皆様、たいへん遅くなりました!申し訳ありません!
実は、2週間とかの実習があったもので、やたらと忙しくて…!
更新が遅れまして、本当にすみません!
既に戦闘再開から2時間以上が経過していたが、戦闘はいっこうに止まる様子がなかった。
戦況としては、共和国防衛軍がカドモス側の飛行艇を約80隻撃沈し、約40隻を撃破、撤退させている。序盤の小型飛行艇による奇襲が、功を奏した格好だ。これによって、カドモス側と共和国防衛軍側の飛行艇総数が逆転し(当初は共和国防衛軍550隻、カドモス560隻)、数においてカドモス側が劣勢となっていた。
しかし、カドモスもさるもの、かつてラモンド世界において、最強の一角と呼ばれただけのことはある。とりわけ総旗艦の「デ・マヴァント」は、十数発の砲弾を被弾しながらも、特に損傷らしい損傷もなく、共和国防衛軍に向けて砲撃を繰り返している。「デ・マヴァント」艦首の10インチ三連装砲は、ダストエルスキーの「トワイライトスパーク」で破壊された片側は修理できなかったようだが、残った側で砲火を放ってきており、共和国防衛軍の飛行艇を何隻も撃墜していた。古いといえど腐っても10インチ砲、対8インチ砲程度の装甲しか持たない飛行艇では、耐えきれない。
加えて、艦隊運用もなかなかのものだった。オクサナは戦死したが、まだチャルがいる。簡単には艦隊は乱れない。
ちなみにカドモス側は、計約45隻の共和国防衛軍の飛行艇を撃墜している。アメリアやアルベルトがいれば、この数はさらに増えていただろうが…残念ながら、2人とももうこの世にはいない。アルベルトはバルフォアによって討ち取られ(第8話参照)、アメリアはフィーリアによりあの世へとたたき返された(同話参照)。ちなみにオクサナも、ほぼ同時にシュタールにより斃されている(同話参照)。
「『ツィタデル』の準備急げ!敵は待ってはくれないぞ!」
バルバーナは、敵の砲弾が「デ・マヴァント」の艦橋の窓ガラスを揺さぶるのを少し気にしながら叫んだ。その目の横で、また1隻、カドモスの飛行艇が大炎上を起こして墜落していく。
今のところ、あの突然の奇襲は起きていない。バルバーナとしては、今のうちに「ツィタデル」の準備をし、それと並行して敵の数を減らしておきたかった。
『ボス!「ツィタデル」の準備、後少しでできます!』
テオドロから、通信が入る。
「もうすぐか!全艦、撃ちまくれ!ここからは我々のターンだぞ!」
バルバーナは魔法通信で、味方を励ました。
「なかなかしぶといな」
戦闘の様子を眺めつつ、バルフォアは呟いた。
数では逆転しているのだが、相手は一向に怯む気配を見せない。それどころか、さらなる攻勢に出てきていた。
旗艦「クロスデルタ」の艦橋の窓の外を、赤や黄色の弾幕が何発も通りすぎる。時折、窓ガラスがびりびりと震えるほど、近いところを砲弾が通過していく。爆発音が響き、被害報告が上がって、場合によってはサポート部隊から回復魔法がかけられる。いわゆるダメージコントロールというやつだ。
「艦隊砲撃戦は、派手なんだが、場合によっちゃ決着するのにやたらと時間がかかるんだよな…。遠距離砲撃戦に終始した場合とか、命中が全然望めないし…ん?」
呟きながら戦闘模様を眺めていたバルフォアは、ふと違和感を抱いた。
「あれ…やけに奴らの復活が早くなってないか?」
バルフォアの目から見た限り、空賊団「カドモス」の飛行艇の修理と復活が、早くなっている。これは何かがおかしい。
今日の朝一番の攻撃で、フリゲート護送社…もとい、空賊団「震電」を中心とする共和国防衛軍は、カドモスのサポート部隊に対して甚大な被害を負わせている。
サポート部隊は、前線で戦うレギュラー部隊を補佐し、バフをかけて味方の攻撃力をアップさせたり、敵にデバフをかけて火力を下げさせたり、被弾した飛行艇に回復魔法をかけてダメージコントロールを行い、艇内の応急修理要員と力を合わせて飛行艇を直したりするはたらきをする。そして、レギュラー部隊はサポート部隊による援護があるが、サポート部隊がレギュラー部隊に援護されることはまずない。したがって、サポート部隊がやられれば、レギュラー部隊の飛行艇の復活は遅くなるのである。
つまり、カドモスのレギュラー部隊の飛行艇の復活は、遅くなるはずなのだ。それが早くなっているのはおかしい。
『おいアニキ、奴らの復活早くなってない?』
そこへフィーリアから通信が入ったことで、バルフォアはこれは気のせいなどではないと確信した。
「お前もそう思うか?俺もだ。何かタネがあるっぽいぞ」
バルフォアは、通信モニターに映るフィーリアの顔に話しかける。
『アニキもそう思う?けどタネって何?』
「それがさっぱり分からねえ。そいつが分かれば、対処法を考えることもできるんだが…」
と、この時、通信にフィーリアが割り込んだ。
『そこで一つ思い付いたの。ちょっと聞いてくんない?』
まさかの意見具申である。
「む、何だ?」
バルフォアが尋ねると、フィーリアは一呼吸置いてから、話し出した。
『アニキ。空中拠点っていう可能性、考えられない?』
「!?」
バルフォアは素早くアタマを回した。
空中拠点。それは文字通り、空に浮かぶ巨大な要塞である。あまりに大きいと、空飛ぶ要塞というより空飛ぶ人工島という表現がしっくりくる。
その機能は多岐にわたるが、主なものとして「飛行艇への補給および修理」、「上空固定砲台」、「飛行艇および人員の補給施設」などがある。欠点としては目立つことと、非常に大きいので、レーダーの目をごまかすのが難しいことか。
目立つ、という特性のため、空賊団「震電」では空中拠点は一切使っていない。ちなみにこれ、かなりの異端である。
空中拠点は、持っておけばいざという時の臨時補給拠点になるし、損傷した飛行艇を回収して、場合によってはそのままそこで修理できたりする優れもの。したがって、空賊団だろうと帝国軍だろうと共和国軍だろうと、何かしら空中拠点は持つものである。
しかし空賊団「震電」は、徹底した正体の秘匿を行っているため、この目立つという特性を嫌い、空中拠点は一切使っていないのだ。
このため、「震電」の飛行艇乗りたちは、補給を自由には受けられず、戦闘に際しても飛行艇が致命傷を負えば、まず命が助からないという極限の戦いをしている。
しかし、逆境に勝る教育なし都も言う通り、彼らはその逆境を生き残るために、努力と工夫を積みまくった。その結果、やたらとタフかつ相手を返り討ちにしかねない、最強クラスの空賊団ができたのだが。
このため、バルフォアは「敵カドモスが空中拠点を出してきた可能性」を見落としていたのだ。
「空中拠点か!確かにあり得るな。俺たちのほうが異端で、ほとんどの空賊団は空中拠点を持ってるってのを忘れてたぜ、こんちくしょうめ」
『自己嫌悪は後回しにして。どうするの?空中拠点となると、簡単には潰せないよ』
「ああ。ダットのやつ、さっさとアレ持ってきてくれりゃいいんだが」
向こうが空中拠点を投入してきた可能性が高まった現状、打破の引き金になり得るのは、ダストエルスキーが本社に取りに行っている「アレ」だけだ。
ダストエルスキーが戻ってくる様子は、まだない。
「くそー、これじゃ相手の空中拠点のほうが先に着いちまう…」
バルフォアが呟いた時だった。
「司令!敵、巨大要塞接近!目視で確認しました、レーダーには反応ありません!」
『アニキ、フラグ回収乙。どうやら敵のほうが先だったよ』
クロスデルタのレーダー手とフィーリアが、異口同音に同じ報告を入れた。
もちろん、バルフォアがキレたのは言うまでもない。
「ちくしょうめぇ!敵要塞のやつ、まさかのステルス機能持ちか!ったく、数十年前でステルス機能持ちとか、どんなハイテク技術してやがったんだ!」
キレたバルフォアに、次々と通信が舞い込む。
『こちら銀狼、これはちょっとハードじゃねえか?』
『こちらヘイムダル、これはさすがに厳しいね…』
『海歌、これは守りきれる自信ないよ!』
『共和国騎士団、こうなれば命に代えても…!』
敵拠点の出現に、連携が崩れかける共和国防衛軍。それに便乗してカドモスが一斉砲火を浴びせ、多数の飛行艇が損傷、その一部は撃墜される。
その時、
「うろたえるな!」
バルフォアが一喝した。
「落ち着け、打つ手がないわけじゃない。現在ダストエルスキーが、ある切り札を取りに行ってる。だが、戻ってくるにはしばしかかりそうだ。そこで、こんなこともあろうかと準備していたブツを、今から前線に投入する。準備のため、いま少しだけ耐えてくれ!奴らの好きにはさせん!」
そして、さらなる指示を飛ばす。
「全艦、艦隊陣形をすぐに立て直せ。敵に付け入らせるな!サポート部隊の各艦は、損傷艦艇のダメージコントロールを全力で行え。この戦い、勝ちにいくぞ!」
バルフォアがそう言ったとたん、
『『『応!』』』
一挙に共和国防衛軍の士気が上がる。
「戦闘、開始!」
バルフォアは、高らかに号令をかけた。
「…おや?」
一方の空賊団カドモス、首領のバルバーナは疑問を抱いた。
さっきまで戦列が崩れかけており、こちらの総攻撃で瓦解するだろうと思っていた敵は、崩れるどころか態勢を立て直し、負けじとこちらに撃ち返してくる。
「まだ耐えるか。面白い、そうこなくては!」
もともとバルバーナは、力ずくは嫌いではない。
バルバーナはこの強敵を打ち倒すべく、部下たちに号令をかけた。
「向こうも猛然と抵抗してきてるが、この戦い、もう少しでこっちが押し勝てる!何せこっちには空中拠点があるんだ!いざとなれば、拠点に籠城してでも押し通るぞ、突破口開け!火力集中!」
部下たちはこれに応え、さらに砲撃をかける。
戦いは一段と激しくなりつつあった。
その頃、共和国防衛軍の後方地点の空域には、アマテラス型飛空母艦3隻を主力とする空中機動部隊が展開していた。すでに、艦載機(飛行艇)の収用は完了しており、アマテラス型飛空母艦では急ぎ補給作業が行われている。
その横を、緑色を基調とする船体色で塗装された、1隻の巨大な飛行艇が飛んでいた。この船の名は、エスメラルダ。帝国において、艦隊の突破口を開く盾兼砲台として…第二次世界大戦でいう、イギリス軍の歩兵戦車みたいなコンセプトの元に、火力と装甲の強化を主眼に製造された大型飛行艇である。
しかし、実はこのエスメラルダ、一悶着あった飛行艇であった。デザイン性が最悪すぎたのである。それはもう、エスメラルダの直線的な船体形状と、船体色である緑色を重ねて「バッタ」とか「ネギ」などとあだ名されるほどに。
加えて、いざ運用を開始してみると、実は機動力が割と必要になるということが判明した。しかしエスメラルダは、この必要な機動力を満たしていなかったのだ。
そこで帝国軍は急遽、エスメラルダを改設計。原設計はそのままにして、デザインを一新すると同時に船体外側の形状を工夫して、空気抵抗の低下と若干の軽量化を図ったのだ。結果、改設計されたエスメラルダ(新エスメラルダと呼称された)は、どうにか必要な機動力の最低水準を満たすことになったのだ。
しかしそうなると、帝国軍は今度は旧エスメラルダ、つまりバッタだのネギだの呼ばわりされた方の処分に困る。解体するにも金がかかるし、かといってメンテナンスするにも金がかかる。結局、民間に売り払おうということになった。
しかしさんざんなデザイン性のため、どれだけ値段を安くしようとも買い手が付かず、また困っていたのである。
この旧エスメラルダに目を付けたのが、フリゲート護送社(そして空賊団「震電」)だった。
フリゲート護送社は、格安で売られていたこの旧エスメラルダを次々と買い上げ、様々な分野に転用したのである。
買い上げた船のうち3隻は、性能データの採集をまず行った後、わざわざ解体して船体素材の研究と魔法石の研究に使ってしまった。なので、今は残っていない。
さらに1隻は、「保存用」としてそのままの姿で残っており、3隻は強力な機関出力を生かして工作飛行艇に魔改造された。これらは武装がなくなった代わりに工作用クレーンなどが取り付けられて、もはや原形を留めていない。
そして2隻は、戦闘艦として魔改造を施された。
今、飛空機動部隊に混じって飛んでいるエスメラルダは、そのうちの1隻である。
そのエスメラルダに、バルフォアのいう「ブツ」が搭載されているのだ。
「いいんですね、司令?」
エスメラルダの艦橋では、艦長がバルフォアと連絡を取っていた。
『ああ。結果こそ良かったが、テストで1発しか撃ってない。あんまり使いたくなかったが、こうなりゃヤケだ、派手にぶちかましてやれ!』
「了解しました。では、直ちに用意します」
通信を切り、艦長は号令する。
「ダイレクト・ファイアカノン、発射用意!」
「了解。発射シークエンスに移行します」
号令が艦内に伝達されるや、乗組員は一斉に配置場所へ走る。
このエスメラルダは、艦下方が魔改造され、下部艦橋や主砲が撤去されていた。そして、邪魔なものを取っ払ったところに「ブツ」を取り付けているのである。
「魔力エネルギーダンパー、起動!」
エスメラルダ艦体下に付けられた「ブツ」…巨大な円筒が少しだけ下に押し下げられた。
「薬室へ、魔力注入開始!」
艦下部に集まっていた魔導士たちが、薬室の魔力コンデンサに魔力注入を開始する。魔導士たちが使っているのは、どれも火炎系の魔法ばかりだ。
この薬室は、下部にある巨大円筒へと繋がっている。魔力コンデンサに蓄えられた火炎魔法は、円筒の中でさらに増幅され、強化されるのだ。
「相対着弾座標、測定!」
「転送魔法システム、起動プロセスを開始せよ」
さらに別の魔導士たちが、得意とする転移魔法を発動し始める。
エスメラルダの艦首に据えられた何やら奇妙な箱状の装備が、再び淡い桃色の光を放って輝き出す。
「魔導回路、異常なし。転送魔法システム、起動終了!」
「測定完了。相対着弾座標、入力!」
「エネルギー充填100%。充填完了!」
「回路開通、魔力注入。転送魔法波動、照射準備よし!」
すべての工程が完了した。
と、艦橋に詰めているクルーたちが、一斉にサングラスをかける。もちろんこれも特製品だ。
サングラスをかけたまま、艦長が右手を上げた。
「ダイレクト・ファイアカノン、発射ぁ!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
さて一方、ここは共和国と帝国の国境付近の空域。共和国の首都と帝国の首都を結ぶ最短航路なのだが、近年突如として「不安空域」と呼ばれる空域が、そこにできてしまった。
この空域に踏み込んだ飛行艇で、生きて帰ってきたものはかなり少ない。そしてその帰ってきた飛行艇も、あちこちに損傷を負ったものが大半だった。その乗員たちに話を聞くと、不安空域にて見たことのない翼竜に襲われたのだという。
その翼竜は、目撃証言が多彩であった。ある者は「巨大な翼を備え、王者のごとき風格をもって空を舞う青い翼竜であった」と話す。ある者は、「硬い甲殻で全身を固めた、黄緑色の電撃を放つ蛍光色に光る翼竜であった」と言う。またある者は「吹雪の中で出くわしたその翼竜は、一般に翼竜と聞いてイメージするものとは大きく異なっていた。両の前足の内側に飛膜を持っていて、それを使って飛ぶのだ。体の色は白く、その中でオレンジ色の2本の牙がよく目立つ。そして、口から白い玉を吐き、氷の竜巻を発生させる」と語る。
どれもこれも、証言内容が一定しないので、信憑性が疑わしい。しかし1つ共通するのは、「全く見たことがない」という点である。
さらに、ある1隻の飛行艇の搭乗員たちは、「自分たちは不安空域の深部と見られるポイントまで踏み込み、そこで巨大な浮島を見た」と語った。そして、「そこには、帝国でも共和国でも見られない変わった植物が繁茂し、4足歩行の大人しい草食動物が草を食むなど、この世界のそれとは変わった生態系が広がっていると見られる」と付け加えた。
この証言については、信憑性が著しく低い。なにぶん目撃したのはたった1隻だけなので、データの確実性が保証できないのである。
帝国も共和国もいまだにその全貌を掴めぬ「不安空域」。しかし、それは確かに存在すると飛行艇乗りたちの間で噂となり、迂回ルートが既に出来上がっていた。
その「不安空域」の外縁部。そこには今、猛烈な嵐が吹き荒れていた。
空は血を流したような赤銅色の雲にすっぽり覆われ、雹かと錯覚するほどの大粒の雨が横殴りに降りつけ、視界全面を真っ白に染めるほどの稲光が空を走る。
そんな中、雨や風や雷の音を圧するように、甲高い咆哮が響き渡った。
キィアァァァァァァァー!
♪推奨脳内BGM:「嵐の中で燃える命」♪
そこにいたのは1匹の竜。タツノオトシゴを横倒しにしたような細長い体には、背鰭をはじめとして随所に飛膜がついていた。その飛膜が風に細かく揺れる。白を基調とする体の色は、全体的に神々しい雰囲気を湛えていた。
がしかし現在、その白い飛膜には赤い斑点が多数浮き上がり、竜の心臓があると見られる部分は金色の光を煌々と放っている。そして、竜の青い瞳に宿る眼光は鋭く、一目見て竜が激怒していることが伺えた。
そして、竜の周囲を舞う、無数の飛行艇。
「撃てー!」
帝国第一軍団…元「遥かなる空賊団」のメンバーの飛行艇が、リーダーたるジフィラの号令一下、一斉に砲撃を放つ。弾道安定のための風魔法が付与された砲撃は、見事にアマツマガツチがまとっている風の鎧を貫き、アマツマガツチ本体に命中した。大きな爆炎が発生し、アマツマガツチの姿が見えなくなる。一瞬、「やったか?」と錯覚する光景だ。
しかし次の瞬間、爆炎の向こう側から太い水のブレスが飛んでくる。直撃を受けた飛行艇が2隻、切り裂かれるようにして大ダメージを負った。サポート部隊の回復やダメコンも間に合わず、2隻は急激に高度を下げ、赤黒い雲海に消えていく。
「ちぃっ!」
仲間がまたやられたのに気付き、ジフィラが唇を噛む。
『次は私たちの番!てぇーっ!』
魔導通信から聞こえる同僚…帝国第二軍団、元空賊団「グランディリア」のリーダー、マルテの声。
続いて、第二軍団の各飛行艇が一斉砲火を放つ。こちらは風魔法に加えて、少し重力魔法を混ぜ込み、確実にアマツマガツチに当たるように仕向けていた。
次々と砲弾はアマツマガツチに当たり、色とりどりの爆炎が発生する。爆発音が空に響き、それに混じって悲鳴じみた甲高い声が聞こえる。アマツマガツチがダメージを受け、怯んでいるのだ。
「マルテ、やっぱりあんたの攻撃のほうが通りがいいわね。あたしたちはアイツを引き付けるわ、おもいっきり殴ってやりなさい」
『わかったわ』
素早くやりとりをするジフィラとマルテ。
ところが、
『「あれ?」』
通信が終わったとたん、2人して首をかしげた。
あの龍(彼女らはアマツマガツチという名を知らない)がいない。
「どこへ行った?」
必死に見回すジフィラ。
次の瞬間、強烈な殺気が彼女たちを貫いた。と同時に、歴戦の戦士でもある彼女たちは、その殺気がどこから来るか、感じとる。
「『上だぁっ!』」
気づくや、2人は即座に指示を飛ばした。
「アイツ、雲に潜ってるわ!絶対に何かするわよ、全力で回避運動!」
ジフィラが声を張り上げ、部下に回避を命じる。
『全員、全速回避!』
マルテも珍しく焦った様子で指示を出した。
編隊を崩し、散開しようとする多数の飛行艇。しかし1歩遅かった。
ハンターやっていらっしゃる皆様ならご存じとは思うが、アマツマガツチの必殺技は2つある。
1つが、以前にお見せした「ダイソン」。
そしてもう1つが、今からお見せする技。名を、「大激流ブレス」。
次の瞬間、天空より降ってきた水の剣が、飛行艇をなぎはらった。
いや、正確には文字通りの水ブレスなのだが、細長く剣のような形なのと、金属すら容易に切り裂く高圧のブレスだったことから、「水の剣」と表現したのである。
ブレスに触れた飛行艇はあっさり切り裂かれ、細切れと化して飛び散る。原形を留めぬほど破壊された飛行艇に、ジフィラもマルテも背筋が寒くなった。食らったら、ただごとでは済まない。この一撃で、5隻以上がやられた。
しかも…殺気はまだ止まない。というかもう1発くらい余裕で飛んできそうだ。
「『全艦、各艦の判断で回避運動!』」
期せずして2人、同じ指示を出す。
思い思いに散開する飛行艇、それを狙って一撃必殺の大激流ブレスが飛ぶ。今度は回避運動が効を奏したものの、それでも3隻がこっぱみじんにされた。
「くっ…おのれ…!」
ジフィラが歯噛みしたとき、
『まずい、もう1発来る!』
マルテが警告を発した。
「回避!取り舵いっぱい!」
絶叫するジフィラ、ゆっくり旋回する飛行艇。
次の瞬間、ジフィラの乗る飛行艇のすぐ右舷を水の剣が駆け抜けた。
飛行艇の舷側に付けられているシュルツェンが3枚とも、轟音とともに擊砕される。さらに、右側に張り出していた補助安定翼が根元から切り飛ばされ、雲間へと消え去った。
マルテの警告があと一瞬遅ければ、空の底へ散っていたことだろう。
(危なかった…!)
ジフィラの背筋に鳥肌が立った。
10隻以上もの飛行艇をスクラップに変えたアマツマガツチは、力を使ったためか、ゆっくり雲から降りてくる。しかし、その瞬間をマルテたち全員が見逃さなかった。
「てぇー!」
帝国第二軍団のうち生き残った飛行艇が、仲間の仇だとばかりに全力砲撃を浴びせる。雲間から降りてきたばかりのところを狙い撃ちされ、アマツマガツチが悲鳴をあげた。髭がちぎれ飛び、目に傷が入る。
「くらえ!全艦砲撃!」
その瞬間を見逃さず、ジフィラ率いる帝国第一軍団の生き残りも、集中砲火を放つ。砲弾は次々とアマツマガツチに殺到し、その頭部に集中して命中、爆発した。
キアァァァァァ!
アマツマガツチが悲痛な悲鳴をあげる。
そして…ダメージに耐えかねたように、背を向けて遁走していった。
直後、雨も風も止み、雲は吹き散らされて太陽の光が差し込む。その天候の変化が、決戦が終わったことを雄弁に物語っていた。
「終わった…わね」
『ええ。さ、だいぶ道草を食ったけど、いきましょう。これじゃ、何のためにここまで来たのか分からないから』
ジフィラとマルテは、魔導通信モニターに映る相手の顔を見て、互いに頷き合う。
「『艦隊、前進!』」
2人の号令の下、帝国第一・第二軍団の連合艦隊は、共和国の首都があるリリバット島を目指し、出し得る限りの高速で進行していった。
これ、今年中に終わるかな…とりあえず、努力します。あと3話程度の予定なので…