夢幻震わす、一閃の電   作:Red October

12 / 18
更新が遅くなりまして、申し訳ございませんっ!

暑い日が続きますが、皆様いかがお過ごしでしょうか?
うp主は、セミのように………とまではいきませんが、まあ元気に過ごしています。

警告します。
今回は、以前に比べればまだマシですが、それでもグロシーンが入っています。具体的には、刃による人体切断、飛行艇撃沈等の死亡シーンです。
苦手な方はここでブラウザバックを。
下スクロールをもって、覚悟したものとみなします。


















































それでは、

ゆ っ く り 読 ん で い っ て ね !


第9話 風は、その激しさを増して

「何だと!?」

 

 もう丑三つ時もとっくに過ぎたというのに、戦いは未だ止まず、戦火は激しさを増すばかり。そんな戦場の空の一角で、空賊団「カドモス」の首領、バルバーナは驚きと怒りの混じった声を上げた。

 彼女の視線の先には、通信機のモニターがある。今そこには、バルバーナからカドモスの艦隊運用を任された2人のうちの1人、チャルの姿が映っていた。

 

 まあ、何があったか簡単に言うと、バルバーナはチャルから通信を受け、チャルの艦隊が壊滅した旨の報告を受けたのである。

 

「それで、お前はどうしたんだ?」

『乗っていた…飛行艇は…撃墜され…。船を捨てて、脱出しました…。今は…副官の船に…移乗して、指揮してます…。通信も、そこから送ってます…』

 

 チャルの口調には、悔しさが滲んでいた。それはそうだ、愛機ならぬ愛艦を失ったのだから。

 

「オクサナはどうした!?一緒に攻撃していただろう!?」

『そうですが…、私が…船を脱出した後は…不明です…』

 

 バルバーナもチャルも、知る由もないが、実はこの時点でオクサナは亡き者にされている。共和国防衛軍に味方した空賊・シュタールの急襲を受け、部下とともに再びあの世に叩き返されてしまったのだ。まあ相手が相手だっただけに、運が悪かったということだろう。

 

「なんでお前の船をやられてしまったんだ?やたらとピカピカする、あのくそ忌々しい弾幕か?あれは、私も見ていたが」

『それが…何が起きたのかも、全くわからない方法で…攻撃されました…。それが何なのかは、…全くわかりません…見てないので。部下の多くも…それでやられたと思います…。ただ、攻撃を受ける直前に…敵の小型飛行艇が10ばかり…私の艦隊に接近してきたのを…確認しています…。そして…不意に衝撃に襲われ…、気付いた時には、アウトリガを破損し、艦首を喪失していました…。衝撃は2回あったので…2撃でこの被害を出したと考えられます…』

「たった2撃?そんな馬鹿な、小型飛行艇の砲撃に、そこまでの威力があるとは思えんが?」

『しかし…砲撃の音は…全く聞こえませんでした…。光も、見られなかったので…魔法でも…ありません…。恐らくは…別の方法です…』

「そうか、わかった。一旦下がれ、次の指示を出すまで待機」

『了解、です…』

 

 交信が終わり、画面が暗転してチャルの姿は見えなくなった。

 

「派手な発砲音もなく、小型飛行艇に積める程度の武器で、かつ大型飛行艇を葬り去ることができる何か、か」

 

 バルバーナは1人、旗艦「デ・マヴァント」の艦橋で呟いた。

 そんなもの、バルバーナの記憶には全くない。もしそんなものが本当にあるなら、頼りない戦力と見られがちな小型飛行艇にとって、大きな戦力強化となることは間違いない。

 

(勝った暁には、それも接収するとしよう…)

 

 既にバルバーナの意識は、「勝った後」のことに飛んでいた。

 しかし、昼過ぎからずっと戦い続けているため、疲労が著しい。バルバーナはそれを、気力でねじ伏せて戦っていた。

 と、その時。

 「デ・マヴァント」の通信機が入電のコールを鳴らした。オペレーターがそれを受ける。

 

「こちら総旗艦デ・マヴァント、どうした?……あぁ、そうだな………なにっ!?それは本当か!?」

 

 途中から、オペレーターの声が1オクターブ跳ね上がった。

 

「…なんという事だ…。とりあえずボスに報告する。指示を待て、それまでなんとかして戦線を支えろ!」

 

 焦った声で通信を終えるや、オペレーターは椅子ごとくるりと振り返り、バルバーナに叫んだ。

 

「ボス!オクサナ艦隊より入電、緊急事態です!」

「なんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オクサナ艦隊、損耗率75パーセント!壊滅状態に陥りました!組織だった戦闘継続は不可能、敵が押してきていることもあり、戦線の崩壊は時間の問題だとのことです!それに加えて、指揮官オクサナ殿は、敵に討ち取られたとの由、報告です!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「なん…だと…!?」

 

 

 

 報告を聞いた瞬間、いつも不敵そうな顔をしているバルバーナの顔から、すべての感情が抜け落ちた。

 

「オクサナが…オクサナが、死んだ…?」

 

 バルバーナの口から、声が漏れる。

 

「ぼ、ボス?」

 

 オペレーターの声も、バルバーナの耳に入っている様子がない。

 しばし呆然としていたように見えたバルバーナ。だが…指示を出そうとして、彼女がオペレーターに向き直った時。

 

 オペレーターは一瞬で気付いた。

 

 

 

 ボスは、完全にブチギレている。

 

 

 

 その赤い瞳はカッと見開かれ、その奥には苛烈なまでの怒りが、存在感を隠そうともしていない。そして、口元には、いつもの不敵な笑みはなく、代わりに閉じられた唇は真一文字に固く結ばれている。

 誰がどうみても、「怒っている」と判断できる状態なのだ。

 と、バルバーナの口が僅かに動き、そこからかすかな声が漏れた。

 

「前進せよ…」

「は?」

 

 次の瞬間、凄まじい怒号がバルバーナの口から飛び出した。

 

「旗艦デ・マヴァント、前進!目標は右翼の敵艦隊!オクサナの仇をとる!」

「は、はいっ!」

 

 操縦手は慌てて操縦桿を前に倒し、艦を前進させ始める。

 最強の防御力を持つ、と語るにふさわしい重厚な艦体を押し出すようにして、カドモス艦隊総旗艦「デ・マヴァント」は、前進を開始した。

 

 

 

 

 

 さて一方、戦線の維持が難しくなってきたのは、何もオクサナとチャルの率いていた部隊だけではなかった。

 共和国防衛軍の右翼艦隊(ダストエルスキーが率いている天山隊は共和国防衛軍の左翼を固めている)、流星隊のほうでは。

 

「ぐあああぁぁ!」

 

 闇を切り裂くようにして、一筋の赤い光線が走ったと見るや、それに当たったカドモスの団員が、凄まじい悲鳴をあげて甲板を転げ回る。彼の全身には火の手がまわり、完全に火だるまと化していた。

 

「アハハハハハハハハッ!」

 

 その断末魔の悲鳴を覆い隠すかのような笑い声が響く。もちろん、フィーリアの狂笑である。

 

「アハハハハ!」

 

 左手に持った赤い魔法石から熱線を放ち、カドモス団員を生きたまま火刑に処したフィーリアは、今度は右手に持った大剣「破岩大剣ディオホコリ」をフルスイングで横薙ぎに振り抜いた。その凶刃にかかったカドモスの女団員2人が、悲鳴を発する暇もなく、腰のあたりで身体を真っ二つにされる。ビシャッという水気を含んだ鈍い音とともに、体内の臓物と血潮が甲板の上に撒き散らされた。

 この様子は恐ろし過ぎて、R15くらいの評価は確実に付くので、これ以上書くのは止めにしたい…が、そうもいかない。

 

「この化け物め!」

 

 殺戮の嵐を巻き起こしながら、なおも手を止めず、狂笑とともに新たな死体を量産していくフィーリアに、ガタイのいいカドモスの男団員が一声叫び、背後から切りかかろうとした。いくらフィーリアでも、フルスイングで大剣を振った直後では、体勢が崩れており、立て直しがきかない。

 

(取った!)

 

 カドモスの男団員はそう確信した。

 ところが、剣を持つ手に届いたのは、柔らかいものを切るような感触ではなく、刃のような硬いものと接触した時のそれだった。あまりの衝撃で、手が痺れそうになる。

 同時に、ガキン!という金属音が耳に届いた。それに続くのは、フィーリアとは違う女性の声。

 

「フィアの背中は私が守ってるの。彼女には指1本触れさせないわ!」

 

 フィーリアに凶刃が届く寸前で、高速で突き出されたラピスの双刃剣の援護が間に合い、フィーリアは切り下げられずにすんだのだ。

 だが確か、この双刃剣使いには、別のカドモス団員が3人がかりで挑んでいたはずだ。

 

「おいお前ら!なんでコイツを通し…て…」

 

 ラピスに邪魔されたのに腹を立て、仲間を呼ぼうとしたカドモス団員の声が、途中で消える。

 彼の視線の先にあったのは、甲板上に倒れている、3つの細長いもの。暗いので細部は不明だが、人間が倒れているらしいと思われる。加えて、その方角からは強烈な血の臭いが流れてきている。

 ラピスの実力を考えれば、可能性として挙げられるのは、3人とも双刃剣の下に倒され、屍を晒している、ということだろう。

 そして、団員の注意が倒れた仲間に逸れたのが、命取りだった。

 

「出直してきなさいな!《プリズムエンバース》!」

「何を……うわぁっ!?」

 

 カドモス団員の注意が一瞬逸れた隙を突き、ラピスの得意技(スキル)、「プリズムエンバース」が発動した。

 ラピスの操る双刃剣は、刀身の中心に、何かの結晶のような透明な物体を埋め込んだ構造になっている。ラピスは、自身に宿る魔力を駆使し、その結晶体に力をかけたのだ。それによって、その結晶体から火花が吹き出るようにしたのである。

 この結晶体は、刀身に衝撃がかかると、それに応じた量の火花を、衝撃がかかった方向に放出する性質がある。それを利用すれば、相手の斬りつけを刃で受け止め、直後に火花を放出してのカウンター攻撃が可能となる。

 

 ラピスは、これを使うことで、カドモス団員の攻撃を防ぎ、直後に火花を使って強烈なカウンターを浴びせたのだ。

 顔一面に火花を浴び、カドモス団員が目潰しと火傷を受けて、困惑した声を出す。その一瞬後、カドモス団員の肉体に、双刃剣が深々と突き立った。

 悲鳴を上げようとしたカドモス団員の頭部が、次の瞬間には高熱を伴った赤い光の中で溶け落ちる。新たな敵の接近に気付いたフィーリアが熱線を撃ち、そのついでにたまたま射線上にあった団員の頭を焼き溶かしてしまったのである。

 

「アハハハハ!」

「フィア!?そのヘンな笑いはどうにかならないわけっ!?」

 

 次の相手に双刃剣を振りかざしながら、ラピスはフィアに叫んだ。叫びでもしないと、周囲の戦闘音が大きすぎて、聞こえないのだ。

 

「ごめんね、これクセだから!それに、こうしたほうが相手も怯むでしょ?」

 

 熱線を発射した直後、大剣を振るって3人ばかりの相手の首をまとめてはね飛ばしながら、フィアが返事を返した。ともすれば聴覚がおかしくなりそうな戦闘音の狂奏の中でも、しっかり聞こえるあたり、フィアは普段からは考えられない大声を出しているようだ。

 どうやらこの狂笑、ある程度は狙ってやっているらしい。恐ろしいことこのうえない。

 

「ま、それも確かにそうね!」

 

 叫び返しながら、ラピスは切りかかってきたカドモス団員の頭に、問答無用で双刃剣を食い込ませた。相手が女だから、とかいう理由での手加減は一切しない。そうでもしないと、冒険者なんて危険な職業はやってられないのだ(こう見えても、ラピスの職業は冒険者なのである)。

 

「さあ、どこからでもどうぞ!」

「アハハハハハハハ!!」

 

 まだまだ、死体量産マシンは止まりそうにもない。

 ついでに言うと、フィーリアの熱線は飛行艇すらぶった切り、焼きながら落としていく力があるため、死体と同時にスクラップを量産するマシンでもあるのだ…

 

 

 

 

 

「くたばれぇ!」

「ぐはぁぁぁっ!?」

 

 共和国防衛軍の中央艦隊…「烈風隊」のほうでも、殺戮の輪舞曲(ロンド)が止まらない。

 烈風隊旗艦「クロスデルタ」艦上では、バルフォアの突きが炸裂したところだった。悲鳴が上がり、カドモス団員が腹部から大量の血を撒き散らしながら、大きく吹っ飛ぶ。そして、勢い余って甲板の手すりを突き破り、まっ逆さまに空の底へ落ちていく。

 

 バルフォアはもはや、二刀流を隠してはいなかった。リューナスに負けじと双剣「七星連刃(揺光)」を縦横無尽に振るって、カドモス団員を地獄送りにしていく。

 そのリューナスも、得意の剣術をフル活用して戦っていた。

 

「《ツォルンハウ》!」

 

 リューナスが剣を頭上に振り上げ、かと思った次の瞬間には、袈裟懸けに強く斬りつけ、相手の上体を深く斬り裂いた。月明かりのみが光源となっている夜闇に、ばっと赤い大輪の花が咲き、むっとするほどの血潮の臭いが満ち満ちる。

 が、リューナスが剣を取り直した時には、すでに6人ばかりのカドモス団員が、リューナスを取り囲んでいた。いずれも抜剣し、殺気立っている。

 と、その時だった。

 

「秘技!《血風独楽(けっぷうごま)》!」

 

 バルフォアの声が響く。

 直後、何かがネズミ花火のような軌道を描いて、猛烈に横回転しながらリューナスの周囲を駆け抜けた。それと同時に、シャーッと何かが氷の上を滑るような音がする。その音が消えた一瞬後、カドモス団員たちが血飛沫と悲鳴を上げて、甲板に次々と倒れ伏す。

 カドモス団員たちを斬り伏せたこの奇妙なネズミ花火は、リューナスの目の前で回転を止めた。ネズミ花火の正体は、バルフォアだったのだ。

 バルフォアは、さっきのアルベルトとの戦いの中で凍りついた甲板を生かし、両手に双剣を構えてコマのように高速回転。そして、その回転の勢いを使って、突進の方向を変えながら攻撃し、カドモス団員たちを斬り払ったのだ。

 運動の様子だけ見れば、フィギュアスケートの選手でも務まりそうに見える。両手に抜き身の刃を持っているという、物騒極まりないフィギュアスケーターだが。

 

「ありがとうございます、助かりました」

「当然だ、婦女子の肌を傷付けてたまるか。しかも相手は音に聞こえた凄腕の警護人、リューナスだぞ。そんな人の肌に傷を付けたとありゃ、フリゲート社の威信に関わる」

「あら、そんなに私のことを?」

「大いに買ってるんだぜ?ちょいとばかり、残念なところがあるけどな」

 

 その瞬間、リューナスの声の調子が凍りついた。

 

「それはどの辺のことなのか、ちょっとお伺いしても…」

 

 バルフォアは、それをかき消すように、声を上げる。

 

「お喋りはそこまで。新手だ、行くぞ!」

「ちょっと、人が大事なこと聞こうとしてたのに…」

 

 リューナスが何か言いかけているが、ガン無視である。

 と、バルフォアは新たな敵集団との距離がまだ飽いている隙を突いて、懐から何かのビンを取り出した。そして、その蓋を開け、中身を一気に飲み干す。

 

(アレと戦う羽目になったから、この手のアイテム…正確にはその調合に必要な材料があるんじゃないかと思って、捜索しておいた甲斐があったぜ…。さーて、これでスタミナ回復&眠気覚ましして、一時ドーピングだ!)

 

 一気に飲み干したって聞いて、酒だと思ったか?残念、眠気覚ましのドリンコでした!

 一気に覚醒し、同時にスタミナを取り戻したバルフォアは、「七星連刃(揺光)」を振りかざし、新たな敵集団をめがけ、突撃していった。

 彼の振るう双剣が、銀色の流星のごとき弧を描く。それと同時にバルフォアの目は、全力を絞っての戦闘による興奮からか、赤い光をかすかに放っていた。

 

(…!?)

 

 バルフォアを後ろから見ていたリューナスは、バルフォアにもう1度、先ほど無視された質問をかけようとして、目を見開いた。

 彼女は一瞬、バルフォアとは別の物を見たように思ったのだ。敵の集団に襲いかかろうとしたそれは、バルフォアではなく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …獣のように見えたのだ。

 

 

 

 それは、全身を黒い毛と鱗で固め、全長の約半分にも及ぶ長い尻尾を持った、4足歩行の獣。両方の前足には翼…のような皮膜があり、その前足の外側は金属質な銀色に輝いている。まるで、鋭く研いだ刃のようだ。そして、その獣は、眼光を流星のような赤い残光として引きながら、死角に飛び回るようにして、相手に飛びかかる…

 

 

 

 

 

 だが、そんなものが見えたのは一瞬だけ。気付いた時には、それは相手に斬りかかるバルフォアに戻っていた。

 

(目の錯覚でしょうか…?)

 

 今の不思議な光景をいぶかしみながらも、リューナスは自身のなすべきことをするべく、バルフォアに続いて攻撃に回る。

 

「《シャイテルハウ》!」

 

 リューナスの長い1本の剣と、バルフォアの短い2本の剣。それらは、3筋の光となって戦場を舞い、死の風を巻き起こす…

 

 

 

 

 

 そして、激しい戦いは、何も飛行艇の上だけで起きているわけではなかった。

 

「ほら、次いくよ!」

 

 烈風隊の遊撃部隊に配属された、空賊団「海歌」の首領・シーシェが号令をかける。その真横を、海歌の一斉砲火を受けたカドモスの飛行艇が、赤々と燃えながら「空の底」へ墜落していった。炎の光に照らされ、シーシェの顔が赤く浮かび上がる。

 

 シーシェの率いる空賊団「海歌」は、共和国防衛軍中央集団「烈風隊」に配属され、遊撃部隊として機能していた。そしてシーシェはバルフォアから、敵艦隊に突入して攻撃、これを撹乱せよとの命令を受け、それを遂行していたのだ。

 この作戦は今のところ、概ね成功しており、カドモス艦隊は混乱状態に陥っている。そして海歌は、現時点で約40隻の飛行艇を撃沈、もしくは戦闘不能にしていた。大戦果といっていいだろう。

 しかし、乱戦の中で海歌からは4隻の飛行艇が撃沈破され、現在の生き残りは11隻となっている。悲しいが、戦闘には犠牲がつきものなのだ。

 

「お頭!よかったですなぁ、あの方から直接命令を受けて!終わったら褒められるでしょうな!」

「それも、気になるあの人から、よ!」

「違えねぇ、ガハハハ!」

「あ、あんたたちねぇ…!」

 

 この時点で既にシーシェは真っ赤になっている。それがまた、団員たちから弄られるネタとなるのだ。

 

「お頭、顔面真っ赤ですぜwww」

「ねえお頭、今どんな気持ちッスか?今どんな気持ちッスか?」

 

「お前たち…いい加減、さっさと動けーーっ!!!」

 

 我慢の限界に達したか、ついにシーシェの怒号が響くこととなった。しかも全体通信回線を使っているため、「海歌」のどの飛行艇にもこの怒号が丸聞こえである。

 泡を食ったように、わたわたと戦闘に精を出し始める団員たちを確認し、シーシェは1人、ある男のことを考えていた。言うまでもなく、以前…帝国陰謀の変の頃に、世話になったあの空賊団「震電」のリーダーのことである。

 

(あの人、私の今の戦いぶり、どう見てるのかな…)

 

 それに続いてヘンな想像をしてしまい、ついまた真っ赤になるシーシェであった。ナニを想像したのかは、ここでは語らない。皆様のご想像にお任せします。

 なおこの時、赤くなったシーシェの顔であるが、戦闘中にも関わらずシーシェを盗み見ていた団員たちに、ばっちり目撃されてしまっていた。当然のことながら、この後、このシーシェの顔を肴に、団員たちは酒を楽しむことになったのであった。

 

 

 

「やれやれ、相変わらずだな、アイツは…」

 

 で、当の「震電」リーダー、バルフォアは苦笑していた。

 さっきのシーシェの怒号は、全体通信回線に入ったため、「海歌」だけでなく、味方の飛行艇全てにシーシェの怒号が響くことになったのだ。

 

 …当然、クロスデルタにも。

 

 というわけで、バルフォアは戦闘中にシーシェの怒号を聞く羽目になったのだ。

 苦笑しながらも、バルフォアは素早く周囲を確認する。そして、今のシーシェの怒号に驚き、何だ今のはと辺りを見回しているカドモス団員に、一切の情け容赦なしに斬りかかった。

 

「隙ありっ!」

「ぎゃあああ!」

 

 前にも言ったが、空賊業や冒険者業の界隈では、「遠慮」とか「情け」とかいうものは、下手すると自らの身を滅ぼしかねないものである。少なくともバルフォアは、自身の経験からそのように考えていた。

 だから、容赦なんてものは一切しない。それが、バルフォアのポリシーである。

 

 

 

 

 

「てぇーー!!」

 

 共和国防衛軍の左翼艦隊「天山隊」、ダストエルスキーの命令とともに一斉砲火が放たれた。必死に抗戦するカドモス艦隊であるが、その一斉砲火で隊列を食いちぎられ、有効な反撃が難しくなっていく。

 と、天山隊旗艦「クロスオメガ」艦上に陣取るダストエルスキー、その周囲に浮かぶ合計8個の魔法石が、それぞれの色に応じた光を放った。同時に、魔法石どうしが黄金の光の直線によって結ばれ、光の八角形が描かれる。そして、その八角形の8つの角(つまり魔法石)から、八角形の中心に向けて白金色の光の線が伸び、エネルギーが凝縮される…!

 

「マスター……ダブル……トリニティ……」

 

 と、ダストエルスキーの口が動き、意味不明なことを呟いた。そして。

 

「《トワイライトスパーク》ッ!!」

 

 ダストエルスキーの叫びとともに、凝縮されたエネルギーが、白金色の極太レーザーとして発射された!

 

 発射された白金色の極太レーザーは、カドモスの大型飛行艇の1隻をめがけてまっすぐ飛び、その側面に命中した。

 大型飛行艇は、その側面に貼られたシュルツェンでもって、レーザーを受け流す…と思いきや、発射されたレーザーの威力のほうが上だったようだ。シュルツェンは一文の価値もないスクラップと化して粉々に砕け散り、飛行艇は舷側を反対側まで貫通するほどの大穴を開けられて、燃えながら墜落していく。

 それだけでは済まず、レーザーはさらに2隻ばかりのカドモス飛行艇を飲み込んで、消滅させた。レーザーが通りすぎた後には、何もない空間が残るばかりである。

 

「まっ、ざっとこんなもんか」

 

 戦果を確認したダストエルスキーが、満足げに呟いた時だった。

 突然、大音響とともに、クロスオメガの右舷に、ぱっと赤い炎が立ち上った。それと同時に、クロスオメガの艦体が、気味の悪い揺れ方をする。

 明らかに、被弾した証拠だ。

 

《右舷艦首に被弾!損傷大!》

《右舷、一ノ双盾、大破!機能喪失しました!》

《第一砲塔大破、使用不能!》

 

 艦内放送が連続する。

 

「何だ?どっから撃ってきやがった?」

 

 敵の砲撃が来たと思われる方向に目をやったダストエルスキーは、一瞬後、目を見開いた。

 先ほどまで隊列を乱し、逃げ惑っていたカドモス艦隊に、新たな敵部隊が加勢し、体制を立て直して再び向かってきたのだ。しかも、その先頭にいるのは、一風変わった独特の形状の飛行艇だ。

 帝国軍の試作飛行艇「バザルト」をどこか彷彿とさせる四角い図体に、黒いとんがり帽子を被った魔女を思わせる艦橋。その側面には、現在の飛行艇では考えられない、分厚いシュルツェンが装着されている。

 

「ありゃ、デ・マヴァントか!バルバーナのヤツ、俺の弾幕が目障りになって、直接出てきやがったな、面白い!」

 

 敵の正体に気付いたダストエルスキーは、獰猛な笑みを浮かべた。

 相手の大将が目の前にいる。討ち取れば、味方に有利となるのは間違いない。

 

 しかし…ダストエルスキーは、同時に今のこの状況が、かなり不味いことにも気付いていた。

 

(たしか、アイツの艦首の三連装砲の口径は…!)

 

 次の瞬間、デ・マヴァント艦首に設置された、2基の10インチ三連装砲が火を吹いた。

 真っ赤な火線が、クロスオメガの右舷前方に突き刺さる。クロスオメガの装甲が容易に貫通され、爆発の音響とともに黒い破片が舞い散る。舷側に大穴を開けられたことによって、クロスオメガの艦体は右に傾き始めた。

 

《艦体傾斜、現在針点7!》

《ダメージコントロール、急げ!》

《右舷艦首に火災発生!》

 

 被害は大きい。それはそうだ、クロスオメガは最新鋭型の飛行艇とはいえ、装甲は8インチ砲の弾に耐える程度のもの。デ・マヴァントの10インチ艦首三連装砲に耐えるだけの力はない。古いといえど、腐っても大口径砲である。

 さらに、デ・マヴァントから第3斉射が放たれる。今度も、クロスオメガに4発が命中し、第2砲塔が文字通り爆砕された。その他、艦橋の一部に火災が生じている。

 

「くそっ、これでも喰らえ!《トワイライトスパーク》!」

 

 ダストエルスキーは一声罵るや、トワイライトスパークを発射した。白金色のレーザーは、見事にデ・マヴァントに命中し、艦首三連装砲の1基が正面防盾を貫かれる。耳をつんざく轟音とともに、天を焦がさんばかりの爆発が起き、ダストエルスキーの視界が赤く染まる。

 爆発の収まった後には、ひしゃげた鋼鉄のオブジェと化した三連装砲が残るのみだった。右舷のシュルツェンの1枚にも被害を出したようだが、それ以上の被害を与えた様子はない。最強の防御力は、伊達ではなかったということか。

 

 だが、次の瞬間、デ・マヴァントは残った10インチ砲で第4斉射を放ち…それが、クロスオメガの正面を直撃した。

 すでに大破していた艦首部分が完全に爆砕され、大量の鉄クズとなって飛び散る。さらに、命中した砲弾は、クロスオメガのバイタルパート(軍艦の装甲のうち、機関部、砲弾の弾薬庫、操舵室、CICといった重要区画を守る装甲板。軍艦の装甲が最も分厚い部分であり、特に戦艦だと、自身の搭載する主砲の砲弾を防ぎ止められるだけの厚さを有する。)を貫き、艦内で爆発を起こした。

 次の瞬間、10インチ砲弾の爆発など比較にならない大爆発が起きる。天地がひっくり返ったかと錯覚するほどの震動とともに、目が焼け焦げそうな鮮やかな炎が闇を一時だけ駆逐し、鼓膜を突き破らんばかりの大音響が耳を圧する。それと同時に、クロスオメガは、その巨体を真っ二つにへし折ってしまった。

 

 何が起きたかは明白である。デ・マヴァントの放った砲弾は、バイタルパートを貫通した後、主砲の弾薬庫を直撃し、砲弾を誘爆させたのだ。

 

 大音響を聞き、ダストエルスキーは即座に、クロスオメガに何が起きたかを察した。そして直ちに、懐に手を突っ込み、メガホンを取り出す。

 

『クロスオメガ全乗員へ告ぐ!本艦はもう駄目だ!総員、速やかに艦を離れろ!繰り返す、総員速やかに艦を離れろ!』

 

 ダストエルスキーの声は、メガホンにかけられていた魔法によって、100倍に拡声されて飛行艇の中を駆け巡った。

 不幸中の幸い、クロスオメガは実験的に、砲撃を魔法によって行う試みをしており、砲から放たれるのは実体弾ではなく、魔力の塊となっている。それでも、全ての砲弾を降ろしたわけではなく、各砲の砲弾の比率としては、実体弾3割、魔法弾7割というところである。今回、その3割の実体弾(しかも、そのさらに一部は戦闘で使用されている)が誘爆したのだ。

 弾薬庫誘爆は、下手すれば艦を一瞬で木っ端微塵にしかねない危険な事象だが、弾薬搭載量が少なかったのが救いになった。とはいえ、艦体が2つに折れたとあっては、墜落は免れない。

 ダストエルスキーは、即座に総員退艦を命じるとともに、艦内に魔法を行使して、艦内の非常通路の照明を付け、避難路を照らした。乗組員たちはそれに従い、直撃弾によって震える艦の中を走り、格納庫へと急いでいく。

 

 ほどなくクロスオメガの格納庫からは、生き残った乗組員たちが乗った艦載艇が、吐き出されるようにして次々と脱出してきた。脱出の間、クロスオメガはどうにか耐えてくれた。

 そして、生き残り全員の脱出が完了するのとほぼ同時に、クロスオメガの艦体は飛行能力を失い、赤い炎と破片とを撒き散らして、「空の底」へと墜落していった。

 この時既に、天山隊の幕僚たちは、飛行艇「クラウソラス」を新たな旗艦として、隊の指揮に入り始めている。「やられた場合」を想定した訓練を、何度も行っていたことの成果である。

 

「ちっ、乗艦を失ったか…。まぁ、相手が悪かったかな」

 

 クラウソラスに移ったダストエルスキーはそう呟いて、アニキことバルフォアのいる「クロスデルタ」に、通信を送った。

 モニターにバルフォアの姿が写されると、ダストエルスキーは早速報告に入る。

 

『こちらダット、俺は無事だ。だが、クロスオメガを沈められた』

 

 画面の向こうで、バルフォアが目を見開いた。

 

『ンだと!?……了解。その様子じゃ、指揮系統はクラウソラスあたりにでも移って、機能しているようだな』

『ああ。訓練のたまものってやつさ』

 

 バルフォアが少し相好を崩す。指揮系統に大きな被害が出なかったと知って、安堵したのだろう。

 

『訓練やっといてよかったぜ。さて…ダット、1つ、命令がある』

『なんだ?』

 

 バルフォアは、真面目な顔つきになった。

 

『もう時間も遅いし、そろそろ一時休戦になると思うが…その間にお前、1回本社のほうに戻れ。そこに、まだ待機させてる連中…いわば予備軍がいる。そいつら引き連れて、アレ持ってきてくれ』

 

『アレってなんだ?』

『本社の地下に置いてる奴だよ』

 

 今度は、ダストエルスキーが目を見開く番だった。

 

『アレか!極秘裏に建造した切り札じゃねえか!いいのかよ、そんな大事なモン使って!?』

『こんな時だからこそ、アレを使うんだよ。道具は使うために作るのであって、置いておくために作るもんじゃない。巨費と大量の資源を投じてアレを作ったのも、アレが必要になった時を考えたからさ。わかったら、休戦に入り次第さっさと持って来い、いいな?』

 

 ダストエルスキーは、肩をすくめた。

 

『やれやれ…了解。そんじゃ、後で持ってくるよ』

『頼んだぜ。それと…お前が無事で良かった』

 

 それだけ言って、バルフォアは通信を切った。通信での言い方は素っ気なかったが、そこには確かに兄弟愛が含まれていた。それに気付かないダストエルスキーではない。

 

(ったく、アニキのヤツ、変なところで素直じゃねえんだから…)

 

 だが、次の瞬間には、ダストエルスキーは思考を切り替えていた。戦いはまだ、休戦状態にはなっていない。油断はできないのだ。

 

(アニキ、頼むからそろそろ休ませろよ…)

 

 

 

 

 

「よし…」

 

 敵の大型飛行艇の撃沈を確認し、バルバーナは少しばかり、満足そうな呟きを発した。

 

「なんとか、オクサナの敵は取ったらしいな…。他の部隊の戦況はどうなってる?」

 

 ところが、バルバーナの声を向けられた「デ・マヴァント」の通信手は、不意に目を逸らした。まるで、何か良くないことを知って、それを報告すまいとするかのように。

 

「おい通信手、どうしたんだ?」

 

 再度のバルバーナの声。

 通信手は耐えきれなくなり…知った事実を告げた。

 

「ボス…それが…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「左右、両翼の艦隊は…ともに壊滅状態。それに加え………、指揮官のアルベルト様、アメリア様は……共に………戦死なさいました!」

 

 

 

 

 

「うーむ、まだやるか…?」

 

 共和国防衛軍総旗艦「クロスデルタ」の戦闘艦橋内で、バルフォアはひとりごちた。その視線は窓の外、激しい攻撃をみせるカドモス艦隊に向けられている。

 

(そろそろ限界だと思ったんだがな…。奴ら、結構粘ってくるな。だがまさか、不死身って訳ではないだろうし)

 

 バルフォアがそこまで考えた、その時だった。

 夜空の中、かすかにその巨体を黒々と見せていた、カドモス艦隊の旗艦「デ・マヴァント」から、白い信号弾が打ち上げられたのだ。信号弾は、白い煙の尾を引きながら、月より明るい白い光を発して、上へと昇ってゆく。

 それを合図に、他のカドモス飛行艇も、白い信号弾を打ち上げた。

 これは、はるか昔に決められた、この世界なりの一時休戦の合図である。

 

(お、休戦の合図が来たな。やれやれ、向こうも限界のようだ)

 

 バルフォアはすぐさま、第1主砲の砲塔長を呼び出した。

 

「休戦だ、休戦信号弾を打ち上げろ!」

「了解です!」

 

 砲塔長の声にも、ありありと疲労が感じられた。それだけに、休戦が決まったと聞いた砲塔長の声には、わずかながら明るいものがある。

 

 ほどなく、クロスデルタの第1主砲が、最大仰角で休戦信号弾を打ち上げ、それに続いて生き残りの他の共和国防衛軍の艦艇も、一斉に信号弾を上げた。

 

 

 

 かくして、共和国首都上空での戦いは、休戦の一時を迎えたのである。

 それは、台風に例えるなら、台風の目に入った状態であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、偶然か必然か、時を同じくして。

 

 共和国国境付近、通称「不安空域」における戦闘も、休戦していた。いや、この場合、終戦と言うべきか。

 

 もと「遥かなる空賊団」と「グランディリア」の連合艦隊を攻撃していた2頭の竜…火竜(リオレウス)電竜(ライゼクス)は、急にあらぬ方向に目を向けたかと思うと、翼を大きくはためかせ、飛び上がったのだ。そしてたちまち、2頭とも別々の方向に飛び立ち、闇の中へと消えてゆく。

 

『退いていった…?』

『そのようね』

 

 「遥かなる空賊団」の首領・ジフィラの疑問に、「グランディリア」の首領・マルテが答える。

 

『さ、ボスの命令だし、さっさと行くわよ』

 

 マルテのその言葉を合図に、両空賊団の艦隊は一斉に動き出した。攻撃により混乱した陣形を立て直しつつ、一路、共和国首都を目指して、飛行艇を進めていく…

 

 

 

 

 

 だが、読者の皆様は、お分かりいただいていることだろう。

 

 これはあくまで、一時休戦にしか過ぎず、それ以上の意味を持つことはないということを。




本当に、投稿が遅くなりましてすみません…。

新聞で読んだところによると、セミといえども、暑くなりすぎると熱中症のような状態になるそうですね。
私は冒頭で、セミのようにとまでは言わないが元気にしていると書きましたが、実のところ、暑さのため、半分ヘバりかけてました………。なんたる不覚。

 皆様も、どうか夏バテにはくれぐれも気をつけて、お過ごしくださいませ!

追伸:現在、スキル設定資料集を執筆中です。投稿しましたら、そちらのほうも、よろしくお願いいたします。

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