夢幻震わす、一閃の電   作:Red October

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天クラーの皆様にご愛読いただきました拙作も、いよいよ最終話となりました。ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。

それでは、最終話、ごゆっくりどうぞ!


第15話 嵐の去りし空に、星は輝く

 戦場の空に輝いていた、青白い光が消えていった。

 そして、光が消えた後には…当初空を埋め尽くさんばかりの数を誇っていた空賊団「カドモス」は、影も形も見当たらなかった。あの巨大な空中拠点すら、まるでその存在が夢だったかのように消えてなくなっている。

 

「終わった…のか?」

「ここからでは、はっきりとはわかりませんね」

 

 共和国首都の元首府、国家元首の執務室では、共和国元首のアイリスが窓の外を眺めながら、お目付け役のラルフォードに問う。それに返事をするラルフォード。

 その時、執務室の片隅に置かれた魔導通信機が、入電のコールを鳴らした。ラルフォードがそれに応答する。

 

「はい、こちら共和国元首府の元首執務室」

 

 魔導通信の回線から聞こえてきた声は、バルフォアのものだった。通信機のモニターにもバルフォアの顔が映っている。

 

『その声はラルフォード殿ですな。アイリス陛下のお調子のほどは如何ですかな』

「アイリス陛下なら、もう元気になられて退院なさいました。今私の隣で仕事にあたっておられます」

『左様でしたか。それは何よりです。さて、戦いの結果についてですが、』

 

 そう言って、バルフォアは本題を切り出す。

 

『空賊団カドモスは完全に撃破しました。奴らは我々の前に全滅したのです。共和国は、救われました』

 

 ラルフォードは、モニターの前で安堵の息を漏らした。しかし表情はいつも通りクールなまま…と思いきや、口元がおもいっきりニヤけている。

 

「なるほど…では、カドモスは残党なく滅したと?」

『おそらく。ですが、油断はできかねますので、現在我が社の艦隊が周辺の索敵にあたっています』

「わかりました。では、こちらの軍の生き残りからも、捜索隊の増援を出しましょう。彼らの報告と貴方がたの報告を合わせて、賊を撃滅したと判断し次第、このニュースを全世界に向けて発信します」

『そちらに関しては、お任せします。あと、報酬のほうもお願いしますね』

「かしこまりました」

 

 と、この時、アイリスがラルフォードの横から、通信機に向けて身を乗り出した。

 

「フォル殿、此度の戦い、誠に感謝の念に耐えぬ。我が国を滅亡の縁から救っていただいたこと、心より感謝する」

『おおアイリス陛下、その様子なら傷も完全に治ったようですな。ついでに毒舌のほうも…』

「何を言うか、わらわが毒舌じゃと?冗談も大概にせい」

『そっちは治っていませんでしたな』

 

 国家元首とのやりとりとは思えない内容に、ラルフォードは心の底に失笑を押し隠した。

 

『というわけですので、まだ警戒態勢は解かないようお願いします。共和国万歳』

 

 それだけ言い残して、フォルは通信を切った。

 

「ま、待つのじゃ!わらわはまだ、聞きたいことが…」

 

 あわててアイリスが叫ぶも、時既に遅し。モニターは黒画面に変わってしまった。

 

「アイリス陛下、彼に何を伺いたかったのですか?」

 

 ラルフォードが彼女に尋ねる。

 

「あの時の言葉の続きじゃよ」

「あの時、と仰いますと?」

「我が国の防衛のため、最後まで奮戦いたしましょう、という台詞の続きじゃ」

「ですから、それは気のせいですと申し上げましたでしょう。もしどうしてもお気になさるのでしたら、彼が帰ってきた時に、直接聞けばよろしいのでは」

「ううむ…それもそうか」

 

 ラルフォードにやり返され、アイリスはしぶしぶといった様子で黙りこんだ。

 

「まあ、今はとりあえず、平和が戻ってきたことを喜ぶべきでしょう」

「それもそうじゃ。宴会の準備は任せたぞ」

「はっ、手抜かりなくやらせていただきます」

 

 ラルフォードは、アイリスに深々と頭を下げた。

 

 

 

 その後、フリゲート護送社の飛行艇部隊と共和国騎士団の残存艦による合同捜索では、どこをどれだけ探しても敵カドモスの飛行艇は1隻も見つからず、したがって完全に全滅したと判断された。

 ここにおいて、共和国元首府は「共和国を脅かした空賊団カドモスは、1隻残らず全滅した」と正式に発表した。

 

 共和国全域、特にカドモスによってひどい目に遭わされた地域では喜びの声があふれ、帝国のエドワード皇帝からも祝辞が届けられた。

 また、この事件は「共和国の危機」とタイトルを付けられ、歴史書に記載されることとなる。

 

 そして…フリゲート護送社をはじめ、各地の空賊団、冒険者たちなど、この討伐戦に参加した全ての者に対する大規模な宴会が行われた。

 

 

「…以上、わらわからの感謝の意とする」

 

 宴会の会場となった共和国元首府併設の講堂では、ちょうど今、演壇に立つアイリスが感謝の意を表明したところである。そして、彼女の前には、白いテーブルクロスをかけたテーブルがいくつも置かれていた。

 テーブルの上には様々な色の花が、花瓶にさされて置いてある。そして、それらを取り囲むように、豪華なご馳走が多数並べられていた。しかも、いわゆるビュッフェ形式である。

 これにかかった出費に加えて、共和国政府は飛行艇の修理、新艦の建造、その他いろいろで多額のお金を出しており、この一件だけでものすごいお金をかけている。財政的にはかなりの出費のはずだが…騎士団を指揮する軍人でもあるアイリスは、軍隊の基本法則たる「信賞必罰」を徹底したいらしい。

 

「さて、ここからはややこしい話は終わりじゃ!皆大いに食べろ、飲め!楽しむのじゃ!さあ、それでは皆グラスを持って…飲み物は入っておるか?…よし、それでは、今回の共和国の勝利を祝して、乾杯!」

『『『かんぱーい!!!』』』

 

 全員が、グラスに入った飲み物を天井に向けて突き上げた。そして、グラスを口元に持っていき、各自の飲み物を一気に飲み干す。その後は皆思い思いに散って、食事を楽しみ始めた。

 

 

「かーっ、うめぇ!共和国のメシに、こんなに旨いものがあるとは思わなかったぜ!」

 

 空賊団「銀狼」のリーダー・ガルドールが、そう言いながら骨付き肉にがっつく。

 

「だろ?共和国政府お抱えのコックたちの、ご自慢の料理だぜ」

 

 それに、サイコロステーキを刺したフォークを持ち上げながら、ダット(ダストエルスキー)が応じる。

 

「って、お前食ったことあんのかよ?」

「そりゃあな。フリゲート社の護衛業は、アイリス陛下のお墨付きになるほどの信頼性だし」

 

 ダットがそう言ったところへ、

 

「そうね。私たちも、こいつらが護衛している現金輸送船を襲ったら、丁重にもてなされた(悉く返り討ちにされた)ことがあるし」

 

 空賊団「ヘイムダル」の首領、エスメラが会話に割り込んだ。その手にはパンがある。

 

「なんだ、お前戦ったことあんのか?」

 

 ガルドールがエスメラに尋ねる。

 

「フリゲート社となら、あるよ。力の差がありすぎて、襲ったこっちがほぼ全滅させられるレベルでボコボコにされたけどね」

 

 そう語るエスメラの目は、どこか遠くを見つめていた。当時を思い返しているのだろう。

 

「震電とは?」

「まだだね。まあ、挑んだとしても全滅間違いなしだけど」

「間違いない」

 

 ガルドールもエスメラに同意する。

 

「来るならいつでも結構だぜ。どんな時でも礼儀を持ってお迎えする(全力砲撃で叩き潰す)から」

 

 笑顔のまま、ダットはさらりと恐ろしいことを言った。

 

 

 

 別のテーブルでは、

 

「ちょっとあんた、飲み過ぎじゃない?」

 

 流星隊に入って戦っていた「双刃剣使いの冒険者」ラピスが、チーズをたっぷり乗せたピッツァをつまみながら、心配そうに発言する。その視線の先にいるのは、

 

「うふ♪いいお酒いただいちゃいました♪」

 

 高い剣の技量を持つと有名な飛行艇護衛の女剣士、リューナスである。

 実は彼女は、ろくに料理に手を付けもしないで、さっきから酒ばかり飲んでいるのだ。もっとも、お酒はリューナスの好物で、彼女自身かなりのうわばみだから無理もないが。

 そこへ、

 

「ちょっと!あたしの分の酒、残しといてよ!って、あーっ!この人さっきから八塩折ばっか飲んでるーっ!」

 

 フィア(フィーリア)が悲鳴をあげて割り込んできた。

 

「それいくらすると思ってんの!?めっちゃくちゃ高いんだよ!?うちの社ですら、簡単には入手できないシロモノなのに…」

 

 ド正論を述べるフィア、だが。

 

「少々、酔ってしまいました…」

 

 リューナスは全く聞いていない。それどころか、「酔ってしまった」と言いながら次のグラスに手を伸ばそうとする。

 ちなみに、リューナスが飲んだ酒はこれで38杯目である。その大半が八塩折なのが恐ろしい。どうやら、バルフォアが用意していた八塩折の酒を勝手に飲んだ時に、その味や香りを気に入ってしまったらしい。

 問題は、彼女が飲んだ酒が「八塩折の酒」という、かなりの高級酒だということである。しかも、この酒はアルコール度数がかなり高いのだ。

 

「頼むからそれ以上飲まないで!肝臓いわせちゃうからぁぁぁ!ちょっとラピス、ぼけっと見てないで手伝ってよぉ!」

 

 フィアとラピスは、あわてて酒からリューナスを引き剥がしにかかった。

 

 

 

 また別のテーブルでは。

 

「ちょっとあんたら、何してんの?」

 

 空賊団「海歌」のメンバーの1人である中年の女性が、奇妙な光景を見ていた。それは、テーブルの影に隠れるようにしゃがんでいる、何人かの男。いずれも、「海歌」のメンバーである。

 

「しーっ!しーっ!」

 

 声をかけられた団員の1人が、あわてて唇に指を当てる。

 

「何してんの?」

 

 テーブルの影にかがみこんだその女性が、再度同じ質問をする。すると、壮年の男性団員が「アレを見ろ」と言わんばかりに指をさした。

 女性は、その指の先を見て…彼らが何をしているのか理解した。

 

「なるほど、そういうことね」

 

 彼らの視線の先にいるのは、「海歌」の首領シーシェ。料理を頬張っているのだが、彼女の頬は何故か紅潮していた。そして、視線をチラチラと別のテーブルに送っている。

 そのシーシェの視線の先には…

 

「で、そいつが力を解放したとたんに、ものすごく大きくて強力な竜巻が発生して!」

「そうそう。うちの飛行艇が何隻も沈められたのよ」

 

 酒に半分酔ったジフィラとマルテに絡まれているフォル(バルフォア)がいた。何をしているのかというと、フォルは「不安空域」でジフィラとマルテが出くわした謎の竜の話を、聞いていたのである。が、フォルが声をかけた時点で2人とも半分酔っていたため、フォルは必要以上に絡まれる羽目になってしまったのだ。

 

「なるほどね」

 

 その様子を見て、何が起きているのかを完全に理解した「海歌」の女性団員は頷く。

 

「うちのお頭、バルフォアさんに一緒に食べようって声かけようとして、なかなかかけられずにいるのね?」

「そういうことさ。ま、あの様子が可愛いから、俺たちにはこれはこれでメシウマなんだがな!」

 

 壮年の男性団員がそう言うと、他の団員たちもうんうんと頷く。

 

「全く、あんたらね…お頭いじりは大概にしなさいよ」

 

 半分呆れながらも、女性団員はそう言うのだった。

 

 

 

「んで?そこからどうなったんだ?」

「そうそう、あいつがいきなり消えたのよ」

「消えた?まさか、透明化したってのか?」

 

 一方、当のフォルはジフィラとマルテの話に聞き入っている。シーシェの様子には気付いていない。

 

「違うの。その場面をはっきり見てないから、詳細はわからないけど、たぶんものすごい速度で雲の上に登ったんだと思う」

「何故、そうと言えるんだ?」

「雲の中からあいつ、とんでもない高圧の水をぶっ放してきたのよ」

 

 その時のことを思い出したのか、ジフィラの顔は若干青ざめた。

 

「そう、それはもう、水というよりは水の剣って感じだったよ。それであっさり飛行艇を両断するんだし」

 

 マルテも、声が震えている。ふだん冷静なマルテにしては珍しい。よっぽどのものだったのだろう。

 

(まあ、あの攻撃じゃあ無理ないか。俺だって、ヒイコラ言いながら緊急回避してたし、いざって時にはジャスト回避を駆使してたもんな)

 

 ジフィラとマルテの話にあった、竜の特徴と攻撃方法から、フォルは2人が出くわした竜は「嵐龍 アマツマガツチ」だと断定していた。

 赤黒い雲で空を覆われた、たいへんな規模の大嵐。その中を泳ぐように飛ぶ竜。全身は白っぽく、体のあちこちに白いヒレのような膜があるが、翼といえる部位が見当たらない。その中で、頭部にある上に向かって伸びる、2本の扁平な黄金色の角が目立つ。そして、風を操って飛行艇を引き寄せて大回転で吹き飛ばし、竜巻を発生させ、口から球形の水ブレスや「水の剣」と表現されるほどの高圧の水ブレスをもって、飛行艇を蹂躙する攻撃。

 

 どう見ても、モン◯ンのアマツマガツチである。

 伏せ字が意味を成していない?ま、お偉いさんがこんな隅っこの小説なんざ見てるわけがないから、へーきへーき。

 

(ついに古龍までいることが判明したな。まあ、ブラキだのナルガだのいる時点でなんとなく予想はしてたけど。しかし、レウスやゼクスだけならともかく、まさかよりによってアマツとは…飛行艇との相性最悪じゃねえか)

 

 これまでにフォルたちは、何度かあの「不安空域」に踏み込み、そこにあった浮島を調査して多数の品物を秘密裏に持ち帰り、研究している。だが、今回の事の発生により、あの空域に手を出す時にはより一層の注意を払わなければいけないな、と強く感じたフォルであった。

 

 ちなみに、2人からフォルが解放された後、シーシェはみごとにフォルと席を共にすることができた。しかし、シーシェの顔が終始赤くなっている理由には、最後までフォルは気付けなかった。

 その様子を観察していた「海歌」の面々(なお、ちゃっかりシーシェの妹ミーシェが混ざっている)は、いつにも増して赤いシーシェの顔と、それに気付かないフォルの朴念仁ぶりを肴に、旨い酒と料理を楽しんだのであった。

 

 その後、宴会に参加したジャクリーとナルのショーやミーシェの歌の披露などで会場は大盛り上がりを見せ、夜遅くまで続いた宴会は解散した。

 

 

 

 解散した後、元首府のある一角のテラスで、フォル(バルフォア)はただ1人、星空を見上げていた。大気汚染もろくにないこのラモンド世界は、空気がかなり澄んでおり、まだ電気の明かりがそう多くは普及していないのもあって、星空がとてもきれいなのだ。まさに「満点の星空」という表現が相応しい。

 

(この事件は終わったな。だが…)

 

 フォルは1人、考え込む。

 自分たちは、もともとこの世界にはいない存在だ。そして、どうやったらこの世界を離れ、もといた世界…現代の日本に帰れるのか、皆目見当もついていない。

 

(今のところ、どうやったら日本に帰れるのか、という方法についてはさっぱりだ。この戦いが終わった時には、何かしら手がかりが得られるんじゃないかと思ってたが…)

 

 だが、悩んでばかりでは何も得られはしない。

 

(どうやら、まだ動かなければいけないようだ。金はなんとか溜まってきたから、少しずつでも調査範囲を広げていくか。不安空域のことも気になるし)

 

 1人、決意を新たにするフォルであった。

 

 

 

 これからも、フォルとその兄弟、ダットとフィアの模索は続く。もといた日本に、なんとしても帰るために。




はい、以上をもちまして拙作は完結となります。ここまでご覧いただきまして、本当にありがとうございました!

活動報告にアンケートを載せていますので、よろしければそちらのほうもご回答よろしくお願いいたします!
ついでに、私の他の作品もお読みいただけると有難いです(宣伝)

それでは皆様、またどこかでお会いしましょう!
重ね重ね、お読みいただきありがとうございました!

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