三年梅組が〝品川〟へ向かうオリオトライを攻 撃しているとき、武蔵左舷三番艦〝青梅〟からそ れらを見る人影が二つあった。
一つは老人といって間違いない男性。その髪は 白く染まり、煙管をふかしている。
一つは侍女服を着ている二十歳前後と見られる女性。無機質な表情を浮かべつつも、梅組の授業を
観察しているようにも見えた。
「おお、やってるねぇ。アレ、武蔵さんとして はどう見る?」
「Jud.」
武蔵と呼ばれた女性は応答を示しながら答え る。
「去年と比べるなら、住民の観戦度・迷惑度が 上回っております――――――以上」
「武蔵全艦を代表するなら?」
「被害等総合的に見て、ここ十年の学生の中では一番かと――――――以上」
そういう武蔵の背後では、デッキブラシが一人でに動いて掃除をしている。
人型の無機物に魂を宿した種族。それが自動人形。
主人や客人に奉仕することを本能とする所謂お手伝いさんなので、女性型が多い。
武蔵や浅草もそんな自動人形の一つなのだ。
「んー。今のは堕天墜天コンビだね。連射重視の非加護射撃。屋根上一直線なら、それでアリなんだろうけど。相手が真喜子先生じゃぁ、ねえ」
と、煙管を咥えながら言う。
彼の名は酒井・忠次。武蔵アリアダスト教導院の学長である。
元は三河にて、松平四天王と名乗る四人衆の実質的リーダーだった者で、かつての字名アーバンネームは『大総長(グランヘッド) 』。
だが、今ではとある理由から左遷され、こうし て武蔵にいる。
「……ん?」
と、酒井は目をやる。
そこには、今現在戦闘が激化している前線に向 かって、一人の少年が屋根伝いに向かっているからだ。
すると酒井は微笑む。
「あれはエドだね」
「jud.背負っている槍からしてそうかと判断できます――――以上」
「しかし凄いねぇ~。あんなに速く動けるんだからさ」
「もともと運動神経は良い方なのかと判断できます――――以上」
「若いって良いねぇ~」
「出来れば、何も無いまま進めばいい よ」
「ですが、それももう終わりかと。聖譜によれば、そろそろ世界の終わり……末世が近づいているとのことですから――――――以上」
そういって、武蔵は会話を切った。
「ちなみにさ。建物の被害とかって教導院持ち?」
「既に大工組合から請求が来ています。会計のシロジロ様経由で――――――以上」
オリオトライは武蔵をつなぐ牽引帯を渡っていると、隣に一人の金髪の少女がやってきたのを確認した。眼鏡をかけて、制服はサイズが大きいのかぶかぶかしている感がある。
「あらアデーレ。貴方が一番?」
「Jud.!自分、脚力自慢の従士ですから!」
そういうアデーレの手には訓練のために使う刃を潰した従士槍が持たれていた。 二人が牽引帯を渡り終えると、右舷二番艦 〝多摩〟に移る。と、ここでアデーレが仕掛けた。
「従士アデーレ・バルフェット。一番槍行きます!」
そういうと、彼女の足元に加速用の表示枠サインフレームが現れた。 それにより、加速を得るとアデーレは一直線にオリオトライに特攻した。
「はぁっ!」
「直線的よ!」
槍を突きの要領で繰り出すが、紙一重であっさりとかわされ、さらには蹴りでア デーレの手から槍が落ちた。
その後ろから、ターバンを巻いたインド系 の生徒が来た。 ハッサン・フルブシ。常にカレーを携帯する。その頭上には巨大な皿に盛られたカレーが存在していた。 ハッサンは掲げた特大のカレーを持ってオリオトライに向かっていった。
「カレー、どうですカ!」
「ゴメンねー! 今はいいや!!」
そういって、突撃したが片手で捕まれたアデーレもろとも吹っ飛ばされた。
「ほら! アデーレとハッサンがリタイアしたわよ!」
そういうと、地上を走っていたネシンバラが指示を下す。
「イトケン君!ネンジ君とで救護して!」
ネシンバラの指示に返答しながらハッサンを拾うのは、全裸でにこやかな笑みを浮か べた頭に蝙蝠翼が生えた男だった。 彼の眼下にいる武蔵の住民はやや唖然とした表情でその者を見る。
「怪しいものでは御座いません!淫靡な精霊インキュバスの伊藤・健二と申します!」
そういって恭しくお辞儀をする伊藤・健二。通称イトケン。爽やかで好印象なのだが、如何せん全裸である。 すぐに、武蔵住民は窓を閉めた。が、それをイトケンが気にすることは無 い。
一方で、倒れているアデーレの元には一体 のオレンジ色のスライムが向かっていた。 彼の名はネンジ。見たとおりの異族で、周りからは「HP3くらいしかないスライム」といわれている。
『今向かうぞアデーレ殿っ……』
と、そのネンジがぐにゃりと曲がり、やがて飛び散った。 ネンジの頭の上を文字通り踏みつけて、 葵・喜美が走っていったのだ。
「ごめんねネンジ!悪いと思ってるわ!ええ本当よ!私はいつだって本気よ!」
後ろでは、ネンジが飛び散った体を再生させながらイトケンと合流していた。 喜美は一通りネンジへの謝罪を述べる。と、今度は地上のほうから喜美へと声がかかった。 豊かな銀色の髪を持つ少女。腕には『第五特務 ネイト・ミトツダイラ』という腕章がついていた。
「ちょっと喜美!貴女謝るときはもうちょっと誠意を見せなさいよ!淑女たるもの!!」
「フフフ出たわねこの妖怪説教女!」
「なんですって!」
「にしてもミトツダイラ。アンタ何地べた走ってんの?いつもみたいに鎖でドカンとやりなさいよ。アンタ重戦車系だものね」
「ここら辺は、私の領地なのですよ!それを貴女達ときたら……」
「ククク先生に勝てない女騎士が狼みたいに吠えてるわ!」
「なぁんですってぇ!!」
流石に頭にきたのか、今手にしたアデーレ の従士槍を投げつけてやろうかと考えてる と、後ろから何かが走ってくる気配がした。 そしてそれはすぐに二人と並走した。
「よう。二人とも。朝から元気だな」
「あらエド。アンタ今まで何やってたの?」
「ちょっと〝浅草〟方面で寝そべって空を眺めてた。で、何これ?授業?」
「Jud.〝品川〟につくまでに先生に一撃入れ られたら出席点5点プラス、だそうですわ」
「マジ!? よし。ちょっと先に行くぜ!!」
「って、やる気の出しところ間違えてますわよ!」
気にするな、と言わんばかりにエドは軽快に笑う。
ネイトは呆れたようにため息をつく。
「クククミトツダイラ。そこのマメ男の心配 はあの乳巫女にやらせておきなさい。かーちゃん気質で乳なんて巫女なのにイヤらしいことこの上ないわね!!」
「誰がマメ男だ!」
エドが喜美につっこんだと同時にカンッ、と喜美の足元に矢が刺さった。間一髪、喜美はジャンプしてそれを避けた が、その顔は若干引きつった笑顔になっていた。
「フ、フフフ。いいわ、ええもうすごくいいわ! 何がいいって具体的にいえないけどっていうか分からないけどとにかくいいわ! 誰もあのズドン巫女から逃げられないのよ!!」
「エド。喜美をどうにかする方法ってないんですの」
「う~ん。怪異の中に放り込んでやればいいんじゃないか――――ああ。分かったから喜美。 青ざめた笑顔で気絶しようとするな授業中 に」
扱いが手馴れている。
エドが一息はくと、そのまま先頭の集団に向けて屋根伝いに跳躍による移動を重ねていた。
「相変わらず人間離れした運動能力ですのね」
「アンタがそれ言う? 鎖でドカンやった り、鉄廃材を持ち上げてバコンやったり、 愚弟を掴んでぶん投げたりしてるじゃない」
「に、二番目はやった記憶がありませんの よ!?」
「遅刻だよエド!」
「わりぃ。じゃエドワード・エルリックいくぜ!」
と、言いながら槍を使って攻撃するが長剣ではじかれた。
「やっぱり、簡単にはいかないか」
「当たり前でしょ。これでも教師なんだから」
その戦いを浅間は後ろの方で走りながら見ていた。
「やっぱり凄いですねぇ」
「浅間、さ、ん。ま、前見てないと危ない、よ」
そういって声をかけた彼女は向井・鈴で目が見えなく走れないためいまはペルソナ君が肩に乗せている。
「大丈夫ですよ。そこまで私ドジじゃないですって、きゃあ!!」
今起こったことを説明すると、浅間は屋根の上を走っていてバランスが悪い。なのでよそ見をしていて足を踏み外したということである。
「あ、浅間、さん!!」
「危ない!」
「きゃあああああ~~~~!!!!」
すごい土煙が上がり皆が見ていた。先生も立ち止まってこちらをみていたがすぐ安心した表情に変わった。なぜなら土煙の中からエドが浅間を抱えて(お姫様だっこ)出て来たからである。
「浅間、大丈夫か?」
「え、エド君?」
「たく、気をつけろよな。危ないんだから」
「あ、ありがとうございます。あ、あの~」
「さて、浅間も無事だったことだし、さっさと行くからちゃんとつかまってろよ」
「え、え!?」
とりあえずしっかりつかまった。それを確認したエドは屋根の上を走って先生や梅組の皆の所まで向かった。
最終的に全員が〝品川〟に到着するころに は息も切れ切れだった。 対してオリオトライは息切れはおろか汗すらかいていない。
「こーら。遅れてやってきて勝手に寝ない! 生き残っているのは鈴とエドと浅間 だけ?」
「はい?え、と。あの、私、運んでも、 らっただ、けです、の、で」
確認する声に反応した鈴は、上半身裸で筋骨隆々の大柄な青年、ペルソナ君を仰いで いた。
オリオトライはそれでいいのよ、と頷く。
「そういうのがチームワークなんだから。 生存三名。救助者も上手くフォローできていたみたいね」
と、オリオトライの背後で扉の開く音がした。
「何だテメェら!ウチの前で遠足かぁ!?」
そう怒鳴り声を上げるのは、赤い肌に四本の腕に角。 魔人族だ。
「あーらら。魔人族も地に落ちたわねえ。 って、今は空にいるのか」
「あン!?」
魔人族が威嚇するように声を上げながら進 む。 オリオトライもまた、全く怯むことなく長 剣を携えて進む。
「夜警団から言われてるのよ。シメてくれって。個人的には、先日の〝高尾〟の地上げ覚えてる?」
「あァ?んなのいつものことで覚えてねえ な!」
「――理由分からずぶっ飛ばされるほうも大変よねぇ」
「っ、このアマ!」
脳の血管が切れるのを感じた魔人族はその ままオリオトライに向かっていった。 オリオトライは特に慌てた様子もなく、生徒達に講義を始める。
「じゃあまず先生が見本を見せます。いい?生物には頭蓋があり、脳があるの。頭を強く打てば―――」
と、向かってくる魔人族の角を長剣で正確に打った。 すると、魔人族はフラつき、あらぬ方向に転ぶ。
「……っ!?」
「脳震盪を起こすの。でも魔人族なんかは回復早いから、そんなときは素早く対角線上を、打つ!」
ガンッ、と嫌な音が響き魔人族は地に沈んだ。
「はい。これが魔人族の倒し方。じゃあ次 は実践ね。誰かやってみてー」
「出来るかあんなことー!」
まるで「ちょっとそれ取って」みたいな気軽さでいうオリオトライ。 生徒達は渾身の力でツッコミを入れる。
「とりあえず、邪魔だから事務所戻れや」
と言ってエドは地に沈んだ魔神族を蹴っ飛ばして事務所に戻した。
「あ、あの~エド君」
「なんだ?浅間」
「そろそろ降ろしてもらっていいかな。私もう大丈夫だから」
「わかった」
そう言ってエドは浅間を降ろした。浅間の顔は誰が見てもわかるくらい真っ赤になっていた。
すると、魔人族の事務所が建造物用防壁の表示枠を出した。
「あらら。流石に警戒されたか」
「あの中で暴れてくるかな」
「ダメよ。私だって行きたいんだから抜け駆けは許さないわよ」
「「「「いやいや、教師なんだから止めろよ!!!!」」」」
そんな話をしていたとき。
「あれ?おいおい皆。主役差し置いて何やってんの?」
そんな声が聞こえた。振り向くと、そこには武蔵アリアダスト教導院の制服に身を包み、上の制服に飾り紐をつけた少年が立っていた。
「俺、葵・トーリはここにいるぜ!」
武蔵アリアダスト教導院所属。現総長兼生徒会長、葵・トーリだった。
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