ジリリリ。
けたたましく鳴る目覚まし時計の音を聞こえてくる。静かな朝を迎える、とドラマや小説では言うが、私の朝はうるさい目覚まし時計で始まる。針は七時を指している。
ふと、同室にいる吹雪の方を見ると彼女はまだ夢の中のようでスヤスヤと気持ちよさそうに眠っている。そんな彼女を起こさないように静かに立ち上がり、まだ残っている眠気に勝とうと洗面所に行くのだった。
「おはよう叢雲ちゃん」
私が顔を洗っている最中に吹雪が起きてきた。さっき起きたばかりなのか、寝癖がついている。そして目がまだ完全に開いていない。まだ、眠気が残っているようだ。
「おはよう、吹雪。寝癖ついてるわよ」
吹雪はそれを聞くと、鏡を見て、あっ、と少し顔を赤らめていた。目は恥ずかしさのためか、完全に開いていた。
まぁ、あんだけ凄い事になっているからよね……
午前七時半
〜執務室〜
「入るわよ」
私は一応そう言って、執務室の中に入る。いつもなら、そこの執務机に提督がいるのだが、今は居ない。
私は執務室に入っていった。
中には誰もいない。もちろん、これには理由がある。
ここの提督が大本営に呼ばれたからだ。あいつ(ここの提督)が言うには、今までの戦績の報酬を渡すためだそうだ。その報酬は大本営からの書類を整理したりする任務艦、工廠で物を作る工作艦、食堂で働く補給艦、といった鎮守府に必要な人達の着任だそうだ。
これでやっと、噂で聞く間宮さんの美味しいご飯が食べられる。そう思うと自分達のやってきた事に対し、誇りを持てる。…まぁ、こんな事に誇りを持つのは何かおかしい気がするけど。
「さて仕事でもしましょうか」
とりあえずあいつが今日いないから私は提督代理として、仕事をする…のだが…
「仕事の書類が五枚しかないってどういう事よ」
思わずはぁ、とため息が出た。あいつどんだけ仕事すれば気が済むのよ。…いや、昨日は三時間で終わった記憶が…あれ?
「要はこれって仕事しなくていいって事?」
いやいや何を言っているんだ私は。絶対にある。布団の下やらタンスの中だとか。そういう所によく子供が隠すってこないだアニメでやってたじゃない。
「…とりあえず探そう」
そうポツリと言って私はあいつが隠した(決めつけ)を探した。
あれから三十分探して一つの答えに辿り着いた。無い。どこ探しても見つからなかった。まぁでも、よくよく考えてみると、あいつの性格と執務するときのあの速さで何か取りこぼしが出てくるなんてそうありえない。結局私は無駄な事をしてしまったのだ。
「はぁ、この少ない書類をちゃちゃっと仕上げちゃいましょうか」
ため息を口から洩らし、私は五枚だけの書類に手をつけた。
十分もかからず執務が終わった。なんだか複雑な気分だ。もうちょっとこう…執務の書類があってもいいんじゃない?
そう思っていると執務室のドアをコンコン度ノックする音がした。
「どうぞ」
「失礼します!」
入ってきたのは吹雪だった。頭の寝癖は直っているが、今度は風呂から出たばかりなのか湯気がほのかに出ていた。おそらく、特訓したあとのひとっ風呂ね。相変わらず、その絶え間ない努力には賞賛してしまう。私も頑張らなきゃね。
「…ってあれ?叢雲ちゃんだけ?提督は?」
「提督は大本営に行っているから居ないの」
「へぇ…そう」
私の言葉を聞くと吹雪は少しシュンとなった。まぁ原因はあいつだろうけど。褒められたいのかしら?
「何あいつが居ないからって浮かない顔しているの…で要件は?」
吹雪は私の言葉で心機一転したのか浮かない顔からがらっと変わって明るい顔になって、
「あぁ、そうそう。叢雲ちゃん、私と朝ご飯一緒に食べようよ」
「分かったわ。じゃあ、行きましょうか」
〜食堂内〜
私と吹雪が食堂へと入ると、明るい声で「あ!叢雲と吹雪じゃない!」という声がした。その方向を振り向いてみると、そこは厨房からだった。そして、その中にある食器棚の影からひょっこりと少女が出てくる。
陽炎だ。
今日あの娘はここの厨房で皆の食事を作る当番として当たっていたのだ。ついでにこれは補給艦が来るまでの間、あいつや憲兵の奴らも含めて一日交代のローテーションでやっている。先日は確かあいつだったわね。男のくせにすごい料理が上手で一人一人メニューがバラバラだった。だけど何故か私と暁のが同じものだった。気になった私はあいつを問い詰めてみると、「あぁ、暁は日頃『立派なレディになりたい』って言っているからカルシウムが多いシシャモとかをメニューに入れたんだ。あ、もちろんバランスはとれてるよ。で、叢雲は常に身長の事を気にしているから…」私はその台詞を最後まで言わせずかかと落としをあいつにかました。あいつのデリカシーの無さには呆れるわ。
本当に顔とかは良いのに何であんな性格になるわけ。親御さんは何を教えたのかしら。ちょっと知りたいわ。
午前九時半
〜廊下内〜
私は吹雪との朝食が終わり、見廻りをしている。
まだあまり人がいないとは言え、鎮守府は鎮守府。もの凄く広くて歩くのにも時間がかかる。工廠が正常に起動できるか、各部屋に何か欠陥が無いか…等色々あってここまでかかった。
それでも半分終わった感じである。まだまだ見廻りに時間がかかりそうだ。
「あっ!叢雲また会ったね!!」
声をかけてきたのは陽炎だった。彼女特有のあの笑顔はいつもかがやいていて、今ではこの鎮守府一のムードメーカーとなっていて、彼女の活躍で何度助けられたか分からない。
「何か用かしら?」
「ん?あぁ、提督がちゃんと約束を守ってくれてるかなって思ってね。それを訊きに一番身近にいる叢雲に聞こうと…」
「約束?」
陽炎とあいつの約束なんて聞いた事がないけど…
「あれ聞いてない?」
「えぇ」
「そっかー」
何本当に。あいつ一体どんな約束したのよ…場合によってはラリアットを決めてでも阻止してやるわ。
「で、どんな約束を出しているの?」
「それはね…」
ゴクリと唾を飲んでしまう。やっぱり気になってしまうとどうしても唾を飲んでしまうわ。
「前に終わった作戦で頑張ったら、ゲーム買ってくれるって!」
…へ?ゲーム?
「ゲ、ゲームをあいつが買ってくれるの?」
「うん!しかも最近CMでやってるハイパーモリオを買ってくれるんだよ!!」
「あぁ、そう…」
陽炎の目が凄いかがやいている。しかも眩しすぎて、まともに見られないわ。
その後、一時間はゲームの話を聞く羽目になった。
〜午後一時〜
昼食を食べ終えた私はベットにダイブしたくなるのを堪え、今日やり終えた五枚の書類を持っていく。
この鎮守府にはまだ任務艦がいないから、その役割をこなす艦娘がいない。そのため、もう大本営と通じれるのはあいつを除くと、憲兵だけだ。おかしい話だけどあいつらがいないと私達の業務に支障が出るからこればかしはしょうがないわ。
そう思っていると、向こうの角から声が聞こえる。若い男の人の声だ。そうなると…あいつらね。
「それでさ…おっ!叢雲ちゃんじゃん。チーッス!」
「あ、叢雲さんこんにちは」
やっぱりあいつ等だ。彼らは憲兵の安田と森という男で、この鎮守府で数少ない憲兵である。ただ見た目としても本人達の性格からしても、あいつと同じように軍人と思えないので不思議どうやってなったか知りたいぐらいだった。もちろん本人達と戦った事がないから、この発言自体おかしいと思うが、それでもどうしても思ってしまう。
「それよりどうしたんですか?書類なんか持って…もしかして悪い三姉妹に無理矢理書類を大本営まで届けろって言われたんですか!?待っててください!今から魔法でかぼちゃの馬車を、って痛ッ!!」
暴走する安田を森が拳骨で止めてくれた。
「駄目じゃないですか、叢雲さんが困ってますよ」
「痛ぇ〜。テメェ仮にも俺は先輩だぞ!拳骨はねえだろ!」
「何か言いましたか?」
「いえ、なんでもありません」
凄いわね…これが世に言う革命ってやつかしら。
午後九時
〜食堂内〜
あの後、森が私の書類を安田に押し付けたおかげで書類は持っていかずに済み、業務はこれで終わった。最後に安田が「冗談通じねぇなぁ」と呟いていた。
だけど、取り敢えず代理の役割がちゃんと果たせて良かったわ。まぁ、当然の事だけど。
そんな事を思いながら椅子に座って、食事をしているところに吹雪と暁が来た。二人が私の隣に座ると、今日何かあったかのかを私に訊いてきた。私は正直に今日の出来事を話すと、
「ふ〜ん」
「叢雲ちゃんらしいね」
と何だか適当に聞き流していた。
「何よ。そういう二人はどうだったの?」
「私は吹雪と特訓していたわ!」
暁は少し自慢げに威張ってみせていた。そこまで威張れることではない、と言うのは恐らく駄目だろう。この場合は…
「暁ちゃん、凄く艤装とか使いこなせていていたから私もまだまだだなって思ったよ」
「そんなことないわよ。吹雪だって全部の的に練習用の魚雷を当てていたから、私の方が吹雪より劣るわ」
暁と吹雪はそう言って談笑していた。
それにしても驚きだ。あの努力家の吹雪が暁より自分が下手と言うなんて…。暁って言うと「私は一人前のレディよ!」って言って、何かやらかしてばかりの娘かと思ったけど、そういう一面もあったのね。知らなかったわ。
「ねぇ、叢雲ちゃん!よかったら明日昼食を食べ終わってから皆で演習しようよ。ちょうど四人いるから二人一チームにしてさ!」
「いいけど…明日出撃もあるから夕食のあとでしたらいいんじゃないかしらね」
「あ…出撃のこと忘れてた…」
「もうしっかりしてよね!」
暁、その一言はあんたにも言えるわよ。
「それじゃあ、うんそうだね…じゃあ明日の夕食のあとで!じゃあ!」
そう言うと吹雪は走り去っていった。夕食も食べずに…ついでに本人が食堂に戻って来たのは、あたしと暁がちょうど食べ終わったところで、陽炎がギリ食堂を閉めるときだった。吹雪が言うにはあのあと、何も考えずに部屋に戻って来てから、二十分後に夕食を食べ忘れていたことに気づいたらしい。なんで、もうちょっと早く気がつかなかったのかしら…
最後無理矢理終わらせた感じがありますね。すみません。