ありがとうございますっ!(大歓喜)
この場を借りて、情報を提供してくださった、催促なのだー様、リミット@迷い人様に、御礼申し上げます。本当にありがとうございました。おかげさまで、この話が書けました。
今回はグロシーン少なめなので、前回に比べればまだ読みやすいかと思います。
しかし、戦いの描写には違いないので、そういう系のものが苦手な方は、…覚悟してください。
それでは、ごゆっくりどうぞ!
キンッ!ガキン!
鋭い金属音が響きわたる。その音源は、交差した2本の剣。その剣は、片方がやけに短かった。
短い剣…「七星連刃(揺光)」を持つバルフォアと、氷をまとった長剣を持つアルベルトが、激突しているのだ。
ちなみに、形勢は…バルフォアの圧倒的不利である。何故か?
まず、リーチの差が挙げられる。バルフォアの剣「七星連刃(揺光)」は、名剣には違いないが、剣の長さが短いのである。これはどうしようもない。
対して、アルベルトの剣は、七星連刃と比べると、少なくとも2回りくらい長い。このリーチの差ゆえ、どうにもバルフォアのほうが不利なのである。
次に、素材の特性。「七星連刃(揺光)」に用いられている素材は、辺境の浮き島に棲む大型の竜のものだというのは、お話した通り。ところがこの竜の素材、なんと氷には弱いという特性がある。そして、アルベルトの剣がまとっているのは、氷。ここまでいえば、もうお分かりいただけるだろう。素材の相性が悪すぎるのだ。
そしてとどめに、足場の悪さ。空を飛んでいる船というのは、どれだけ巨大であっても、不安定なものだ。急に強い横風でも吹けば、それにあおられて船体は大きく傾く。そうなれば、甲板にいる固定されていない物体は、まとめて空の底へ放り出されるだろう。
さらに…
「そこ!」
アルベルトが一歩踏み込み、剣を振りかざす。バルフォアは、その斬撃を剣で防ぎ…直後に、つるり、と足を滑らせた。足元が、凍っていたのだ。
「わっと!?」
ふらつきながらも、とっさに剣を身体の前に突き出す。その結果、かろうじてアルベルトの突きを防御できた。
そう、アルベルトの長剣は、斬撃や、いわゆる「ソードビーム」のような、あらゆる攻撃を行うことで、足元を凍らせていくのである。ただでさえ悪い足場が、さらに悪化しているのだ。
しかも、高空ということで辺りは寒いし、アルベルトは寒さは平気だし、バルフォアは逆に寒さは苦手だし…という始末である。
バルフォアの有利な点といえば、せいぜい、剣にまとわせている毒くらいのもの。
こ れ は ひ ど い
というわけで、バルフォアは絶賛悪戦苦闘中である。
悪い条件がいくつも重なってしまっているのだ。しかも、剣術の腕も相手のほうが上。
勝ち目は、限りなく低い。というか、ないといったほうが正しいだろう。
(くそっ、こんなのどうやって勝てばいいってんだよ…!)
バルフォアは、この勝負が敗色濃厚であることを、いやというほど理解していた。
しかし、同時に、負けられないということをも、理解している。
もし自分たちがやられ、ここを突破されれば、共和国は滅亡してしまうだろう。それだけは、絶対に避けなければならない。
(それに、俺たちは、今のラモンド最強の空賊、震電だぞ?こんな過去の最強…言い換えればヨボヨボのジジイみたいな空賊団相手に、負けるわけにはいかねえな!)
バルフォアは、使命感、責任感、そして誇りを支えにして、この絶望的状況に立ち向かっていた。
相手の剣筋を観察し、回避と防御に徹しながら、わずかな隙を狙って攻撃しようと、その機会をうかがう。
一方その頃、バルフォアの兄弟はどうしていたかというと…
「はぁっ…はぁっ…!」
共和国防衛艦隊・流星隊旗艦「クロスラムダ」甲板の上で、荒い息をついているのは、燃える炎のような、赤い髪をした女性。空賊団「カドモス」のサブリーダー、アメリアである。
彼女は、部下たちとともにクロスラムダに乗り込んだはず、だったのだが…
「ハハハ!」
その部下たちは、ほとんど全員が、斬られるか焼かれるかして、
「アハハハハハハ!」
屍体と化していた。たった一人のために。
「アハハハハハハハハ!」
もちろん、その犯人は誰だかいうまでもない。アメリアの前にいる、狂ったような高笑いをしている赤い髪(ただし、この赤色はアメリアのそれと違って、地毛ではない。全て返り血である)の女性。フィーリアである。
フィーリアは、敵艦から引き上げてきた時は、まだ少し冷静になっていたのだが、アメリアとその部下たちが挑んできてからというもの、大量の戦いと死…いやこの場合は下手人がフィーリア自身だから、殺しと表現するほうが正しい…を前にして、完全に戦闘狂兼殺人鬼となっていた。要するに、「また殺意の波動に襲われた(ダット談)」のである。
「アハハハハハハハハハ!」
そして、フィーリアの狂笑は止まる気配を見せない。それがまた、不気味さを引き立たせる。
「くっ…強い…!でも、ボスの命令だから…!」
アメリアは、腰にさした剣を引き抜いた。
「アハハハハハ!」
フィーリアも、太刀を構える。笑いながらではあったが。
「「やぁっ!」」
掛け声とともに、2振りの剣は激しく火花を散らした。
「落ちろっ!」
共和国防衛艦隊・天山隊旗艦「クロスオメガ」艦上、ダストエルスキー(ダット)が雄叫びを上げた。
弾幕がもう1度、その激しさを増す。絡めとられたカドモスの小型飛行艇が1隻、粉々に砕け散った。
その直後、ドドォン!と凄まじい音が響く。クロスオメガ以下の天山隊各艦が、一斉に砲撃を放ったのだ。天山隊の左側に回りこもうとしていた、カドモス艦隊がその砲火を浴びる。瞬く間に、5隻が炎を吹き上げた。そして、赤い炎をまとって空の底へ落ちていく。
「なかなか数が減らねぇな…」
呟くダストエルスキー。しかし、その表情は、決して絶望しているようではない。むしろ、強敵と相対して、興奮しているように見える。
「だが…この弾幕、左側はともかく、右側は簡単には突破できまい?さぁ、お前らの力、見せてみろ!」
凶暴さを顔ににじませ、ダストエルスキーは闇の先を睨み付けた。
「激しい抵抗ですね…」
カドモス側、左翼艦隊(天山隊からみて右側、つまりダストエルスキーが弾幕を放っている側)の指揮官・オクサナが、自身の飛行艇の艦橋でひとりごちた。
敵の抵抗が非常に激しく、オクサナの隊は、既に損耗率が30パーセントを超えている。軍隊なら、「部隊壊滅」と判定されるレベルの損害だ。しかし、オクサナは、自身の率いる部下たちと、右翼艦隊を率いる無口な指揮官・チャルを信頼していた。私たちなら、この敵でも乗り越えられる、と。
なお、オクサナは人間に似た見た目をしているが、実は種族はヒト族ではない。いわゆる「エルフ」と呼ばれるもの…妖精なのである。
確かに、いい感じに日焼けしたような茶褐色の肌と、薄茶色の髪に、晴れた空のような青い瞳、そして豊満な見た目を総合すれば、ヒト族の美女に見えなくもない。しかし、背中に生えた、瞳と同じ青色の翼と、ヒトらしからぬとんがった耳が、彼女の種族を雄弁に物語っている。
「でも、なんとかなりそう…チャル、そっちは任せましたよ」
そう言いながら、チャルの艦隊がいるほうに視線を向けた瞬間、ーーー視線が凍り付いた。
幾つもの飛行艇が、燃えながら墜ちていく。それはいい。
問題は…その墜ちていく飛行艇の全てが、チャルの艦隊のものだったことだ。
「な、なんで…!」
「左側は任せろ!」
『ありがたい、頼んだ!…あとで、報酬を1人あたり1千ゴールドから3千ゴールドに増やすよう、アニキに言っとくよ』
天山隊司令・ダストエルスキーに通信でそう言われ、男は燃え立った。
「よっしゃあテメェら!1人3千ゴールドのチャンスだ、有り弾残らず奴らに叩き込め!そのくらいの気合いで撃てぇ!」
男…空賊団「銀狼」リーダー、ガルドールは気炎を上げた。
「銀狼」艦隊の攻勢が始まったのを確認し、ダストエルスキーは、小さく息をついた。
「やれやれ、窮地を脱するチャンスができたってとこか。あとは…
暗殺者…アニキことバルフォアが天山隊に配備してくれた、小型飛行艇を中心とする特殊部隊を、ダストエルスキーは投入しようとしていた。
「カドモスの諸君、とくと見るがいい。これが、数十年という時間の差だ!」
「むう…面倒…」
カドモスの右翼艦隊、その旗艦では、指揮官のチャルが独り言のように言った。
松橋色の髪に、晴れた日の海を思わせる青い瞳をもつ彼女は、かなり無口。そして同時に、体つきも、身長こそヒト族の成人女性らしいものの、それ以外はそうとは見えづらかった。
まぁ要するに、某ちょび髭の男言うところの、オッパイプルーンプルンの反対なのである。
「第一、第二分隊は、新たな敵の制圧を…。それ以外は、目標そのままで攻撃続行…。早く終わらせて…」
「は!」
しかし、オクサナともども、カドモスの艦隊運用をバルバーナから任されているだけあって、艦隊運用術は確かなものだ。
「…ん?」
その時、チャルの目は、闇に紛れてこちらに接近しようとする、敵の小型飛行艇を捉えた。数は10前後。かなりの速度で近づいてくる。
だが、相手は小型艇だ。どれだけ主砲弾を撃とうが、大型飛行艇の防御装甲を破るのは、たいへん難しい。
「近づく敵のちっこいのは…無視していい…」
「了解しました!」
チャルは、副官に指示を飛ばした。
…これが、破滅を招くとも知らずに。
「敵艦隊、依然、本隊を砲撃中!」
「俺たちは、どうってことないって見られてる、ってことだな…」
小型飛行艇「イスパリオ」を駈り、特殊部隊の先陣に立つ隊長が、呟いた。
「ジンツウ」の名を持つ彼は、同型艦を13隻率い、カドモスのチャルの部隊に向けて高速接近しているところである。
小型飛行艇に搭載できるのは、どう頑張っても4インチ級の砲が限界。対して、相手の艦はおそらく大口径の主砲と、それに対応できるだけの厚い装甲を持っている。これでは、こちらの砲撃は、豆鉄砲程度にしかならないだろう。
…だが、彼はそもそも、この敵には砲撃をしようとは、全く考えていない。代わりに、あることをしようとしていた。
「ならば、絶好の好機だ!俺たちの力、思い知らせてやる!発射管、右舷に回せ!空雷、発射用意!」
「了解!」
「空雷長、しっかり狙って、確実に当ててくれ」
「了解です!」
ジンツウは、部下たちにてきぱきと指示を出していく。
イスパリオの前甲板では、据え付けられた四連装の何かの発射管が、右側に回転し始めた。
「敵艦隊、距離300!」
「本艦速度25、的速15、反航戦、相対速度40!雷速45、信管調停よし。照準よし!」
「発射管、旋回よろし。発射準備よし!」
「てぇっ!」
「空雷、発射始め!」
右に回された発射管から、空雷が4本、発射された。
そう、ジンツウの狙いは、雷撃だったのだ。
空雷、それは一言で言ってしまうと、空飛ぶ魚雷である。それ対艦ミサイルだろ、とか言っちゃダメ。少なくとも見た目は、魚雷そのものなんだから。
こんなものができた原因は、だいたいバルフォアのせいである。
バルフォアが歴史好きだというのは、以前お話したが、その歴史好きぶりは、もはやオタクに片足どころか両足突っ込んでるレベルである。そして、それ以上に日本海軍オタクである。もし彼に、日本軍の航空機あるいは軍艦の画像を複数枚見せたら、その種類をことごとく言い当てられるだろうレベル。
そのバルフォアの日本海軍好きが高じた結果が、この兵器である。バルフォアの持つ酸素魚雷の知識を元に、フリゲート護送社の兵器開発部門にて、実用化された。
兵器自体は小さいし、命中率も決して高くない。しかし、こいつは1本当てれば小型飛行艇なら一撃、大型飛行艇でも致命傷を負いかねないほどの威力を持つ。加えてなんと、飛行艇に用いられている飛行用魔法石のエネルギー放出を検知して、それを追尾するだけのセンサーまで搭載している。
それが今、イスパリオの前甲板に設けられた四連装空雷発射管から、一斉に発射された。飛行機雲を思わせる白い航跡を引きつつ、まっすぐ敵の飛行艇に向かって突っ込んでいく。
次の瞬間、それはカドモスの大型飛行艇の1隻に命中した。
この世界の飛行艇の側面には、しばしばシュルツェンと呼ばれる盾状の構造物が装着されている。ちなみに、我らが地球の世界では、シュルツェンは、戦車の側面に付けられる薄い鉄板のことである。一番わかりやすいのは、ガル◯ンの主人公たちの搭乗機、IV号戦車のH型だろう。
飛行艇のそのシュルツェンに、空雷の1本が命中した。
シュルツェンが硬かったのと、空雷の信管設定が少し狂っていたため、その空雷はシュルツェンにあたると同時に、大爆発した。闇の中に、赤とオレンジからなる炎の花が咲き、一瞬だけ夜の闇を消し去る。どこかの誰かさんなら、「汚い花火だ」と評するだろう。
爆発が収まったあとには、シュルツェンは跡形もなく消え失せていた。空雷の威力が、大口径砲の弾に匹敵するということを、はっきり物語っている。
次の瞬間、シュルツェンがなくなってむき出しにされた飛行艇の側面に、2本目の空雷が直撃。再び、炎が鮮やかに花開いた。
飛行艇の側面には、炎燃え盛る大穴が開き、装甲板は空雷の爆圧によって外側にめくれ上がっていた。めくれた装甲板は余計な空気抵抗を生み、そのために飛行艇の速度が出しにくくなる。
その上、飛行艇は、速力の発揮や飛行艇の安定を保つために、動力部にある飛行用の魔法石から魔力を供給されているのだが、装甲に穴が開いたことで、その魔力が炎となって流出していってしまう。そのため飛行艇はさらに速度を落とし、その巨体を右に傾け始めた。
さらに、3本、4本目も命中。カドモスの大型飛行艇の右側面には、2つもの大破口が開いてしまった。
そして…これだけで済むと思ったら大間違いである。同じ装備を積んだ飛行艇は、あと12隻いるのだから!
その直後、大型飛行艇は、さらに5本もの空雷をちょうだいし、大爆発を起こして轟沈した。
被害はこれだけにとどまらない。小型飛行艇が3隻、各々1本ずつ空雷を受け、文字通り一撃で蒸発させられた。
さらに、中型飛行艇も1隻、エンジンノズルを1本の空雷で吹っ飛ばされ、高度を維持できなくなって墜落していく。搭乗員の悲鳴は、轟々と燃える炎の音と、飛行艇の分解音にかき消され、誰の耳にも届かなかった。
そして…ついに、チャルの乗る飛行艇にも、この空雷が牙を剥いた。
チャルが乗っているのは、黒く塗装された、すらりとした細長い飛行艇。今のラモンドの世界では、「エクリプス」の名で標準化されている飛行艇、そのプロトタイプ型である。その飛行艇に、3本の空雷が襲いかかった。
このうち、命中したのは2本。1本は、艦尾部分…今のラモンド世界でいう「エクリプスアウトリガ」に命中し、アウトリガの右半分を吹き飛ばした。これにより、チャルの乗艦は安定性を失い、飛行艇は右に傾き始める。
そしてもう1本は、右舷艦首に大穴を穿った。敵艦に突き刺す衝角を思わせる形の艦首は、中ほどからちぎれて喪失してしまう。
しかし…それ以上に、この空雷は、飛行艇に深刻なダメージを与えていた。
天クラーの皆さんなら、エクリプスがどんな形状の艦か、思い浮かべることができるだろう。
では、ここで問題。エクリプスの艦首付近には、何があった?
…答えは、そう、艦橋である。
エクリプスは、ちゃんとしたブリッジを持っているのだが、それとは別に航海艦橋を有している。その航海艦橋が、艦首付近にあるのだ。
ここまで言えば、何が起きたか、想像がつくだろう。
チャルの乗艦の艦首に命中した空雷は、艦首を破壊すると同時に、航海艦橋に大量の炎と破片、それと爆風を浴びせたのだ。
この一撃で、航海艦橋に詰めていた乗員たちは、凄まじい炎に焼かれるか、爆風で壁に叩きつけられるか、あるいは破片で全身を切り裂かれるかして、ほとんど一瞬で全滅した。生き残れたのは、運よく隅のほうにいた1人だけ。さらに、電話回線も、この一撃で破損、使用不能となった。
「うっ…!」
命令を出そうとしていたチャルは、突如として飛行艇を襲った衝撃により、座席から放り出され、床に叩きつけられた。しかも、起き上がろうとした瞬間に、第2の衝撃が来たため、もう一度、床に倒される羽目になった。
体をさすりながら、ようやく起き上がったチャルに、艦内乗員の報告が、半ば悲鳴と化して届けられる。
「応急班より報告!アウトリガ大破、機能停止!艦の安定が失われています!艦体、右舷に傾斜、現在針点10!」
「艦首大破!本艦の速度、低下しています!」
「こ、航海艦橋、通信途絶しました!航海艦橋方面に大火災発生、全滅のもよう!」
「……!!!」
チャルは、一瞬で状況を悟った。
「総員…離艦…!急いで…!」
「はっ!総員離艦!速やかに、艦を離れろ!」
アウトリガが大破したということは、もう艦の安定は望むべくもない。そして、航海艦橋の全滅…これは、言ってしまえば、艦が航行不能となった、ということである。
つまり…この艦の命運は尽きた。
敵を小型飛行艇だと侮ったのが、運の尽きだったのである。
まんまと敵の計略にはまり、艦を失うことになったチャルは、悔しさに歯を噛みしめながら、部下たちとともに艦を離脱した。
チャルの乗艦だった飛行艇は、やがて空の底に、誰にも看取られずに沈んでいった。
「ち、チャル艦隊、損耗率60パーセント!壊滅です!」
再び、カドモス左翼艦隊旗艦。指揮官のオクサナは、友軍壊滅の報に接していた。
「な…!?」
だが、この報告に驚いている暇はなかった。
オクサナにも、敵の魔の手が迫っていたのである。
次の瞬間、オクサナの目の前で、カドモス側の小型飛行艇が1隻、爆散した。
それと同時に、冒険者がよく使う小型の快速飛行艇が1隻、オクサナの飛行艇に接舷。そして、中から人影が1つ、飛び出してきたのだ。その人影は、オクサナとその部下たちの前に、悠然と降り立つ。
「誰だ!」
オクサナの部下たちが、誰何しながら剣を抜く。オクサナも、剣を引き抜いた。
「全く…とんでもないことしてくれたね?」
人影が声を発する。女性の声らしいが…かなり冷えたものだった。
「とある島の名物料理、食べに行こうと思ったら、カドモスとかいう連中のせいで島が壊滅してて、料理どころじゃなかった…私の邪魔をしたらどうなるか、教えてあげないとねー」
飛行艇の艦橋の明かりに照らし出された人影は…黒い衣装に身を包み、明るい緑の髪をした、色白の女性だった。その左手に、緑に輝く魔法石を持ち、右手には剣を下げている。
オクサナたちは知る由もなかったが…この時点でオクサナたちの運命は決していたと言っても、過言ではない。
何故なら、オクサナたちの前にいたこの女性は、桁違いの実力を有していたから。
現在の帝国皇帝・エドワードが相手でも、1対1ならおそらく敗れることはないだろうほどの実力者。
浮き島1つを支配していた大空賊団を、たった1人で壊滅させた、恐るべき存在。
肉を食べてみたいばかりに、大型の翼竜にケンカを売り、しかし後日、その竜が恐れをなして、自身の肉を命ごと、取られる前に差し出すほどの、比類なき者。
その女性の名は、シュタール。
その名は、孤高にして最強の代名詞。
彼女は、かすかな微笑みを浮かべていた。それは、どうみても強者の余裕。
現在のラモンド世界における、最強の空賊が、オクサナたちの前に立ち塞がった。
なお余談であるが、シュタールが大空賊団を壊滅させた理由は、「その空賊団が占領している浮き島の料理が、名物だと聞いて、食べに行ったのに、邪魔されたから」である。
…正直、動機不純もはなはだしい。
というか、気の毒なのは、シュタールの食事の邪魔をしたばっかりに、自らの命を代償として支払う羽目になった空賊の皆さんである。
そして今、シュタールは以前とまったく同じ理由で、カドモスにケンカを売りに来たのだ。
いくら数十年前の最強だとはいえ、それは「空賊団」としての話。個人の実力レベルで、このシュタールに匹敵する者が、果たして何人いるやら。
今のラモンドの世界でも、1対1の勝負でシュタールに対抗できる者は、そうそういない。
バルフォアには到底無理な話だし、ダストエルスキーはご自慢の弾幕を、シュタールに突破された経験がある。シュタールに対抗できる可能性があるとすれば、それはフィーリアだけだろう。
その他、エドワードなら戦えるかもしれないが、かつてのエドワードの部下にして、帝国八大軍団「遥かなる空賊団」の首領・ジフィラや、同軍団「グランディリア」の首領・マルテだと、少し怪しい。今回の連合に参加している者たち…ガルドールやエスメラは無論、シーシェであっても、対抗は不可能だろう。
そんな大実力者が、敵に回ったのである。憐れなりオクサナ…
「あはははははははは!」
空に、人間の笑い声が響く。それが、漫才か何かでも見て笑っているのなら、平和なものなのだが…
「あははははっ!」
…残念ながら(?)、この笑いは、血で血を洗う激戦の中で、剣がふつかりあう音や人間の悲鳴に混じって、響いていた。
「アハハハハハ!」
笑いながら、フィーリアが太刀を振るう。アメリアは、ギリギリのところでそれを防いだ。
が、防がれたとみるや、フィーリアはさらに1歩ふみこんで、斬りつけてきた。アメリアはまたしても、剣を突き出して防ぎとめる。そして、後ろへ飛んで後退し、危ういところでフィーリアに斬り下げられずにすんだ。
アメリアは、どちらかというと近接戦闘ではなく、遠距離戦を好む。自分の武器のリーチで戦いたい…のだが、フィーリア相手では難しかった。距離をとろうとしても、フィーリアに距離を詰められるだけなのだ。最悪の場合、フィーリアの左手の魔法石から熱線を撃たれ、「上手に焼けましたー」となるばかりである。
というわけで、アメリアは不利を承知で、接近戦を挑まざるをえなくなっていた。
そして、フィーリアの笑い声も癪の種である。
「アハハハハハハハハッ!」
この笑い声を聞いていると、どうにも気分が滅入ってくるのだ。
(くっ、手強い…!けど、ボスの命令だから…!)
半分、絶望に潰されそうになりながらも、アメリアはめげることなく、フィーリアに挑んでいった。
そして、絶望といえば、ここに絶望に抗っている男が1人。
「くそっ!」
バルフォアは、絶望を隠すことなく、舌打ちをした。いよいよ甲板は一面凍ってしまっており、うかつには動けなくなってしまったのだ。
しかも、その状態でアルベルトは、苛烈な攻撃をしかけてくる。もはや、バルフォアの勝ち目がほとんどなくなりつつあった。
(こうなりゃ…しゃーないかな)
ここで考え事をして、注意が逸れたのがまずかった。
「はぁっ!」
アルベルトが、鋭い突きを繰り出す。
バルフォアは、慌てて上体をひねり、それをかわした…拍子に、横風に吹かれ、バランスを失ってしまった。
「わわわわわ!」
叫びながら、バルフォアの身体は仰向けに倒れ、凍った甲板を滑っていく。そして、艦内通路のドアに、ガツンとぶつかって停止した。
「ぐは!」
ドアにおもいっきり叩きつけられたため、一瞬バルフォアの意識と呼吸が飛ぶ。そして、それを現実に引き戻した時には…アルベルトの凶刃が、真上に迫っていた。
「取った…!」
アルベルトの静かな、しかし確信を伴った勝利の声。
何か、鋭い金属物が柔らかいものに突き刺さるような音。
…そして、甲板上に朱色の液体がぶちまけられた。
一方その頃。
決戦が起きている空間からかなり離れた、ラモンドの空の、とある一角。
何隻もの飛行艇が大艦隊を組み、共和国本国・リリバット島に向けて、高速で飛んでいた。
「急いで!もうちょい速度上げて!」
「ボス、これが限界ですって!」
船内で声を張り上げているのは、帝国八大軍団の筆頭「遥かなる空賊団」の首領・ジフィラ。青い宝石のついた白い帽子を被り、その下の青い髪が風になびく。青を基調とする派手な衣装…というよりマントを身にまとっているが…身体前面の格好は、シーシェとどっこいどっこいのエロさである。そして、腰に黒い柄の大剣をつりさげていた。
そのジフィラの無茶な命令に、飛行艇の操縦手が悲鳴をあげる。
「そんなに焦ったらダメ。船も人員ももたないわ」
その時、通信機の向こうからジフィラに話しかけてきた者かあった。
その者も女性。剣…というにはあまりに短い、妙な形の武器を手にしている。こちらも、青を基調とする派手な衣装で、帽子は青い宝石を埋め込んだ金色。そしてやっぱり、身体前面の格好は大変なことになっている。彼女は、帝国八大軍団「グランディリア」の首領、マルテ。
この世界の有力な女性空賊は、エロい格好をしなければならないという法律でもあるのだろうか?何にせよ、男にとっては眼福でしかないが。
「うるさい!ボスの命令なんだし、早く行かないと!」
ジフィラは、半分冷静さを失っている。彼女はアツくなりやすい性分なのだ。
「騒いだからって、状況はよくならないわ。それに…この空域は気を付けたほうがいい。ジフィラ、あなたも聞いてるでしょう?『不安空域』の噂」
「聞いてるわよ。でも、図鑑にも載ってない怪物が出るとか、雲をつかむような話ばかりで、見かけたことなんか1度も…ッ!?」
ジフィラのおしゃべりは、突然目の前で炸裂した雷…それも緑色の稲妻である…と、空中で弾けた赤い火の玉により、中断させられた。
イメージBGM:「咆哮」か、「電の反逆者」 好きなほうをお選びください
「な、何!?」
驚くジフィラ。それに対し、マルテは1つため息をつくと、言った。
「よりによって、こんな時に…。出たわね、ファイアドラゴンに、ライトニングドラゴン…!」
マルテの視線の先には、仲間の飛行艇の甲板に降り立ち、こちらを睨み付ける2匹の竜の姿があった。
片方は、全身を赤い鱗と甲殻で包み、その背中には、巨体を飛ばすに足りる巨大な翼を有する。そして、口元からは炎がほとばしっていた。
片方は、黒っぽい刺々しい姿。その全身に、緑色に怪しく光る電撃を走らせている。
ゴォァァァァァァァァァァォォ!
グァァァァァァァァァァァァー!
同じようなサイズの、2匹のその竜は、そろって咆哮を上げる。
どうやら、ジフィラとマルテが共和国にたどり着くには、一試練ありそうだった。
余談だが、この2匹の竜は、本来はこの世界にいないはずの竜である。
読者の皆様は、バルフォアとフィーリアの剣を見て、不思議に思わなかっただろうか?「なぜ、この武器が、この世界にあるんだ?」と。その理由も、ここにある。
では、答え合わせをしよう。この2匹の竜は、こことは違う別の世界で、こう呼ばれている。
「
ふぅ、なんとか書き上げました。
振り返ってみたら、なかなか難産でした…発想力が、足りない!精進せねば…
物語の構成的には、そろそろ折り返し地点です。あと約半分…完結目指して頑張ります!
それでは、また次回も、よろしくお願いいたします!
ちなみにいつ更新になるか未定です…すみません。リアルが忙しくて…
p.s. 極秘設定ですが、拙作で登場している共和国防衛派のキャラたちの総合実力を、上から順に表現すると、こうなります。
シュタール≧エドワード>>ジフィラ=マルテ>>フィーリア=ダストエルスキー>シーシェ>(越えられない壁)>バルフォア≧ガルドール=エスメラ
実は、バルフォアは空賊としての実力は高くないんです。彼自身、荒事が苦手なので…