魔法仕掛けの妖精人形とそのマスター   作:勇樹のぞみ

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17 生死を問わず(デッド・オア・アライブ)

「スミスという男は金の髪をした野性味のある美形だった」

 

 俺はスミスのことを話す。

 

「あれだけ特徴的な人物だったんだ。人相書きでも作れば特定は可能だと思うが」

 

 フォックスは胡散臭そうに俺の話を聞いていたが、一応、部下に命じて俺の証言からスミスの人相書きを作らせた。

 しかし、それでもフォックスの尋問は止まない。

 俺の襟元を掴み上げ、締め上げる。

 

「貴様、苦し紛れのでっち上げを言っているんじゃないだろうな。この私をこれ以上怒らせたらどうなるか……」

「怒った顔も魅力的(チャーミング)だぜ」

 

 俺の軽口に拳が飛ぶ。

 そうやって俺を痛めつけながら詰問するフォックスだったが、しばらく俺が耐えていると息を切らし、らちがあかんと吐き捨てた。

 そして、不意にその表情が邪に歪んだ。

 

「貴様が嘘をついていようといまいと、関係ない方法を思いついたぞ……」

 

 やつは俺の鼻先に、今回の襲撃のため用意したのだろう、俺の人相書きを描いた紙を突きつけた。

 その下に走り書きで文字を加える。

 賞金、金貨二十枚。

 生死を問わず(デッド・オア・アライブ)

 

「三日だ! 時間をやろう! その間に鞄を私の元へ持ってこい。でなければこの手配書を帝国中にばらまいてやる。帝国のどこにも貴様らの居場所は無くなるわけだ」

 

 フォックスは狂気に満ちた表情で宣言する。

 金と権力で人を縛るつもりか。

 だが力で繋がれ自由を失ったからといって絶望するほど俺は青くは無い。

 そもそも誰だって思いどおりに生きられる訳じゃないし、状況は時間の経過と努力次第で変わるものだ。

 それより俺には別のことが気になった。

 

「貴様ら? 貴様らと言ったのか?」

 

 フォックスは鼻で笑うと、もう一枚の紙を手に取った。

 

「そうだっ!」

 

 俺に見せつけられたその紙には端正な魔装妖精の絵姿が描かれていた。

 

「貴様らのことはすべて分かってるんだよ! このまぬけが!」

 

 ファルナの人相書きだった。

 得意げな様子でフォックスは口汚く俺をののしる。

 

「貴様を捕捉したこの我々に気付かれないとでも思ったのかっ」

 

 俺とてそれを予測しなかったわけではない。

 しかし考えたくなかったというのが本音か。

 自分一人ならどうなろうと納得ができる。

 しかしファルナが、従姉さんが遺してくれた彼女の運命がかかっているとなれば話は別だった。

 この境遇から断固として脱しなければならない。

 

「ふん、顔色が変わったな。悔しげなところが実にいい表情だ」

 

 フォックスは傲慢に笑う。

 だがしかし、そこで居直ることができるのが俺だった。

 あくまでも、しぶとく状況に対応する。

 俺に言わせれば運なんてものは力ずくで引き寄せるものだ。嘆くばかりで不運なめぐり合わせに自分でしがみついていてもしょうがない。

 

「なら報酬とは言わんが、必要経費ぐらい用意してもらわんと仕事(ビズ)の成功率が下がるんだが」

 

 しかし、それには殴る蹴るの暴行が返ってくる。

 

「指名手配をしないでもらえるだけ、ありがたく思え」

 

 フォックスは侮蔑もあらわに言い捨てた。

 俺は苦痛に顔を歪めながらも反論する。

 

「理不尽な。少々の金を惜しんで仕事(ビズ)の成功率を下げるなんて、計算高いビジネスの世界の人間とは思えないな」

 

 そんな俺に、フォックスはさげすみの表情を浮かべ見下しながら言う。

 

「サルがビジネスを語るなど、ばかばかしい」

 

 そして酷く嫌そうに告げた。

 

「貴様らのような薄汚いサルどもを手助けするのは心底気に入らんが、機密を取り戻すためだ。こちらで調べ上げた情報を渡してやろう」

 

 その、情報をまとめたらしい紙束を部下に命じて用意させる。

 

「無論、我々も調査を続けるが、後は賞金首になりたくなければ自分たちの力でどうにかするんだな。我々に報告する場合はこの住所の酒場に来い」

 

 そう言ってフォックスは連絡先を記したメモと紙束の資料を俺の懐にねじ込んだ。

 先ほど作ったスミスの人相書きの写しも一緒だ。

 話が終わるとフォックスたちは俺を放置し馬車でたちまち走り去った。

 

 拘束から解放され、強張った腕を揉み解すと体中に鈍痛が走る。

 一方的にいたぶってくれたフォックスの顔が脳裏にちらついた。

 

 人は正義に駆られているときほど反省を失うことはない、か。

 あの女も自分の正義で動いているんだろうけどな。

 

 そうは思うが、俺がそれを許容するかはまた別問題だった。

 そして、そこにファルナが帰って来た。

 

「マスター! ご無事ですね」

 

 泣きそうな表情を浮かべてファルナは言う。

 

「まぁ、見てのとおりボロボロだけどな。酷いもんだ。俺の一張羅が台無しだぜ」

 

 俺は自分の様を見下ろし苦笑するが、ふてぶてしい態度は崩さなかった。

 

「だが、次は勝つ」

 

 そう宣言して見せる。

 ファルナは驚いた顔をして、

 

「もう勝つ算段がついているんですの?」

 

 と思わずといった様子で聞く。

 俺は笑った。

 

「そんな贅沢なものは無いよ」

 

 ファルナの形の良い細い眉が寄せられる。

 呆れられたか。だがね、

 

「見込みのない場面でも強気に通すことを、世間では勇気と呼ぶのさ。あきらめたらそこで、あらゆる可能性がゼロになるからな」

「それは……」

「俺は何もあきらめない。何もかも取る。すべてだ」

 

 そう言って胸を張る。

 降りかかる火の粉は払う主義でね。

 ファルナは微妙な表情でため息をついた。

 

「そうでしたわ。マスターはいつも、それがどうしたの一言で済ませるんですから」

「納得の行く結論に達したようで何よりだ」

 

 ファルナがそれで安心するというのであれば盛大に慌てふためいてやってもいいが、実際には何の役にも立たんからな。

 起きたことは覆せないし、これからだって成るようにしかならない。

 そして俺はファルナからキトンに連絡が付いたことを聞いた。

 おそらくキトンはしばらく様子を見た上でこの店に顔を出すだろう。

 

「それよりもマスター、早く手当てをしないと。病院に行った方が……」

「そこまでの傷じゃないさ」

 

 旧市街で開業している闇医者たちは市民権の有無を問わず、銃創だろうと刃傷だろうと何も聞かずに治してくれる。

 衛兵に通報することも無い。

 無論、金さえ払えばだが、これが闇医者のくせに高い。

 いや闇だからこそボるのか。

 そんな訳で、世話になるのはできる限り遠慮したい。

 俺は心配するファルナに携帯治療(ファースト・エイド)キットを手渡しながら、椅子にどっかりと座り込んだ。

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