キトンは表情を改めて言う。
「ともかく
「なら、接触は無理ですわね」
ファルナは小さく、ため息交じりにつぶやく。
「線は切れたか……」
俺も失望の声を漏らした。
残念だが仕方が無い。
「他に役立ちそうな情報は?」
「今のところ無さそうね。ところでスレイアード」
キトンは俺に向かって言う。
「手配を依頼されていた品だけど、岩妖精のアルベルタが用意できたって言っていたわよ」
「何の話だ?」
「忘れたの?」
キトンは少しだけ首を傾げて答える。
柔らかな性質の栗色の髪がふうわりと流れた。
「前に
「ああ、その話か」
俺は納得するが、そこで思いだした。
「それだ! それじゃあ出かけようかファルナ」
「どこへですか?」
俺の言動では何がそれじゃあなのか分からないだろう。
しかし俺はファルナの問いに当然といった口調で答える。
「だからアルベルタのところへだ。聞きたいことがある」
古い格言にもこうある。
「肝心なのは何を知っているかではなく、誰を知っているかだ」と。
俺は席を立つと、キトンとシズカに別れを告げた。
「それじゃあ今夜はこれで。また何かあったら連絡してくれ」
「ええ」
「お気をつけて、スレイアード様」
シズカは慎ましやかに俺のことを案じてくれた。
「ああ、ありがとうシズカ」
俺は少しだけ笑ってシズカに答えると、慌ただしく店の外へと歩き出す。
胸のポケットへと押し込めたファルナが抗議の声を上げた。
「もう、マスターはシズカさんに甘いんですから」
俺は笑って答える。
「魔装妖精に対して甘いのは自覚しているが、特別なのはファルナ、お前だけだぜ」
「マスター……」
ファルナは陶然とした様子で俺を見る。
そんな彼女に俺は語り掛けた。
「まだ夜は長いぜ、ファルナ」
建ち並ぶ店のランプが照らし出す夜の街、そこに居る者も様々だ。
可憐な容姿を持ち見事な歌声を響かせる
墨染めの僧衣を着た四つ腕種族の托鉢僧。
エキゾチックな顔立ちをした放浪民族の踊り子。
小鬼のダフ屋。
教会の辻説教師。
怪しげなストリートの物売りなどなど。
そんなひしめく人々の喧騒の中を軍用ジャケットを身にまとった俺と、その胸ポケットに収まったファルナが移動する。
街に立つ客引きの
彼女たちの唇からは「妖精憑き」という言葉がつぶやかれた。
魔装妖精が持つ魔性に魅入られた者たちを指す言葉だ。
いい度胸をしている。
まぁ、そうでなければ
俺は苦笑して聞き流す。
「しかし妙だな」
「何がですか?」
ファルナの問いに、俺は答える。
「
そこが俺には分からなかった。
「俺ならさっさと関係を切るね」
断言する。
「軍とのパイプを持っているって話も、妙にきな臭いしな」
俺は顔を大げさにしかめる。
帝国軍、そしてそれにつながる悪辣帝バートは黒い噂が絶えない対象だった。
そして俺の話に集中していたファルナは、
「俺を見てくれーっ!」
「きゃあっ!?」
不意に響き渡ったひときわ大きな野太い叫びに驚き、可愛らしい悲鳴を上げて首をすくめた。
素っ裸で筋骨隆々、
錬筋術秘典と呼ばれる本が教典で、健全な魂は健全な裸体に宿るというのが教義らしいが妙なものが流行るものだ。
「人は容易く裏切るが、身に着けた己の筋肉は決して裏切ることはない! 筋肉サイコー!」
宗教は
「こっ、ここって自己主張の激しい人ばかりですのね」
突然のことに何事かと辺りを見回していたファルナは、改めて気づいたようにそう漏らす。
そうだな、最近の
反逆的で過激なスタイルが特に目立つ。
まぁ、銀のごついアクセは尖ったやつらに限らずこの街では人気だったが。
「根無しのやつが大半だからな」
俺はファルナに説明してやる。
「自己主張が激しくてもいいさ。忘れられるほど孤独なことはないからな」
ファルナは俺の言葉をかみ砕くかのようにしばし沈黙し、
「……自分の存在を誰かに知っておいて欲しい、と?」
そうつぶやく。
「ああ、そう願う者も受け入れてくれるのがこの街さ」
あらゆる願いを、望みを、欲望を否定せず丸呑みにしてしまう。
そういった奥深さがこの街にはあった。