夢幻震わす、一閃の電   作:Red October

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皆様、お久しぶりでございます。リアル事情が忙しくて、更新が遅くなりまして、申し訳ありません。

いつの間にやらUAが500を超えてた…皆様、お読みいただきまして、誠にありがとうございます。



!警告!

今回も、なるべくリアルな描写を追求した結果、6話に負けず劣らず、グロい・エグい表現てんこ盛りとなっております。
悪口雑言、血戦、絶命シーン…絵画や映像があるわけではありませんが、苦手な方は今すぐブラウザバックを。
読むつもりなら、ここで覚悟をお決めくださいませ。
下スクロールを以て、覚悟をお決めになったものとみなします。















































お覚悟は、よろしいようですね。
それでは、

ゆ っ く り 読 ん で い っ て ね !


第8話 嵐は、各地で吹き荒れて

「………」

 

 戦いが続くうち、いつの間にか夜もとっぷりと更けた。

 天にかかる月は、既にその高度を、少しずつ下げ始めている。その月の光の下、クロスデルタの巨大な白い艦体が、鈍く輝いていた。

 クロスデルタ前部の最上甲板は、霜でも降りたかのように一面に氷が張っており、それが月明かりを反射して、まるでダイヤモンドのかけらを広範囲にぎっしり散りばめたかのようになっている。それだけ見れば、なかなか幻想的ではある。

 と、その時、一陣の風が吹いた。それに乗って流れてきたのは、鉄の臭い…にしては、やけに水っぽく生ぐさい臭い。そう、血の臭い。

 

「………」

 

 その風がきた方角を見れば、そこには2人の男がいた。

 片方が甲板の、船内通路に通じるドアの前に、仰向けに倒れており、もう片方がそれに覆いかぶさるような格好になっている。

 もちろん、この2人が誰だか言うまでもない。ドアの前に仰向けになっているのがバルフォア、それに覆いかぶさるようになっているのがアルベルトである。

 

「……うぅ」

 

 その2人のほうから漏れ聞こえてくるうめき声。どっちがうめいたのかは、分からない。

 

 

 

「「うぎぎぎぎ…!」」

 

 バルフォアとアルベルト、両者は組み合ってにらみあったまま、しばし動かない。その両者の腕は、奇妙な組み合い方をしていた。

 

 アルベルトの両手は、長剣の柄を握っていた。その長剣は、バルフォアの胸に向かって突き出されている。

 一方、バルフォアの右手には、通常よりやや短い剣…七星連刃(揺光)が握られ、それが胸の前に掲げられて、アルベルトの長剣を食い止めるような格好になっていた。そして、バルフォアの左手は…妙なことに、アルベルトの胸に向かって伸びている。

 

「…ぅぅぅぅうぁあっ!」

 

 不意に、バルフォアが絞り出すような声をあげると、力を振り絞って両足を曲げ、アルベルトの下腹を蹴り飛ばした。それによって、組み合っていた2人がいったん離れる。

 

 

 

 …離れた時、アルベルトの胸には。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …奇妙な、角のようなものが生えていた。それも、先ほど戦っていた時にはなかったもの。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「がはっ!」

 

 

 

 次の瞬間、アルベルトが口から何かの液体を吐いた。

 月光に照らされたその液体は、黒く見える。だが…本来なら、赤く見えるはずだ。

 

「きっ…貴様ぁ…!」

 

 憎悪を顔に滲ませ、バルフォアを睨み付けるアルベルト。

 それに対し、アルベルトの長剣で右腕を傷つけられたバルフォアは、剣を甲板に突き刺し、それを杖の代わりにして立ち上がった。

 着ている服の袖に隠れて見えにくいが、よく見ると、バルフォアの受けた切り傷は赤くなり、水ぶくれができている。氷をまとったアルベルトの剣で斬られたせいで、傷口が凍傷になっているのだ。

 剣を甲板から引き抜きながら、バルフォアはアルベルトに言い返した。組み合いのせいで、若干息が切れている。

 

「おかしいと…はぁっ…思わなかった…のか…?なんでわざわざ…はぁはぁ…通常より…短い剣を使っているのか、と…」

 

 言いながら、ようやくのことで立ち上がったバルフォアは、アルベルトを真っ正面に見据えて、言い放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴様…一体いつから……はぁはぁ…俺の剣が1本だけだと…錯覚していた…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 読者の皆様に、ここでお伝えすることがある。

 

 

 

 モンスター◯ンター3Gをやり込んでいた皆様なら、既にご存知のことと思うが、七星連刃(揺光)は、双剣である。

 

 ()()()()()

 

 

 

 

 

 これが分かったところで、思い返してみてほしい。

 

 バルフォアはここまで、剣を2本使っていただろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 答えは、「否」である。

 

 

 

 

 

 そう、バルフォアは敢えて2本目の剣を使わずに、これまで隠し持っていたのだ。

 

 その理由の1つは、バルフォア自身が、ここまで使う必要はないのではないかと考えていたから。まあ、言い換えるとカドモスを舐めていたから。

 

 もう1つは、保険のため。バルフォアは、「獅子は兎を撃つに全力を用う」のではなく、「能ある鷹は爪を隠す」方針を採ったのだ。

 先ほどちらりと述べたが、バルフォアの剣は、普通のものより短い剣である。まあ、片手のみでの運用しか考えていないから当然だが。

 そして、このラモンドの世界では、いわゆる「剣豪」にあたる人たちにせよ、そうでない無名の剣士にせよ、職業を問わず剣を使う者たちは、長い剣を使っていることがほとんどである。それはそうだろう、基本的にリーチが短い武器より長い武器で戦うほうが有利だ。バルフォアは、この暗黙の了解に目を付けたのである。

 短いリーチの武器にだって、戦いようはあるし、何より短い武器だと相手がこちらを侮りやすい。それが油断となり、こちらの優位になる。バルフォアはそう考えたのだ。

 

この2つの理由から、バルフォアは敢えて、双剣の片側だけ抜いて戦い、もう片側を隠していたのである。

 

 そして、それはどうやら図に当たったようだ。

 

 

 

 月光の下で見ても、みるみる顔色が悪くなっていくアルベルト。呼吸も浅く、早くなりつつあった。

 バルフォアの短剣が彼の左胸に刺さっているのは、先刻お話した通りであるが、さらによく見ると、短剣の刺さった箇所からは、通常の動脈損傷では考えられないほどの、大量の血が噴き出していた。位置から考えるに、どうやらバルフォアの短剣は、肋骨の隙間を見事にくぐり抜け、心臓を直撃したらしい。

 この時点で既にかなりヤバいのだが…

 

 読者の皆様、もう1つ、忘れてはいないだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バルフォアの剣「七星連刃(揺光)」は、その刀身に毒をまとっているのてある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 心臓への直撃による大量出血に加えて、毒。

 そして、先ほどまで続いていた、死力を尽くしての斬り合い…つまりは激しい運動…によって、心拍数は大きくはね上がっており、加えて血圧も上昇し、心臓は1滴でも多くの血を、体の各細胞の元に送り出そうとしている。そんなところへ毒が入れば、どうなるか。

 

 …傷付けられた心臓からは、大量の血が失われていくわけであり、さらに身体各部にまわる血液にも、毒が入っているわけで。

 

 …つまり、アルベルトはどうあがいても致命傷を負った、というわけである。

 

「クソっ…貴様…卑怯な真似を…!」

 

 体の自由が利かず、息も絶え絶えの今のアルベルトにできることは、呪詛のような悪口を、バルフォアに投げつけることだけだった。

 それに対して、バルフォアは涼しい顔して、言葉を返す。

 

「卑怯?そんなもんは負け犬の戯れ言だ。知ってるだろ?『恋と戦は道を選ばず』って言葉。どんな真似をしようが、勝てば官軍なんだよ」

 

 まぁ要するに、「勝てばいいんだ。何を使おうが!」なのである。

 …どっかで聞いたような気がするって?気のせいでしょう。

 

 アルベルトはついに、立位を維持することすらできなくなり、ガクリと膝を折ると、クロスデルタの甲板に、仰向けにひっくり返った。その状況下でも、彼は必死に心臓に刺さった剣に手を伸ばし、剣を抜こうとしている。

 そんなアルベルトに、バルフォアはゆっくり近づいていくと、彼の顔を上からのぞきこむようにして、尋ねた。

 

「どうせだから、今聞いておく。お前ら、誰の手で甦った?」

「………」

「自力で甦ったとはとても思えんからな。誰かが手ぇ引いたとみて間違えねぇ。誰だ?お前らの復活の手引きなんぞした物好きは」

 

 バルフォアのまとう雰囲気は、いつもの温厚な雰囲気とは違う。例えるならそれは、南極におけるブリザードのような、冷たく厳しいもの。そして、有無を言わせない、と言わんばかりの重圧を伴ったもの。バルフォアはまだ若いのだが、これまで幾度かの修羅場をくぐったりしてきた結果、このような雰囲気をかもし出すことも覚えてきたのである。その声と一緒に、バルフォアは七星連刃(揺光)を、アルベルトの面前に突き付けた。

 だが、アルベルトは口を割らない。そうこうする間にも、アルベルトの体内の血液はどんどん失われていっており、それに比例してアルベルトの命の灯もどんどん小さくなっていく。

 

 5秒ほど待ったが、沈黙が続くばかりで、回答は得られない。

 と、バルフォアはアルベルトの正面に突き出していた剣を、急に引っ込めた。そして、ふいに口調を優しげなものに変える。

 

「なあ、どのみち助からんのは、お前さんも理解してんだろ?だったら…余計なもん背負ったまま逝くより、ふるい落としてったほうが、まだ楽だと思わねえか?どうせ飛行艇乗り、それも空賊なんて、いつ死ぬか分かんねえんだし」

 

 一応言っておくが、これはバルフォアの打算から生まれたセリフでしかない。

 死の直前ということは、言い換えれば意識も、正常な判断力も、半ば失われている、ということ。そして、その中で優しい調子で質問をすれば、何かしら情報を得られるかもしれない…という、バルフォアのあてずっぽうだったのである。

 

「ボス…どうか……この空を…その手に……」

 

 途切れ途切れに、言葉を発するアルベルト。言葉を無理やりひねり出しているようにも感じられる。

 

「…あの…マティアス…とかいう……ジジイに……せっか、く………チャンス…を…もらった………から……」

 

 そして、聞き捨てならぬ内容が飛び出してきた。これが、バルフォアの欲した情報なのである。

 

「オイ貴様。今、マティアスとかぬかしたな?誰だ、そいつは!?」

 

 バルフォアは、素早くアルベルトの顔をのぞきこんだ。

 が、その途端、バルフォアの眉がしかめられる。傍から見ると、何か、嫌なもの、もしくは望ましくないものを見たように見える。

 バルフォアは、右手に持った剣を鞘に納めると、その右手をアルベルトの顔に近づけ、口と鼻を覆うようにかざした。同時に、左手をアルベルトの手関節にあてる。その状態で1分ほどの間、バルフォアは身動きしなかった。アルベルトも、全く身動きしない。

 それが済むと、バルフォアは続いて、自身が着ている服の内ポケットを探って、1本の細い杖を取り出した。月光の下、バルフォアの表情はしかめっ面になっている。

 

「ルーモス」

 

 バルフォアは一言、短く呟くように言った。すると、杖の先端に、細かい明かりが灯る。バルフォアはその光を、アルベルトの右目の前に持っていった。次いで左目でも同じことをする。

 

 聡明なる読者の皆様なら、バルフォアが何をやっているか、お分かりいただけるだろう。まして、バルフォアの出自を忘れていない方なら、すぐわかるはずである。

 

 

 

 バルフォアは、アルベルトの目から杖を放し、「ノックス」と呟いて、明かりを消した。そして、次の瞬間、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちくしょうめぇ!」

 

 

 

 

 

 悪態をついた。

 

「ったく…死人に口なし、ってやつかな。だがまぁ、全く情報が得られなかったわけじゃない…。コイツの残した情報が、役に立つといいが」

 

 死者への尊厳もへったくれもない悪口である。

 

 …なに?バルフォアがさっき呟いてた呪文は、アレだろうって?

 まぁ、お偉いさん方がこんな無名の小説なんざ見てるわけがないから、セーフセーフ。

 

 

 

 バルフォアは立ち上がろうとして、ぶるり、と全身を震わせた。それはそうだろう、さっきからアルベルトに斬られた凍傷が疼く。加えて、ここは地上などではない。現在進行形で空を飛んでいる、飛行艇の上なのである。そりゃ風も吹くし、何より上空を飛んでいるので、寒い。

 そこへ、タン、タン、と足音が響いた。

 バルフォアが振り返った先には、桃色を基調とする独特の衣装を纏った女性…しかもけっこうな美人が、近づいてきている。それだけならいいが、右手に持った大杯を呷っている上に、左手に鮮血したたる剣をぶら下げ、そしてその女性が歩いてきたほうの甲板は、文字通り死屍累々と化している。風流も何も、あったものではない。

 

「月が綺麗ですね」

「それを愛の告白とは、俺はとても受け取らんぞ、リューナス」

 

 バルフォアは疲れと呆れから、現れた女性・リューナスに、ツッコミを入れる気分すら失っていた。

 

「なあリューナス、お前が飲んでるその酒、ビンごと持ってきて…るんだろうな」

「当然でしょう。こんな美味しいお酒、いくらでも飲めちゃいます」

「すまんが、俺にもちょっと寄越せ。あまりにも寒すぎる」

 

 皆様もご存じの通り、少量のアルコールには、体を温める効果がある。かの武田信玄も、戦いの前に、部下たちに少量の飲酒を許したことがあるそうな。バルフォアは、それにあやかろうとしたのだ。

 リューナスは、どこからかビンを引っ張り出すと、それを傾けて、中身を大杯に開けた。ビンをかなり大きく傾けていることから、中身がもうあまりないことが分かる。そして、リューナスはその大杯を、バルフォアのほうに差し出してきた。

 バルフォアは、周囲に警戒の視線を向けながら、大杯をゆっくり口元に持っていった。そして、一口飲む。

 すると、バルフォアの口内に、なんとも言えない濃厚な甘さが広がった。

 

(…!?)

 

 その瞬間、バルフォアの眉がピクリ、と動いた。実はこの味、バルフォアも味わったことがあるものだったのだ。

 

(どこだ!?どこで味わった?)

 

 その疑問の答えをバルフォアにもたらしたのは、酒の香りだった。むせかえるほどの濃厚な血潮の臭いと死臭の中で、弱いながらもその匂いは、バルフォアの嗅覚を刺激したのだ。メロンを思わせるような、甘い芳香。

 

(これは…まさか!)

 

 バルフォアは、一瞬でその正体を悟った。

 

「リューナス!これ八塩折だろ!?」

「そうですよ~。うふ♪いいお酒いただいちゃいました♪」

「うふじゃねぇーーー!てめ、なんぼほど飲んだら気が済むんだ!」

 

 ここが戦場であるのも忘れ、バルフォアはリューナスに叫んでしまった。しかも、驚愕はそれだけで収まらない。

 

「でも、この杯に入れてる分が、最後になっちゃって…」

 

 

 

 

 

 

「………は?」

 

 

 

 この女、今何と言った?

 

「もう少し、味わいたかったです~…」

「ふざけんなぁぁぁ!これ八塩折だぞ、八塩折!!たった1人で9割以上飲んで、なんでそんな平気なんだ!!?てか、人の酒をタダで9割も飲むな!!!!」

 

 状況を理解したバルフォアは、杯をリューナスに返しながら、怒りと呆れの絶叫を放った。

 このリューナスという女、あろうことかバルフォアの買った酒を、実質タダで飲み干してしまったのだ。それも、カシス1本ならともかく、よりによって八塩折(やしおり)の酒なんていう強力かつ高級な酒である。

 

「はぁー…だが、それがお前って女だったな…」

 

 深いため息をついたところで、強力なアルコールによってバルフォアの体も温まってきた。バルフォアは再び、剣を握りしめる。

 

「さて…まだ仕事が終わったわけじゃない。リューナス、行くぞ!」

「少々、酔ってしまいました…」

「カッコつけたのに、それぶち壊すなぁぁぁ!」

 

 結局、リューナスに振り回され通しのバルフォアなのであった。

 

 

 

 

 ところ変わって、天山隊旗艦「クロスオメガ」艦上。

 

「敵左翼艦隊、我が方の攻撃により被害甚大!撤退しつつあります!」

「ふう、なんとか窮地は脱したようだな」

 

 第一艦橋レーダー手から報告を受け、天山隊指揮官・ダストエルスキーは一息ついた。

 空賊団「銀狼」の活躍と、駆逐艦隊の空雷の攻撃により、カドモスの左翼艦隊は隊列を乱し、混乱状態に陥っていた。それを、天山隊の各艦と「銀狼」、それに共和国騎士団の残存部隊が砲撃し、各個撃破していくという状況である。いわば残敵掃討の段階だと言えた。

 

「さて…敵の右翼もやけに静かになったようだが、どうしたんだ?」

 

 言いながら、ダストエルスキーは艦橋の右舷の窓の外を見て、唖然とした。

 

「…何だありゃ?」

 

 そこには、敵右翼艦隊の旗艦とおぼしき飛行艇の上に、魔法と思われる奇妙な黄緑色の光が、瞬いていた。さっきまでは全く見られなかったものだ。

 

「第一艦橋より見張り所、敵の右翼に何が起きたんだ?報告しろ、どうぞ」

 

 ダストエルスキーは、艦内電話を使い、見張り所に報告を求めた。そして、返ってきた答えは…

 

『見張り所より第一艦橋、それが…突然、どこからか新たな飛行艇が現れて、あの敵艦に接舷したんです。その後、あの光景になりました』

「何だと?その新たな飛行艇とは?」

『闇夜ゆえ、はっきりとはわかりかねますが、大きくはありませんでした。恐らく1人乗りくらいの大きさかと思われます』

「1人乗り、ねぇ。ずいぶんと命知らずなヤツがいたもんだ」

 

 ダストエルスキーが見張り所とやりとりをしていた時、ふいに、その黄緑色の光が消えた。

 

「あ?今光消えたぞ」

『はい、こちらでも確認しました』

 

 一体何の光だったのだろう?どこかで見覚えがあるような気がするのだが…

 と、この時、クロスオメガの通信手が声を上げた。

 

「司令!通信が入っています。送信元は……!」

 

 

 

 

 

「ぐはっ!」

 

 天山隊と戦っていたカドモス右翼艦隊の旗艦、その艦上に悲鳴が響いた。

 カドモス団員の1人が、鋭い刀で胸を貫かれ、短い悲鳴とともに倒れ伏す。その身体は、2度と動こうとはしない。

 また1人、仲間が減らされた。その事実に、他の何人かのカドモス団員が、怯む気配を見せる。

 

「あれー?カドモスって、かつての最強なんじゃなかったっけ?それはただの誇張なのかなー?」

 

 そこにかかる、妙に間延びした声。それは、カドモス団員によって取り囲まれた、1人の女性から発せられたものだ。

 その女性は、夜の闇にマッチする黒っぽい衣装を身につけ、同色の帽子を被っている。その下の明るい黄緑色の髪と白い肌が、なんとも対照的だ。

 

 この女性の名は、シュタール。

 

 

 

 この名前を聞いた時点で、「あっ…(察し)」となった天クラーの皆様は多いだろう。

 シュタールは、なんとも軽い口調と、ある意味軽率とも言える行動が特徴なのだが、その実力はそんじょそこらの空賊とは訳が違う。個人レベルではほぼ確実に、今のラモンド世界最強の空賊なのである。

 彼女を怒らせればどうなるかは、想像に難くない。下手すると、大空賊団ですらたった一人で壊滅させることも可能なほどの実力者なのだ。

 

 そして今、シュタールはかなりキレていた。その理由は、「カドモスのせいで、ある浮島の名物料理(わかりやすく言うとB級グルメ)が食べられなくなったから」。

 

 「動機不純にも程があるだろ!」とツッコミを入れたくなる人もいるだろうが、彼女を怒らせるにはこの程度で十分なのだ。彼女は気ままなので、その興味を邪魔されることを何より嫌うのである。

 そして、さっきから述べているように、彼女の実力は半端ではない。

 

 …その実力が今、カドモス相手に、存分に振るわれていた。

 数十人以上のカドモス団員たちは、次から次へとシュタールによって斬り伏せられ、物言わぬ骸へと変えられていく。逆に、シュタールのその美しい白い肌には、返り血こそ付いても、傷は1つも付かない。しかも、彼女は疲弊した様子すら、これっぽっちも見せていない。そこだけ見ても、彼女がどれほどの実力の持ち主なのか、わかるだろう。

 ちなみに、シュタールは最初、オクサナの乗艦の艦橋に乗り込んだはずだったのだが、オクサナをなんとか逃がそうとして他の団員たちがシュタールと戦った(もちろん、効果は上がっていない。言い方は悪いが、シュタールの圧倒的実力ゆえに、無駄に命が吹き散らされただけである)のと、それを追ってシュタールが場所を移動したために、戦いの舞台はいつの間にか、艦橋を出て甲板に移っていた。ある意味◯れん坊将軍の再現である。

 

「何をしてるんですか、相手は1人、それも人間でしょう!さっさと倒しなさい!」

 

 この様子を見て、カドモス右翼艦隊指揮官・オクサナが、声を上げ部下を叱咤する。それを受けて、団員たちが仲間の死骸を乗り越え、じわじわと包囲網を縮める。

 が、シュタールは全く臆する様子もない。それどころか、不敵な笑みをたたえている。強者の余裕、というやつだろう。

 

「「「うおぉぉぉぉぉ!」」」

 

 包囲網を縮めつつあったカドモス団員たちが、ふいに雄叫びを上げ、シュタールに飛びかかった。が、

 

「おっと…それっ!」

 

 高速で突き出されたシュタールの剣を受け、1人が倒される。それによって包囲網に穴が開き、シュタールはその穴を使って包囲を抜け出した。そして、

 

「せいっ!」

 

 魔法一閃。

 シュタールが剣と手先から放った呪文が、太い黄緑色の光線となってカドモス団員たちを襲う。

 

 ところで…読者の皆様におかれましては、魔法で、黄緑色の光線と聞いて、アレを思い浮かべた方もいらっしゃるだろう。そう、ヴォル…げふげふ…例のあの人の得意呪文。

 

 カドモスの団員諸君には残念なことに、シュタールのこの呪文もまた、それと同等の効果だったのだ。

 

 黄緑色の光が消えた時には、シュタールに飛びかかったカドモス団員たちは、全員が文字通りのあの世送りにされてしまっていた。全員、甲板に仰向けに倒れ、ぴくりとも動かない。

 

「なっ…!」

 

 オクサナは驚愕してしまった…が、次の瞬間、人間離れした素早さで、腰に下げた剣を抜く。

 直後、ガキン!と鋭い金属音が響きわたった。オクサナの剣は、間一髪でシュタールの斬撃を受け止めたのだ。

 

「ほー、君やるねぇ」

 

 単語だけ見れば、シュタールが感心しているようにも見える。が、実際には、シュタールは無表情でこの台詞を発している上に、棒読みで喋っている。どうみても感心とは程遠い。

 

 オクサナは、その台詞から、この女…もちろんシュタールのこと…が、自分のことを侮っていると感じた。

 そして、心の中に、怒りの炎を灯す。

 

「やぁっ!」

 

 かけ声とともにオクサナは、シュタールに斬りかかった。オクサナの目の前で、2本の剣が交差し、甲高い金属音とともに火花を散らす。

 その瞬間、オクサナの左足に、凄まじい痛みが走った。

 

「!?」

 

 あっという間に景色が反転し、空に浮かぶ半月と星が視界に入る。

 次に、背中にかなりの激痛。同時に、ズダンと大きな音。

 この時になって、オクサナはようやく、自身に何が起きたのか理解した。シュタールが攻撃の直後に足払いをかけ、オクサナ自身はそれをモロにくらって、甲板に仰向けに倒れたのだ。

 突然、ドスッという硬い音が響いた。同時にオクサナは、自分の胸に何か固い、金属的な棒状の物体が刺さったのを感じた。

 それがわかった瞬間、オクサナの知覚野に激烈な痛みが押し寄せる。同時に、倒れていた身体は、何かの力によって無理やり引き起こされ、そのまま空中まで吊し上げられた。

 

「あぐ…あがっ…!!」

 

 痛みと苦しみのため、声もまともに出ない。そんなオクサナの顔の前には。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 感情のまったくこもっていない目で、オクサナを見つめるシュタールの目があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私の旅の邪魔をしたのが運の尽きだったね。この私、シュタールの名を、冥土の土産に持っていきな!」

 

 その声と同時に、胸部を最後の激痛が駆け抜け、オクサナの意識は闇の向こうに消え去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく…」

 

 シュタールは、興味を失ったような表情で、無造作に刀を引き抜いた。ドサリと音を立て、魂をあの世に突っ返されたオクサナの身体が、甲板に崩れ落ちる。

 それに委細構わず、シュタールは死体を踏み越えて艦橋まで戻ってきた。そして、適当に機械をいじくり始める。

 

「ええと、通信機は…これじゃなくて……あった、これだ」

 

 ほどなく通信機を見つけたシュタールは、前方に黒々と見える巨影…クロスオメガに向けて、通信を送り始めた。

 

 

 

 

 

「通信が入っています。送信元は…敵の右翼の旗艦!」

「あ?今さら降伏勧告か?それなら拒絶しろ」

 

 そっけなく言ったダストエルスキーだが。

 

「いえ…ちょっと待ってください…。…これは!」

 

 通信手は、驚きの声を上げた。

 

「し、司令!ともかく、出てください」

「ったく、何だってんだ?」

 

 言いながら、通信機を取ったダストエルスキーの顔は、数秒後、呆れたものになった。

 

 

 

 

 

 

『あー、もしもし、震電さん?こっちは片付けたよー』

 

 

 

 その呆れの原因が、この通信である。

 

「てめぇか、シュタール!今頃戻ってきやがって、どんな風の吹き回しだ!?」

 

 呆れのあまり、ダストエルスキーは通信機越しにシュタールに怒鳴った。

 もっとも、天真爛漫をそのまま体現したような女が相手である以上、怒鳴ったところで意味などないが。

 しかしこれなら、命知らずに見える行動にも説明がつく。シュタールの場合、命知らずでもなんでもなく、フツーに勝てる戦いなのだから。

 

『旅の邪魔をされたから、原因を叩き潰そうとして戻ってきたの』

「またそれか!ったく、てめぇは恐ろしいことをフツーにやらかす上に、動機不純ときてやがる!ちったぁ修正しろ!」

『いやー、そう言われてもね?楽しく自由に、がモットーだからさ』

 

 ご覧の有り様である。

 

「そのくせ、金にはがめついんだから洒落ならん。…しゃーない、アニキに言っとく。金は大丈夫だと思うから、おもいっきりやっちまえ!」

『はいはーい、そう来なくっちゃねー』

 

 通信は終わった。

 ちなみに、ダストエルスキーの言うアニキとは、バルフォアのことである。

 

「ったく、アイツの相手は疲れるぜ…」

「心中お察しします」

 

 ダストエルスキーの感想に、副官がコメントをはさむ。

 

「まあ、扱いが難しいながら、これ以上なく頼もしい援軍が来たって認識でいいか。通信手!」

「は!」

 

 ダストエルスキーは、通信手を呼び出し、命じた。

 

「全艦に通達!『全速前進、残敵を掃討せよ。1隻も生かして返すな』と!」

「はい!」

 

 魔法を使った通信回線に、自分の命令が乗ったのを確認しながら、ダストエルスキーは次なる命令を下す。

 

「全砲門開け!撃ち方用意!」

 

 

 

 

 

 さて一方、流星隊のほうでは。

 

「どんどんかかってきな…と言いたいけど…これは流石に厳しいね」

 

 震電に合流した空賊団「ヘイムダル」の女首領、エスメラが呟いた。

 15隻を引き連れて、共和国防衛軍に参加したヘイムダルだが、今や飛行艇は10隻に減らされている。激しい砲撃戦と白兵戦の中で、失われていったのだ。

 

「でも…」

 

 エスメラは、自艦の右を飛行している流星隊の総旗艦「クロスラムダ」に目をやった。そちらからは、剣がぶつかりあっているらしい金属音と悲鳴、そして濃厚な血液の鉄くさい臭いが流れてくる。

 

「お隣の連中も頑張ってるし、あたしも頑張らないとね…!」

 

 もともとエスメラは、手応えのある敵と戦うのはキライではない。

 エスメラはひとり、ニヤリと笑うと、さらなる砲撃を仲間に命じるのであった。

 

 

 

 …で、そのクロスラムダの艦上では。

 

「アメリア様、すぐお助けに参ります!」

 

 援軍としてクロスラムダに乗り込んだカドモスの団員たちが、声を張り上げ、フィーリアを相手取っているアメリアのもとへ、必死に向かおうとする。

 が。

 

「さあ、どこからでもどうぞ。どこまでも、切り裂いてあげるわ!」

 

 クロスラムダに乗り込んでいた、たった1人の冒険者のために、1歩も動けずにいた。

 その冒険者は、白い帽子を被り、白を基調とするワンピース状の衣服を着用している。帽子の下の、ロングの銀髪がなんとも美しい。そして、その手には、青く光り輝く双刃剣が握られていた。

 その双刃剣が、流星のような青い奇跡を描くたびに、カドモスの団員たちは切られ、短い絶叫を放って倒れていく。2人がかりで別々の方向から挑もうが、4人で同時に当たろうが、冒険者は全く動じないのだ。「双剣に死角なし」というのがこの冒険者の口癖だそうだが、まさに口癖通りの無双状態である。

 

「かつての最強の実力は、こんなもんなの?あの世から出直してきなさいな!」

 

 冒険者、ラピス…それが彼女の名前である…は、息があがったりした様子も全くなく、フィア(フィーリア)から頼まれた任務「フィアの背中を守る」を、確実に遂行し続けていた。

 

 

 

 そして、当のフィーリアは、

 

「アハハハハハハハハ!」

 

 相変わらず、ぶっ壊れたような狂笑を上げながら、返り血で赤黒く染まった長髪を振り乱し、アメリアを着実に追い詰めていた。

 

「くぅぅっ…!」

 

 アメリアは、苦悶の声をかすかに上げる。

 フィーリアの剣撃は、苛烈という言葉以外では表現しようがないほどのものであり、アメリアは辛うじて致命傷は避けていたものの、かすり傷が確実に蓄積してきていた。戦況は完全にじり貧であり、このままでは押し負ける。助けに来るはずの部下たちも、双刃剣使いに阻まれ、到着できていない。

 

「仕方ない…こうなったら…!」

 

 危険な賭けだが、やるしかない。

 アメリアは、ある策に賭けることを決めた。

 ちょうど、首を狙って襲ってきた、フィーリアの斬撃を受け止める。そしてアメリアは、勢いよく後ろに飛んで、フィーリアとの距離を開けた。

 ここまでの戦いの中で、相手はこちらが距離をとれば、それを詰めようとして必ず前進してくる。なら、今度も…!

 果たしてフィーリアは、アメリアの狙い通り、突進してきた。後退によって作ったわずかな時間を利用し、アメリアは右手のボウガンを構える。

 

「ここ!」

 

 一声叫んで、アメリアは引き金を引いた。

 その途端、ボウガンから20発近い矢が、一斉に射出される。フィーリアは慌てて、それを攻撃し、撃墜しようとした。が、フィーリアの攻撃が当たるや、矢は光と白煙を発して爆発。視界は、白煙で染まってしまった。

 

(今よ!)

 

 矢が爆発したと見るや、アメリアは甲板を蹴って、ジャンプした。自身の身に、僅かながら宿る魔力を駆使し、なるべく高く跳んでいる。

 そして、跳躍の頂点で剣を下向きに構える。煙の中に、かすかに人影が見える。

 

(いっけー!)

 

 アメリアは、上空から猛然と、白煙の中の人影に切りかかった。着地する自身の足元に注意を払いながら、剣を思い切り振り下ろす。

 

(やっ…?)

 

 達成感とともに着地したアメリア。だが次の瞬間、視界がぐるぐる回転し、そして飛行艇の甲板に倒れた。

 

(着地に失敗したかし…ら…!?)

 

 アメリアは、素早く起き上がろうとして、異変に気付いた。

 腕も足も全く動かない。そして何より…異様に首のあたりがスースーする。しかも、首も動かないときている。

 アメリアは、目玉だけ動かして、身体があるはずの部分を見て…絶句した。

 

 

 

 

 

 比喩でもなんでもなく、首から下が、ない。

 

 

 

(やられ…!)

 

 策の失敗を悟ると同時に、アメリアの意識は、闇の底に消えた。

 

 

 

 

 

 

 

「アハハハハ!いいとこだったけど、惜しかったね?」

 

 フィーリアは、息絶えたアメリアの身体を見つめながら、あざ笑いを浴びせた。

 

「考えた作戦は、立派だったよ…。直前に私が気付いたんで、失敗したけどね!」

 

 

 

 

 

 あの時…煙が辺りを包んだ瞬間、フィーリアは目を手で覆い、煙を避けようとして、上からくる殺意に気付いた。上から来るぞ!気を付けろ!…と、フィーリアの本能が警告を発したのだ。

 フィーリアはとっさに、左手に持った魔法石に力をこめ、魔法石から熱を出した。そして、ほんの少しだけ後ろに下がった。寒い中に、急に暖かい空間を作り出すことで、陽炎の生成を狙い、そこにフィーリア自身の影を投影することによって、上から来るであろうアメリアの攻撃に空を切らせ、その直後に反撃して討ち取ろうとしたのだ。 

 だがこれは、成功すればいいが、失敗すればアメリアの攻撃により、フィーリアの頭が叩き割られることになる。

 一か八かの賭けであった。そして、フィーリアは可能性を信じてその作戦に賭け…見事に成功したのだった。

 

「ふぅ…さて、他に殺られたい人はどこかしらー?」

 

 今さっきまで死闘を繰り広げていたというのに、この始末である。加えて、可愛い顔してしれっと恐ろしいことを言うものだから、世の中分からないものである。

 

「アハハハハハハハハ!」

 

 どうやら、この狂笑はいましばらく続きそうだ…

 

 

 

 

 

「まだ押し切れんのか!?」

 

 空賊団「カドモス」のリーダー、バルバーナは、旗艦「デ・マヴァント」の艦橋で歯噛みしていた。

 アメリア、アルベルトを中心とする精鋭部隊を送り込んだにも関わらず、戦況は大きく変化したようには見えない。それほど敵の守りは固いということか。

 だが、バルバーナは、精鋭の部下たちを信じていた。精鋭として送り込んだ連中は、バルバーナへの忠誠心も厚く、実力も高い。その部下たちなら、やれると考えたのだ。

 

(頼んだよ、お前たち…!)

 

 バルバーナは、闇にきらめく戦火を見つめ、吉報を待っていた。

 

 …バルバーナが知る由もなかったが、実際には、先ほどから描写し続けている通り、バルバーナの精鋭の部下たちは、悪戦苦闘を強いられている。

 チャル、オクサナの艦隊は壊滅状態に陥って敗走、そして何より、バルバーナの2本の懐刀、アメリアとアルベルトは、双方ともあの世に叩き返されてしまっているのである。

 

 

 

 

 

「本当にようございましたな、アイリス閣下」

「うむ、フリゲート社にも国民にも、感謝してもしきれぬ」

 

 共和国の首都、その国家元首府。元首執務室の執務机と椅子は、久しぶりに主を迎えていた。フリゲート護送社の医務室にて応急治療を受けた後、国内の病院に回されて、傷を回復していた共和国の国家元首、アイリスが、元首府にようやく戻ってきたのだ。

 冒頭の会話は、アイリスを迎えた共和国の宰相・ラルフォードの発言と、それに対するアイリスの答えなのである。

 

「賊の迎撃状況はどうなっておる?」

「は、現在、賊は既に最終防衛ラインまで侵入。フリゲート護送社を中心とする者たちが、必死で抵抗している状態です。我が共和国騎士団の生き残りも、アイリス様のご命令通り、そこで戦っています」

「うむ、そうか…」

 

 ラルフォードの報告を聞き、アイリスは目を閉じた。

 

「どうか、この国を守ってもらいたいものだな。お礼は、十分な量を用意しておくようにな」

「はっ」

 

 と、この時、アイリスはラルフォードに向き直り、尋ねた。

 

「ところで、ラルフォードよ。妾は、気を失ってしまったので、フォルの最後の台詞を聞きそびれてしまったのじゃ。最後まで戦う、というのは確かに聞いたし、フリゲート社…という単語もなんとなく覚えておるのだが、あやつは最後に何か付け加えておったはずじゃ。何と申しておったのか?」

「アイリス様、それは気のせいでございます」

「そうか?」

「ええ、間違いなく」

「ならば、よいのじゃが」

 

 アイリスの質問を乗りきったラルフォードは、表にこそまったく出さなかったが、内心冷や汗をかいていた。

 

(危ないところだった…。私の口から、アイリス様にあのことをお教えするわけにはいかない…)

 

 実は、アイリスがフリゲート社の医務室に最初にかつぎ込まれたとき、フォル(フリゲート護送社の創始者の1人。ちなみに、これはバルフォアのもう1つの名前である)は、アイリスにこう言っていたのだ。

 

「我ら、共和国防衛のため、最後まで奮戦いたしましょう。フリゲート護送社として、また、空賊団『震電』として」(第3話参照)

 

 どうやら、あの時のアイリスは、なんだかんだ最後のほうまで聞いていたらしい。幸か不幸か、肝心の一番最後の部分を聞きそびれたようだが。

 その場に居合わせ、フォルのこの発言もばっちり最後まで聞いていたラルフォードは、フォルの発言の最後の部分は、何があってもアイリスには黙っておこうと考えていた。

 なにせ、フリゲート護送社の正体は、ラモンド世界全土に名をはせる大空賊団「震電」だったということを、ラルフォードが初めて知ったのが、この時だったのだ。これは、アイリス閣下がご自身でお気づきになるまで、黙っておいたほうが面白いだろう。ラルフォードは、そう考えていた。

 

「頼んだぞ、お主たち…!」

 

 アイリスの祈りに被せるように、遠雷のような砲声が、かすかに聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 かくして、共和国の首都の付近の空では、激戦が繰り広げられていたのだが…実は、もう1つの空でも、激戦が起きていた。

 

「撃てー!」

 

 ジフィラの号令一下、元「遥かなる空賊団」、現・帝国八大軍団の一翼を担う艦隊が、一斉に砲火を放つ。砲声が殷々と響き、鼓膜を激しく揺さぶった。

 

 だが…放たれた大量の砲弾は、いずれも目標に命中しなかったのだ。

 その目標…赤い翼を背中に備えた、赤い甲殻に身を包む炎の竜は、高い動体視力と敏捷な飛行能力とを以て、砲弾の雨をかわしたのだ。

 直後、その口から高温の炎が、火の玉となって3連続で発射される。火の玉は狙い違わず、飛行艇の1隻に全弾命中した。すぐさま、飛行艇は燃え始める。

 搭乗員が何人か、慌てて飛び出してくると、消火器を片手に、消火活動を開始した。中には、魔法の杖を振って、水を産み出している者もいる。それをめがけ、火を吐く翼竜…別の世界では「火竜 リオレウス」と呼ばれるそいつは、もう一度火の玉を発射した。

 1人が直撃を受け、全身に炎が回って甲板を転げ回る。その様子を視界の隅に見ながら、リオレウスは次の一斉砲撃をも回避した。

 

 

 

「ああもう、あいつ!ちょこまかとしつこい!」

 

 元「遥かなる空賊団」のとある飛行艇、砲手がリオレウスを罵った。

 

「次で当てるんだ!しっかり狙え!」

 

 軍でいうなら、砲術士官にあたる男性が、砲手たちを叱咤激励する。

 各砲の砲手は照準を覗き、リオレウス…彼らはそんな名前を知る由もないので、勝手にファイアドラゴンと呼んでいるが…の運動をある程度予測して、そのおおよその移動先を狙う。

 文章で書けば簡単だが、実はこれは容易なことではない。砲ごとに狙う先はバラバラな上に、船ごとにも照準を合わせるポイントをずらし、全船の全砲門で協力しあって、リオレウスを砲撃の網に絡ませようというのだから、その大変さは推して知るべし。各船の各部署同士の連絡を密にしあって、お互いの船・お互いの砲が、お互いをカバーするようにしないと、到底できない技なのである。しかもそれをコンピュータのような精密機械によって計算することなく、人同士のコミュニケーションとこれまでの経験に基づく勘で合わせようというのだ。普通に考えれば、不可能に近い話である。

 

 しかし…帝国八大軍団の筆頭クラスの軍集団の実力は伊達ではなく、彼らはどうにか、砲撃の準備を整えた。

 リオレウスはすでに、照準に捉えている。あとは、「撃て」の号令を待つのみ。

 

 

 

 …しかし、残酷な話だが、世の中には、物事100パーセント順調などあり得ないのである。

 

 

 

 砲手たちが覗きこんでいた照準が突然、黄緑色の眩い光に包まれた。

 砲手たちが、いったいこの奇妙な光はなんだろうと考えた、その刹那だった。

 

 

ピシャッ!

バリバリバリドッシャーン!

 

 

 砲声とは全く異なる、しかし大きさだけ見れば砲声と何ら遜色のない大音響が響きわたった。そのあまりの音量に、砲手の大半が一斉に耳を押さえて動けなくなってしまう。

 直後、困惑した声が複数、艦内通信機から飛び出してきた。

 

「くそっ、なんてことだ!羅針盤がイカれた!」

「た、対空レーダー、全機ブラックアウト!使用不能!」

「なんだありゃ…!?ま、マストが裂けてる!」

「砲撃指揮システム損傷!各砲台は砲側照準にて迎撃せよ!」

 

 その瞬間、飛行艇が激しく揺さぶられた。まるで、何か重いものがいきなり、飛行艇の上に乗っかったように。

 そして、全ての音を消し去るような、凄まじい咆哮が響く。

 

グァァァァァァァァァァァァー!

 

「敵・ライトニングドラゴン、本艇に乗り移った!」

「甲板各員は、直ちに迎撃せよ!」

 

 そう、リオレウスの動きをサポートするかのように暴れまわっているのが、第二の竜・ライトニングドラゴン…別世界での呼称、電竜「ライゼクス」である。

 電竜の名の通り、独特な黄緑色の蛍光色に輝く電撃を放ち、敵を攻撃するのだが、この電撃のせいで、飛行艇の各機械に必要以上に強力な電気が送られ、その結果、ブレーカーが落ちたり、機械に異常が発生したりしてしまっているのである。加えて、この竜は攻撃の際に、電気をまとった自身の身体の一部…具体的には尾や翼、ひどいと身体全体に電気をまとって突進し、己の体そのものを凶器とする…を叩きつけるようにして攻撃を繰り出すため、それを食らうたびに飛行艇は、物理的にも電気回路的にもダメージを負わされるのである。

 

 そして、飛行艇の甲板では、めいめい武器を抜いて近寄ってくる強者たちを相手に、ライゼクスが猛威を振るっていた。

 翼に電撃をまとって思い切り振り下ろし、歩兵の1人を殴り倒そうとする。歩兵はとっさに避けることができたが、代わりに甲板に固定してあった箱が、バラバラに吹き飛ばされた。

 別の兵が、遠距離から銃を撃つ。その弾はまっすぐにライゼクスめがけて飛び、見事に命中…したはいいが、甲高い音を立てて、明後日の方角に弾き飛ばされた。ライゼクスの甲殻は固く、拳銃の弾では歯が立たなかったのだ。

 唖然とする兵士。しかし、それが命取りとなった。

 ライゼクスは、今度は頭部に反りかえって生えた角に電撃をまとい、前方に向けて軽く頭部を突き出した。だがその動きは軽く、どう見ても頭部は銃を撃った兵には届かない。

 と思いきや、頭部から電撃が放たれ、それが稲妻となって甲板を走り、吸い込まれるように兵士に命中した。兵士の全身を電撃が駆け抜け、兵士はガクリと膝を折って、甲板にくずおれる。そして、そのまま動かなくなった。

 

「おのれ、よくも仲間を…!」

 

 怒り心頭に発したか、魔法使いの1人が杖をかまえ、ライゼクスに向けて魔法を放った。

 杖の先から発射された水色の光線は、ライゼクスに当たると同時に大量の水を撒き散らす。吸血鬼をはじめ、(流)水の苦手な相手には、かなりの効果を発揮する魔法だ。

 しかし、ライゼクスはいっこうにダメージを受けた様子がない。それどころか、尻尾を振るい、鋏のように二股に分かれたその先端から電撃を一直線に発射、魔法使いを一撃で甲板に打ち倒した。

 ここまで次々と仲間がやられるとなると、流石の兵士たちにも、怯みが生じる。その瞬間を見逃さず、ライゼクスは甲板を蹴って、空へと舞い上がった。

 と思った次の瞬間、ライゼクスの全身が、ぱっと黄緑色に光った。夜の暗闇の中、電撃をまとうライゼクスが、影絵のように蛍光色の光の中に浮き上がる。

 その直後、ライゼクスはさっきまで乗っていた飛行艇に全力の体当たりをかました。飛行艇は甲板のど真ん中に大穴を開けられてしまう。さらに、飛行用の魔法石を真っ二つにされてしまったのであった。こんな重症を負って助かるはずもなく、飛行艇はどす黒い煙を吹き上げて、「空の底」へと墜落していってしまう。助ける暇もない。

 

『「遥かなる空賊団」の艦隊は、ファイアドラゴンを攻撃せよ!「グランディリア」は、ライトニングドラゴンを叩く!』

 

 各隊の兵士たちは連携し、ファイアドラゴンもといリオレウスと、ライトニングドラゴンもといライゼクスに、勝負を挑んで行く…。

 

 彼らは戦わなければならない。だがもちろん、当初の目的「共和国防衛軍を支援する」は忘れていない。迅速に敵を追い払い、できるだけ早く目的地に向かう。それだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 かくして、戦いという名の嵐は、世界各地で吹き荒れる…




覚悟はしていましたが…すみません、やっぱり血みどろになりました。
リアルを求めようとするとこうなる…もう状況をオブラートに表現するのは諦めて、ひたすらリアルを追求するほうがいいかもしれない、と思うこの頃です。

あと…これも覚悟してましたが…ネタ大量ですな…。総統閣下にハリ◯タに…

次回の更新はまだ未定です。申し訳ありませんが、気長にお待ちいただけますと助かります。
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