夢幻震わす、一閃の電   作:Red October

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皆様、投稿が遅くなりまして、ホントに申し訳ありませんでした!
うp主自身の進路に関して悩んでいたのですが、納得のいく結論に到達することができましたので、少しずつ、拙作の執筆も再開したいと思います。今後とも、よろしくお願いします!

さて、今回は休戦中の状態なので、刺激自体は少なめです。
リハビリのつもりで軽めを意識して書いたのですが、…なんで字数が9千2百を超えてるんだろう…。

それでは、




























第10話 風は弱まりて、嵐は一時止む

 一時休戦を約した共和国防衛軍とカドモスであったが、だからといって、確実に休めるかと言われると、そうでもない。休戦が明けた後のことを、考えなければいけないからだ。では、何を考えるべきか?

 

 まず1つは、敵味方の損害の集計であろう。撃沈破した敵の飛行艇の数について、なるべく正確な数を弾き出す。同時に味方の損害を調べて、まだ戦えそうな者を選抜し、部隊を再編する。これは、敵の戦力をおおよそでも把握し、作戦を立てたりするのにあたり、重要な作業だ。

 

 他には、作戦の確認も必要となるだろう。作戦行動を決めておかなければ、戦場の中でどう動けばいいかわからなくなる、などという最悪の事態が発生しかねない。

 

 そして何より、損傷した艦艇の修理だ。戦えるヤツが1隻でも多くいれば、それが戦局を左右するかもしれないのだから。

 

 

 

 

 

「各隊の集計、終わりました。まず烈風隊は、戦闘開始時点で総数140隻。現時点で、喪失が16、戦闘不能が19、合計35隻が戦列より失われています。よって、今すぐ戦闘可能なのは105隻になります。続いて、天山隊は140隻のうち、喪失30、戦闘不能23で、今すぐ戦えるのが87隻です。流星隊は140隻中、喪失が18、戦闘不能が13で、今すぐ戦えるのは109隻。後方支援予備艦隊30隻には、被害はありません。よって、今すぐでも戦闘が可能な飛行艇の数は、4隊合わせて331隻となります」

 

 共和国防衛軍においては、艦隊総旗艦「クロスデルタ」第一艦橋内で、会議が行われていた。艦橋の正面上部のスクリーンに、各隊の被害データが集計されて映されている。それを見ながら、クロスデルタのスクリーンオペレーターが説明を行った。

 

「思った以上に天山隊の被害がデカいな」

 

 説明を聞き、スクリーンの数値を眺めながら、バルフォアが呟いた。隣には医務班の班員が2人いて、1人はバルフォアの腕の凍傷部分に包帯を巻き付けている。もう1人は手に持った湯たんぽを、包帯の上からバルフォアの腕に押し付けていた。

 

「それにつきましては、私から説明させていただきます」

 

 ダストエルスキーに命じられ、彼に代わって会議に出席していた「天山隊」の副司令が立ち上がった。立派なカイゼル髭を生やした、筋骨逞しい壮年の男性である。

 

「我が天山隊は、敵艦隊との最初の砲撃戦の後、白兵戦に突入しそうになったところを、司令の弾幕で対処していました」

 

 その声は年齢相応に落ち着き、なんというか、深みがある。聞くだけで、相手に安心感を与えそうな、そんな感じ。

 

「しかし、それに業を煮やした敵に挟み撃ちにされ、そのために相当の被害が出てしまったのです。司令より賜った艦艇を多数失い、申し訳ありません」

「いや待て、気にするな。戦闘に犠牲はつきものだろう」

 

 バルフォアは天山隊の副司令をたしなめた。

 

「とはいえ、いささか被害が大きい。予備艦隊から20隻、天山隊に回そう。それで107隻となり、他の隊と変わらぬ数になるはずだ」

「ありがとうございます、司令官殿」

 

 バルフォアは、艦隊の薄さを見破られ、天山隊を撃破される可能性を考慮して、予備艦隊から飛行艇を補充することにした。続いて、休戦が終了する時刻を確認する。

 

「たしか、休戦が明ける時刻は…」

「休戦明けは0600時よ。その時間には撃ち合い再開ね」

 

 今度は、フィーリアが発言した。

 

「それまで3時間くらいしかないが、戦っていたクルー全員に休憩を取らせろ。睡眠を最優先とし、次が栄養だ。シフトを早めてもいい、各艦は、戦闘を経験しておらず、消耗が少ないクルーを編成して、休戦明けに全力で戦えるようにすべし。なお本命令は直ちに実行させること」

「「「はっ!」」」

 

 バルフォアはきびきびと指示を飛ばした。各隊の司令・副司令クラスのメンバーが、一斉に応答する。

 

「次に、我が方の戦果はどのくらいだ?なるべく正確な数字が欲しい」

 

 各隊の副司令クラスのメンバーが、命令伝達のため一旦退出した後、バルフォアは残ったメンバーに質問した。

 その質問に、まず烈風隊の副司令(列風隊の司令はバルフォアが兼任しているため、副司令が司令に代わって報告しなければならない)が立ち上がり、返答する。

 

「烈風隊は、各艦からの集計をまとめますと、概算ですが敵艦約15隻を撃沈、22隻を撃破したと思われます」

 

 続いては、天山隊の報告だ。

 

「天山隊は、撃沈がおよそ70、撃破が55と推測されます。やたらと多く見えますが、それは隊長殿の弾幕のためであります」

「あれか。確かに、あれは目立つよなー」

 

 天山隊副司令の説明に、バルフォアが同意する。

 以前にも書いたが、ダストエルスキーの攻撃方法は弾幕である。弾幕の元ネタは、以下の技名でお察しください。

 

「マスタースパーク」

「ファイナルスパーク」

「トワイライトスパーク」

「夢想封印」

 

 なお、これらの強烈な弾幕のため、ダストエルスキーは1人で40隻以上の飛行艇を、空の底に葬っている。

 彼の弾幕は、飛行艇の砲撃に比べると威力が低い。しかし、その無尽蔵とも思える魔力をもって、弾幕を作っては撃ち、作っては撃ちして、短時間に広範囲に多数の弾幕をばらまく。しかも、飛行艇の砲撃より威力が低いとはいえ、1人乗りの小型飛行艇ならば、一撃で爆散させる程度の威力はある。頑強な大型の軍用飛行艇であっても、この弾幕の嵐には耐えられない。被弾すると、艦内のダメコン要員(ダメコンは、ダメージコントロールの略)の応急作業の暇もなく、連続攻撃を受けて撃沈されかねない。如何に堅牢な軍艦でも、連続攻撃を喰らえば被害が蓄積して戦闘不能にされ、最悪の場合は沈没するのだ。その意味において、ダストエルスキーの弾幕は凶悪である。

 

「そのせいでクロスオメガ沈められたんじゃねーのか」

「小官もそうだと思います」

 

 だがこの弾幕、非常にカラフルであり、しかも結構な光を放つ。昼間ですら目に障るレベルであるから、まして夜では余計に目立つ。その結果、弾幕の発射源となっていたクロスオメガが悪目立ちし、集中攻撃を受けたのだろう。

 

「まあ、沈められた旗艦クラスがクロスオメガ1隻で済んだのは幸運だった、と逆に考えるべきだろう。激しい戦闘の中では、旗艦クラスの船にも被害が出るものだ。それをクロスオメガ1隻のみに抑えられたのは大きい」

「確かに、そのような見方もできますな」

 

 話がだいぶ逸れてきたところで、フィーリアが立ち上がった。

 

「話し中をすまないけど、流星隊から報告よ。流星隊の戦果は、敵艦撃沈が32、撃破が19、合計51と推測されるわ。よって、これらの数を合計すると、撃沈117、撃破96になるわね。んで、カドモスのほうはというと、開戦前の戦力がだいたいうちと同じ、550隻程度と見積もられるから、さっきの数を引いて…」

「残存艦艇およそ430隻、うち約100隻は戦闘不能レベルってことか。となると、今すぐ戦えるのは実質330隻くらいだな」

 

 バルフォアが、フィーリアの出した数字をまとめた。

 ちなみに、フィーリアの話し方は、フリゲート社で仕事をしている時のものに戻っている。もう戦闘での興奮は冷めたようだ。もしまだ興奮したままだったら、壊れたとしか思えない笑い声を上げるだけだから、むしろ怖いことになるのだが。

 

「とはいえ、奴らもこの時間で修理してくるだろうし、戦場での報告は重複がつきものだから、多めに見て400隻くらいがまだ戦えると見るほうがいいな」

「まぁ、まだそのくらいはいるでしょうね」

「330対400か、分が悪いな。なるべく修理を急いでもらいたいけど、無茶は禁物だしなァ…」

「そこは、修理の終わった艦だけでなんとかするしかないわね」

「だな」

 

 フィーリアとの相談の末、バルフォアは決断した。

 

「無理をしない程度に修理を急がせろ!」

「「「はっ!」」」

 

 各隊のリーダーたちが、一斉に敬礼を返す。それを横目に、バルフォアは新たな命令を発した。

 

「通信手、全艦に伝えてくれ。『現在における我が隊の戦果は、敵艦撃沈約120隻、撃破約95隻と見積もられる。対して、我が隊の被害は、喪失64隻、戦闘不能55隻。被害は相手のほうが多いが、僅かながら相手が優勢である。ここを突破される訳にはいかない。明朝0600時より戦闘を再開する、それまでによく休んでくれ。諸君の健闘に期待する』と!」

「了解です!」

 

 クロスデルタの通信手は、上腕を水平になるまで挙げ、手を額の横に当てて、ビシッと敬礼した。

 バルフォアは各隊のリーダーたちに向き直り、宣言する。

 

「以上、解散!各員は艦に戻り、戦闘再開に備えて英気を養うべし。共和国万歳!」

「「「共和国万歳!」」」

 

 かくして、共和国防衛軍の戦場会議は、終了した。

 

 

 

 

 

「くそっ!」

 

 一方の空賊団「カドモス」、総旗艦「デ・マヴァント」艦内の会議室では、ボスのバルバーナが罵声と共に握りこぶしをテーブルに振り下ろした。ガン!という鈍い金属音が響く。流石に痛かったか、バルバーナの眉が少ししかめられた。

 現在、カドモスのメンバーは、休戦明けに向けた方針策定のための幹部会議を行っているのだが、彼女の憤りの原因は、会議室の様子にある。共和国領に向けて侵攻を開始した時は、バルバーナを含めて15人の幹部が、一堂に会していた。それは、共和国領まであと少しのところまで来ても、変わることはなかった。

 しかしいまや、幹部の頭数が3つ、欠けている。アメリア、アルベルト、オクサナの姿がないのだ。加えて、チャルは負傷しており、右腕に血の滲んだ釣り包帯を巻いている。

 

 なんで頭数が足りないのかは、皆様がここまで読んできた通りである。アメリア、アルベルト、オクサナの3名は、既に亡き者にされたのだ。

 おさらいをしておくと、アルベルトはクロスデルタの艦上でバルフォアに刺され、アメリアはクロスラムダの艦上でフィーリアに首をはねられ、オクサナは自身の艦であるエクリプス…正確には、現在のラモンド世界で運用されているエクリプスのプロトタイプ型である…の上で、シュタールによって倒されている。

 

「どれほどの被害を出したのだ、我々は?」

 

 バルバーナの疑問に答えたのは、チャルだった。

 

「戦闘開始時点で、船は560隻いた…。それが今、すぐ戦えるのは…合計して…329隻。損傷がひどいのが…65隻…これらは、修理すれば…まだ戦える…かもしれない…。撃沈されたもの…あるいは、修理のしようがないものが…166隻…」

「手酷くやられたな…」

 

 報告された、飛行艇の被害の凄まじさに、カドモスのサポート部隊の幹部の1人、テオドロが呟いた。壮年にさしかかろうとしているが、まだ若めの男性である。

 

「特に…あのピカピカする弾幕にやられた船が…多い…」

「確かにな。ワシの艦も、あの弾幕のせいで失われておる」

 

 チャルの分析にコメントしたのは、カドモスの艦隊運用の次席指揮官・ドミニク。そろそろ日本でいう定年に片足を突っ込みかけている老人だが、艦隊運用の腕はなかなかのもの。それをバルバーナに買われ、老骨に鞭打ってカドモスの艦隊運用に関わっていた。

 

「あの弾幕、もう飛んで来ないかしら?」

「なら、まだマシになるかもね」

 

 カドモスのサポート部隊の幹部、ネリーナとエリアナが言葉を交わす。2人とも若い女性なのだが、双子…それも一卵性双生児であるため、容姿が非常に似通っている。バルバーナたちですら、たまに間違えるほどだ。そのため、ツインテールを縛るリボンの色を変え、赤がネリーナ、青がエリアナと区別していた。ちなみに、どっちかというとネリーナのほうが姉っぽい。

 

「なんとかして、修理を急がせないとね」

 

 これは、アルベルトの前線部隊で戦っていた幹部・コロナの発言だ。コロナはいわば「おばさん」の見た目をしている。が、実年齢はドミニクよりちょっと若い程度。見た目と年齢の乖離が激しい。

 なお、彼女に年齢の話は厳禁。うっかりすると、確実にフライパンで頭を殴られる。

 

「相手の戦力は?」

「概算ですが、現時点で戦闘可能な敵の飛行艇は、おおよそ330隻から340隻程度と推定されます。ただ、この時間を使って飛行艇を修理して、戦線に復帰してくることは十分考えられますから、少なくとも、あと360隻はいるとみなすべきでしょう」

 

 バルバーナの疑問に、カドモスのサポート部隊長・クレトが答えた。まだ相当に若い男性(見た目20くらい)だが、それでもサポート部隊長をやれるのは、彼の優秀さゆえか、あるいは現在のカドモスの戦力不足ゆえか。

 バルバーナはしばし腕を組み、考えた。

 

「やれんことはないだろうが…少しでも勝率を上げたい。そういえば、私たちの復活と同時に船も用意されていたが、『ツィタデル』はあったのか?」

「ありました…昔のものですけど…」

「そうか、なら話は早い」

 

 チャルの情報で何かを思い付いたらしく、バルバーナは不敵な笑みを顔に浮かべて、一同を見渡した。

 

「テオドロ!」

「は!」

「今のうちに、『ツィタデル』を持ってこい!ただし、相手に見つからんようにな」

「承知しました!」

 

 

 

 

 

「さーて、どうしたもんかね…」

 

 会議終了後、クロスデルタ艦内の私室にて、バルフォアは1人、呟いた。

 既に策を2つ、立ててある。また、ダストエルスキーから連絡が入っており、「切り札」は夜明け頃に前線に到着するだろう、とのことだった。

 

(あの切り札なら、ほとんどの相手には勝てるだろうが…あの切り札、そもそもテストが済んでたかが怪しいんだよな…)

 

 最初からフリゲート社の地下で建造したのが仇となり、まともな飛行テストも難しかったのである。

 

(ま、その時はその時で、考えとくしかない。とりあえず、とうするべきかは決まったけど、不安要素が多いなァ…しゃーないか。ところで…エドワード皇帝陛下が送ってくれた援軍、いつになったら着くんだろう。この分じゃ、到着する前にほとんど片付いちまうぞ)

 

 そんなことを考えつつ、バルフォアは眠りに就くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、時と場所は変わって、ここは共和国内の、帝国と共和国との国境付近の空域。

 暁の光が差し込み始めたその空域を、多数の飛行艇が飛行していた。どの船にも、帝国軍のマークを染め抜いた旗が掲げられており、この艦隊が帝国軍の所属であることを知らせている。この艦隊こそ、エドワードが派遣した共和国防衛軍の応援艦隊である。

 

「私たちの現在位置は?」

「はっ、現在の我が艦隊の位置は、共和国の首都の東方約4500㎞の地点です。今のペースで航行を続ければ、午後2時頃には共和国防衛艦隊と合流できるかと思います」

 

 それらの飛行艇のうちの1隻、元空賊団「グランディリア」の旗艦の艦橋では、「グランディリア」の首領・マルテが部下からの報告を聞いていた。

 

「そこまで来たのね。もうそろそろ、『不安空域』の通過も完了すると思うんだけど…」

「お嬢様、ゆめゆめ油断なされませんよう」

 

 マルテの呟きに反応して、返事をしてきたのはセラフィナだった。ほどよく日焼けしたような褐色の肌を持つ女性で、若干青みがかかった銀髪をえんじ色のリボンでポニーテールにしている。白いドレスを着用したその姿は、パッと見ではどこかの貴族令嬢、ないしはそのお付きの人のようだ。丁寧な口調も相まって、余計にその印象が強い。

 マルテはもともと貴族の出身なのだが、とある女性にそそのかされて空賊となったのだった。そして、貴族の屋敷にいた時からマルテの面倒を見続けてきたのが、このセラフィナである。

 

「そうは言うけどぉ、さすがにもう大丈夫なんじゃないかしら?」

 

 そして、今このセリフを放った者こそ、マルテをそそのかした張本人である。名をロディといい、グランディリアでは魔導士を務める女性だ。エメラルド色の長髪を臀部まで伸ばしており、やたら扇情的な格好と、世の中の男性の9割方が発情すること請け合いな、豊満な体つきをしている。

 が、その尖った長い耳は、明らかに人間のそれではなかった。うp主は、彼女の種族は、いわゆるサキュバスなんじゃなかろうか?と、ひそかに考えている。

 

「いや、そうでもないでしょう。ほら、あの通り」

 

 ロディの言葉にそう言うと、セラフィナは艦橋の窓の外を指し示した。見ると、その方角…艦隊の進行方向には、空に暗幕を降ろしたかのようなねずみ色の雲が、垂れ込めている。誰がどう見ても、一雨来るとわかるお天気だ。

 その時、飛行艇のマストの先についている旗が、バタバタとはためいた。かなりの風も出てきているようだ。

 

「あらあら、これはドッと降りそうね」

「風もきつそうね…全艦、旗を降ろして!艦同士の間隔を空け、衝突に注意!」

 

 相変わらず、どこか抜けたようなロディの声。

 マルテはてきぱきと指示を下す。ただちに全ての飛行艇が、指示に従って動き始めた。

 そして、ものの5分もしないうちに、この大艦隊は、雨雲のカーテンの中へと突っ込んでいた。

 

 

 

 そこは、先ほどとは全く別の世界だった。

 空一面を灰色の雲が覆いつくし、強風にのって横殴りの雨が飛行艇の艦橋のガラス窓を叩く。時折、白い閃光を放って紫色にも見える稲光が走ったかと思うと、次の瞬間、鼓膜を突き破るような大音響が、バリバリバリッ!と炸裂する。暁の光など、もうどこにも見えやしない。

 ラ◯ュタの「竜の巣」の中をイメージしてもらうと、理解が早いだろう。

 ラモンドの世界では、雲の上で発生する暴風雨は珍しいものではないが、これはあまりに規模の大きいものだった。

 

『マルテ聞こえる!?大丈夫!?』

 

 暴風雨に突入して10分後。

 ややもすれば、雷と雨の音で声が聞こえにくくなるが、その中でも、ジフィラの声が通信機から飛び出してくる。モニターにも、焦った様子のジフィラの顔が映っていた。

 

「大丈夫よ。まったく、やたら熱血なクセして心配性ね」

 

 マルテは、応答しながら変針を操縦手に命じる。

 

『いや、そうは言うけど、怖いのよ!なんか、知らない間に空が赤くなってきてるし!』

「心配しすぎよ、いくらなんでも雲が赤くなるわけ……え?」

 

 ジフィラに言われて、外を見たマルテは、唖然とした。さっきまで灰色一色だった空の雲は、なんと全体的に赤黒い色に変わっている。

 ジフィラもマルテも、嵐の中、砲煙弾雨の中、幾度もヤバい状況を潜ってきているし、いろんな空を見てきたが、こんな空模様にはお目にかかったことがない。

 

「何なの、これ!?」

 

 いつも冷静なマルテの声に、若干の焦りが混じった時だった。

 

「ボス!3時の方向、レーダーに感あり!」

『3時の方向、レーダーに影!何かいます!』

 

 ジフィラとマルテ、双方の乗艦のレーダー手が、同じ報告を同時に上げた。

 

「距離は?」

「距離、約1000!こっちに向かってきます!速度約200、早い!」

「!?」

 

 マルテの問いに答えるレーダー手。

 マルテは少しだけ、考えた。

 

(距離1000…決して遠くはない。おそらく、嵐のせいでレーダーの感度が低下しているのでしょう。でも、この大嵐の中を、速度200も出せるのはどういうこと!?)

 

 その時、ゴォーッ!という風の音が、一際激しくなった。大波に揺れる木葉のように、飛行艇か激しく揺さぶられる。

 同時に、雨の粒が巨大化した。飛行艇を叩くバラバラという連続音は、まるで雹が降っていると錯覚するほど。

 

『こちら30号、舵が効きません!風に流されるばかりです!』

『こちら33号、レーダー感度低下!』

 

 部下たちからは、良くない報告が上がってくる。

 

「艦の安定が最優先!風向きをよく読んで、バランスを失わないで!」

「りょーかいです!」

 

 ジフィラとの通信を切り、マルテは操縦手に指示を飛ばす。続いて、部下たちの艦に命令を出そうとした、その時だった!

 

 

 

 

 

キィィィィィィィィーン!

 

 

 

 

 

 風の音よりも、雨の音よりも、どんな音よりも大きく、奇妙な音が響きわたった。

 飛行艇のエンジン音や汽笛などとは全く異なる、甲高い音。例えを挙げるなら、人間の悲鳴がいちばん近い。その音は、3時の方向から聞こえてきた。

 

「何、今の?」

 

 通信機のマイクを持ったまま、そちらを見たマルテは、ぎょっとした。

 

 

 

 そこには、1匹の竜が飛んでいたのだ。

 それも、このラモンド世界で確認されている、どの竜とも異なる未知のドラゴンが。

 

 

 

イメージBGM:「大風に羽衣の舞う」

 

 そいつの身長は、目測でざっと30メートル。ステルラのような大型飛行艇よりは小さいが、1人乗りの飛行艇などと比べると遥かに大きい。

 当然のように空を飛んでいるのだが…翼がない。この暴風雨の中を、風のない空でも飛んでいるかのように、滑らかに滑るように飛行しているのだ。それも、飛行艇と並走していることから、かなりの速度が出ているとわかる。

 翼の代わりだろうか、身体のあちこちに白い膜がついていて、それが風にはためいている。いちおう四肢はあるが、前足はその外側に膜がついており、後ろ足に至っては、膜を張ったヒレと化している。

 体の色は、全体的に白い。一直線に伸びた身体には、側面下部から四肢が伸び、背中には膜のついた背鰭が、山脈のように連なっている。マルテはかつて本て読んだ、昔のラモンド世界にあったという「海」に生息していたとされる、タツノオトシゴなる生物を思い出した。

 頭部には、扁平な形状の金色の角が2本、後方に向かって生えており、その下の青い瞳が、こちらを鋭く睨み付けている。

 

「美しい…」

 

 マルテの口から、思わずそんな言葉が漏れた。

 実際、流麗な身体を滑らせるようにして飛ぶ姿と、稲光の反射を受けて輝く白い身体と、アクセントとなる金色の角は、美しさと同時に神々しさすら感じさせるものがあった。

 

 だが、すぐにマルテは考え直す。

 大嵐の中という、ラモンドの常識では考えられないような所で、このような未知の存在との遭遇。

 これは、おそらく関連性がある。よく見ると、この竜は膜を震わせて、それを利用して飛ぶ方向や姿勢を変えているようだ。しかも、さらに観察すると、風に乗っている。いやむしろ、その竜自身が風を起こしているようだ。

 ラモンド世界に生息するドラゴンは、羽ばたきで風圧をかけることはあっても、自力で風を起こすものなどいない。ましてここまでの嵐の中を飛ぶなど、前代未聞だ。

 

「艦隊の右に新種のドラゴン出現!全艦、第一級警戒態勢!各自の判断で発砲を許可するわ!」

 

 すぐさま通信で、味方の艦隊に指示を飛ばすマルテ。

 旗艦の隣まで接近された状況では、この指示は遅すぎたかもしれない。だが、だからってかつての最強クラスの空賊団「グランディリア」のリーダーたる自分が、簡単に落とされる訳にも行かない。

 

(何としても、この状況を乗り越えてみせる…!)

 

 魔法の杖を握りしめ、マルテは決意を新たにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 余談だが、マルテたちが相対しているこの竜は、もちろんラモンド世界の固有種ではない。では、この竜は何なのか?

 別の世界では、この竜は、斯く呼称されている。

 

 天津禍津神…読み方は、「アマツマガツチ」。

 

 「嵐龍(らんりゅう)」とも呼ばれ、大嵐を発生させる能力を持つ。そして、発生させた嵐とともに移動する習性を持つという、恐るべきドラゴンである。




リハビリのつもりが、やけに字数多くなったなぁ…こんな調子の駄文が続くと思いますが、今後とも、拙作をどうかよろしくお願い申し上げます!
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