魔法仕掛けの妖精人形とそのマスター   作:勇樹のぞみ

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23 合法ロリの銃職人

 アルベルタの店は歓楽街の外れ近くの建物にあった。

 表向きの商売、鍵職人(ロックスミス)を示す大きな鍵の形をした看板が目印だ。

 本人はどっちが本職か分からないと嘯いてはいたが。

 

 俺たちは建物に着いたら階段を下りて行く。

 店は地下にある。

 ノックすると、ドアの下から漏れていた明かりが消えた。

 そしてのぞき窓から、こちらをうかがう気配がする。

 

「さすがに手堅いな」

 

 感心して俺はつぶやく。

 

「どうかしたのですか?」

 

 ファルナの問いに、俺は説明する。

 

「相手の姿を確認せずに扉を開けるなんてのは論外だとして」

 

 これは基本だ。

 

「部屋に灯りを点けたままだと扉の前に立ったとき、影でそれがばれるだろ。そこを狙われるのを警戒してるんだ」

 

 分厚い木のドアも、銃を撃ち込まれたら容易く貫通してしまう。

 

「……なるほど。慎重な方なのですね」

 

 ファルナは感心したようにほっそりとした頤をわずかに引いた。

 そこに扉の奥から籠った声がかけられる。

 

「何だ、あんたか。誰にもつけられていないだろうな」

 

 そう確認される。

 

「ああ、ただ連れが居るがな。俺の魔装妖精だ」

 

 そう告げると鍵が外れる音が三度してからドアが開いた。

 明かりが消された部屋の中から現れたのは、俺の胸下ぐらいの背丈の人影。

 一見して幼女のようにも見える女性だった。

 燃えるような赤毛は頭の両脇でシニヨンに結い上げられ、碧い瞳は抜け目のない光を宿している。

 端正な顔立ちをしているが、片頬を釣り上げた笑みがどことなく男前に感じられる。

 

 着ているのは東方風の絹のドレスか。

 詰襟、袖なし、身体に密着したタイトなデザインと深いスリットが煽情的なもので、小柄な彼女が着るとギャップが酷く……

 ある意味背徳的な魅力がある。

 サテン地のドレスは上品で、重い感じがするのに身体にしっとりと張り付いて身体の線がくっきりと出るのが艶めかしい。

 そして、

 

「はい? えっ、子供?」

 

 彼女を見たファルナが素直過ぎる言葉漏らす。

 俺は思わず額に手のひらを当てて天井を仰いだ。

 案の定、目の前の女性はファルナに伝法な口調で食ってかかる。

 

「誰が子供よ! 背が低くてもあたしは岩妖精。これでも立派に成人してるんですからね!」

「はい?」

 

 ファルナが目を丸くする。

 

「でっ、でも岩妖精は女性にもひげが生えていると…… 岩妖精は岩から生まれるとも聞きますけど」

 

 俺はファルナの口にした言葉に苦笑しながら説明してやる。

 

「そいつは岩妖精の男女比が男に極端に偏っていて、貴重な女性を他種族の者が見る機会が無かった故の偏見だな」

 

 それが一般人の認識ではあるが。

 

「えっ、それじゃあ?」

 

 俺はうなずく。

 

「彼女がアルベルタ。この店の主人にして岩妖精の銃職人(ガンスミス)だ」

 

 アルベルタは、どうだ分かったかとばかりに小さな胸を張る。

 外見が外見だけに酷く子供っぽく見え微笑ましい。

 彼女は一部熱狂的な信者から合法ロリなどと呼ばれ崇められていた。

 そんなアルベルタに、俺は挨拶代りに冗談の一つも飛ばして見せる。

 

「真っ暗だな。キャンドル灯して聖歌でも歌うのか?」

 

 アルベルタはいつもどおり鼻で笑う。

 通常、鉱山や洞窟などに住居を持つ岩妖精たちだったが、都市に出るような変わり者はこんな風に地下で暮らすことを好む。

 暗がりは彼らの味方なのだ。

 岩妖精は生まれながらの山師で、洞窟や岩山に育まれた闇を見通す生来の妖精の視野(グラムサイト)を持っていた。

 

 アルベルタがランプに再び火を灯すと店内が照らし出された。

 酒場を改装したという店舗にはバーがある。

 壁には表向きの商売の品、大小の鍵が掛けられていた。

 俺とファルナが中に入ると、その背後で再びドアに鍵がかけられる。

 三つもあるのはそれだけ備えが必要だということでもあった。

 

「相変わらず用心深いな」

 

 俺はそう声をかけた。

 アルベルタはその親指をランプの火にあぶるいつものパフォーマンスを見せながら……

 長年金属加工を行ってきたこの岩妖精の親指はほとんど熱さを感じないのだ。

 そうしてことも無げに言った。

 

「商売柄もあるけど、あたしら亜人は用心深くないと人間たちの間では生きていけないからね」

 

 人間の、亜人への差別の酷さを物語る言葉だった。

 亜人たちの歴史は人間との血なまぐさい戦いの歴史でもある。

 鉱業を営む岩妖精とは鉱山の利権をめぐって常に争いがあったし、原野に住む小鬼やトロール鬼は野山を切り開き生活圏を広げようとする人間たちと衝突する度に討伐の対象とされ土地を奪われてきた。

 人間たちにとって亜人は人ではないのだ。

 

 実際、人間の亜人に対する差別は根深い。

 亜人への嫌悪は人々の無意識の領域にまでじっくりと染み込んでいるのではないかと思われるほどだ。

 少しでも異質なものがあれば排除してしまうのが、人間の悲しい性なのかも知れなかった。

 

「まぁ、今の皇帝が即位してからは風向きも変わってはきてるけど」

 

 肩をすくめて見せるアルベルタに、ファルナが答える。

 

「悪辣帝バートは亜人の力を利用する政策を取っていますからね」

 

 確かにな。

 岩妖精との交易は麻薬(ドラッグ)を対価として払いながらも行うし、衛兵には強靭な身体を持つトロール鬼を採用する。

 小鬼の軍団を指揮し、暗殺(ウェットワーク)や盗みの技に長けた闇妖精まで影で雇い入れているとはもっぱらの噂だ。

 

「だからあたしらみたいな根無しの亜人たちは揃ってヴォレス帝国に流れ込んで、帝都の旧市街界隈に住み着くことになるのよ」

 

 原初(はじめ)の森で閉鎖環境系を内包した完全環境都市(アーコロジー)を形成し閉じ籠っているはずの森妖精ですら、この街には居るからな。

 

「あたしの氏族(クラン)の故郷に緑が甦ったのも、皇帝の口利きのおかげだって言うし」

 

 岩妖精の精錬所から出る鉱毒で酸の雨が降り禿げ山だらけになった錆びた工業地帯(ラスト・ベルト)が短期間で緑化されたのも、皇帝が森妖精の力を利用したおかげだという。

 鉱業により自然を破壊する岩妖精と自然に生きる森妖精との仲は険悪で、普通なら力を貸すわけが無いからだ。

 酸性の土でも旺盛な繁殖力を示すニセアカシアにより緑化された山は養蜂に最適で、アカシア印の蜂蜜、それから作られる蜂蜜酒(ミード)は帝国の特産品にまでなっている。

 そんな普通ではありえない種族間の協業が唯一見られるのが帝国で、その中心である帝都は世界最大の人種の坩堝と呼ばれていた。

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