魔法仕掛けの妖精人形とそのマスター   作:勇樹のぞみ

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21 ドコにナニをねじ込ませる気だ

「まぁ、私もあなたになら愛を強制的にねじ込まれても構わないんだけど」

 

 キトンはそう言って妖艶に笑う。

 愛ってねじ込むものなのか?

 表現が露骨すぎるだろ。

 

「少しは自粛しろ。話に収拾がつかんだろうが」

「演劇なら、どんなに話が込み入っても機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)が降りてきてお仕舞いなんでしょうけどね」

 

 意外と知的(インテリ)な一面をのぞかせるキトン。

 そういえば新市街のいいところの出だとも聞く。

 ここの水がなじんだのかすっかりこの街の住人と化しているので普段はまったく感じさせないが。

 

 キトンたち猫妖精は常若の国(ティル・ナ・ノーグ)とも呼ばれる妖精界に独自の王国を築いて生活している。

 教育水準も高く二カ国語を操る者も居るという彼ら、特にその貴族は帝国では厚遇されていた。

 大抵の人間の国では妖精貴族を認めないものだから、これは世界最大の人種の坩堝と呼ばれる帝国ならではのことだったが。

 まぁ、それはそれとして言い返す。

 

「劇ならそれで済むが、収拾がつかなくなっても続くのが人生だぞ」

 

 今の俺みたいにな。

 しかし俺の返事にキトンは幼い少女のようにきょとんとし、そして満面の笑みを浮かべた。

 彼女が頬を上気させて口にしたのは、

 

「さすが帝国アカデミーの特待生」

 

 という言葉。

 うん?

 

「それがどうか…… ああ、ネタが通じたんで嬉しかったのか」

「うちの両親に挨拶を」

「どこまで話が進むんだよ!」

「いいことを教えてあげる。ビジネスと恋愛ではね、すべての行為が許されるのよ」

「許されてたまるか!」

 

 お嬢様の思考はよく分からん。

 

「獲物を目の前にした猫のような顔をすんな! 興奮で瞳孔が真ん丸に開いていて本気で怖いぞ」

「そう言うスレイアードは目を細めちゃって。それは信頼の証……」

「俺の目は元々こうだ」

 

 そもそも猫と一緒にすんな。

 

「ともかく!」

 

 俺はシズカに向かって話す。

 

「俺が思うに、生きるってことは夢や理想からはほど遠くてな。人に面倒を掛けないやつなんか居ない。結局、お互い仕方ないなぁで許される範囲で許し合って生活して行く。それを死ぬまで続けるのが人生というものさ」

 

 それが俺の人生哲学だった。

 

「スレイアード様でも、そう思われるのですか?」

 

 驚いたようにわずかに口元を開けてシズカは俺を見る。

 彼女の瞳に俺はどんな風に映っているのか。

 俺は己の心の内を正直に告げる。

 

「当たり前だろ。人間、一人でできることには限界がある。だから俺はお前やキトン、そしてファルナと支え合って生きてるんだ」

 

 ファルナにちらりと視線を向けてからシズカに向き直る。

 精いっぱいの優しさを込めて語りかけた。

 

「シズカだって一緒だろう?」

「……はい」

 

 シズカは彼女らしく奥ゆかしい様子で笑ってくれた。

 

「これは慰めの言葉にかこつけて、シズカを口説いていると見ていいのかしら?」

「うちのマスターはそんな手の込んだ人ではありませんわ」

「じゃあ天然だっていう訳? 息をするように女の子を落としておいて自覚無しなんて、そのうち刺されるわよ」

 

 そんな話は聞こえないようにやってくれ。

 俺は後で一つ使いを引き受けてくれとシズカに頼み込む。

 シズカは嬉しそうにうなずいてくれた。尽くす女というのは彼女のような女性を言うのだろうな。

 そして話を戻す。

 

 キトンの持つ情報網で調査を続けていたのだが、あれだけ特徴的な人物であるにもかかわらずマクドウェル商会配下の工作員(エージェント)にはスミスらしき人物は見つからないという。

 この辺の調査結果を報告しようとして今晩、彼女は俺たちを呼び出したのだ。

 

 その矢先に、俺たちがフォックスの襲撃を受けてしまったのだが。

 まぁ、自宅でくつろいでいるところを襲われて部屋を荒らされなかっただけマシともいえる。

 巻き添えになった連中や金の腕亭の亭主には悪いと思うが、そこまで責任は取れない。

 文句はあの世間知らず(フォックス)に言ってくれ。

 

「スミスがマクドウェル商会の工作員(エージェント)だと名乗ったのは、偽りだった可能性が高いわ」

 

 キトンが結論づける。

 もっとも、こういうのは商会の極秘情報だから彼女の情報網に引っかからないことも十分ありうるが。

 

「その辺は、最終的にはマクドウェル商会の代理人に聞いてみるさ」

 

 俺は肩をすくめた。

 ファルナはキトンに問う。

 

「それじゃあ、取引現場に居た四人組の銃を使う赤ずきん(レッドキャップ)の傭兵たちについては何か知りませんか?」

「それなら調べるまでも無いわ」

 

 キトンはファルナの説明を聞くと言った。

 

「四人組で銃を扱う赤ずきん(レッドキャップ)の傭兵といったら、特戦隊と名乗っているチームしかないわ。主にサムっていう亜人に顔の広い仲介屋(フィクサー)から仕事(ビズ)を受けていたと聞くけど」

赤ずきん(レッドキャップ)の特戦隊?」

 

 耳慣れない存在に、ファルナは思わずといった様子でつぶやく。

 キトンは詳しいところを説明してくれる。

 

「ええ、特戦隊というのも名前だけじゃなく、魔力強化神経(ブーステッド・リフレックス)の呪紋で身体を強化していて銃器の扱いも得意という話よ」

 

 確かにあの晩、現場に居た赤ずきん(レッドキャップ)たちは銃を使い、Cランクとはいえ魔力強化神経(ブーステッド・リフレックス)も持っていた様子だったが。

 キトンは眉根を寄せると言う。

 

「ただ小鬼だけに欲深くて、報酬のことで雇主ともめることが多いとも聞くわ」

 

 なるほど、それは赤ずきん(レッドキャップ)に限らず小鬼たち全般が持つ性分だ。

 

「その調子で依頼主のアボット・アンド・マコーリー商会を裏切って、マクドウェル商会に機密の売り渡しを図った。フォックスからの資料とも話が合うが……」

 

 俺は考え込む。

 

「サムという仲介屋(フィクサー)については?」

 

 ファルナの問いに対しては、キトンはこう答えた。

 

「珍しい、トロール鬼の仲介屋(フィクサー)だそうよ」

 

 ほう?

 

「彼らの中では珍しく腕力に訴えるよりいい稼ぎ方があるみたいだって気付いた男でね。一流の仲介屋(フィクサー)に成り上がるため、鋭意営業中らしいわ」

 

 なるほど。

 

「トロール鬼が仲介屋(フィクサー)として地位を固めるのは、並大抵のことじゃないだろうからな」

 

 亜人に差別意識を持つ人間が少なくないという現実がある中で、人脈(コネ)対外交渉(ネゴシェーション)が重要になる仲介屋(フィクサー)として成功するには人一倍の努力と狡猾さ、そして運が必要だろう。

 

「ええ、だけどその一方で亜人に多くの人脈を持ってるらしくて、亜人の傭兵と主に取引しているそうよ。それとこれは、ここだけの話だけど……」

 

 キトンは声を潜めてこちらに顔を近づけた。

 鼻腔をくすぐる香水、霊猫香(シベット)の匂い。

 テーブルの上に載せた両腕に身体を預けているので豊かな胸元が強調される。

 しなやかなボディラインがまさしく猫科の動物を想わせた。

 

「軍とのパイプを持っているって噂もあるわ」

「帝国軍と?」

 

 思わぬ情報に、答えるファルナの声も自然と小さくなった。

 

「帝国がトロール鬼の衛兵を雇ったり小鬼の軍勢を組織したりしているのは知られている話だけど、その採用の窓口になっているっていうの。軍の高官とぐるになって軍籍を売っているとも聞くわ。もちろん軍用装備の融通も効くみたいよ」

 

 なるほど、あの赤ずきん(レッドキャップ)たちが軍の特殊部隊で使われているナイフ、猫の爪(キャットクロウ)を所持していたのもそういう裏があったとすれば納得だ。

 仕入れルートが限られている品はそれなりのコネが無いと手に入らないし、そもそも高い。

 闇市場(ブラックマーケット)でだぶつき安値で取引されている汎用品とは訳が違った。

 そしてキトンは姿勢と声量を戻して何でもないように続ける。

 

「ついた通り名(ストリート・ネーム)がストリート・ディーラー。大きな身体に着込んだコートの下にはその手の売り物がわんさかって寸法ね」

 

 成り上がるためには何でもやるって感じだな。

 まぁ、そうでもしないとやって行けないんだろうが。人生の機微を感じるな。

 

「よく知ってますわね」

 

 感心が半分、呆れが半分といった様子でそう告げるファルナに、キトンは片頬を釣り上げ答える。

 

「それは商売敵の情報ですもの。それなりにね」

 

 意味深に笑う彼女に、俺は肩をすくめる。

 

「怖いね。皇帝の晩飯(ディナー)のメニューすら調べられるんじゃないのか?」

 

 裏の世界でも悪名がとどろく悪辣帝バートを引き合いに出してみたが、

 

「その分、払えばね」

 

 軽く言い切られて顔が引きつった。

 美人が苦手になりそうだ。

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