄さが分かる。
あいつを除けば。俺に向けて、あっかんべーをしていた妖精はおせんべいのような物をかじっている。皆の手伝いをせずに。あいつサボってんなー。あっ、なんか仲間の妖精に怒られてる。自業自得だな。
そう思っていると、サボっていたやつを叱っていた妖精がこっちに来た。そして、叢雲の時と同じようにメモを突きつけた。
『君が新しいここの提督?』
「はい、そうです。俺はここの新しい提督になりました、魚住少将であります!よろしくお願いします」
やっべ、つい癖で陸軍の時の自己紹介になっちゃった。ここは海軍なのに。
そう思っていると妖精は、またメモのようなものを俺に見せてきた。
「え〜、なになに『僕はここで働いている妖精です。よろしくね』あぁ、よろしく」
よろしくを何故改めて言ったかは置いといてくれ。なんか癖でやっちゃった以外理由が出てこないから。
そのうち、仲間の一人と思われる妖精が俺の肩をツンツンとつついてきた。なんだ?と思い、振り返ると叢雲が少し怒った表情をして、工廠の外で待っていた。
『じゃあね』
「あぁ、またな!」
俺はそう言って、妖精と別れを告げた。妖精って、話してみると良い奴だな。今度お菓子でも持って行って、遊びに行こうかな。そう思うと、ふっ、と笑ってしまう。
ふと、俺は何気なく天井を見た。あのサボっていた妖精が逆さで吊るされていた。…うん、あいつを除いたら、皆良い奴だ。
「遅かったわね」
「ごめん。妖精と会話していて。と言っても、妖精はスケッチブックで会話していたけど」
「はぁ、まぁスキンシップは悪い事じゃないから、別に良いけどね」
良かった、とりあえずお怒りは鎮められた。
「あ、そういえばあんた。執務しなくても良いの?山のようにあるあの書類の束をやら「やったよ」……は?」
叢雲が立ち止まった。どうした?
「いや、あんた、あの書類の束よ。まさか、それをやったというの?」
「うん」
「…証拠は?」
「え?」
「証拠は、って言ってんの!!」
おいおい叢雲君、動揺の仕方が尋常じゃないね。目がぐるぐる模様になってるよ。
まぁ、確かに大変だったよ。あの天井に届くぐらいの三つの書類の塔をさばくのは。あれは、二日もかかるやつだからな。ただ『早めにやって早めに終わらせる』が俺のポリシーだから、昨日徹夜してすべてやってやったよ。おかげさまで尊い犠牲(ウ●ンの力を一本)が出ちゃたがなー。
「ありえない…あの量を一晩で」
なんか、叢雲が壊れた。俺、そんな間違ったことやったか?
あの後、執務室に行って、叢雲に終わらせた書類の束を見せると彼女はそれが本当かどうかをチェックする。まだ俺が嘘をついていると思っているのだろう、かなり目を書類に通している。一方の俺はその間、執務室ですぐ横にある自分の部屋から持ってきたインスタントコーヒーを飲んでいる。うん、この苦さ最高。叢雲の分も一応作っといたが、本人は書類の方にかなり気を取られていたので、さっきからコーヒーに手をつけていない。
やがて、ふぅっとため息をついて叢雲が書類から目を離す。どうやら確認が終わったらしい。
「完璧ね。非の打ち所がないわ」
「だろ?あと、コーヒーあるよ」
「…ありがとう」
叢雲は何故か若干落ち込んでいる。まじでどうしたよ。
「どうした?何でさっきから、そう落ち込んでいるんだ?」
コーヒーを一口だけ飲むと、少し元気になったのかため息をするのをやめて、俺の方を見る。
「あんたって何歳?」
「は?」
「何歳かって聞いてんの!」
お、おう。何でそんな事聞くんだ。あ、もしかして…まぁ、良いや。言おう。
「二十歳だけど」
「はぁ!?二十!?」
すごく驚く叢雲。うん、予想通りだ。
昔から、そうなんだよなぁ。俺は会った人全員に毎回言われるから慣れている。何でだろうなぁ?別に身長や体重も一般人と同じ位だし、髪の毛とかも普通だし。この際だから、叢雲に何歳ぐらいに見えたか聞こう。
「なぁ、叢雲。俺って何歳に見える?」
「そうね、十八ぐらいに見えたわ」
いやいや、それこそおかしいでしょ!十八って、まだ高校生ぐらいだよ。そんな奴が書類なんて相手にできないよ!?
そんなおり、トントンと執務室をノックする音がした。
「入っていいよ」
「失礼します、司令官!」
入ってきたのは、THE良い子ちゃん吹雪だった。
「工廠の妖精さんから伝言です。『建造が終わった』との事です!」
「分かった、すぐ行く」
…来てしまったか、この時間が。頼む、出てくれ!
〜工廠内〜
吹雪と叢雲を連れて、タンクの傍に来た。妖精からは『タンクが開くまで待ってて』との事だ。ついでにあの、サボっていた妖精はまだ天井に吊るされている。それを見た吹雪が一種の憐れみの表情をしていた。ああやって見られたら、俺でも自分の今までの反省をその場でしてしまう。あいつも例に背かず、泣いていた。うわぁ、妖精って泣くんだー。
プシュ〜
タンクが開く音がする。
モクモクと出てくる煙のようなものが中から出てくる。ここから仮に宇宙人が出てきても、(おかしいとは思うが)思わず納得してしまう感じだった。その中から人と思われる影が出てくる。本当に宇宙人か!?と思ったが、その心配は杞憂に終わった。
中から出てきたのはオレンジ色をした髪を結んでいる中学生ぐらいの女子と紫色の長い髪をした女子だった。
「陽炎型一番艦、陽炎よ!よろしくね、提督!」
「暁型一番艦、暁よ!一人前のレディとして扱ってね」
まさかの二回成功に思わず、驚いてしまって言葉を失う。が、そんな俺を叢雲が目で「早く何か言いなさい」と目で訴えてきたので平静を取り戻すことができた。ありがとう、叢雲。
「えー。俺はここの提督である魚住隼人だ。よろしくな」
この時、俺はやっと自分が上の者になったんだという自覚を持った。
長くなってしまいました。