東方繋操録 〜紅魔館執事長比企谷八幡〜   作:黒初白終

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 幻想郷?

 ―――えぇ。忘れ去られた者達の集う楽園よ。

 はぁ。それで俺はどうすれば?

 ―――どうしたい?

 ・・・何がですか?

 ―――元の世界に帰りたいのか、幻想郷で生きていきたいのか。

 ・・・帰る気はないです。

 ―――ここには色んな場所があるわ。どんなところで生活したい?

 ・・・それなら――――――――

 ―――ふふ、そう。それなら紅魔館か地霊殿ね。この地図を頼りに行きなさい。

 ありがとうございます。それでは。






 ―――ふふふ。シスコンさんなのかしら。




第三話:能力の本質

 

 

 ◇◆◇

 

 

 くつくつと。

 

「邪魔よ魔理沙!」

 

 くつくつと。

 

「お前こそ邪魔なんだよ霊夢!」

 

 腐った目で、仲違いする様子を楽しそうに見る執事が一人。

 その隣に、呆れたように笑う瀟洒なメイドが一人。

 

「ハチマン。あなた性格悪いって言われない?」

「さぁ、知らんな。何せ誰も俺を認識しないからな。俺の性格も知りえない」

 

 床に座りながら耐久型スペルに苦戦する二人を眺めると、幻想郷に来る前のことを思い出す。

 

 水面に浮かんでいる葉っぱの舟のような上っ面だけの脆い関係。

 一つ小石を投げ入れてみれば、その小さな波紋がいとも簡単に友情という舟を転覆させる。

 摘んで持ち上げてやれば、絶対に揺るがない友情が出来たと勘違いする。

 

 あぁ、今までも石を投げ込むだけにしておけば良かった、と後悔する。

 摘み上げたりなんかするから、めんどくさいことになるのだ。

 

「人間って醜い生き物だよな。一人では生きていけない、他者の意見を無視出来ない―――なのに結局自分が一番可愛い」

 

 そういえばあの時の小学生等はどうなっただろうか。

 まあ、今となっては―――いや、昔から関係などないけど。

 

「あなたは違うのかしら」

 

 微笑む十六夜にそう問われ、少し考える。

 

 一人で生きて行けただろうか。

 ―――無理。

 他者の意見を無視出来ただろうか。

 ―――出来ただろうが、結局していない。

 自分が一番可愛い?

 ―――それだけはハッキリNOと答えられる。

 

 総合的に考えてみると・・・

 

「・・・俺もそこそこに醜かったらしい」

「あらそうなの。ふふ」

 

 くつくつと。

 クスクスと。

 

「それに、私も一人では生きていけないわ。

 お嬢様や紅魔館のみんなが居ないなら死んだ方がマシだもの」

「なんて愛の重い。レミリアなら喜びそうだが、他の奴らはどうだか」

「あなたにも言っているのよ?」

「クク、そりゃ死ぬほど嬉しいね」

「それで、こんな私は醜いかしら」

「いや、俺には綺麗すぎて困る」

「お上手ね」

「あぁ、俺もそう思った」

 

 クスクスと。

 くつくつと。

 

 思えば、幻想郷に来てからまだ一週間だが、これまでの人生の中で最も心安らぐ場所だと断言出来る。奉仕部よりも。

 子供の頃は無知だった。

 高校生になると、中途半端に知りすぎた。

 そして求めすぎて、嫌になってしまった。

 

 だが、幻想郷は。紅魔館は気が楽でいい。

 男一人というところは未だに納得出来ないが。聞くところによると幻想郷の強力な人外たちは殆ど女性らしい。頑張れ男。尻に敷かれるな。

 まあ、そこを除けばとても住みやすい環境だ。

 気さくな門番がいて。

 趣味の合う無口な本の虫がいて。

 献身的な司書がいて。

 たまに子どもっぽくなる館の主がいて。

 可愛い妹、兼主がいて。

 超がつくほど働き者な同僚がいて。

 

 現実とかけ離れた世界だから、現世でのことを気にしなくて良かった。

 現世での自分を誰も知らないから、後ろめたさも、不安も感じない。

 

 今まで出会った人ならざる者たちは、その在り方がどれも美しいと感じた。

 人間の方がよっぽど醜くて、人外で、バケモノだ。

 

 今、自分は能力の影響で少しずつ、現世で出会った人や出来事など全ての記憶が消えていっているけど、早く消えてしまえばいいなと思っている。

 記憶から消してしまうには惜しい人や思い出はあるけど、幻想郷で生きていくならきっと不要な物だ。

 この弾幕ごっこの中でも、たくさんの現世での記憶がなくなった。

 記憶の薄い部分から無くなるらしく、今ではトラウマと、家族と、材木座、川崎、戸塚、葉山グループ、城廻先輩、平塚先生、雪ノ下さん、一色、そして奉仕部。・・・あと相模か。

 覚えているのはこれだけだ。

 きっとこの異変が終わる頃には全部なくなっている。

 そう考えると、少し寂しく感じる。

 

「どうかしたの?考え事かしら」

 

 随分と深い思考にふけっていたようで、十六夜に肩を叩かれるまで気が付かなかった。

 もうすぐ耐久スペルが破られる頃だ。

 

「美鈴や妹様が心配していたようだけど」

「・・・悪い。考え事してた」

 

 客席に目を向ければ、フランと美鈴が笑顔でこちらに手を振っている。

 こちらも小さく手を振ると、それに気付いたフランが太陽のような笑みで、両手を大きく振る。

 

「あら、好かれてるわね」

「そうだろう。自慢の妹なんだ」

「きっとあなたも自慢の兄よ」

 

 くつくつと。

 クスクスと。

 

「―――本当にやってくれるぜ・・・!」

「―――早苗以上に調子乗ったことしてくれるじゃない新参者・・・!」

 

 

 ようやくスペルから開放された巫女と魔法使いの姿はまるで幽鬼のようだ。

 女性が放ってはいけない禍々しいオーラを纏っている。

 

「お二人さん、カンカンみたいだけど」

「おぉ、怖い怖い。レミリアにプリン食べられたフランくらい怖い」

「ふふ、それは怖いわね」

「クク、紅魔館が半壊してしまいそうだ」

 

 以前レミリアに勝手にプリンを食べられたフランが大激怒し、きゅっとしてドカーンされた紅魔館が半壊したことを思い出した。

 最後に、

 クスクスと。

 くつくつと。

 

「何笑ってんのよあんたら・・・・・・覚悟は出来てるんでしょうねぇ・・・!」

「優しい魔理沙さんだって、女を棄ててでも怒りをぶちまけたい時はあるんだぜぇ!!」

 

 どうやら予想以上に苦戦したようだ。作戦が上手くいって良かった良かった。

 流石に動かないと、あちらの頭が怒りで爆発しそうだ。

 十六夜も同じことを考えていたようで、こちらに手を差し出す。

 

「さて、行きましょうかハチマン」

 

 

 少し前なら、この差し出された手を自分はどうしただろうか。

 

 ―――昔のことなど忘れてしまった。

 

 少しも迷うことなくその手をとって立ち上がる。

 

 

「あぁ、行こうか十六夜」

 

「・・・・・・」

 

「・・・? どうしたメイド長」

 

「・・・・・・」

 

 

 むっすー、私不機嫌です。

 頬を膨らませて態度で語る十六夜。

 何やねん。

 思わずエセ関西弁が出てしまう。

 ていうかお前そんなキャラじゃねえだろ。

 

「・・・あなたって紅魔館の中で私だけ名前で呼ばないわよね。

 私、仲間はずれは嫌よ?」

 

 ・・・なるほど。

 もっと前にそう言えよと思った俺はきっと悪くない。

 今更名前で呼ぶことに抵抗などないのだから。

 

 ―――ただ、今まで呼びなれていたのを急に変えるのはちょっと照れくさくもあるもので。

「なに、俺のこと好きなの?」

「そこで照れ隠しするのがハチマンらしいわね」

「咲夜ほどコミュニケーション能力ないからな」

「ふふ、よく出来ました」

 

 照れ隠しに紛れてさりげなく名前を呼ぶのが、今の自分には精一杯。それを咲夜も理解していて。

 それにまた、

 くつくつと。

 クスクスと。

 

 

「警告はしたからね!もうぶっ飛ばすわ!!」

 

 あ、爆発した。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 比企谷の自作のスペルカードは、それはもう悪質なものだった。

 一対一だとゴミみたいなスペルなのに、タッグ形式だとこれ以上に悪質なものはない。

 わかりやすく空いた一人用の抜け道。

 一人は簡単に避けられるが、もう一人は絶対に当たる仕組み。

 一人用の抜け道も、身を寄せれば何とか二人潜り抜けられるが、弾幕の壁がそこそこ速く動くので実質不可能。

 自分だけが助かろうと味方を追いやる。

 オマケに能力がかかっているのかイラつき安くなっていて、ちょっとした言い合いが暴力に発展しそうになったことも何度か。

 スペルの名前からしても、確実に複数人相手することを前提にしたスペルだ。

 

 霊夢と魔理沙は思い出すだけで怒りが爆発してしまいそうになる。

 スペルは最悪だし、ようやくスペルから開放されたと思ったら当の本人は咲夜と笑いながらイチャイチャしていて、注意しても聞く気配がない。

 もう既に二人だけの世界に飛び立っているのか。

 しかし、ようやく気付いたのか、比企谷が立ち上がり―――またイチャつき始める。

 

 そして、霊夢の血管からぷちっと音がした。

 

 ・・・はぁ?

 もうキレてもいいのよねこれ。

 うん、私頑張ったもの。

 

 よし―――殺す!

 

 

「警告はしたからね!もうぶっ飛ばすわ!!」

 

「あぁ、もう命の保証はしてやらないからな!さぁ、撃つと動くぜ!!」

 

 飛び出した霊夢に続き、魔理沙もほうきに乗って爆走。

 どうやらスペルカードを使っているらしい。

 霊夢を追い抜き、紅魔館組に流星のようなスピードで突撃していく。

 目前に迫ったところでスペルをブレイクし、ミニ八卦炉を構えてスペル宣言。

 

「恋符『マスタースパーク』!」

 

 極光が放たれると同時に、薙ぎ払うようにミニ八卦炉を動かす。

 薙ぎ払われた軌道上の空気を焼き焦がし、不完全燃焼だった魔砲の代わりだと言わんばかりに暴れ狂う。

 スペル枚数無制限だから出来る豪の技だが、魔理沙も本気らしい。

 

 味方の魔理沙が怒り狂ってくれたおかげでかえって冷静になった霊夢は、落ち着いて辺りを見渡す。

 すると、やはり無傷でそこにいた。

 

 

「はぁ。流石に少しヒヤッとしたわ」

「ほんの少し遅れてたらアホ毛が炭になる所だった」

 

 彼らには、きっと人を苛立たせる才能があるのだろう。

 またしても笑いながらの登場である。

 ピキっと霊夢が幣を握り締める音が聞こえたようで、比企谷はどうどうとこちらを宥める。

 その動作すらも腹立たしいのだが。

 

「答え合わせと行きましょう」

「【繋がりを操る】とはどういうことか」

 

 ようやくイラつきも収まり、頭がスっと冷える。

 あのスペルの中、イラつきながらもこれについて考えていた霊夢が、自分の直感に従って導き出した回答しようと―――

 

 

「今度こそ簡単だぜ!お前の能力は人や妖怪を仲良しにしたり仲違いさせるんだろう?」

「あんた、ホント黙っててくれない・・・?」

 

 先程のスペルの影響がまだ残っているのか。魔理沙に殺意を抱き始めた霊夢。

 そんな二人を見た紅魔館組は「やりすぎたか」と口を零す。

 

「まぁ、それで半分だな」

「でも、不正解は不正解。残念ね」

 

「魔理沙、あんたアホなの?」

「はぁ!?誰がアホだ!」

 

 どうやら魔理沙は可哀想なくらい単純らしい。

 紅魔館組も顔を見合わせ苦笑い。首を竦める。

 

 もう見慣れた鏡合わせの統一された動作。

 

「正解は、『二者間以上の関係を思うがままに出来る』でした」

「不正解者にはもう一問ね」

 

 比企谷はすぐにスペルカードを構える。

 どうやら、考える時間は与えてくれないようだ。

 

 

「これが最後の問よ」

「第三問、【繋がりを操る程度の能力】はどこまでのことが出来るでしょうか。

 答えはその身に受けて確かめてくれ。

 

 ―――継接『恐怖のツギハギ世界』」

 

 

 ほんの一瞬、スペルカードが強く発光した後、比企谷の手には裁ち鋏と縫い針が握られていた。

 比企谷は裁ち鋏を一度シャキンと鳴らし、ニタリと口元を歪める。

 

「さぁ、家庭科の時間だ」

「どちらからお人形になりたいかしら?」

 

 

「新しいお人形・・・!」

 

 

 お人形と聞いて目を輝かせたフランに、異変解決組は背筋を凍らせるのだった。

 




 ◇後書き◇

 時間が開くと言っていましたが、ノリに乗ったので書きました。
 次からは本当に時間が空きますので、その辺はご了承ください。

 次話か、その次辺りで本編解決、そこから比企谷八幡と幻想郷の住人たちとの一幕を描いた短編が始まる予定です。

 色々な指摘、お待ちしております。
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