―――あなたの名前は?
比企谷八幡だ
―――私はフラン。フランドール
―――ハチマンは壊れないんだね
―――あハ、もっト私とアソビましょウ?
ああ、いくらでも付き合ってやる
―――・・・ねぇ、どうして?
―――みんな私をひとりぼっちにした
―――外は危険だって嘘ついて
―――きっと私が怖いから
―――ハチマンは私が怖くないの?
お前の能力も狂気のことも姉の方から聞いた
俺だって死ぬのは怖いし、痛いのもごめんだ
―――なら、どうして?
―――私、きっとハチマンも壊しちゃう
そうか。フランは知らないのか
どんなに怖くて辛くても
妹が泣いていたら
お兄ちゃんはじっとしていられないんだ
第五話:比企谷八幡の災難
◇◆◇
ことの始まりは幻想郷中にばらまかれた文々。新聞の号外だった。
天狗の作る新聞はその殆どが仲間内だけで見せ合うもので、妖怪の山の外のことなど全く取り上げられていない。
だが、射命丸文の書く文々。新聞は、本人がネタを探しに幻想郷を飛び回るため、幅広い幻想郷中のことが比較的詳しく乗っている。幻想郷の中では数少ないまともな新聞である。
その文々。新聞で、大きく取り上げられた記事があった。
【博麗の巫女、まさかの敗北!?】
今や人里の住人にも地底の妖怪にも、それを知らない者はいない。
むしろ殆どの幻想郷の住人達がその部分にだけ目を向けていたのだが、二人・・・いや、三人ほどが別の部分を食い入るように見つめていた。
【なお、博麗の巫女の話によると、紅魔館の妖怪執事は相手の能力を入れ替えることが出来るとの―――】
―――グシャリ。
新聞を握りつぶした蓬莱の人の形はその口元に三日月を描く。
「悪いね外来人。利用させてもらうよ・・・!」
これは、呪いの押し付け合いに巻き込まれた、哀れな執事の物語である。
◇◆◇
それは、本当に唐突な出来事だった。
「頼む、紅魔館の従者殿!」
咲夜から買い出しを頼まれ、人里の商店街のようなものを歩き回り、途中どこからともなく現れた氷精、天使、常闇の妖怪、虫妖怪にまとわりつかれていたところ、いきなり名前も知らない女性に土下座されてはどう反応すればいいのか分からないもので。
最近咲夜に習って癖づけるようにしている紅魔館の従者らしい丁寧な口調で声をかける。
「あの、とりあえず頭をあげて欲しいのですが」
「いいえ、そういうわけには!」
違うんです。違うんですよ。あなたはその姿勢だから分からないと思いますけど、周りの視線が凄いんですよ。
『 何で妖怪が人里に先生とどんな関係なんだあの妖怪野郎先生を服従させてるぞいざとなったら刺し違えてでも―――』
何やら物騒なことを口にするし俺は妖怪じゃねえよ泣くぞコラ。
「あのですね、事情も話さず頭を下げられても困るんですよ。話くらい聞きま―――」
がしっと。
「ほ、本当だな!?嘘じゃないな!?これで嘘だったら頭突きだぞ!?分かってるんだろうな!!」
早まってしまったかもしれない。
先程までの低姿勢は何処へやら、今ではものすごい剣幕で詰め寄って来て、挙句には胸ぐらまで掴まれる始末。
先生って呼ばれてたけどこの人本当に人間なの?服からビリッて音が鳴ったんだが。
どうしてくれるんだよオイ。咲夜に怒られるの俺なんだけど。
仕方ない。
「離れて下さいと、言っているでしょう」
スッ――と。
言霊でも宿っていたかのように女性の手が離れる。
勝手に離れてしまった自身の手を見て、女性が不思議そうな顔をする。
「これは・・・」
「何も不思議なことはないでしょう。私たちは
【繋がりを操る程度の能力】による人との関係の再構築。
元々赤の他人でしかなかったが、改めて
ただそれだけの事。
そうあるはずだった形に戻しただけ。
さて、と話を戻す。
「それで、あなたの要件は何でしょうか」
「あ、あぁ。実はな――――」
それは、本当に突飛な話で。
◇
頭が痛い。
「頭痛が痛い」とか言っちゃうレベルに痛い。
ていうか目の前の頭痛の種は「頭痛が頭痛」とか言っちゃうくらいに頭がアレなのでどうしたらいいのだろうか。
「あのな、チルノ。1+1がどうしてそうなるんだ。お前の目は一体幾つあるんだ」
「目は誰でも二つしかないに決まってるじゃない。子分はバカね」
「1+1は?」
「9よ。アタイったら最強ね!」
最凶ですね分かります。
と、まあこれがあの女性―――上白沢慧音先生からの要件。ちびっ子どもに懐かれているから是非寺子屋で先生をやってみて欲しいと。
なんでも、彼女の授業は人気がないらしく、子どもたちからも不満の声があるらしい。そして、彼女自身も生徒から避けられることがあるようで。
そこで、俺の授業の様子を参考にしたいとのこと。
紅魔館のみんなに事情を話し、了承得た翌日。さっそく一日先生体験をしたのだが―――
「じゃあ、次この問題分かるやつ」
「ハイ!」
「チルノ以外で誰かいないか」
「はーい、ヒキガヤ〜」
「おう、ルーミアは分かるのか」
「お腹空いたのかー」
「分かるやつはいるかなぁあ!?」
こんな感じである。
上白沢先生すげぇよ。いつもこんなの相手にしてるのかよ。俺だったら二日もしたら逃げ出して―――
「は、はい!」
「ん、分かるか大妖精」
「37・・・ですよね?」
「おお、正解だ。よく分かったな」
「いえ、あの、ヒキガヤさんの教え方が上手でしたから」
―――いや、このクラスは大丈夫だ。天使がいる。
数学苦手な俺が教え方上手いわけが無いというのに。
ここまで、国語、歴史と教えてきたが、上白沢先生から聞いていた話より好感触な反応。
あまり問題も見られないため、これは一度彼女の授業の様子を実際に目で見た方が早そうだ。
「さて、今日の俺の授業はここまでだ」
「えぇー、慧音先生の授業は眠くなるんだけどなぁ」
「私もずっとこのままでいいんだけどなー」
「ヒキガヤは頭突きしてこないからなのかー」
「わかった!答えは99ね!」
「チ、チルノちゃん・・・」
予想以上の人気のなさ。ホタル妖怪に夜雀、ルーミアが全否定とはいったいどんな授業なのか。
チルノはバカで天使は可愛い。
あと、先生。頭突きは良くないと思います。
だが、彼女の授業を見ないことには何もわからない。
「では私は後から見ていますね」
「う、うむ。あまり見られると緊張してしまうのだがな」
「終わったら悪かった点など指摘しますので」
「わかった、頼む」
さて、いったいどんな授業なのやら・・・
◇
それからしばらく彼女の授業を見学して、途中物申したい所をなんとか飲み込んで、ようやく授業終了。
手を振って元気にさようならをするちびっ子たちに手を振り返して見送り、先生と教室に二人。
結論から言う。
「先生の授業は高度過ぎて幼い子には理解できないと思います」
「そ、そうなのか?」
彼女の授業は、外の世界なら並の高校生でも理解できないほど難しいものだった。その上、教え方も悪い。
「勉強というのは、理解できないことを理解できる言葉で学ぶものです。理解できない言葉で説明しても何も分からないのは当たり前でしょう?」
子どもたちからすれば、外国人や宇宙人に説明されているのと何ら変わらない。
全て知らない言語なら、理解出来ることなど何も無いのだから。
「私から言えるのは、一から順番に教えること・・・くらいですかね」
「そうか・・・ありがとう。とても参考になった」
「あと頭突きはダメです」
「ぅ、やはりダメか?」
「ダメです。先生が避けられてるのもそれのせいですよ。というかあんな威力で頭突きしたら死んでしまいます」
居眠りしたルーミアに対し彼女が繰り出した頭突きで、轟音とともに教室が揺れたときは思わず飛び出してルーミアの安否を確認してしまったほどだ。
幸い、妖怪だったので大したケガもなかったが、あんなのを人間の子どもに喰らわしてしまったら本当に命が危ない。
「まあ、先生は授業自体はしっかりしているので、今言ったことを守って頂ければ問題はないと思います」
「君にはできればここで働いて欲しいよ」
「ハハ、私は従者ですよ。これはあなたの問題で、あなたがやるべきことです」
「厳しいな君は・・・・・・人里で困ったことがあったら私に頼るといい。力になろう」
「では、私の代わりに家のメイド長の力になってやってください」
「む・・・君は家族思いだな」
当然だ。
俺にとって紅魔館のみんなは家族で、幻想郷において家族というものは恋人などよりも確かな関係で、本物なのだ。
俺は幻想郷に来る前の人との関係、またはそれによる出来事などを全て忘れてしまっているらしいのだが、妖怪の賢者曰く「あなたはシスコンさんだったわ。いえ、今もそうね」とのこと。そのことについては俺もよく分かっている。フランは可愛い。紅魔館に行ったばかりのときは一悶着あったが、今ではフランの従者兼兄だ。それに幻想郷に入ったばかりの時に妖怪の賢者にどんなところに行きたいかと聞かれ「妹がいるところで」と答えたほどだ。
彼女の言葉には返さず、軽く頭を下げる。
「では、機会がありましたらまた」
「きっとあるさ。ではまたな」
先生と別れ、少し駆け足気味に紅魔館へ向かう。
帰ったらきっと不機嫌であろうフランの相手をしなければならない。それに、紅魔館の家事仕事も手伝わなければ。
咲夜の時間操作を借りて本をたくさん読みたいし、門前で暇そうにしている美鈴の相手もしなければならない。
本当に毎日やることが多くて―――
「―――お前が紅魔館の外来人だな?」
誰だ、と。何事だと。
そんなことを考える間もなかった。
最初に認識したのは、熱。
異常なほど高い熱を感じ、振り返ると炎の翼が目に入った。
そして、それの元をたどっていくと、白。
髪も。
肌も。
その存在も。
アルビノなのだろうか。
目が赤い。
綺麗な顔立ち。
幻想的だ。
だというのに。
こんなにも綺麗なのに、なぜ穢く見えるのだろうと思った。
「私は藤原妹紅」
それは美しく、
「アンタに頼みがあって来た」
そして穢く、
「ただ悪いが、拒否権は与えてやれない」
何て残酷なことだろうか。
◇◆◇
ゴウ、と。
数千度を超える火柱が立ち上る。
能力の副次効果のおかげでこれほどの高温でも視覚でとらえることが出来たため、なんとか回避する。
「待ちな!」
「参ったな・・・」
こんなことなら咲夜の時間操作を借りておけば良かったと後悔。
【繋がりを操る程度の能力】は直接触れるか目で見て認識しないと能力を発動できないため、今は使うことが出来ない。
時間操作が使えない状態だと身体能力は高くないため、幾ら逃げても追いつかれてしまう。
「待てって言ってるだろうが!」
「無理。拒否する。従う義理がない。こっちはワガママなお嬢様のお世話をしなければならないんでな」
口ではそう言うが実際問題、相手が厄介過ぎて困る。
概念的に四肢を断ち切って動けないようにしようと思ったのだが、本当に困ったことにこの藤原妹紅とやら。本人と四肢に概念的な繋がり無いのだ。
【繋がりを操る程度の能力】は副次効果で、意識するとあらゆる繋がりを視覚でとらえることが出来るのだが、目の前の少女の体構造は無茶苦茶だ。
今まで様々な人の繋がりを見てきたが、誰もが複雑な繋がりを持っていた。
しかし、彼女は真っ白だ。真っ白に見える、と言った方が正しいだろうか。肉体における概念的な繋がりが全く存在しない。
だから困った。
物理的に四肢の繋がりを切ってしまうか。
それとも―――
「―――いいわ。彼女の頼みを聞いてあげなさい」
幼く、それでいて何故か威厳のある声。
顔を上げるとそこには日傘を差した紅魔館の主が。
何故レミリアがここに・・・・・・いや、そんなことはどうでもいい。
「レミリア、・・・・・・お嬢様。太陽が出ていますので紅魔館に戻ってください。私はこの者の四肢を切り飛ばしましたら直ぐに仕事に戻りますので」
「フフ。彼女にはそんなことをしても無駄よ。それと―――これは運命よ。これ以上の言葉は必要ないわね?」
その一言で理解。
瞬時に戦闘態勢を解く。
「そうですか・・・・・・では、私はどのようにすれば?」
「あなたの思うがままに」
「了解致しました。フラン様に申し訳ありませんとお伝えください」
「ええ」
それだけ告げるとレミリアはその姿を無数の蝙蝠に変え、紅魔館へ戻って行った。
改めて見るとレミリアも不思議な繋がり方をしている。
元の状態と蝙蝠になった時では別の生物になっているようで、繋がり方が全く違う。
「話は済んだか?」
「えぇ。レミリアお嬢様からお許しが出ましたので、ついて行きますよ」
「・・・・・・何だ、気持ち悪い喋り方だな」
「レミリアお嬢様の運命に巻き込まれた者は皆、お嬢様の娯楽の対象ですのでお客様として接するように心がけております」
「ふーん。ま、どうでもいいけどね。案内するからついてきて」
言って、こちらの返答を聞くこともなく炎の翼を広げて飛んで行く。直ぐに追おうと空を飛ぶが、そのスピードはかなりのもので普通に飛んでは追いつけそうにない。そのため視認できているうちに彼女の翼を借りることにする。
が、しかし。肩付近に異変が。
「・・・・・・何だこれ。なんとも言えない異物感が」
自在に動かせるのだが、触覚が備わっている訳ではなく何とも言い表すことができない感覚。ただ、霊力で飛ぶよりも簡単なのは事実だ。
「へぇ、噂に聞いた通りの能力じゃないか」
ちゃんと付いてきているかこちらを向いた藤原妹紅が驚嘆、というよりも興味深そうに口元を歪める。
「アンタの事は人里でも妖怪の間でも噂になってるよ。【力をうつす程度の能力】だとか【何でもできる程度の能力】だとか」
なるほど、と一つ納得。
どちらもあながち間違ってはいないと思う。
力をうつすとは、能力を他人に
何でもできる、も大きく見れば間違いではない。が、どちらかと言うと【何にでも干渉できる程度の能力】か【何でも操る程度の能力】の方がしっくりくる。
【繋がりを操る程度の能力】は二者間以上の関係を思いのままにできる力だが、究極的には形を変えるもの、複数の存在から成り立っているものは全て思いのままにできる。
この世の生物や物体は無数に集まった最小単位の物質から出来ていて、こと生物に関しては完全な単体の物質のみで成り立っているものなど存在しない。つまり、実質何にでも干渉することが出来る。何でも操ることが出来る。
今はまだこの目で見えている繋がりは少ない方で、もっと知識をつけてあらゆる物の見方ができるようになれば、未知である藤原妹紅の肉体における概念的繋がりなどにも干渉できるようになるだろう。物理とか化学とかが得意だったらリアルお兄様の分解とかが出来たのだが、理系の成績はご察しの通り。・・・・・・外の世界の人のことは覚えていないのに、アニメや漫画、小説のキャラは覚えているとはこれ如何に。
まあ詰まるところ【繋がりを操る程度の能力】の唯一と言ってもいい弱点とは、この能力の所持者の無知さというわけだ。そういう意味では、発展途上中のこの能力は【何でもできるようになる程度の能力】と言ってもいいかもしれない。
「似たようなものですが、私の能力は【繋がりを操る程度の能力】といいます」
「繋がりか・・・・・・なるほどな。永琳の推測は正しかったわけだ」
「永琳とは?」
「ああ、そいつは―――いや、もう着いた。会えば分かるさ」
彼女は途中で言葉を切り、空中で翼を消し竹林の中へ落ちていく。
確かこの竹林は迷いの竹林と呼ばれていたはず。
一見何もなさそうに見えるが・・・
「・・・・・・おぉ?」
彼女の落ちていった軌跡通りに自分も落ちていくと、急に目の前に大きな屋敷が現れた。
紅魔館と比べると大した大きさではないが、それなりの大きさの和風建築の屋敷を見ては唸らずにはいられない。
洋風の豪華な館もいいけど、やっぱり木造建築もいい。畳欲しい。今度レミリアか咲夜に頼んでおこう。
落ち葉でいっぱいの地面に降り立つと、目の前には『永遠亭』の看板が。確かレミリアの話では凄腕の薬師がいて人里や妖怪たちにも自作の薬を比較的安価で売っているのだとか。パチュリーもここの薬にいつも助けられていると言っていたような。
辺りをキョロキョロ見回すと永遠亭以外は特に何も無い。目印となる物も。いったいどうやってここに辿り着けばいいのか。
ただ、足元を観察すると土の繋がりが妙に不自然で、円形に薄くなっている部分が多数見られる。落とし穴だろうか。・・・・・・円形脱毛症とか頭頂部が禿げてるとか言ってるわけじゃないよ?
さて、藤原妹紅はもう先に中へ入ってしまったようだしどうしたものか。入ってしまってもいいのか、彼女が呼びに来るまで待つべきか。
そうやってウンウン唸りながら挙動不審にしていたからだろうか。
「―――そこの不審者。手を頭の後ろで組んでゆっくりこっちを向きなさい」
もう既に嫌な予感しかしないのだが、ことを荒立てないようにするため大人しく指示通りに従い声の主の方を向く。
そこに居たのは、ブレザーとスカートを身につけたうさ耳少女。手をピストルの形にしてこちらに向けていて、それがおふざけではないことが気迫で伝わってくる。そしてそれ以上にこちらの目を見つめる彼女の赤い目から視線を逸らせない。
「あなたは何者でここに何の目的で来たのか答えなさい。狂いたくなければ嘘をついたり妙な行動はしないことをオススメするわ」
何なんだ。昨日も今日も厄日なのか。
◇後書き◇
お久しぶりです。
今回は寺子屋組の絡みと、次の話に繋がる部分の話ですね。
次の話はほとんど書き上がっているので直ぐに投稿出来ると思います。
伏線貼るのって難しいですよね・・・
皆様のおかげで、いつの間にかお気に入りが300件突破してました。
応援ありがとうございます。
評価の方も是非お願いします。
また、これは相談なのですが、評価1を付けた人が何故そう評価したのか気になってその人たちの評価傾向を見させてもらったのですが、どうやら比企谷八幡クロス、または比企谷八幡が登場する作品全てにおいて低く評価していたのですが、タグだけでは分からないのでしょうか。
相談に乗っていただけると嬉しいです