東方繋操録 〜紅魔館執事長比企谷八幡〜   作:黒初白終

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 誰も、自分に気づかない。

 誰にも見えていないようだ。

 誰も覚えていないようだ。

 妹、父、母、ペット。

 部活仲間、クラスメイト。

 恩師、怖い姉。

 願ったようになった。


 誰にも知覚されなくても、不思議と怖くなかった。

 安心した。

 怖かったから。

 分からないことが怖かったから。

 誰も俺を知らないなら、理解する必要はない。

 ただそのことに安心した。


 ただ、安心したのもつかの間。

 目の前の空間が裂けて。

 引き寄せられるように飛び込んで。

 あの怖い姉のように綺麗で胡散臭い人に出会って。


 ―――あなたのお名前は?




第二話:程度の能力

 

 ◇◆◇

 

 

 コインが床に落ち、開戦の合図を鳴らす。

 

 ―――刹那、霊夢が場を爆走し比企谷と咲夜に肉薄。右手に持つ幣に霊力を込めて全力で薙ぎ払った。

 目にも留まらぬ速さで繰り出されたそれに、魔理沙はもう勝負が終わったと確信した。

 が、しかし――

 

「―――こんな暴力的な巫女様は初めて見た」

 

 気が付けば当然のように回避され、後に回られていた。

 霊夢はそれを予想していたのか素早く振り返ると目の前には比企谷。魔理沙の背後に咲夜を見た。弾幕を張りながら魔理沙に叫ぶ。

 

「魔理沙!」

「っ、相変わらずずる臭い能力してやがるぜ!」

 

 至近距離で放たれる通常弾幕を回避し、たたき落とし、距離をとる。瞬殺も覚悟したが、通常弾幕だったおかげで難を逃れた。

 何とか持ち直した魔理沙と霊夢が同時にスペルカードを宣言する。

 

「魔符『スターダストレヴァリエ』!」

「神霊『夢想封印』!」

 

「えーっと、夢想封印てどんなスペルだっけ?」

「種類が多いから考えるだけ無駄よ」

 

 襲いかかってくる無数の星々と色とりどりの霊力の塊を呑気に観察しながら避けていく紅魔館組。スペルカードであるのに、そんなのはただの弾幕だと言わんばかりの表情である。

 二人の速度が所々不自然に変化しているあたり、時間操作を使っているのだろう。比企谷までそうなっている理由は分からないが。

 霊夢は、相手が時間を操ることが出来るのだから、やはり動きを止めないとどうにもならないかと舌打ちする。それに、未だに比企谷の方の能力が分かっていない。今までの行動から能力持ちであることは確実。

 すると丁度、紅魔館組もスペルカードを宣言する体勢をとった。

 

「さて、あなた達には謎が解けるかしら」

「問一、俺の能力は何でしょう」

 

 紅魔館組の二人が鏡合わせのように統一された動きでスペルカードを掲げる。

 

 異変解決組はスペルカードが当たらないと悟り、自主的にスペルをブレイクして相手のスペルカードを警戒する。

 しかし、次の瞬間比企谷は信じられない言葉を口にした。

 

 

「「幻世『ザ・ワールド』」」

 

 

 二人が宣言したのは完全同一のスペルカード。二人が驚くまもなく視界にナイフが敷き詰められる。

 単純にナイフの数が二倍になり、タッグ形式で的も増えていることで普段より凶悪なスペルになっている。

 

 そして、時は動き出す――

 

 

「――っおい、マジかよ!」

「ちっ、ごめん魔理沙。ルールミスったわ」

 

 殺到するナイフの群れから逃れるため、魔理沙はほうきに乗って空を飛ぶ。霊夢は隙間を縫いながら避けきれないと判断したものは幣でたたき落とす。

 

 霊夢は盛大に舌打ちしながら歯噛みする。無制限ルールによる自身の利点にしか目がいってなかったが、タッグ形式であることと相手の利点について考えてなかった。

 しかし、今はそれよりも重要な問題点が一つ。

 

「おい霊夢!あいつ咲夜のスペル使いやがったぞ!」

「分かってる!あんたは取り敢えず避けることに集中しなさい!

 ギリギリのグレイズばっかで見てるこっちがヒヤヒヤするわ!」

 

 ナイフを必死に避けていた二人は更に厄介な点を見つける。

 若干ズレた軌道で放たれた無数のナイフがぶつかり合い、軌道が途中で変わるのである。ナイフ同士がぶつかった金属音も耳障りで仕方ない。傷は負ってないものの、魔理沙の服は所々裂けている。

 霊夢は瞬時に二人を同時に相手するのは危険だと判断した。

 

「魔理沙、片方速攻でぶっ潰すから合わせなさい」

「おう、私の火力で消炭にしてやるぜ」

 

 ここで紅魔館組のスペルがブレイクする。

 同タイミングで霊夢は袖から取り出した御札に霊力を込める。そして、スペルカード宣言。

 

「神技『八方鬼縛陣』!」

 

 霊夢を中心に巨大な八角形の結界が張られる。

 比企谷は咄嗟に飛び退いたが、咲夜が結界の中に閉じ込められ、二人は分断される。オマケに放った御札が更に咲夜の手足を拘束する。

 ここで初めて紅魔館組、というより比企谷の焦った顔が見られた。

 

「・・・おいメイド長、何それ。大丈夫なの?」

「いいえ。時を止めても無駄みたいだわ。助けてくれないかしら」

「無茶言うなよお前な・・・」

 

 咲夜の態度が気になるところだが、後は魔理沙がぶっ飛ばしてくれればお終いである。

 霊夢の結界内にいた魔理沙がニタリと笑いながらミニ八卦炉を咲夜に向けて構える。

 

「さすがの咲夜も逃げ道が無ければどうしようもないだろ」

「そうね。私にはどうしようもないわ」

「けっ、その余裕そうな顔を引き攣らせてやる。出し惜しみはしないぜ!」

 

 何故かどこまでも余裕そうな咲夜に向け、魔理沙の持つ最上級のスペルカードを放つ。

 

「喰らえ、魔砲『ファイナルスパーク』!!」

 

 本当に非殺傷なのかと疑いたくなる程極太の極光が咲夜の視界を埋め尽くす。

 もうどうしようもないだろうと霊夢でも思ったのだが、咲夜の余裕そうな表情はいつまでも変わらず―――

 

 

「――借符・握壊『きゅっとしてドカーン』」

 

 ―――刹那、ファイナルスパークと八方鬼縛陣は音を立てて霧散。更には咲夜を縛っていた御札までもちぎれ、紙吹雪となって飛ばされた。

 

「「――――」」

 

 言葉が出ないとはこのことか。

 信じられないものを見たような霊夢と魔理沙の顔を見る、右手で握りこぶしを作っているその人物はここまでが読み通りだと不敵に笑う。

 

「――追い討ちで悪いけれど、これでワンダウンね」

 

 頭が追いつかないまま弾幕を撃たれ、霊夢は無意識に直感で避けたが動揺したままの魔理沙の足に被弾。危うくほうきから落ちかけた。

 何とか体勢は立て直したものの、精神的なショックが大きすぎる。

 

「なっ・・・んだよあれ。あれ・・・あいつ、フランの!」

「っ、落ち着きなさい魔理沙」

「それに、私のスペルカードを・・・!」

 

「落ち着けって言ってんでしょ!!」

 

 取り乱す魔理沙を霊夢が怒鳴りつける。文句を言いたいのは霊夢も同じである。

 比企谷は咲夜のスペルカードに加え、フランの能力まで使ったのだ。

 あれはフランのスペルカードなどではない。フランの持つスペルカードにあのような物はなかったはず。

 その上、魔理沙の最上級スペルをいとも簡単にブレイクしたのだ。霊夢のスペル、御札もろとも。

 しかし、インパクトが強かった分、先程のスペルについては大凡の見当がついた。

 

「多分、今のスペルは弾幕、またはスペルを破壊する相殺技よ。元にした能力のせいで余分な効果もついてそうだけど」

「そうか・・・くそ、舐めた真似してくれるぜ」

 

「・・・なに、何なのあいつ。ウィキペディアなの?グーグル先生なの?」

「わけの分からないことを言っていないで構えなさいハチマン。

 あれは霊夢の直感よ。お嬢様の占いと似たようなものだと思えばいいわ」

 「ほぼ100%じゃねえか。チートなの?天然チートなの?」

 

 霊夢の予想は見事的中していたようだ。もとから霊夢の直感を信用していた魔理沙だが、その上比企谷が勝手にボロを出してくれたおかげで事実とわかった。

 頭に血が上っていたが、比企谷がマヌケをしたおかげで、少し冷静になれた。

 冷静になると、散々やってくれた比企谷をギャフンと言わせたくなった。そんな様子を想像すると気分が高揚してくる。

 

「散々やってくれたなヒキガヤハチマン!だが、それもここまでだぜ。お前の能力は大体予想がついたんだからな!」

 

 大きく出た魔理沙に、客席も含め紅魔館の住人達が「おっ」と声をあげる。霊夢も少しは予想は立てられたが、まだ確信を持てるには遠かったので魔理沙の言葉に耳を向ける。

 自分に全員の意識が向いていることに気分を良くした魔理沙は胸を張って、比企谷に指を突きつける。

 

 

「思えば最初から答えは出てたんだ。咲夜の時間操作にフランの破壊。そしてお前の使った『借符』のスペル!ズバリ、お前の能力の正体は、

 

 ―――【力を借りる程度の能力】だぜ!」

 

 

 

「いや、違うけど」

 

 バッサリ。

 

「掠ってもいないわね」

 

 バッサリと。

 

 

「安直すぎでしょ・・・」

「なにぃ!?」

 

 頭を抱えたのは霊夢。

 確かに霊夢も可能性は考えたが、紫があれほど言っていたのだ。霊夢が負けると。

 魔理沙の言った能力も充分脅威ではあるが、霊夢の反則技を考えるとさほどでもない。

 閻魔の力を借りられるともしかするかもしれないが、見たところ紅魔館の住人からしか借りれない、もしくは借りていない。厄介だとは思うが、負けるとは思えない。

 

 うぅ〜、と唸り出した魔理沙を不憫に思ったのか、比企谷は苦笑いしながら一歩前に出た。

 

「時間切れということで答え合わせといこうか。霧雨の言った力も使うことは出来るが・・・正解は、

 

 ―――【繋がりを操る程度の能力】でしたとさ」

 

 繋がりを操る・・・このフレーズを聞いた瞬間に霊夢が思い浮かべたのはスキマ妖怪。【境界を操る程度の能力】と似たような万能な能力。

 カチリとピースがはまった感覚。同時に、嫌な予感の正体も姿が見えてきた。

 

 

「間違えてしまったならもう一問」

「はやく正解しないと何も分からないまま終わるかもな」

 

 紅魔館組はまた鏡のように動作を合わせ、比企谷だけがこちらを嘲笑うようにスペルカードを掲げる。

 

 

「問二、【繋がりを操る】とはどういうことでしょう?

 ――離別『上っ面な友情』」

 

 

 瞬間、目に痛いほど眩しい―――人一人分の抜け道が残された弾幕の壁が展開された。

 

 

「精々足を引っ張りあうといい。内輪もめは大好物だ」

 

 

 未だに、全ては比企谷の掌の上。

 

 




 ◇後書き◇

 戦闘シーンはいかがでしたでしょうか。
 分かりづらかったりしたら是非指摘してください。

 次話投稿については時間が開くと思います。

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