魔法仕掛けの妖精人形とそのマスター   作:勇樹のぞみ

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24 アルベルタの過去

「でも、それでも、あんたのように偏見を持たない人間は貴重よ」

 

 アルベルタに親しみを込めた声でそう言われる。

 亜人や異教徒は人間じゃないと考える者は確かに多いからな。

 人間こそ至高の種族だと思い込んでいる狂信者、人間至上主義者は社会のあちこちに確実に根付きその枝を伸ばしている。

 声高に主張を叫んでいる連中はまだ対処がしやすい方で、本当に危険なのは素顔を隠して社会に溶け込んでいるやつらだ。

 しかし、

 

「止してくれ。褒められると背中がかゆくなる」

 

 そういうのは柄じゃない。

 

「傭兵の世界じゃ種族は関係ない。実力がすべてだからな」

 

 俺は端的に答えた。

 別に俺は博愛主義者じゃないからだ。

 

「それはいい考え方ね。まぁ、だからこそあたしも傭兵たちを相手にこの商売を続けているんだけどね」

 

 アルベルタは顔を綻ばせ快活に笑って見せた。

 

「けど傭兵にも色々居るわ。亜人との付き合いをビジネスライクに割り切っているやつ。身内に人間以外を抱えていて、それが当たり前になっているやつ」

 

 俺を追い越してカウンターの向こうに回るアルベルタの視線が、ファルナに注がれた。

 そうして俺に向き直ってアルベルタは聞いた。

 

「あんたはどっちなのさ、妖精憑き」

「無論、両方に決まってるさ」

 

 俺の答えを聞いて、アルベルタはまた笑った。

 

「迷わず答える所が気に入ったわ」

 

 アルベルタはファルナに向き直ると言った。

 

「魔装妖精のお嬢ちゃん、こいつを手放さないように気を付けるのね。こういうやつはなかなか居ないわ」

「それは…… 当り前のことですわ」

 

 真剣なアルベルタの言葉にファルナは戸惑った声を上げた。

 アルベルタは遠い目をして語った。

 

「昔、若いころのあたしは、今とは違って相手を選ばず人間に銃を売っていたわ」

 

 子供のような外見のアルベルタが昔だの若いころだのと言うと違和感が酷くて仕方が無いが岩妖精は人間より長寿。彼女は確実に俺より年上だった。

 

「何故だか分かる?」

 

 アルベルタの問いに、ファルナは少し考えてから答えた。

 

「その方が、もうかるからですか?」

 

 アルベルタは首を振る。

 

「いいえ、あたしは亜人を差別する人間が憎くてしょうがなかったからよ。あたしが売った銃で人間たちが殺し合うのが楽しくて仕方がなかったわ。差別主義者(レイシスト)たちが集まったギャングが抗争で全滅した時には、それ見たことか、天罰だ、勝ったぞ、って喝采をあげたもんだったわ」

 

 言葉の割にアルベルタの顔に刻まれたのは苦い笑みだった。

 

「けどね、勝ったとか負けたとかそういうことじゃなかったのよ。いくら怒りや憎しみにすり替えようと頑張ってみても悲しみは消えないわ。あたしは、本当は差別があることが、人間が差別をしてしまうことがどうしようもなく悲しかったのよ。それに気づくまで、ずいぶんとかかってしまったけど……」

 

 アルベルタは両の手のひらに視線を落とす。

 まるでそこから零れ落ちてしまった何かに思いを馳せるかのように。

 

「だからお嬢ちゃんには、手遅れになる前に気付いて欲しいのよ」

 

 湖面のように澄んだ瞳でアルベルタはファルナを見つめた。

 

「分かってますわ。マスターがいい人なことぐらい……」

 

 ファルナは小声で答えた。

 嬉しいことを言ってくれる。

 思わず頬が緩んだ。

 アルベルタはそんな俺たちを見て小さく笑った。

 それは本当に暖かな笑みだった。

 

 俺はこの岩妖精の銃職人(ガンスミス)が、そして彼女が作った銃が気に入っていた。

 職人が作ったものは、使い手と共に様々な運命を辿ってゆく。

 持ち主の助けとなり、共に生き、苦楽を分かち、そしていずれは消えてゆく。

 俺は働いてものを作るやつらがとても好きだ。

 だからアルベルタに自分の銃を任せていたし、尊敬もまたしていた。

 

「晩飯の最中だったのよ。つきあってくれる?」

 

 アルベルタはそう問うが、その手元にあるのはグラスに入った酒だけだった。

 食べ物などどこにもない。

 

「おいおい、晩飯を飲むのは止めとけよ。身体に良くないぜ」

 

 酒好きの岩妖精らしいと言えばそれまでだが。

 

「放って置きなさいよ。何を飲む?」

「そうだな、ミルクでももらおうか」

 

 俺は敢えてそう言ってみるが、

 

「そんなもんある訳ないでしょ」

 

 にべもなく断られる。

 どうやらジョークが通じなかったらしい。

 俺は肩をすくめた。

 

「何をって、そもそも蒸留酒しか置いてないんだろ」

 

 岩妖精は酒好きで有名だが、中でもアルベルタは蒸留でアルコール度数を高くした強い酒しか飲まないことを俺は知っていた。

 錬金術(アルケミー)の応用によって造り出された生命の水(アクアヴィテ)

 特に純度を高めたものは医療用として使われ、俺の持っている携帯治療(ファースト・エイド)キットにも気付けのためのミニボトルが入っていた。

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