チートな能力を使って、世界を救う筈が……!(改訂版) 作:いんてぐら
ここ最近、日差しが強く、皆様、私のように熱中病で倒れぬようにお気をつけください。
では、第一話 どうぞ~。
――一九七七年六月一日 日本帝国 帝都京都 第一帝都病院――
時刻は明け方近く。一台の乗用車が猛スピードで第一帝都病院の敷地内に進入し、猛烈なブレーキ音と焼けたゴムの匂いを撒き散らしながら、正面玄関前へと滑り込んで来た。
「車を任せたぞ!」
色鮮やかな赤い斯衛服を纏った男が蹴飛ばすようにドアを開き、正面玄関へと飛び込んでいく。
「ちょっ……た、た……大尉ぃぃ……うぷっ……おぇぇえええ!」
助手席に座っていた若い青年がよろよろと車から這い出た直後、彼の胃がついに決壊した。猛烈、と言っていいほどの吐瀉物をアスファルトに撒き散らした。
彼はよく持ったほうだった。元々、乗り物に酔いやすい体質な上、ここまで来るまでに体験した常軌を逸脱したドライビング――信号無視、時速一〇〇キロを超えてのドリフトなどなど――の最中に吐かなかったのは、褒め称えるべきだろう。
広い玄関ホールを抜け、静まり返った病院の廊下を駆け抜ける男の名は有栖川 和正。数多ある武家の代表格である[五摂家]の一つ、[九條家]の流れを汲む有力武家、[有栖川家]の現当主であり、斯衛軍の大尉でもある。
一分、一秒でも速く、妻に会いたい。今の和正を支配しているのはその感情だけだった。エレベーターを使わずに、階段で一気に七階まで駆け上がり、『廊下は走ってはいけません』と言う張り紙をこれ見よがしに無視して、妻の病室へと向かう。
「京子!」
病室のドアを勢いよく開けるなり、和正はドアに寄りかかり、笑みを浮かべた。小さな病室。白いベッドの上にはまだ生まれて間もない赤子を優しく抱く妻の姿があった。
「大和。父上が来ましたよ」
産後の疲れが見えるが、それ以上に慈しみに溢れた妻の顔は、何より美しく、脳裏にしっかりと焼きついた。
「お……おおっ……」
よろよろとおぼつかない足取りでベッドに近づく和正。大きく鼓動を繰り返す心臓。待ち望んだ息子。この時を、この瞬間をどれ程待ち焦がれていた事か。そっと息子の顔を覗く。小さな手、小さな体、小さな顔。口元は自然と緩み、微笑んだ。
「元気な子だな……」
「あなたに似たんですよ」
それは至福に満ち溢れた光景だった。おそらく誰もが惜しみない祝福の声と拍手を上げるだろう。
しかし――。
(クソジジイぃぃぃぃ! 一体全体どういうことだぁぁぁ!)
有栖川家の嫡子、有栖川 大和の内では、そんな怒りの声が渦巻いていた。
――一九八〇年八月二十五日 日本帝国 帝都京都 有栖川家私設道場――
――兎にも角にも、このクソジジイには言いたい事が腐るほどある。
噴火寸前の活火山の如く、煮え滾る怒りを抑え込みながら、有栖川 大和は胸中で呟いた。彼の前には、白髪、白髭の老人が立っており、その顔は非常に気まずそうで、大和に視線を合わそうとしていなかった。
「さて……弁明を聞きましょうか。神様」
精神年齢は二十代前半だが、身体年齢は三歳であるから、見上げる形で睨むわけだが、その顔はとても三歳児とは思えぬ、素敵な笑顔であった。口元が引きつり、こめかみにはこれでもかと言うぐらいの血管が浮いているが。
「う、む……その……いや、本当に申し訳ない」
頭を下げ、ぱんっと手を合わせて謝罪する神様。妙にその仕草が板についているのは気のせいだろうか。
「謝罪は結構です。どうしてこんな事になったのか、理由をお聞かせ願えますか。神様?」
「――怒っとるのか?」
その言葉に大和はにこりと笑った。
「怒っていないとお思いですか? あぁ、なるほど。神様。あなたはその程度の心も機微も、心遣いも理解できないのですか? そりゃあそうですよね。何て言ったってあなたは神様だ。有象無象に存在するちっぽけな人間の心情なんて理解する必要は無いわけですからねぇーーー……」
腕を組み、痛烈な皮肉を口にする大和に対し、神様は「むぅ……」と苦しそうに唸った。
それもその筈である。本来のスタートは二〇〇〇年の横浜基地周辺。さらには様々な兵器やチート技能を使う為の[拠点]があるはずなのに、何故か赤ん坊から始まり、[拠点]は使えず、チート技能も大和自身に直接反映する[アビリティ強化]しか使えない始末。
神様のミスで死んで、世界の救済というとんでもない役目を背負わされた挙句、様々なところで不始末、不手際を連発している相手に、怒るなと言うほうが無理な話である。
「い、いや、あの、その……本当に申し訳ない。こっちでも何故、こうなったのか原因を究明しておるところなのじゃ。どうやら[外部]からの干渉があったようなのじゃが、それがよく分からん代物で……」
「言い訳も結構。やり直しを要求します」
「……無茶言わんでくれ。そんな事、出来るならとっくにしておるわい。こっちにして見ても、この[世界]は重要じゃからな」
「……じゃあ、せめて[拠点]を使えるようにしてください。このステータス画面に並ぶ魅力的な項目を使わせてください」
大和が指をぱちんっと鳴らすと、彼の直ぐ傍でRPGでよく見かけるキャラクターのステータス画面が現れた。
左側には大和の詳細なデータ。右側には[アビリティ強化]、[拠点強化]、[兵器開発]、[素材開発]などなど、実に興味をそそる項目が並んでいる。
「もちろんじゃ……と言ってやりたいところなんじゃが、それもシステムの誤作動のせいで、どうにもならんのじゃ。いや……本当にこんな事は初めての事なのじゃ。今までこんな事は一度も無かった。ましてや[外部]からアクセスして、干渉できる存在などいる筈がないのに……」
「……なるほど。つまり、サポートすると言っても、そのサポートできるのは自身の能力強化のみ、と言う事ですか……あーほんと、オレが元の体なら即刻、有無を言わさず、なんの躊躇いもなく、ボコボコにしていますねぇ……あっははは……」
ほとんど無表情で渇いた笑い声を漏らす。なるほど。つまり目の前のご大層で上品そうな神様はサポートをするといっても、サポートせず、不手際、不始末、邪魔しかしていない敵だったというわけだ。
「そ、そう怒らんでくれ……と、言うのは無理な話じゃな。うむ……その……お詫びになるとは思っておらんが、いくつかの技能をお主の存在情報に書き加えておいた。見てみるがよい」
大和は展開しっぱなしのステータス画面に視線を落とし、自分が取得しているアビリティを確認した。
操縦技術:C、機械技術:Cに続き、肉体強化:D、設計・開発:D、直感:Aが付与されていた。
「……能力を付与してくれた事には感謝します。ですが、質問がまだあります。確か[操縦技術]、[機械技術]、共にS判定を貰ったはずなのに、どうしてC判定まで落ちているのでしょう?」
「……」
神様が視線を横にずらした。OK、つまりここにも不具合が生じていると言う事か。大和は数回頷いた。
「あっははは、神様。今日から名前を改ざんして、駄神様って名乗ったらどうですか? いやいや、もう神じゃなくて、駄×様とかもでいいんじゃないですかね?」
「お主……容赦ないのぉ……」
神様も怒るに怒れなかった。完全にこちら側の不手際であるため、反論の余地がないのだ。
しかし、本当に謎だ。と神様は心の中で呟いた。どうしてこうなったのか、まったく見当が付かない。幾度も幾度も繰り返し、調整を行ってきた。一度も不具合は発生しなかった。なのに何故、今、彼の場合だけこうなったのか。
「と、とにかく原因が分かり次第、今回の不始末分も合わせて主をサポートさせてもらう。それまでは何とか頑張ってくれぬか?」
じっと神様の目を睨む事数秒、大和は大きなため息を吐いた。そのため息の中に様々な感情があったのは言うまでもない。
「……了解。何とか頑張ってみます。ああ、本当! まったく! 仕方なく! この状態で頑張ってみます。ええ。もう恨み言やら何やら、言いたい事が腐るほどありますが、今更何を言っても仕方ないですからね。はい、本当、もう全然気にしていませんから。神様も気にしないでくださいね。ああ。失礼しました。駄×様のごゆっくり、自分の不始末が今後の歴史にどれほどの影響を与えて、どれほど遠回りさせる事か、じっくりお空の上から見ていてくださいね」
「……その……本当、すまんの。では、な」
神様の姿が空間に溶け込んでいき、その姿、気配は完全に掻き消えた。
夏の風物詩である蝉時雨が鳴いている。格子状の窓から見える空は、気持ち良いぐらいの快晴。
大和は軽く肩をすくめた後――。
「クソッタレぇぇぇええええええ!」
ぐつぐつと煮えたぎっていた怒りのマグマを吐き出した。
こうなってしまっては仕方がない。状況に文句を言っても何も変わらないし、時間の無駄だ。状況が最悪なら、その状況を変える行動を起こそう。
大和はどちらかと言えば、行動的なほうだった。もちろん、思案もするし、考察もするが、思考の迷路に一歩でも突入すると「まぁ、当たって砕けろだ」と言って、行動を起こして迷路を突破しようとする。
と、言っても今回の件に関しては、考える予知はない。自身に還元できる[アビリティ強化]しか使えないのだから、これを強化していくしかない。[アビリティ強化]は元より、チート能力全般を利用するにはpt(キャピタル)が必要である。このptは、大和が何かしらの経験や知識を蓄える事で増えていくので、大和はとにかく行動した。母親のお手伝いをしたときでも、ptが増えたときは、一体、何を基準にしているのか心底知りたくなったが。
と、言ってもまだ三歳の身。親がまだ過保護の状況で出来る事は少なく、せいぜい遊びと言う名の運動と、本を読むのが関の山であった。
運良く、有栖川家には書庫の類があった。これは母親である京子が、読書家であったのが起因であるが、理由は他にもある。この時代、と言うかこの世界ではBETAと言う強大な敵がいる為に、科学技術などが軍事方面に傾向し、また経済的な余裕もない為に、大和の前の世界と比べて、娯楽品が少ないのだ。その為、思いの他、自宅に書庫があるのは珍しい事ではない。
「まるでちょっとした図書館だな」
最初に書庫へと入室した時、大和は口笛混じりにそう言った。壁に這うように本棚が置かれ、真ん中には読書用と思われるテーブル一式が置かれている。蔵書の数は五百冊以上は軽くあるだろう。
「源氏物語、白痴、沈黙……文学系が多いけど……おっ、これは斯衛軍の軍事教練本か?」
手にとって見る。分厚い為か、重い。大和はテーブルまで運んで、開いて見た。
「――OK。さっぱりくっきりかっきり分からん……」
どうやら戦術や指揮関係の本らしい。大和は肩をすくめて、本を本棚に戻し、自分でも理解出来そうな本を探した。
「夏目さん、太宰さん、ドストエフスキーさん……うーん。こちら側に来なければ一生、縁が無かったな……おっ!」
大和の目がある本に止まる。タイトルは[太平洋戦争の兵器]。これには興味がそそられた。厚みはそれほどなく、ぱらっとその場で開いて見ると、絵もあって、文章もそれほど難しくない。どうやら一般大衆向けに刊行されたものらしい。
「ん……あれ?」
妙な違和感を感じた。内容がするっと頭の中に入ってきて、瞬時に理解できる。絵を見ただけで、その構造を瞬時に理解できるのだ。おかしい。自分はこんなに兵器に詳しかっただろうか。
「ああ……なるほどね」
しばらく虚空を見上げた後、合点がいった。おそらくはこれはチート能力の一つ、[機械技術]が作用しているのだろう。
「ふ~ん……なるほどね。こうなってくると、指揮やら何やらも早急に上げておいたほうがいいなぁ」
チート能力を体感できて、ご満悦の大和。分からない勉強は面白くないが、分かる勉強はこんなに面白いとは。
とりあえず速読の勢いでそれを読み終えた後、また別の本を物色し始め――大和の手が自然とある一冊を引き抜いた。
「BETA概論……」
この世界における人類の最大の敵にして、大和の目的を達する為の最大の障害。
「[敵を知り、己を知れば、百戦危うからず]ってか……まぁ、知っておいて損は無いな」
テーブルに座り、表紙を捲り、文章を追っていく。少々回りくどい、と言うか難解な文章で書かれている部分があったが、それでも大和はその本の世界に埋没していく。
BETA。
正式名称は[Beings of the Extra Terrestrial origin which is Adversary of human race(人類に敵対的な地球外起源種)]である。
人類が、BETAと邂逅、否、接敵したのは、一九六七年の国際恒久月面基地[プラトー1]の地質探査チームが始まりである。BETAの存在自体は、この九年前の一九五八年、火星探査衛星[ヴァイキング1]にて確認されていた。発見当時こそは、誰もが地球外生命体の存在に驚き、新しい可能性に夢を広げていたが、それも長くは続かなかった。ある意味では、その発見こそこれより長く続く、BETA戦争の開幕でもあったからだ。
人類とBETAの壮絶な戦いが始まる。地質探査チームとBETAの接敵、[サクロボスコ事件]を始まりとして、以後、一九七三年ごろまで月面での戦闘が開始される。これを後世、[第一次月面戦争]と命名される。
そして一九七三年四月十九日。BETAの地球侵攻、それに伴う[第一次月面戦争]の敗走。当時の月面総軍司令官キャンベル大将が戦中に残した言葉がある。
「月は地獄だ」
それは月面での戦争が、地球上で行われたあらゆる戦争よりはるかに苛烈で、過酷で、凄惨なものであったのか示す言葉であった。
改めて見ると、すごい歴史と言うか、世界だよな、と大和は胸中で呟き、ページを捲る。BETAの最大の武器は、宇宙空間でも適応出来る能力でも、驚異的な生命力でもない。数である。圧倒的な数。質を無視する物量。際限なく投入される軍団。無限の持久力を持つ相手と戦うと言うのは、どれほど肉体的、精神的に疲弊させるものか。大和には想像も付かなかった。
「……」
と、入り口から、そんな大和の姿を見つめる影がある。母親の京子である。
(何を読んでいるのかしら……)
声を掛ければよいのだが、背中からでも本に集中しているのが分かるので、邪魔するのは気が引ける。
初めての子ども。初めての育児。その大変さは死んだ両親からも、友人からも聞いて覚悟していたが、大和はその大変さがまったくない。つまり、手が掛からなかった。見た目は三歳だが、中身の二十代の青年であるのが理由だが、京子がそんな真実を知る術は無い。
有栖川家の使用人達は、そんな大和を「大人しい子」と評し、また「武家の嫡子としては少し不安ですね」とも言う。そして京子には「手が掛からない子でよかったですね」と告げるが、当の本人は――。
「ちょっと寂しいわ……」
と、答えるのである。
京子にしてみれば、待望の第一子。手が掛かるぐらいがちょうどよいし、何より息子の事を心底、愛している。もっと甘えてきてほしいと思うが、大和はあまり甘えてこない。それが彼女の呟きの原点であった。
しかし、そんな寂しさから開放される日がやってくる。この一年後、京子は第二子を生み、本当の意味での子育てに奔走するのだ。
第二子は女。有栖川 朝陽と名付けられたこの娘は、大和と言う兄を持った為に、数奇な運命を辿る事になる。
また、[有栖川家の乱]と呼ばれる事件の中心人物となり、数多の英傑を生み出す切欠となるのであった。
――一九八六年 四月十日 日本帝国 帝都京都 有栖川家中庭――
中庭に植えられた樹齢三十年以上の桜の木が、文字通り、我が世の春を謳歌していた。
日本の国花、桜。大和にはそれを愛でるだけの感情を持っていたが、自分に向かってくる黒髪の天使の存在が、その感情を消失させていた。
「にいさまぁー」
てててっと、腰まで伸びた髪を揺らしながら、愛らしく走って来る妹を抱きとめる。その瞬間、大和の顔がこれでもかと言うぐらいの歪んだ。恍惚。その顔を表現するなら、この二文字に限る。
「にいさま、にいさま」
「ん、どうした朝陽?」
「よんでみただけです!」
ぱぁあと花も恥らう笑顔で、元気良く答える朝陽の顔を直視してしまったが為に、大和は慌ててにやける口元と、吹き出そうな鼻血を抑える為に顔を背けなければいけなかった。
我が妹に、自分のだらしない顔を見せるわけにはいかない。いや、それ以前に嫌われたら洒落にならなし、自分は自殺してしまうだろう。
朝陽は実に愛らしい少女だった。今年で五歳になる朝陽には、既に多くの男達を虜にする要素が見え始めていた。
艶やかな黒髪に白磁のような白い肌は、舞い散る桜によってさらに際立っていた。目が大きく、にこにこと屈託無く笑い、また人懐っこい性格は、大人達に問答無用の保護欲を掻き立たせる。
現に大和は完璧に朝陽の虜になっており、「朝陽の為ならばー!」と言って、色んな無茶を起こしている。また父親の和正の熱心ぶりは大和以上で、朝陽が熱を出した時など、斯衛軍基地から戦術機で駆けつけようとして、大騒ぎになったぐらいだ。
「私の社会的地位など、娘の前ではゴミ以下だ!」
と、豪語したときもあった。
また、父と息子でこんな会話が交わされていたりする。
『父上。朝陽は母上に似て美人になるでしょうね』
『うむ。将来が楽しみだな』
『将来……』
『将来……』
『……父上』
『言うな息子よ。悲しいが、避けては通れぬ道だ。いずれはそうなってしまう。そう……非常に残念で憎らしく、この世の全てを恨んでしまいそうだが、仕方が無い事だ。故に、私とお前がしっかりとそれを見極めようではないか』
『そうですね。口に出すのも嫌で嫌で嫌で嫌で嫌で嫌で嫌で嫌で仕方ないですが、朝陽のおっt……となるべき殺意の対象には、慎重に定めなければいけません』
『ああ。そうだな。まったくそうだ……最低でも、私とお前を倒せるぐらいでないと、な……くっくっくっ……』
『ええ。本当に最低でも、ですがね……けっけっけっ……』
この誓いは、武家の間で約束を違えぬ時に行われる金打(きんちょう)を持って、誓い合った。金打とは、刀の刃や鍔で互いを打ち合わせ、その証とした行為の事である。
「大和。父上が呼んでいますよ」
縁側から母親の呼ぶ声がする。
「にいさま。どこにいくんですか?」
「ん、ちょっと見学にね。三時間ぐらいで帰ってくるから、帰ってきたらまた遊ぼうな。それまで朝陽は良い子でいられるよな?」
「はい。あさひはよいこでいます」
また花も恥らう笑顔。あふんっと大和は喜悦に満ちた呟きを漏らし、非常に名残惜しく感じながら、玄関へと向かった。
(うぉぉおおおおおおおおお!)
その空間に入った瞬間、大和のテンションは一気に頂点へと達した。様々な機械音がハーモニーを奏でる広い空間。鼻腔には嗅ぎ慣れないオイルの匂い。左右の壁にはずらりとハンガーが並び、色取り取りの戦術機が並んでいる。帝国斯衛軍専用戦術機 TSF-TYPE82/F-4J改[瑞鶴]である。
「どうだ大和。念願が叶った感想は?」
「最高です父上!」
そう答えて、大和は改めて格納庫を見渡し、人類の刃とされる戦術機に注目した。
戦術機。
正式名称は戦術歩行戦闘機と呼び、対BETA用として開発された人型兵器である。航空支援がない状況下での戦闘を前提としており、市街地や山岳地帯、そしてBETAの巣であるハイヴの中での三次元機動を可能としている。
そして、帝国斯衛軍が運用している[瑞鶴]は、世界初の戦術機である米国マグダエル社のF-4[ファントム]をライセンス生産したTSF-TYPE77[撃震]の強化改修型である。
近接格闘性能を中心に強化されており、世代的には一・五世代に分類され、搭乗者の地位によって、色分けがされている。最上位が紫、次に青、赤、黄、白、黒の順である。
大和は父親の和正に連れられて、和正が乗っている赤の[瑞鶴]の前に来た。十人近くの整備兵が機体に取り付き、メンテナンスハッチを空けて、整備を行っていた。
「川鷺」
整備兵達に指示を飛ばしていた男が振り返った。
「少佐。っと、この子が……」
「ああ。私の息子の大和だ」
「有栖川 大和です。よろしくお願いします」
頭を下げ、一礼する。
「はじめまして。父上の機付長をしている川鷺だ。大和君。君には一度会って見たいと思っていたよ」
川鷺は人の良さそうな笑顔を浮かべた。大和は知る由はないが、大和が生まれた日に車を回して、和正の常軌を逸したドライビングの被害者になった人物でもあった。
「君の自慢話はよく聞いているよ。やれ息子は天才だ、息子は私以上の衛士になるだの……特に酒が入った時なんかは、そればっかりしか話さなくてうんざりした事もあったよ」
「おい、川鷺。余計な事を言うな」
若干、照れ気味の和正。川鷺はくくっと笑い声を漏らした。
「これはこれは大変失礼致しました少佐殿。整備のほうはあらかた終わりましたので、どうぞご自由に見学してもらって構いませんよ」
「すまんな。大和。自由に見学していろ。私は川鷺と少し話がある」
「はい!」
大和は[瑞鶴]の足元まで歩き、その装甲に手を触れてみた。冷たい。そして言い様の無い高揚感がぞくぞくと全身を駆け巡ってくる。
(お台場のガン○ムを見た時も興奮したけど、こいつはまったく違う。本当に……迫力が違う!)
ごくりっと喉が鳴る。目の前にあるのは、見世物でも飾り物でもない。本物の兵器として存在している。
今度は後ろのほうへと回りこみ、戦術機の機動性を支える最も重要な部分である、跳躍ユニットに注目した。
(確か、戦術機のエンジンは、ジェットエンジンとロケットエンジンのハイブリットだったよな……いや、なまじ知識があると、これがいかに凄い構造なのかが分かるから……ってか、最初のこの構造を考えた人は本当、天才だよなぁ……)
まぁ、知識と言っても、反則技みたいなものなんだけど、と心の中で付け加える。
(どの道、BETAを相手にする以上、戦術機の強化は必須条件だからな。ソフトにハード両面から改良して……その為のいくつか使える技術やら素材やらも考えておかないとな……でも、しかし……)
今はこの高揚感に身を任せていたい。大和は口元に笑みを浮かべて、[瑞鶴]の勇姿を見つめた。
いかがだったでしょうか?
もし、誤字脱字を発見された方はご一報ください。
後、一言でも良いのでご感想をお待ちしております。
では、皆様。夏本番、水分補給をこまめに取ってください。
それでは次の更新で。いんてぐらでした。