魔法仕掛けの妖精人形とそのマスター   作:勇樹のぞみ

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16 拘束

 更に続く混戦の中、マスケット銃に火薬と弾丸を再装填した警備員が引き金(トリガー)を引くが弾は明後日の方向に飛んで行った。

 

「下手くそめ」

「遊技場でコルクの弾を撃つオモチャの銃で練習して来い。そんなんじゃお菓子の箱一つ落とせないぜ」

 

 傭兵たちからヤジが飛ぶ。

 そして俺も、お返しとばかりに背に回していた擲弾発射器(グレネードランチャー)を手にし構える。

 引き金(トリガー)を絞ると同時にぎしりと肩に伝わる反動。

 大柄なクマのような身体を持つ警備員の腹にゴムの非殺傷弾を叩き込み、見事に昏倒させる。

 

大当たり(ジャックポット)!」

 

 周囲から歓声が上がった。

 

「どこの連中かは知らんがこの喧嘩、高くつくぜ」

 

 俺はそう言い捨てると擲弾発射器(グレネードランチャー)をバーテンに預け、右手を牽制、左手を止めに使いながら警備員たちを相手に戦い続ける。

 周囲を見れば他の傭兵たちも得物を手に健闘していた。

 敵は数で攻めてくる。

 いずれは押し切られるかもしれないが、裏の世界の住人の面子にかけて、それまでにより多くの出血を敵に強いることが必要だった。

 舐められないためにも、自分たちに手を出したら痛い目に遭うということを教え込んでやるのだ。

 

「ヒャッホー! ここは通さねぇぜ!」

 

 髪の毛を逆立てた闇妖精がナイフを手に、身体を張って警備員の前に立ち塞がる。

 その得物は裏の世界でもごく一部にしか流通していない暗殺専用の両刃ナイフ(アサシン・ダガー)だった。

 

 両刃ナイフ(ダガー)はとっさの場合に持ち替える必要が無いのが長所だが、このアサシン・ダガーの真の恐ろしさは刃の左右方向にわずかに角度が付いているところにある。

 ナイフを持って構えてみれば分かるが、刃が内側に傾斜していればその刃は斬りつけた相手の身体の中心部に向かって入っていく訳だ。

 そんな剣呑な品も、それなりの伝手さえあれば手に入るのがこの業界だ。

 

「ヒョウ!」

 

 奇声と共にフェイントを織り交ぜながら戦う闇妖精。

 ナイフの刃渡りといっても決して侮ってはいけない。

 腕を鞭のようにしなやかに使いこなし、よく伸ばしてくる熟練者だと、その刃渡りは実際の数倍にも当たるように感じられるほどだ。

 素人がナイフを使うと大抵は袈裟懸けに斜めに斬りつけるか、度胸がある者でも腰だめに構えて突き刺すかのどちらかになるが、手練れともなるとそれだけではない。

 逆袈裟だって使うし上下左右、自在に使い分ける。

 水平斬りや突きもお手のものだ。

 

 そして傭兵経験者に見られるのは、首を真横から斬りつける攻撃と、わき腹から肝臓を狙う刺突だった。

 特に後者は骨に当たらないよう肋骨と肋骨の間に刃を水平に刺すのが特徴で致命傷となる危険が高い。

 事前の知識が無いと避けるのが難しい一撃だった。

 

 また他方、人形のように吹っ飛んでいく警備員に、その発生元を見やれば、

 

「ミートパイの具にしてやるぜ!」

 

 巨漢のトロール鬼が、自慢の拳を存分に振るい血の雨を降らせていた。

 そもそもリーチとウェイトが桁外れのトロール鬼。

 そのパンチは鉄槌のごとき破壊力を秘めていた。

 細かなテクニックなど圧倒的な力の前にはかすんでしまう。

 

「どうした腰抜け、ブルっちまったのか?」

 

 そう雄たけびを上げ、警備員たちを挑発する。

 多勢に無勢、劣勢のくせに皆、笑っていた。

 しかし、それは当然だった。

 ここは新市街と旧市街の境界線にして緩衝地帯の歓楽街。

 彼らの庭だ、縄張りだ。

 商会の連中が一時的に力を振るおうとも、最後には必ずこちらが勝つのだから。

 泥沼の消耗戦が繰り広げられようとしていた。

 

 

 

 傭兵たちも健闘したが、警備員たちの人海戦術に最終的には制圧された。

 乱闘で帽子と伊達眼鏡(アイウェア)を無くした俺は身柄を拘束されていた。

 占拠された金の腕亭の一室に連行され、敵の親玉と対面する。

 

 驚いたことに相手は茶褐色の長い髪を持つ美女だった。

 切れ長の琥珀色の瞳。

 細面で鼻筋も通っている。

 ただ表情に険があってそれが冷たい印象を与えていた。

 知性の方が先に立ってしまっている、いわゆるクールビューティーだ。

 背はあまり高くなく痩せている。

 

 鋭い目つきの、若いながら相当なやり手の雰囲気を漂わせた女はフォックスと名乗った。

 俺は後ろ手に縛られ椅子に座らせられていたが、フォックスは俺の前に立つと無言でいきなり腹を殴りつけた。

 

「ぐっ」

 

 俺が息を詰め、動きが止まったところで思いっきり顔を殴り倒す。

 喧嘩慣れしたやり口。

 商会の暴力担当というわけだ。

 女だからといって甘く見ることはできないタイプだった。

 俺は椅子から床に転げ落ちた。

 

「サルが、人間様と対等に椅子に座ってるんじゃないっ!」

 

 フォックスは言い放つ。

 

「くうっ……」

 

 俺は床の上でうめき声を上げる。

 ボディを打たれた衝撃に息が詰まり、殴られた頬は後からうずくように痛み出した。

 世の中には女に責められて悦ぶやつも居るというが、残念ながら俺はそうじゃなかった。

 アカデミーの悪友(アホ)共なら「我々にはご褒美です!」ぐらい言いそうな美人が相手で、できることなら代わってやりたいところだがな。

 

「自分の立場が少しは分かったか!」

 

 フォックスは突き放すように言う。

 そして苦痛に歪む俺の顔を覗き込み耳元で恫喝する。

 

「貴様らがやったことは分かっているんだ。大人しく鞄を返してもらおうか」

 

 男言葉が板についている。

 この女はこれが地か。

 

「鞄?」

 

 聞き返したとたん、頬を更に一発殴られる。

 

「とぼけるな。昨日の晩、貴様らが旧市街の現場から奪い取った物だ」

 

 やはりその件かと思いつつ、俺は素直に話す。

 痛みに屈したわけではない。

 ここは従順な態度を示した方が、相手の情報を引き出せると踏んだからだ。

 

 そもそも無理に逃げようとせずに捕まったのも、その方が状況を掴むのに手っ取り早いからだった。

 商会という大きな組織相手にいつまでも逃げ回っていても、らちがあかない。

 組織というのは社会の縮図で内部では複雑な力学が働き、人間は居てもそれはトップですら替えの効く部品でしかない。

 そんなものに個人が真っ向から立ち向かうのは難しい。

 一方で、逆に懐に飛び込めば目の前の女、フォックスのような実際に殴れる敵として具現化してくれる訳だ。

 

 女を殴るな?

 こういう女が好きなのは男女同権ってやつだろ。

 俺は相手に合わせる性質なんだ。

 

「鞄はマクドウェル商会のスミスと名乗る男が持って行った。……中身については知らないし、それ以上は分からない」

「嘘だっ!」

 

 フォックスは俺の言葉を虚言と断じ、更に殴る。

 

「マクドウェルのやつらに機密を手にしたような動きは見られん。マクドウェルに渡したなどと、そんな見え透いた嘘をつくな!」

「本当だ…… 少なくとも依頼人はそう名乗っていた」

 

 そう答えつつも、俺は相手の発言から断片的にではあるが状況を読み取っていた。

 やはりスミスが持ってきたのは額面どおりの仕事(ビズ)ではなかったようだ。

 

「依頼だと? 貴様のような若造が傭兵の真似事か?」

 

 ただのチンピラと侮っていたのだろう。

 そんな相手から出た言葉に、フォックスはいぶかしげに眉をひそめる。

 

「生きていくためには金を稼がないといけないからな。俺は自分にできることをやって生きているだけさ」

 

 俺は縛られたまま肩をすくめて見せた。

 まぁ、俺が傭兵をしているのはファルナのため、魔装妖精の研究費を稼ぐのが目的だったが、こんなやつを相手にそこまで説明してやるつもりは無かった。

 

 俺はしなければならないことをするだけだ。

 それを見てどう思うかは周りの人間の自由だと思う。

 俺を見て良く思おうと悪く思おうとそこにはその人間自身の判断、人間性が現れる。他者は自分自身を映し出す鏡だ。

 だから俺はフォックスが何を思おうとそれを止めるつもりはない。

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