チートな能力を使って、世界を救う筈が……!(改訂版)   作:いんてぐら

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……何か気づいたら1/144不知火のプラモを買って、完成させたいんてぐらです。

本作品は言うまでもありませんが、いんてぐらの妄想がたんまりとふんだんに取り入れられています。原作内容を改ざんした内容も多々ありますので、ご了承ください。

では、私の前置きなどこのぐらいにして、第三話、どうぞ~


第三話 開幕 国産戦術機開発と武家、そして少女

 ―― 一九九三年三月十五日 日本帝国 光菱重工東京本社 第参会議室 ―― 

 

 

 大陸の戦線から帰国し、前もって決まっていたポスト――帝国陸軍技術廠第一開発局戦術機開発室室長に就任した巌谷 榮二少佐は、机の上に広げられた戦術機の改修案とその設計図に目を奪われていた。

手に取り、隅々まで視線を巡らせる。線を追い、形を捉え、想像する。口元を緩むのが抑えられない。素晴らしい。設計図の段階でこれだ。もはや「見事」としか言い様がない。

やはり間違いではなかった。彼はこの先の戦術機開発に必要な人材だ。

「おい……これを三日で書き上げたってのか? 冗談だろう?」

「はい。それが冗談じゃないそうです……」

「嘘だろ……ここの関節部分の構造なんて……あんなガ……少尉殿が思いついたってのか?」

巌谷の部下に加えて、光菱重工の戦術機開発チームの技師達もその設計図に心奪われ、そして愕然としていた。傍にいた友人や仲間とひそひそと話し合う。彼らは間違いなくそれぞれの分野で一流と評してよい技師ばかりである。しかし、彼らの前に示された設計図は、その一流の技師達を唸らせるだけの革新的で、それでいて完成度の高い理論と新技術が組み込まれていたのだ。

「ふ……ふふっ……こいつは凄ぇ。俺のありとあらゆる場所が滾ってきやがる。どうだい、有栖川中尉。今晩……突き合わないか?」

「字が違う字が違う! と言うか、近づかないで! ネクタイを緩めるな! 何でアンタがいるの?! アンタは違う世界の住人だろう!? あのジジイの嫌がらせかぁぁ!」

その設計図を見事に描ききった一人の少年、有栖川 大和中尉は、酷く怯えた形相で巌谷の腹心の部下である安部 高和整備主任に言い寄られ、部屋の隅まで退避していた。

 

 時は一九九三年三月二日。有栖川 大和は巌谷 榮二と共に日本の大地を踏みしめた。本来なら大和が帰国するのはまだ先の話であったが、大和が長年、思いついた技術や理論を纏めたノート(通称大和ノート)の内容を見た巌谷が、そのあまりにも具体的で現実的、そして革新的な技術の数々を絶賛し、日本帝国の悲願である戦術機開発に参加させようとしたのだ。

 

 上司である新見 恭介少佐、そして大陸派兵部隊司令部に連絡を取り、数日後、大和の帰国が決まったその夜、ソード中隊の面々が盛大な宴を催した。この時の宴を大和は生涯、忘れる事はなかった。それは最高の部隊であるソード中隊メンバーが勢ぞろいした、最後の宴になってしまうからだ。

 

 多くの負傷兵、そして任期が終わった兵士達と共に、大和は京都の舞鶴港に到着した。そして休む間も無く、帝国陸軍舞鶴基地に用意されていた輸送機で東京へ飛び、国防省へと向かった。国防省の会議室には、日本帝国軍次期主力戦術機開発計画(TSF-X計画)に関わっている政府高官、軍の高級将校、そして日本の戦術機開発を進める三大メーカーの富嶽、光菱、河崎の開発班が集まっていた。

居並ぶ高官に一流技師達。不審な視線と奇妙な圧迫感を感じつつ、大和は今回、発表する技術を公表した。

 

 発表した技術は計四つ。

 

一つ目は新素材の発泡金属装甲。現在、戦術機に採用されている装甲材質と同等の性能を持ちながら、非常に軽く、また加工し易く、生産コストも安い。また生成方法を変える事で、さらにその性能を強化することが出来る。

二つ目は戦術機の骨格となる駆動式内部骨格構造(ムーバブルフレーム)。戦術機の基本構造として、関節などの一部分を除いて、基本的にはモノコック構造を採用している。モノコック構造の利点として、堅牢な構造、内部スペースの確保や大量生産に適しているが、デメリットとして、関節部分に多大な負荷がかかり、そして深部のパーツを交換する際に、周辺のパーツを分解しなければならず、整備に手間がかかる。駆動式内部骨格構造を採用すれば、少なくとも現状の戦術機よりもはるかに可動性や運動性、そして整備性の高い戦術機が生み出せる。大和がこれを採用した理由はただ、戦術機のスペックアップだけではなく、根本的な技術力アップを目論んでことである。

三つ目に、原作でも登場した新OS。白銀 武考案、香月 夕呼開発のXM3を元に、大和はさらにその機能を強化した。自己のオリジナルモーションの登録や調整の幅を広くして、個々の衛士により合わせたOSを作り上げた。大和はこのOSをXM4と名づけた。

最後はXM4を完璧に使う為の並列処理能力などを強化した新型CPUとSAS(サポート・AI・システム)。SASは文字通り、OSと連動して、衛士をサポートする機能である。その機能はおいおい説明する事にする。

時間にしておよそ三十分。簡潔かつ分かりやすく説明出来たと大和は思った。会議室に居並ぶお歴々の反応を見ると、予想通りと言うか、微妙な反応であった。

 

 (まぁ、当然だよな……)

表面では真面目な顔をしつつ、内面では肩をすくめていた。発泡金属は直ぐにでも製造可能である事は、船旅の間で確認していたが、他の三つは直ぐに実現できるのか、はっきりと答えられなかった。おそらくは可能であると、大和は思っていたが、こればかりは実際に試して見ない事には分からない。加えて、軍部高官が他の三つの必要性をあまり認めなかった事もある。さらに付け加えて、これらの技術を使用して、戦術機を開発するにしても、その開発資金をどこから捻出するのか……つまりは技術こそは素晴らしいが、それを実現するまでのプロセスに問題が多いのだ。

加えて大和自身の主張もある。もしこれらの技術を利用するならば、是非とも、設計の段階からやり直し、戦術機開発に参加させて欲しいと具申したのだ。軍部やメーカーとしては、これまでの苦労や資金が無駄になる。冗談じゃない話だ。それにいくら武家の嫡子で、優れた知識があるとは言え、日本帝国悲願の戦術機開発に、たかが十代半ばの、ぽっと出てきたガキを参加させるのはどうしても許容できなかった。

結果、審査すると言う事で大和は一度、帰された。

「すまんな大和君」

船旅で交友し、既に一定以上の信頼関係を築き上げたからこそ、巌谷は名前を呼んで、謝罪した。

「巌谷さんが謝る必要はありません。むしろ、この結果は巌谷さんも想像していたでしょう? 全然、気にしていませんよ。――それに捨てる神あれば、拾う神あり、ですよ」

にっと笑った大和の視線の先、そこには会議室で見かけた顔があった。彼の名は石峰小弥太。光菱重工戦術機開発部部長である。

 

 「有栖川少尉。お話があります。お時間、よろしいでしょうか?」

「ええ。喜んで。お互いにとって、良いお話であれば良いですね」

石峰部長に連れられて、光菱重工が管理するとある工場に通された。そこに安置されていたのは、整備ハンガーに固定され、僅かに埃が被った内部構造剥き出しの戦術機――。

「これは……既存の戦術機の構造と違う……?」

巌谷が眉を潜めながら呟き、大和はにっと笑みを浮かべた。

「なるほど。幸か不幸か、光菱重工さんでも同じようなものを考えていたと言うわけですね?」

石峰部長が静かに頷く。

「この機体は、第二次TSF-X……つまり国産戦術機開発計画〈耀光計画〉の技術を流用して、我が社が独自に開発していた戦術機です。偶然にも有栖川少尉が発表した、内部骨格構造に似たモノを採用しています。ただし、開発は頓挫しましたが……」

「頓挫した理由は概ね予想がつきます」

大和が幾つかの問題点を挙げる。石峰部長はお手上げだと言わんばかりに、苦笑混じりに首を振った。

「まさか、一目見ただけで見破られるとは……もはや言葉がありません」

「光菱重工の部長さんからそのようなお言葉をいただけるとは、恐悦至極に存じます。……さて、そろそろ本題に入りましょうか。何事も明瞭に、そして簡潔に進めたいと思います」

 後に、一連の交渉劇を巌谷 榮二は親しい友人にこう語っている。

「大企業の重役達相手に物怖じせず、要点と要求を簡潔に説明し、時には妥協し、そして交渉するその手腕はとても十代半ばの少年とは思えなかった。まるでそれは老獪な政治家のようであった」と。

交渉の結果、いくつかの条件の下、光菱重工に協力を取り付けた大和は次に巌谷に頼んで、戦術機開発の許可を防衛省に具申した。この許可は思いの他、あっさりと下りた。理由はいくつかあるが、最大の理由はこの戦術機開発に掛かる経費を、光菱重工が全て負担するのが大きなポイントであった。

かくして、大和は自らの知識を生かす場を与えられ、水面下ではこれまで主導的な立場を取っていた富嶽重工と二番手に甘んじてきた光菱重工の開発競争が勃発した。

 

―― 一九九三年九月十七日 日本帝国 帝都京都 九條家 離れ座敷――

昼が終わりかけ、夜が始まろうとしている刹那の時。空は茜色に染まり、世界はどこか神秘的で、どこか儚げな世界へと変わっている。後一時間もすれば、空に星が輝きだすだろう。

「ふ~ん……じゃあ一月に行われるトライアルには間に合うわけね」

縁側に腰を下ろし、最高級の京友禅の着物を見事に着こなす気品に満ち溢れた女性は言った。彼女の眼前には、複雑な曲線で描かれた大きな池と奇岩怪石によって、雲上の遠山が表現された見事な日本庭園が広がっている。彼女は時間さえ空けばこの縁側に座り、時の移り変わりによって、様々な表情を見せるこの庭園を楽しんでいた。

 

 女の名は九條 巴。<五摂家>の一つ、九條家の長女であり、次期当主、そして「神童」と呼ばれた才女である。年齢は大和と同じ十六歳だが、その知性は非常に豊かな上、親もその長所を伸ばす為の教育を施したため、さらに磨きをかけている。そして彼女は、外見的にも優れていた。すらりと伸びた長身に、女性として何ら不満のないプロポーション。腰まで流れる黒絹のような髪。鼻梁の整った顔立ち。そして他人の意識下に、強く刻み付ける活力と自信に満ち溢れた目。遠くで見れば、深窓の令嬢。近づいてみれば、野望の女帝。それが九條 巴と言う存在であった。

「間に合わせるさ」

その巴の隣に腰を下ろし、お盆から湯飲みを取ってお茶を啜る男がいた。休暇を取り、東京から京都へと帰ってきた大和である。

光菱重工の協力の元、大和が世に送り出した技術を使った戦術機の開発は、今の所、順調に進んでいる。やはり設計図上では見えなかった問題が幾つも浮上し、対策に追われたこともあったが、そこは大陸派兵部隊で強化したアビリティ能力と巌谷率いる第壱開発局、光菱重工戦術機開発班の奮闘もあって、次々と解決していった。そして光菱重工は元より、その傘下や提携している企業もこちらを優先して仕事をこなしてくれているため、タイムスケジュールに遅れはなかった。現在の予定では、十一月の初旬に試作壱号機が完成する予定となっている。

(それにしても……まさかあのお方がこの世界にいるなんてなぁ……いやはや、信者としては嬉しい限りなんだけどね。……まぁ、阿部さんもいたぐらいだから……)

 大和の言うそのお方と出会った時、大和は思わず拝んでしまった。何故ならその人物はとあるゲームの出演者で、ゲーム中、非常にお世話になった武器を製造していた企業だったからだ。またゲーム中に重宝していた武器の原型もこの世界に存在していた。あれほど広範囲で有効的、そして心くすぐられる武器を利用しない手はない。大和は戦術機開発に精を出す一方、そのお方の元に出向き、色々と技術提供を繰り返していた。

「自信、あるんだ?」

巴が薄く微笑みながら尋ねる。夕陽に浴びたその顔は、普段よりも大人っぽく見えた。

「自信がなくちゃ、お前に光菱重工の株を大量に買っとけとは言わんだろう?」

 

「ふふっ、そうね。せいぜい儲けさせてちょうだい。あって困るものじゃないからね」

「今後の為の買収資金にでもするのか?」

巴の目的は、日本帝国の最高権力者である政威大将軍になること。その為ならば、手段を問わないと普段から豪語している。

「もちろん。金で動く連中はごろごろいるからね。でも、それもまだまだ先の話よ。今の政威大将軍が死ぬなり辞任なりしないとね」

現在、日本帝国国務全権代行者である政威大将軍の職に就いているのは、五摂家の一つ、宰御司家当主、宰御司 時昌と言う三十代前半の男性である。大和も正月などの祝賀行事で拝謁した事があるが、特に美男子と言う訳でもなく、大和の印象としては威厳のない、そして覇気のない人物に見えた。政威大将軍の任命は、皇帝陛下によって五摂家の当主陣から選ばれるのだが、大和は心底どうしてあんな男が政威大将軍に選ばれたのか、不思議に思った。むしろ、この時に印象に残ったのは、次の当主達の姿であった。

 (いや、そういえば……)

思考の片隅で、その時の光景を再生していた大和がぽつりっと呟いた。

そういえば、気になる人物がもう一人いた。青の武家の正装をまとい、心ここにあらず、そして常に視線を下へと向けていた影のある少女。その名は煌武院 悠陽。原作キャラクターの一人であり、政威大将軍になる少女――。

「なぁ、巴。前々から聞きたいことがあったんだが、ゆ……煌武院家のご令嬢は知っているよな?」

「煌武院の……? あぁ、煌武院 悠陽の事? わたし、あの子嫌い。辛気臭いし、何か暗いから」

巴は興味がないと言わんばかりの口調で言って、お茶請けに置かれていた煎餅に手を伸ばす。ばりっとほうばり、ばりばりと豪快に音を立てて食すその姿、先ほどまであった気品ががぐっと下がった。少し前に大和が注意したことがあったのだが、本人は「煎餅は音を立てて食べるのが美味しいのよ」と言って、やめようとしなかった。

「最初からあんな感じだったのか?」

「さぁ~ね~。私にしてみればあの子は味方はおろか、敵にもなりそうにないから眼中にないし……それにあんまり話したこともないから。まぁ、朝陽みたいに活発で愛らしかったら、別だったけど」

大和は視線を落とし、記憶野に残る彼女の姿を思い出す。やはり今の煌武院 悠陽と、原作で登場する煌武院 悠陽の聡明な姿とは結びつかない。一体どうしたと言うのだろうか。気になるが、確かめる術はない。

「なに、気になるの?」

「……普通は気になるだろう。朝陽とそう年も変わらなそうだし……」

「アンタ……年下が好みなの? ちょっと低すぎない?」

「何で直ぐに好みの話になるんだよ」

はぁ、とため息混じりに言って、お茶を啜った。

原作通りなら彼女が次の政威大将軍だが、どうにも今の印象では、煌武院 悠陽が政威大将軍に選ばれるとは考えられない。話したことはないが、遠目からでも今の彼女には人を惹きつけるカリスマがないし、巴や斑鳩家の次期当主に比べると、どうしても見劣りしてしまう。

(……まぁ、別に煌武院 悠陽が政威大将軍である必要はない。軍部や議会が幅を利かせて、政威大将軍の権限を侵害している今、強いカリスマ性と行動力を持つ人間がなったほうがいい。そうなれば、榊総理は死なず、狭霧 尚哉がクーデターを起こす可能性は低くなる。無駄に戦力を減らさせずに済むしな……)

大和はあくまでも悠陽と言う一人の少女は心配しているが、現状ではそこまでである。大和も言うように、別に煌武院 悠陽が絶対に政威大将軍でなければならない理由はない。むしろ、十分な才能を持ち、明確な目的を見据え、その為の努力を怠らない人物がなったほうがよい。それを大和は幼い頃に見出した。それが隣に座る巴である。

(……そういえば、もう十六年か……)

視線を前に。見事な日本庭園を見つめながら、ポツリと呟いた。

十六年。世界を救うと言う責務を神様から背負わされ、この世界に転生させられてもう十六年と言う月日が流れた。改めて考えて見ても、途方もない話だ。だがこれは現実で、自分は「世界を救う」為の行動を起こしている。しかし――。

 (しかし……今更だが世界を救うってつまり、どうなれば〈世界を救った事〉になるんだろうか?)

子どもの頃は不満だと思いつつも、着実な成果を実感できるチート能力のレベルアップに、いつの間にか夢中になっていた。

大陸派兵部隊従軍時代には、BETAと戦い、多くの悲惨な現場、仲間の死、難民達の悲痛の声を聞いて、生き抜く事が精一杯になっていて、考える暇はなかった。ただ、自分の目と耳で感じて、絶望と悲しみに打ちのめされた人々を見て、何とかしてやりたいという気持ちは強くなった。だから最初は元の世界を戻るために行動していたはずが、今では本気でこの世界を救うために行動している。

そして現在。時間的、精神的余裕が出来た今、大和は目的達成における条件について考える事が多くなった。

世界を救う。その意味は分かる。この世界にはBETAと言う敵がいて、人類を滅ぼそうとしている。この状況において、世界を救うと言う意味は、間違いなくこのBETAを排除する事だろう。だが一体、どこまで排除すれば、世界を救うと言う目的達成になるのか。

地球上にいる全てのBETAか? それとも月や火星、太陽系にいる全てのBETAか? はたまた、宇宙に存在する全てのBETAを排除するのか。それとも、もっと別の条件なのか……一体、どこがゴール地点なのか、見当が付かない。

(……BETAの事だけ考えるとして……何もかも全てうまくいったとしても地球上、奇跡的に月への橋頭堡を築くのが関の山だろうなぁ。と言うか、完全に説明不足だな。あの爺様は……)

大和はため息を禁じえなかった。本当に手抜きと言うか、適当と言うか、今度会ったらこのあたりを言葉と拳を持って、問い詰めてやろうと考えた。

 と、もう一口、茶を啜ろうとしたとき、腕時計が目に入った。時間だ。

「巴。オレはそろそろお暇させてもらうよ」

「あら、夕餉ぐらい食べていきなさいよ」

「悪いな。先約があるんだ。巌谷少佐に誘われているんだ」

「ふぅん……それじゃあ仕方ないわね。また来なさいよ」

「ああ。訓練学校、頑張れよ。後輩」

「アンタこそ、頑張りなさいよ」

大和は九條家を出て、一路、待ち合わせ場所へと足を向けた。

 

 

 

 

 

 

少女は緊張していた。自分の身長よりも高い姿見を見ては、足の先から頭の天辺まで入念に見直して、何度も何度も確認した。髪は乱れていないか。着物はちゃんと着付けてあるのか。帯は? 裾は? 何かおかしいところは無いか。――大丈夫。問題なし。

 

 次は挨拶だ。礼儀を重んじる武家の娘として、恥ずかしい真似は出来ないし、したくない。口の中では挨拶の言葉を反芻した。――よし、これも大丈夫。

 

 少女は大きく息を吸い込み、吐き出した。準備は整った。後は心だけ。着物に隠れてはいるが、盛り上がり始めた胸に手を当てる。心臓が自分でも驚くほど高鳴っている。

 

 何故ならようやく憧れの人に出会えるのだ。興奮を抑えろというのは無理な話だ。 

 

 通っている剣道場で学んだ呼吸法を行い、精神を落ち着かせる。大丈夫。何度も練習した。平常心。平常心……。

「奥様。到着されました」

長年、この家に仕えてくれている使用人のおばさんの声がした。

「――よし!」

いざ、出陣。少女は玄関へと足を運んだ。

「到着したよ。大和君」

巌谷の運転で到着したのは、とある一軒の屋敷だった。九條家の屋敷と比べると小さいが、それでも前の世界の常識からすれば屋敷も庭も十分に広かった。

「ここは?」

「私の死んだ親友の家でね。君に是非、会いたいって子がいるんだ。あぁ、夕食は期待していてくれ。そんじょそこらの料亭と比べても何ら不遜はないよ。私が保証しよう」

「――ようこそ、当屋敷へ」

玄関から清楚な和服姿の女性が姿を見せた。何と言うか、とかく美しい。和の美しさがそのまま具現化した様な女性だった。そしてそことなく漂う上品な色気もある。大和は思わず頬を染めずに入られなかった。そして思う。どうしてこの世界はこんなにも美人が多いのか、と。

「紹介しよう。この人は篁 栴納(せんな)さん。私の親友の奥様だ」

「はじめまして。篁 栴納と申します」

 優雅な動作で頭を下げる栴納。大和も慌てて頭を下げた。

 

 「は、はじめまして。有栖川 大和といいます。今晩はごちそうになります(ん、篁……?)」

「そしてこの娘が栴納さんの娘で――」

 「――あっ……

 

栴納の隣に現れた少女。見間違う事はない。自分はこの娘を知っている。

 

 「は、初めまして。篁 唯依と申します。有栖川中尉。会いできて光栄です!」

母親のしなやかな仕草と比べるとまだまだ粗さが残る動作で、唯依は頭を下げた。

 

 

 

 篁 唯依は、幼い頃から自分の道を見定めていた。それは敬愛し、死んでしまった父と同じ道――すなわち衛士になることであった。

唯依の父親は、衛士から開発技師へと転向した異才で、帝国斯衛軍で運用されているTSF-TYPE82[瑞鶴]の主任開発技師を務め、さらには74式近接戦闘長刀の開発にも携わっていた。多忙を極める仕事内容であったが、唯依の父親は、きちんと「父親」としての義務を放棄せず、時間の許す限り、唯依に愛情を注いだ。唯依もその愛情を素直に受け止め、父を愛し、亡くなった今でも敬愛し、肩身の懐中時計を大切に持っている。

唯依は衛士になる為の準備を既に行っていた。戦術機関連の資料を読んで、巌谷と知り合いだという事で、様々な事を質問して、体を鍛えていた。そんな中、唯依はある人物の話を聞いた。

歴代最高の戦術機適正判定を受け、特例として十四歳で帝国斯衛軍衛士訓練学校に入学した一人の男。それだけでも十分に凄い事だが、この男はそれだけでは終わらなかった。

訓練学校始まって以来の好成績を残し、僅か一年で卒業。そして〈赤〉と言う高位の武家でありながら、斯衛軍に入隊する伝統を真正面から蹴飛ばし、帝国陸軍大陸派兵部隊への従軍を志願したのだ。

 

この行動は、伝統と格式を重んじる武家の人間から非難を被り、さらには良識の軍人ですら、やめさせようと行動した。それは大陸での戦況を誰よりも理解していたからだ。しかし男は希望を変えなかった。両親や斯衛軍上層部が説得に来ても「多くの人を守りたい」、「武家の者として当然の事をしているまでです」と言って、聞く耳を持たなかった。

結果、彼の希望を通され、大陸派兵部隊へと従軍した。多くの者が影で囁いた。

――愚かな真似を。

――生きては帰れぬでしょうな。

――自分の力量を見誤りおって。青二才が。

――誇りだけは一人前と言う事か――

だが、彼らの予想とは裏腹に、男は無事、生還した。しかも、無数のBETAを撃破し、多くの危機的局面を打破し、多くの衛士を救ったと言う実績とぶら下げて帰ってきたのだ。

高位の武家出身と言う事で、過大評価されているのではないかと考えた軍籍の人間がいて、男にちょっかいをかけることがあったが、男はそれを実力を持って、認識を改めさせた。

 男――有栖川 大和の衛士としては実力は、斯衛軍はもとより、城内省ですら認める結果となった。さらに光菱重工で進められている戦術機開発も、情報統制が行われていたが、技術者達の間ではかなりの噂となっていて、大和の技術的才能に注目し始めていると言う。

だからこそ、唯依は大和に憧れを抱いた。自分も何れは衛士として一人前になった後、父と同じ戦術機開発に携わりたい。そして今、自分の理想と描く姿が目の前にいる。これで憧れを抱くなと言うのは無理な話である。

夕食は巌谷の言うとおり、大和の胃袋を大いに堪能させた。特に肉じゃがは絶品で、一流ホテルや料亭に出てきても、何らおかしくないほどの出来であった。

夕食が終わり、食後のデザートに舌鼓を打っていると、食事中、ずっともごもごと口を開いては閉じていた唯依が、ようやく口を開いた。

「あ、あの有栖川中尉……どうすれば、中尉のように立派な衛士になれるでしょうか?」

大和は帰国一ヶ月後に、大陸での戦果が認められ、中尉へと昇進している。

「ん~……それは難しい質問だなぁ……」

憧れの眼差しを向ける唯依に、どこか困ったような表情で応対する大和。それもその筈である。自分の圧倒的操縦技術を支えているのは、神様から貰ったアビリティ能力ですとは、口が裂けても言えない。

「そうだな……その質問には答えられないけど、唯依が衛士になったら、教えてあげる事はできるよ」

「ほう……よかったな唯依ちゃん。大和君の操縦技量はたいしたものだよ。彼から学ぶ事ができれば、凄い衛士になれるかもしれないよ」

「ほ、本当ですか。約束ですよ?」

心から喜びの表情を浮かべる唯依。大和も口元に小さな笑みを浮かべた。

一人の人間に出来る事はたかが知れている。多くの仲間や団結があって、大事を成す事が出来る。故に大和は、この頃から仲間となるべき者達を探していた。そのリストの上位には、唯依の名前は当然、記載されていた。

篁 唯依の有能さは、原作で確認済みだ。戦術機の操縦技術は言うに及ばす、戦術機に関する知識も豊富であると言っていい。出なければ年に数える程度しか生産出来ない、高性能の[武御雷]を与えられず、日米共同開発計画の〈XFJ計画〉の日本側開発主任に選ばれる筈はない。

(ぶっちゃけ、篁 唯依は早めに手元において確保しておきたい人材だしな……それに早い段階で才能を伸ばしてやれば、それだけ戦死する可能性が低くなるし……)

ふと、脳裏に大陸での戦いが蘇った。それも一番、心に刻み込まれた場面。中国を筆頭にアジアの国々の少年少女たち、それも十代中頃、もしくはそれ以下の子ども達が戦術機を操り、銃を握る。そして戦い、戦死していく光景。

(……きつかったよな。あれは……)

戦況は人類に不利である。この戦況を打開しない限り、そんな悲惨な戦場は今も、そしてこれからも続く。その状況を改善する方法がない今、自分に出来るのは少しでも多くの人を生き延びさせる為の行動と結果を出す事だけ。

「約束するよ。ただし、一つだけ条件がある」

「条件……ですか?」

「そう。何、そんな気紛えなくていいよ。簡単なことだよ――」

大和はそこで言葉を切り、どこか照れくさそうに言った。

「オレは多くの人を、そしてこの世界を守りたい。だから唯依……オレを支えてくれ」

――篁 唯依。彼女もまた、大和の妹である有栖川 朝陽同様、運命を大きく変えられた存在である。後世、BETA戦争における最大の英雄の腹心の一人として、多くの歴史家の記憶野に刻まれる事になる。




いかがだったでしょうか。今回も突っ込みどころが満載だと思います。

えーっと、今回、一台詞しか喋っていないイイ男は、第四話で本格的に登場する予定です。

後、唯依の年齢ですが、小説と言うか原作と言うか、そっちのほうを基準で考えて作っています。私の小説内では93年当時で12歳ぐらいを想定しています。あと、唯依パパも原作基準です(いつ死んだのかは分かりませんでした)

……それにしても1/144スケールの不知火、ちっちゃいなぁ……このサイズでラプターとか出してくれないだろうかコトブキヤさん。


では、次の更新で。感想、お待ちしています。いんてぐらでした。


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